パピとママ映画のblog

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ゼロの未来 ★★★

2015年07月06日 | アクション映画ーサ行
『未来世紀ブラジル』などで知られるテリー・ギリアム監督が、コンピューターに支配された世界を舞台に、人間の存在意義と生きる目的を問うSFドラマ。寂れた教会にこもり謎の数式を解こうとする孤独な天才技師の人生が、ある女性との出会いを機に動きだしていくさまを描く。主演は、『イングロリアス・バスターズ』などのオスカー俳優クリストフ・ヴァルツ。共演には『海の上のピアニスト』などのメラニー・ティエリー、『ハリー・ポッター』シリーズなどのデヴィッド・シューリスら実力派がそろう。

<感想>ジョニー・デップら多くのスターから愛され続ける鬼才、テリー・ギリアム監督の最新作である。別に悪い映画だとは思っていないが、過去の作品と比べてもそんなに落ち込んではいない。主人公の天才的なプログラマー役で、スキンヘッドでコーエンを熱演するクリストフ・ヴァルツと、ギリアム監督が重なって見えてきた。2人の姿や形は違っても何かに熱中して夢見るその精神性に於いてが瓜二つなのだ。

近未来社会の街の描写から始まるのだが、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」と同じような猥雑でアジア的なムードが充満している。コーエンが自宅から一歩外へ出た瞬間に広がる、異空間にまず驚かされる。

とにかくカラフルでゴチャゴチャしているのだ。だが、知っている感じと思ったら、劇中の街並みは、初来日の際に訪れた東京・秋葉原を参考にしているというのだ。今作ではあえてユートピアの世界観を描いた。
映画の中では、誰もがさまざまな色の衣服を着こなし、意気揚々と歩き、車もスピーディーで、人々がローラースケートをし、24時間ショッピングができる世界を描いた。唯一、主人公だけがディストピアの要素を持つ。コーエンとボブが語り合うベンチの背後にズラリと並ぶ“禁止マーク”など、画面の隅々まで見飽きませんから。

本作は、マンコム社の責任者マネジメント(マット・デイモン)から、人類の存在意義を決定するとされる「ゼロの定理」の解明を命じられたコンピューターハッカーのコーエン(クリストフ・ヴァルツ)のもとに、ある日マネジメントの息子ボブ(ルーカス・ヘッジズ)や謎の美女ベンスリー(メラニー・ティエリー)が現れ、彼らの協力で解明を進めるが、定理の核心に迫ると予想できない事態が起こるというSF作品。

宇宙の混沌とした光景より、そのアナログな部分の方が印象深いけれど、ギリアム監督も秋葉原の街にショックを受けたそうだから、当然だろう。老天才のプログラマーが教会跡の自宅で1本の電話を待つという、モンティ・パイソン的な話には退屈したけれど、少年が登場した途端に活気づき、年をとると同じ音楽ばかり聴くという会話は耳が痛いですね。

コンピューターという狭い世界から人間味あふれる恋と友情の世界へ。今更ながらという気がしないでもないが、人生に意味を与えてくれるもの、幸せを与えてくれるものを探すクリストフ・ヴァルツの生き方は、近未来社会における根元的な問いかけであり、ギリアム流の皮肉とユーモアを交えた人生哲学に違いない。
とまぁ、理屈はどうであれ、この世界で何が起こっても不思議ではないし、結末の意外性もないのだ。つまりは、ドキドキしないのだ。ただこの壮大なるギリアムの世界をもっと開かれたものにするには、普通のシーンが要所に入って来るべきだと思った。

主人公の雇い主の息子で、コンピューターの天才少年を演じたルーカス・ヘッジズが素晴らしかった。怒涛のマシンガントーク、それもかなり小難しい用語を並べたてながらの、難解な数式をスラスラと書き、作業の手を動かすのだ。喋りながら何かをするという、いつも自分たちがごく当たり前にやっていることの、超絶技巧に惚れ惚れしてしまう。子供らしさと尊大さ、今作でのルーカスは、「ムーンライズ・キングダム」(12)や「とらわれて夏」(13)とも違う引き出しの多才さが末恐ろしい気がした。今後の活躍に期待したい。

それでも、「ブラザーズ・グリム」以来のカルロ・ポッジョーリの奇抜な衣装デザイン、青や赤を基調にした幻想的な色彩美と古色蒼然とした教会建築を巧みに取り入れた造形美の世界。教会を一歩外へ出た時に目に飛びこんで来るゴミゴミとしたアジア的な街の佇まい。さらには、マット・デイモンやまたもや変装キャラのティルダ・スウィントンにびっくりし、大物俳優を脇で登場させるなどのサービスも忘れてはいない。何故に、ギリアム作品は嫌いではないが、どこを切ってもギリアム印なのであった。

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