ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

研能会初会(その6)

2007-01-29 01:08:07 | 能楽
いまだに正月の松飾りの頃、8日に行われた師家の月並能・梅若研能会についてのご報告(および考察も。。)を行っております、気の長い ぬえ。『翁 法会之式』のご紹介もいまだ「翁飾り」のあたりを行ったり来たり、という状況で申し訳なく思っております。m(__)m

さてせっかく飾った「翁飾り」ですが、前述のように「翁」と「千歳」が身につけるもの、たとえば烏帽子や小さ刀などは装束の着付けの際には必要になるのですから、その時には「翁飾り」から取り去るのです。ちなみに『翁』の終演後には再び烏帽子などを「翁飾り」に戻してしばらく飾っておきます。つまり烏帽子や中啓、小さ刀まで設えられて完全な形で「翁飾り」があるのは、装束の着付けの前、および『翁』終演後のしばらくの時間、という、まことに短い運命なのです。

そんなわけで『翁』が上演されるときには、我々も普段より1時間近く早く楽屋入りをして、急いで「翁飾り」の支度をします。これがまた てんやわんや。本日の公演に使う装束や道具類を運び込んで、それを装束棚に並べ、さらに着付けの前の下準備を装束にしておく者あり(ぬえは開演前の楽屋では大概この仕事をしています)、『翁』の地謡・後見が着る侍烏帽子・素袍を並べる者あり、「翁飾り」に使う錫口や三宝や八足台を能楽堂の倉庫から運び込む者あり、その錫口に御神酒を注いだり、三宝に粗塩・洗米・肴を盛る者あり、さらに『翁』のほかの上演曲~今回は『楊貴妃』と『恋重荷』の作物を作る者あり。。

ちなみに師家では元旦の深夜に丹波篠山で行われる『翁神事』への出勤奉仕の際に地元の方から毎年大量の地酒を頂きまして、正月二日の師家での「謡初め」の直来や、この研能会初会の『翁』で使う御神酒には、すべて丹波の地酒を用いております。

あ、そうそう、話は飛びますが、丹波篠山は地酒のほかに牡丹鍋(猪の鍋)や丹波栗を使った「栗羊羹」が有名で、狂言の『栗焼』に出てくるのも丹波の栗ですな。これらを頂くのも丹波篠山での元朝の『翁神事』に出演する演者の楽しみ。装束を車に積み込んで大晦日に東京を出発する時には車の中には装束と紋付きを入れた演者個人のカバンぐらいしか積んでいないのに、帰りには頂いた地酒やら、演者がそれぞれ買った「栗羊羹」やら「猪肉」やら「鹿肉」やら「熊肉」やら、巨大な山芋やら、山椒おかきやら。。で車の中は一杯になります。

さて研能会初会に話を戻して。(^_^;

楽屋入りしてすぐに設えられた「翁飾り」ですが、開演の1時間前にはもう「翁」と「千歳」の装束の着付けが始まります。なんとお客さまが能楽堂にお入りになる開場時刻よりもはるか以前に着付けが始まるのです。これは『翁』に限り開演前に演者一同によって「杯事」が行われるため。「翁」と「千歳」の着付けが始まると「翁飾り」に飾ってあった烏帽子・中啓・(千歳の)小さ刀は「装束の間」に移されます。

このとき、「翁飾り」に飾ってある品物をそこから取り去るには、まず火打ち石で「切り火」を切ってから、それからはじめて「翁飾り」から品物を引くことができるのです。


                          ♪ ∩
   ∠∠∠☆ ぬえ&マリカ ☆・・・   γγ(.⌒p ⌒ ⌒
コメント
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