リカコの、これは「ゴミのようなブログ」か「ブログのようなゴミ」か

今までの人生は挫折つづきでサボテンのぴょん太さんもベランダで干からびているけど、最近ようやく自分を肯定できてきてるかも…

とっておきの、恋バナ。

2021-04-10 13:46:06 | 日記
お母さん、お父さん、えーと、今から思い出話をするんだけど、怒らないで最後まで聞いてくれる?


大学のとき、私、ホルンの音楽祭があって遠くに泊まりに行ったことがあったんだけど、覚えてる?
これがその音楽祭のパンフレットというか、プログラムなんだけど…(パラパラパラ…とページをめくる)、ここに載ってる人、この人がすごく上手くてさ、思い切って話しかけて、サインもらって握手したりしたの。で、あぁー言葉の通じる人がいてよかったよーって、おしゃべりするようになったの。それで、音楽祭の最後の日にこの人に好きだって言われて、いやいや無理ですよって言ったんだけど…、ちょっとだけつきあってた時期がありました。


外国から絵はがきがたくさん届いたの覚えてる?下手な字でひとことだけ書いてあって、いろんなところから届いてたんだけど。一度、お母さんに「これなんなの?」って聞かれたよね。


「覚えてるよ。なんかさ、いっぱい届いてたじゃない。」

母は、私がプログラムに書いてもらった彼のサインを指さして「たしかに、これがいつも書いてあった」と言った。


この人ね、演奏旅行でいろんなところに行くと、必ず私に絵ハガキを送ってくれてたんだ。


「どのくらい続いたの?」


2年。
…2年のあいだ途切れずハガキや手紙が来続けたから、さすがにこれは本気かもしれないと思って…。私、4年生のとき、大学を休学していろんな所に行ってきたじゃん、まず6月にこのホルンの音楽祭がニューヨークでやるっていうから行ったじゃない?7月にブルガリアに行って、8月にポーランドに行って。で、10月にはまたポーランドに戻るから、それまではいろんなところを旅行するんだ~って音信不通になって心配かけたことがあったけど、じつはその時ずっとこの人と一緒にいたの。1ヶ月…、いや、1ヶ月と10日くらい。

最初の2-3週間はこの人は夏休み中で、でも単発の仕事をいくつも入れていて、結局忙しく飛び回ってたの。田舎の街の教会で室内楽コンサートをするって言って2泊して、戻ってきたらその次の日は別の街に行ってレコーディングをしたりとか。それで私を全部のお仕事に連れていってくれたの。夏休みが終わると、オペラハウスのオーケストラの仕事が始まって、これは会社員みたいに毎朝出勤して一日中働く仕事なのね。さすがにここには連れていけないから、ひとりで遊んでなーって言われて、毎日ひとりで博物館とか行ってた。


あのね、彼はとてもやさしくしてくれたの。でも、仕事の時は話が別で、すごく真剣で、神経質で厳しいの。リハーサルの時はいつも共演者とすごい言い合いになってた。あと何時間か後には本番なのにずっと怒鳴りあいをしていて、決裂したままリハーサル打ちきりでそのまま本番に突入するなんてことが何度もあった。絶対に音楽のことでは譲らないの。


「芸術家って、みんなそうなのかもね。世界が違うね。」


うん。美しい音楽って和やかな楽しい雰囲気とか愛する気持ちとかから生まれるって思っていたから、実際は全然違ってショックだった。その場にいるのがこわくて、どこか外に遊びに行きたいなーとも思ったんだけど、「君は僕と一緒だからここに入ってこられたんだ。勝手に出ていって戻ってきたとしてもひとりじゃ入れてもらえないぞ。それに、知らない場所で、言葉もわからなくて、迷子になったり変な奴に声かけられたりしたらどうするんだ。僕はそんな心配をしながら仕事に集中なんかできない。」って言われると「…ごもっともです」って感じで、ずっとそばにいるしかなくて、つらかった。


「あんたはね、言葉がわからなくても、知らない場所でも、どこにでも行く子なのにね。」


うん。でも、彼がいい仕事をすることがいちばん大事だからね。
彼は、仕事中はイライラしていて、周りに当たり散らすの。本気だから、緊張してるから、仕方ないのはわかるけど、こわかった。当たってこないときは、自分の世界に入り込んでるってことだから、私のことなんかずっと無視。共演者の人が話しかけてきて、相づちうったりしていると、「同調するな。お前はシロウトなんだから「わかりません」って言ってろ。ついてきている他の奥さんたちを見ろよ、じっと静かに座って待ってるだろーが。」って怒られて。
こっちは朝からずっとなにもしないで座ってるの。朝10時からリハーサル、2時頃お昼を食べて、そのあとは楽屋に入って精神統一?したり、さっき決裂した共演者と仲直りして最終調整したりするんじゃないのかな、だから絶対邪魔なんかできなくて、結局座って待つの。すると、6時半ごろ開場してお客さんがだんだん入ってきて、演奏会が始まって、演奏会が終わって、満場の拍手喝采を浴びて、9時過ぎ、彼はすっかりいい気分になるじゃない。でも私は朝からずっとみじめな気持ちで座り続けてもう自分の人生最悪とか思ってるから、「人がこんなにいい気分なのに、なんで一緒に喜ばないんだ、もっと楽しそうにしろよ」とか言われてももう涙しか出てこなくて。

でもね、仕事は完璧で、ステージ上の彼は本当にステキで。すごい集中力だから音も絶対にはずさないし、もう、神がかってた。演奏会が終わるとロビーに出て、きてくれたお客さんたちに挨拶して回って、最後のお客さんが帰るまで続けるの。ファンサービスをここまでちゃんとやれば、絶対次の演奏会も呼んでもらえるだろうなーって思った。とても尊敬してるし、大好きだった。でも傍にいるのはつらくていやだった。


