ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/01/23 初春花形歌舞伎(4)海老蔵奮闘の「伊達の十役」

2010-02-12 23:59:42 | 観劇

明日は2月の歌舞伎座昼の部観劇予定なので、初春花形歌舞伎夜の部の「伊達の十役」を海老蔵を中心に書いてしまっておこう。
元々は七代目團十郎が他の役者が休んだ時期に十役を早替りでつとめる狂言として当たりをとった「慙紅葉汗顔見勢」。市川家の弟子筋の猿之助が復活させて、彼の復活狂言の中で一番人気といわれていたものが、市川宗家の海老蔵によって継承されるというのが実に面白い。澤潟屋の若手だけでは集客力のある座頭がいないわけで、猿之助の代わりに宗家の御曹司を芯になって座組みしていくというのは実に有望。
伊達家のお家騒動を踏まえた「伽羅先代萩」を中心に累と与右衛門の物語などもからむので「伊達の十役」が通称になっているのだろう。
2008年11月花形歌舞伎で菊之助が乳人政岡で主演した「伽羅先代萩」の記事(それまでに観た「伽羅先代萩」もリンクあり)。仁木弾正と政岡を同じ役者が替るといえば2008年8月に勘三郎の「裏表先代萩」を観た。海老蔵の仁木弾正はいいだろうが、政岡はどうだろう。

【慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)】
猿之助十八番の内 伊達の十役 市川海老蔵十役早替り宙乗り相勤め申し候
あらすじは、「歌舞伎美人(かぶきびと)」の新橋演舞場の過去の歌舞伎公演一覧の該当公演を参照。
今回の配役は以下の通り。                
海老蔵=口上、仁木弾正、絹川与右衛門、赤松満祐、足利頼兼、土手の道哲、高尾太夫、腰元累、乳人政岡、荒獅子男之助、細川勝元
獅童=渡辺民部之助 市蔵=渡辺外記左衛門              
右近=八汐、祐念上人 笑也=京潟姫             
門之助=沖の井 春猿=松島 寿猿=山名持豊  
笑三郎=三浦屋女房松代、栄御前  
弘太郎=山中鹿之助、むてき坊  
猿弥が休演となったため、大江鬼貫の代役は右近、ひっち坊は猿四郎

口上でパネルを使ってあらすじと登場人物の関係を説明するのは「鳴神不動北山櫻」の通し上演と同様。恥も外聞もなく顔に大汗をかいて十役をつとめるのでお客様の応援が必要と真面目に口上を述べた時の印象もよく、それじゃぁしっかり観てやろうという気になる。

「お染の七役」以来、早替りの方法は大体把握しているので別に驚きはしないが、海老蔵が十の役を演じわけようとする意欲を漲らせる奮闘ぶりには感心。体育会系の海老蔵だけに猿之助の「奮闘公演」を実質的に継承と言っていいと思う。

お家騒動の原因をつくる足利頼兼、仁木に鼠の妖術を授ける父・赤松満祐の亡霊も無難な出来。二枚目白塗りの与右衛門は以前より成長を感じた。悪党の土手の道哲は楽しげだった。高尾太夫と腰元累がダメ。演じわけようという努力はわかるが、どうにも気持ちが悪い。しゃべらなければ綺麗なのだが(^^ゞ
仁木弾正はなかなかよい。荒獅子男之助は文句なしで、花道の仁木と替る間をもたせるために人が入った鼠がしばらく見せ場をつくっているのかという演出に工夫に納得。宙乗りの引っ込みは見事!3階2列目で鳥屋の下手近くの席だったので、長裃の先も吊って空中で捌きながら近づいてくる不気味な迫力を堪能!!

一番気になっていた乳人政岡の長丁場。これが予想以上のいい出来だったのが嬉しい驚きだった。政岡は女方の声でも音域があまり高くなくてよいのが海老蔵にはいいのだろう。葵太夫の義太夫にちゃんと乗った台詞まわし、糸に乗った身体の動きがちゃんと極まっているのにも唸る。雀歌もなかなかうまい。政岡は玉三郎の指導を受けたということだが、これはとにかく身体に叩き込んで覚えた政岡だろうと推測。
周りを固める澤潟屋の面々もよく、ことに笑三郎の栄御前の立派さが嬉しかった。右近の八汐も珍しい延若の手鏡を使った型が面白かった。
ここの場面の幕切れで海老蔵の政岡が最後に見得を切った時、大きく目を剥いてしまったのが残念。大きすぎる目の使い方をもう少し研究してもらって、女方の見得を習得していただこう。

渡辺外記左衛門の市蔵がよかった。細川勝元に裁かれて仁木が死なばもろともと外記を殺そうとする死闘も迫力十分。海老蔵の細川勝元もなかなか爽やかに伊達家の悪臣たちや後ろ盾となっている山名たちの陰謀を打ち砕いた。ところが幕切れが遠山の金さんの一件落着のようになってしまった。せっかく市蔵の外記がよく、勝訴しても仁木の刃を受けてしまって死んでいかなければならない外記の運命を哀れむという心が見えない。最後に笑ってしまうのは違うだろう。あぁ、ここで打ち出しになったら満足ができないなぁと納得。

