ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/11/14 花形歌舞伎夜の部②「通し狂言 伽羅先代萩」

2008-11-16 01:39:08 | 観劇

「伽羅先代萩」は好きな狂言の一つ。前半の女の闘いだけの上演が多いが、細川勝元による裁きでお家騒動に決着が着くまでの通し上演で観ると深く堪能できる。一昨年の通し上演の主要三役の音羽屋・松嶋屋・成田屋の花形版で勝元だけ二役だけでなく松緑。今月一番の期待の演目だ。
これまでの感想を以下リンク。
2006年11月歌舞伎座顔見世の「伽羅先代萩」(前半・八汐編) (後半・勝元編)
同年1月の藤十郎襲名の「伽羅先代萩」

【通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)】
序幕 鎌倉花水橋の場~大詰 控所刃傷の場
今回の配役を交えて感想を書く。
<花水橋>
亀三郎の足利頼兼は頑張ってはいたが、放蕩三昧に身をもちくずしているとはいえ大名らしい華やかさがちょっと足りない感じ。男女蔵は後半は老け役なのでここの絹川谷蔵でカッコいいところを見せてくれる。
<竹の間・御殿>
子役ふたりが達者。千松は原田智照くんかな?鶴千代は女の子かも。筋書も買っていないので確認できず。
菊之助の初役の政岡は、父から玉三郎さんに教われと言われたということで期待して観たが、時期早尚感は否めないものの、熱演には好感度大。
愛之助の八汐は、台詞回しや表情の豊かな変化で八汐の敵役ぶりは十分みせてくれるのだが、何もしない時の顔の拵えがけっこう地味なのが勿体ない。もう少し最初からコワい感じでつくった方が立役の加役らしくていいと思った。
八汐に従ってきた沖の井の門之助と松島の吉弥は、若手二人の政岡・八汐の芝居に脇役としてぐっと重しをきかせてくれていたので、竹の間・御殿も安心して観る事ができた。
栄御前の右之助も家格の高い山名宗全の北の方としての品のよさもありながら一人合点して連判状を政岡に渡してしまう抜けたところのある人物になっていていい。
その一人合点を天の加護として感謝の後、毒入り菓子をにあたり八汐の手にかかって果てた千松の遺骸に走り寄る政岡の周りへの用心が足りないように思ったが、玉三郎の時はどうだったのだろうと知りたくなった。(追記:今日になってこれもありだなと思い直した。結局は八汐が政岡を殺しにやってくるのだし、そこまで用心するよりもすぐに駆け寄る方がスピーディだ。文楽ではどうだろうと楽しみになった。)
千松の死を「でかしゃった」と誉めながらも武家の母と子としてのお互いを嘆くところ、本当にすすり上げながらの菊之助の熱っぽい台詞回しに何年か前の「加賀見山」のお初を思い出した。ここまで感情移入しながらの芝居というのは菊五郎ではあまり見ないし、菊之助という人の芸の特質だろうと思えた。私は好みである。

<床下>
政岡と心を一つにしている忠臣・荒獅子男之助がせっかく捉えた弾正の化けた鼠を取り逃がすところは見る度に鉄扇を刀に持ち帰る間に足を離すなよとツッコミを入れたくなる(笑)獅童の男之助、いいぞ。
花道スッポンからスモークと面灯かりで登場の海老蔵の仁木弾正。黒子の位置が眉からちょっと離れすぎるアンバランスが気になる。まぁ美しい巨悪の弾正ということで、後半に期待が高まる。  
<対決>
弾正方に味方している家橘の山名宗全がいかにも悪そうな拵え。一緒に裁定するはずの細川勝元が上使に出ている隙をねらって、渡辺外記左衛門らが証拠の密書とともに訴えているのをどさくさで焼き捨てて形勢逆転の敗訴にしてしまうという無茶苦茶な裁定を下す。そこに松緑の勝元がかけつけて、いかにも宗全をたてながら後学のためにと弾正を正していく。
松緑の明るいつくりの勝元がハキハキとした台詞回しで弾正を叱責したり、虎の威を借る狐の故事で弾正と宗全の両者に釘を刺したりするのを見るのは気持ちがいい。海老蔵の仁木弾正の台詞は暗くくぐもった声なのがちょっと陰気に作りすぎだ。終始伏し目がちにしておいてたまに目をきかせるのは海老蔵の武器だ。
<刃傷>
弾正は自分だけが死ぬのは承服できず、政敵も殺そうと刃傷に及ぶ。腹を刺された外記左衛門が廊下に逃げてきたのを追って登場する弾正。海老蔵の身体能力の高さを生かした様式性はぶっとばしたての立ち回りが見もの!!問注所の侍たちが取り押さえようとするのとの、男女蔵の外記左衛門との死闘。九寸五分をものすごい勢いで振り回す海老蔵と必死の形相で交わす男女蔵。若手じゃないとできない。怪我しないで千穐楽を迎えられることを祈るばかり。弾正の白鷺の見得をはじめ、極まるべきところは美しく迫力たっぷりに極めるから、その緩急をつけた演じ方はこれもありだと思った。
外記左衛門は亀三郎の渡辺民部と宗之助の山中鹿之助に助けられて弾正を討ち、勝元から鶴千代の跡目相続の許し状ももらっての幕切れ。
男女蔵の外記左衛門もなかなか頑張っていたし、勝元も最後は外記への哀れさもにじませて合格~。 