彼のオペラハウスの仕事が始まれば、私にも自由な時間ができて気分が晴れるかなと思ったけど、だめだった。夕方になるとだんだん気持ちが沈んできて、うちに帰らなきゃーって歩いているとだんだんこわくなって涙がでてきた。でも、最後の日までガマンして、ニコニコして、最後は笑顔で「さようなら、ありがとう、楽しかった」ってお別れした。それっきり会ってない。そのあとも、手紙とか絵はがきとかが届いたんだけど、返事を書かなかった。



この前、パヴァロッティの命日だったじゃない。こういう人でしたっていう映画をやってて、見に行ったのね。そしたら、これはパヴァロッティのっていうよりは、パヴァロッティの家族とか付き人とか、そばにいた人がどれだけ苦労したかっていう話だった。観ているうちに、バックステージで周りに当たり散らしてるパヴァロッティが写って、なんか、こんな人いたなーって思い出して…。スタッフとして傍で働いていたけれどつらくて逃げましたって人が出てきて、あー…私も逃げ出したなーって。


というか、もしかしたら私はこうやって精神的に支える役割を担うことを求められていたのかも知れなくて、ひょっとしたらこの子はこういう世界に耐えられるのか?と試されていたのかも知れないけど、私、ものを知らなすぎた。それに、自分のことしか考えてなかった。私は遊びに行っているのになんでこんなにガマンしてなきゃいけなかったの?って。20年以上、私は悪くない、彼が悪いんだって思い続けてたけど、違った。すごく迷惑かけちゃった。私がいちばん悪かった、謝りたい。今さら謝っても遅いけど、でも謝らなきゃ…って思ったの。


それで、Facebookで連絡をとったの。
彼、喜んでくれて、結婚したのかー、子どももできたんだー、幸せなんだね、よかったよかったって喜んでくれて。で、あなたはどうなの?って聞いたら…。僕はあのあと誰ともつきあわなかった。ずっとホルン吹いてた。さびしいときはリカコのことを思い出してた。何度も日本に行ったんだよ。ひょっとしたら君が聴きに来てくれるかもしれないって思って、いつもキョロキョロしてた。毎回通訳さんに「リカコと連絡をとりたいんだ、手伝ってくれ」って頼むんだけど、何年前の話をしてるんですか?とっくに忘れられてますよ、そんなことより仕事に集中して下さいって言われてたんだって。


「日本に来ていたことは知ってたの?」


知らなかった。ソリストとして来てればまだ気がつくかもしれないけどさ。オペラだよ。オペラ歌手は名前が出るけど、楽団の1人としてだからさ、気がつきようがないよね普通。というか、私オペラとか観たことないし、興味もないし。


「あんたたちさ、お互いにさ、好きになる相手を間違えてるよね。」


うん(笑)、そう思う。25年だよ。あんなすごい人にそんなに長く想い続けてもらえるほどの価値は自分にはないと思う。こっちはさ、スパッと頭切りかえて他のカレシつくって結婚しちゃったわけだし。…でも、もし過去に遡ることができたらやり直したい。あのときは「外国人だから」とか「音楽家だから」とかステレオタイプに惑わされて真面目に向き合うことを避けてたけど、いま、ずっと一途に愛してくれる人だってわかったから、今度はもう失敗したくない。


「あのね、あんたはいま幸せな毎日を暮らしていると思うよ。太郎ちゃんも次郎ちゃんもいい子だし、健康だし、たかし君も理解のあるすばらしい旦那さんだと思うのよ。不満はないでしょ?いい生活できてるでしょ?」


わかってる。今の生活を捨ててまで選ぶ人じゃないことはわかる。



母も私もしばらく黙った。




「そういえば、今思い出したんだけど、ずーっと前に、あんたがどこからか帰ってきた時にさぁ、「運命の人に出逢った、結婚する!国際結婚になるけどゴメン」て言ってたことがあったっけねぇ…。」



え?


…あぁー、えーと、お母さん、ごめん。その人、全然べつの人だヮ。んー、たしかにその人のことも好きだったけど、ケンカして大っ嫌いになってちゃんと別れた。だからその人のことは一切思い出さないから。



この話をしているあいだ中、一言も口をはさまないで黙って聞いていた父は…、きっとこの瞬間に、このクソ娘がぁっ!て思っただろうな。
なんかさぁ、我ながら私なかなかいい話をしていたと思うのよ、あなたがたのお嬢さんが四半世紀にわたり愛され続けましたよという、純愛の話を。

なんか台無しじゃん(笑) 
一気に安っぽくなったヮ、私の恋バナ。






以上、20年以上前につきあっていたホルン吹きの彼の話でした。

彼にコクられた話はこちら↓
 2020-03-27 花束みたいなキスをした。
https://blog.goo.ne.jp/pieluszka/e/da9012fa709a6a17775e88736ab1d83c

別れてから随分たったのになぜか突然思い出してしまった話はこちら↓
 2020-09-20 太陽が輝く日はなんと美しいのだろう https://blog.goo.ne.jp/pieluszka/e/5fd644aeda8977b0378491fb1e4bf33c

やめときゃいいのに連絡とっちゃいましたって話はこちら↓
 2021-03-06 彼を忘れるために https://blog.goo.ne.jp/pieluszka/e/106836c5034b4d7f8d45b0702734615e
をご覧ください。


っつーか、ちがうか。さっさとその全然べつの運命の人の話をしろよって話か(笑)

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