た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

三本滝

2023年08月09日 | essay

 何しろ毎日我慢大会のように暑い。涼しそうな所ならどこへでも逃げたいと思う。

 それで、乗鞍の三本滝を観に行った。予備知識はあまりない。

 上高地線をひたすら車で上り、幽霊の出そうな長く狭いトンネルを抜けると、乗鞍高原に入る。

 ここまでくると、それまでひしめいていた車の列が嘘のようになくなる。やはり乗鞍が賑わうのはスキーシーズンなのだろう。

 スキー場近くのカフェレストランのテラスで昼食をとる。閑散期だから、至って静かである。店主までが、ねじを巻き忘れたようにのんびりしている。ナポリタンを注文したら、絵に描いたような懐かしいナポリタンが出てきた。しっかりとケチャップがきいた味で、旨い。木の葉が涼しげに日差しを揺らし、道路には誰も通らない。充分だ。これで充分だと思った。

 それでも目的地まで行こうかと、コーヒーを二杯飲んでから席を立ち、先を行く。どこへ連れていかれるのか不安になるほどの山道を行ったら、入り口の駐車場にたどり着いた。

 大きなビジターセンターがある。外のベンチでは、何組もの観光客が汗を拭いている。みな、割合しっかりと山行きの服装をしている。思ったよりずっと有名な場所らしい。

 そこから歩いて一時間余り。木立を抜け、渓流を渡った。なかなかに登山気分が味わえて気持ちがいい。

 こういう所を行くたびに思う。

 自然の中は、圧倒的に情報量が多い。土や落ち葉を踏みしめる香り、見て飽きることのない様々な植生、鳥のさえずり、羽虫、川のせせらぎ、清冽な空気。巷では情報化社会と言われているが、しょせんそのほとんどがパソコンの画面上で得られる情報だ。その情報量に比べて、この林間に横溢する情報の無限なまでの豊かさよ。もちろん、これを情報と呼ぶか、単なる景色と呼ぶかは人それぞれであろう。が、ネット社会の情報だって、芸能人が離婚したとかくっついたとか、あの有名人がああ言ったとかそれで叩かれたとか、果たして情報に入るのかと疑いたくなる情報が多くないか。

 我々は昔の人に比べて、知識が増えているのだろうか?

 終着点にある三本滝は、想像以上に見事だった。激しく落ちる滝、岩肌をなめるように下る滝、高いところで現れては消える滝。造形の異なる三本の滝が落下点で一つの川に合流する様は、どこに目を向ければ一番いいのかわからないほど変化に富んでいた。

 写真はまたいつか載せようと思う。

 それとも、と思い直す。写真を載せればより正確な情報が伝わると思っているあたりが、すでに情報化社会に洗脳されたか?

 

 

 

 

 

 

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