ここまで芝居で見せてきて、大喜利「垂帽子不器用娘(ひらりぼうしざいしょのふつつか)」で高尾太夫と腰元累の亡霊の怨念を「道成寺」の趣向で見せる。「累道成寺」ともいうらしい。芝居と所作事(舞踊劇)でつなぐのは「法界坊」と同様。
同じ月に歌舞伎座で満開の桜の下で勘三郎が「京鹿子娘道成寺」を踊って、團十郎が押し戻しで出てくるのともうまく重ねてあるとこれまた感心。
「累道成寺」は紅葉でいっぱいというのも対照的。海老蔵が笑也の京潟姫と同じ姿に化けて踊るところはビジュアル的には綺麗。踊りはまぁこんなものかと(^^ゞ
蛇体の本性をあらわした後シテの海老蔵は今回は鬼男ではなくちゃんと女の亡霊の範疇に入っていてホッとした。けれども右近の祐念上人たちの祈祷力では折伏されそうもない迫力いっぱい。
またここで押し戻しに替るため少々時間が必要となるが、荒獅子男之助という設定で歌舞伎座の團十郎と同じ菱革の鬘で出てくると実に感無量。ちゃんと荒事の大役で締め括ることでようやく満足できる打ち出しとなるんだと納得(逆に言えば細川勝元の芝居で幕切れにする力はまだないということ)。
夜の部はこの通し上演で5時間という長さだったが、まぁ演じる方も頑張ったし、観る方も頑張ったと思う。昼夜通しで観ているのでさすがに疲れたけれど(^^ゞ

海老蔵は父の闘病する姿を見て確かに変わったと思う。さらに結婚するという意識の変化により、成長が加速しているのを痛感した公演だった。歌舞伎界を背負っていく役者としてしっかり見守っていくつもりだ。

写真は演舞場ロビーにあった「伊達の十役」の特別ポスターを携帯で撮影したもの。
1/23初春花形歌舞伎(1)「寿曽我対面」
1/23初春花形歌舞伎(2)「黒塚」
1/23初春花形歌舞伎(3)「春興鏡獅子」 


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4 コメント

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充実していた五時間 (六条亭)
2010-02-13 22:16:04
ぴかちゅう さま

『伊達の十役』の感想アップ、お疲れ様でしたm(_ _)m。

海老蔵の果敢な挑戦は大いに成果をあげたと思います。もちろん高尾太夫や妹累のような女形や足利頼兼など台詞回しが問題ありでしたが、これから再演を繰り返して行き、練り上げてもらいたいものです。

私が観たときは猿弥さんはまだ元気に役を務めていましたから、休演は残念でしたね。段治郎さんも故障で休演が続きますが、澤潟屋一門は四月の演舞場公演もあり、頑張ってもらいたいものです。猿弥さんは三月の日生劇場『染模様恩愛御書』は出演出来そうですね。

TBをうちました。
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★六条亭さま (ぴかちゅう)
2010-02-13 23:08:56
TB返しも有難うございますm(_ _)m
今日、歌舞伎座二月の昼の部を観るので、その前に「伊達の十役」は書き上げてしまおうと頑張った次第です。
政岡が予想以上によかったのが大収穫でした。玉三郎丈に指導をあおいで必死に身体に叩き込んだという感じでしょうか。政岡の声域が海老蔵の無理なく出せる音域だったのもプラスに働いていると思います。高尾太夫や累の声域は難しいのでしょうね。しゃべるとガッカリという感じでした。
澤潟屋が周囲で好演していたのも嬉しかったですが、猿弥さんの休演が残念です。段治郎さんも休演が続くので二人の元気な姿を観たいです。市蔵さんの外記もよくて芝居が締まりました。
海老蔵を座頭にした澤潟屋中心の座組み公演はこれからも期待できると思っています。
3月の日生劇場、4月の演舞場もしっかり観る予定ですが、今日歌舞伎座に行ったらさよなら公演4月興行まで本日あと77日という表示がカウントダウン時計に出ていて、差し迫ってきたなぁと感じ入っていました。
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海老蔵 (paru)
2010-02-27 23:22:20
猿之助さんの裏方さんがごっそりと自分に着いてくれるようになった話をTVでしていました。
昼の部しか見ていませんので、弥生は「こりゃまだ気が男だなと思いましたが、昔に比べてどの役でも透明感が出てきたと思います。
ファッション雑誌のグラッツィアでも竜の話などしていて面白かったです。
1日には来月号が発売されますから、もうなくなってしまいますけど^^;
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★paruさま (ぴかちゅう)
2010-02-28 03:17:09
>昔に比べてどの役でも透明感が出てきた......海老蔵の精神的な成長が反映しているんじゃないかと思います。
澤潟屋も歴史的には市川宗家の弟子筋なので、座頭を張って集客力のある人気役者が一門から出なければ、宗家の御曹司をいただくというのが無理のない方法なんじゃないかと思っていました。海老蔵もちょっと前までは人望の点で問題があったように思いますが、この間の成長でこれならついていってもいいかなぁと多くの裏方さんに思ってもらえるようになったのでしょうか?それと食べていくための選択ということもあるとは思いますが(^^ゞ
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