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帰省の意味

2017年10月31日 | essay

 

 帰省。帰りて省みる、と書く。語源を調べると、省みるとは、親の安否を確かめることらしい。何も親に限ったことではあるまい。自分の過ごしてきた土地のにおい。湿度。幼少期の痕跡。自分の歩んできた道の意味。現在の自分に失われた過去の自分。何かしらを省みようとして、人は帰省する。

 新幹線とローカル線を乗りついで、二年ぶりの帰省を果たした。一人旅である。台風の影響で、曇天にときおり雨が混じる。

 昔、全世界のように思われた故郷の集落が、今は箱庭のように小さく見える。人口も減り、自分が小学生の頃は十人くらいで集団登校していた区域に、今は小学生が一人らしい。誰誰が亡くなった、誰誰はこんなことがあって、結局ここを出て行った、などと老いた親から聞かされる。朽ちかけた柿の木を見る。掃く人もなく堆積した落ち葉を見る。土手を流れる水はかつて幼い自分が日がな一日魚釣りをしていたころの輝きを失い、秋を通り越してはや冬の到来を告げるかのように冷たく鈍い色を湛えている。故郷が変わってしまった部分もあろう。自分が変わってしまった部分もあろう。

 帰る場所は、自分を待って昔のままに留まってくれているわけではない。そういう意味では、一度旅に出た人間に、元通りに戻る場所など残されていない。それだからこそ人は歩き続けることができるのかも知れない。重荷を背負っても、時につまづいてびっこを曳いても。

 翌日、改札口まで見送りに来たふた親に別れを告げて、再び電車に乗りこんだ。持たされたお握りは昔の味がした。車窓を眺めると、ようやく雲が割れ、辺りに日が差していた。

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