海老蔵は仁木弾正という妖術も使う巨悪を楽しんで演じているように見えた。藩主頼兼がしっかりしていない人物だったことにつけこんで放蕩三昧に陥れ、藩主の叔父も利用して藩政を牛耳っている悪人。その巨悪対忠臣の外記左衛門、それを捌く正義の勝元という図式のドラマ。その女版を前半で見せておいてさらに男版で繰り返し、最後に溜飲を下げさせるという構造の作品だからこそ通しで観てこそ深く堪能できる。若手花形による舞台であったが十分楽しめて収穫大だった。
11/14夜の部①「竜虎」


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7 コメント

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Unknown (maya)
2008-11-16 22:24:36
先日朝、NHKで稽古の様子や菊之助丈へのインタビューを放映していたのを偶然見ました。
ちょうど稽古では政岡が倒れたわが子に駆け寄る場面をやってたのですが、
たしかに今まで見た政岡よりスピード感がありました。
その時初めて「こういう小さい子のいるお母さんて、菊之助くらいの年齢なのよね」と思いました。
本人は「まだ自分の子もいないし」と仰ってましたが、ああいう政岡もいいなと思いました。
今月の新橋、いずれは団菊祭を飾る役者と演目、観たいなあとは思えども、歌舞伎座より先へ行けない顔見世月なのでした。
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菊之助さんの政岡 (六条亭)
2008-11-16 23:40:30
今回の花形歌舞伎の『伽羅先代萩』は、ご指摘のように一昨年の顔見世の通しを若手花形により再現してくれた、とても見応えのあるものでしたね。

玉三郎さんの指導による菊之助さんの政岡、彼の年齢を考えると予想以上の出来で、忠義と母性の間に揺れ動く乳人になっていたと思います。ご疑問の点については、申し訳ないですが、玉三郎さんの政岡の時のことは今回の菊之助さんと比べてどうだったかは、はっきりと覚えていません。


TBをうちました。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2008-11-20 01:05:08
★mayaさま
NHKをご覧になっての情報を有難うございますm(_ _)m
>今まで見た政岡よりスピード感がありました......この情報でいろいろ考え始めました。それで本文に追記したように、これもありだなと思い直しました。結局は八汐が政岡を殺しにやってくるのだし、そこまで用心するよりもすぐに駆け寄る方がスピーディですよね。
歌舞伎座の方も観ますので、そちらもちゃんと書きたいと思っています。
★六条亭さま
>玉三郎さんの政岡の時のこと......まで記憶をたどっていただき恐縮です。mayaさまと六条亭さまのお二人のコメントでまたいろいろと反芻して、追記のように考え直しました。今回のようなやり方もありですね。
>菊之助さんの政岡、彼の年齢を考えると予想以上の出来で、忠義と母性の間に揺れ動く乳人になっていたと思います......全く同感です。今後もしっかり練り上げてくれると信じています。
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新鮮な先代萩 (harumichin)
2008-11-26 20:53:39
私は、この先代萩の前に
藤十郎、仁左衛門、菊五郎の演じたこってり感のあった先代萩を松竹座でみていたゆえ、
音羽屋のあっさりを更にあっさりの菊之助ゆえどうかなあ・・と思っていたものの、こんな先代萩もありね。と、竹の間の面白さや、対決の場面が、新鮮でした。
若手ならではの「先代萩」と思って楽しく観ておりました。
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★harumichinさま (ぴかちゅう)
2008-11-26 22:29:36
>若手ならではの「先代萩」......予想以上の見応えありで私も観て満足できました。
菊之助の政岡のあのスピード感にあらためて新解釈ができたりしたのも面白かったです。
松竹座では仁左衛門が八汐と弾正の二役でしたよね。私も一度その二役を観てみたい!さらに藤十郎の政岡だと・・・うーん相当濃厚そうです。
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花も実もある若手花形 (スキップ)
2008-12-14 00:24:09
ぴかちゅうさんのおっしゃるように、私もスピーディというか、話がトントンと進んでいくという感じを受けました。これも若手ならではの特徴なのかもしれません。

菊之助さん、海老蔵さんとも美しさは申し分ありませんが、大役の初役も十分過ぎるほどこなしていて、さすがに将来の歌舞伎を背負って立つ若手花形の中でもトップグループを走っているという印象を持ちました。この二人のコンビでこれから先、長きに渡っていろんな名舞台を見せてくれるであろうと思うと、楽しみですね。
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★「地獄ごくらくdiary」のスキップさま (ぴかちゅう)
2008-12-15 23:21:18
スキップさんの記事アップ、嬉しかったです。TBも有難うございます。
>菊之助さん演じる政岡・・・・・・“等身大の政岡”
>仁木弾正・・・海老蔵・・・ジェットコースターのようでした。......以上、全く同感でした。
私は12日の晩、国立小劇場で文楽の「寺子屋」を観てきて人形ならではの表現に唸ってきました。仁左衛門さんの「寺子屋」を未アップで旅行に行ってしまっているので私も思い出して書きたいと思いつつ・・・、書けるかなぁ(^^ゞ
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