ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

伊豆・しゃぎりの発表会

2020-10-12 04:04:24 | 能楽

10月10日、本来であれば伊豆の教え子の子どもたちによる「子ども創作能」が当地の霊社・守山八幡宮の祭礼の場で奉納上演をする予定でしたが、例によってコロナ禍のために祭礼自体が中止になってしまいました。守山八幡宮の祭礼は去年も台風の直撃を受けて中止となったので、2年連続しての災難に見舞われたことになります。しかもこの日も台風の影響で雨模様。コロナ禍がなくてもやはり祭礼には難しい日になりました。

この守山八幡宮は源頼朝が伊豆で平家に対して挙兵したときに戦勝祈願をしたとされ、頼朝の挙兵を扱った子ども創作能「伊豆の頼朝」をここで毎年奉納上演させて頂くことはとっても意義深いことです。しかも今年は延期になってしまった東京オリンピックの年であっただけでなく、じつはその頼朝の挙兵から840年目にあたるアニバーサリーイヤーで、伊豆でもこの奉納は記念イベントの一つとなるはずでした。返すがえすも残念。

そういうわけでこの日も普通通り子どもたちの稽古になりましたが、奉納上演が中止になったから稽古に切り替えた、というような消極的なものではなく、来月には公演の代わりの発表の場としての「公開稽古」を行うので、これまでと違って子どもたちにも目標ができました!

ところが子どもたちが集まってくると、一人の児童。。我らが精鋭、6年生の のんのママさんから早退のお願いが。。

よく聞いてみるとこういう事でした。いわく、のんは子ども創作能のほかに地域の「しゃぎり」のメンバーで笛を吹いている。地域の神社の祭礼で演奏されるのだが、今年は例によってコロナ禍のため祭礼は中止になり、せっかくの子どもたちの練習が無駄になってしまう。そこで代わりにこの日に「しゃぎり」だけ発表の場を設けることになった。とのこと。なるほど ぬえが考えた「公開稽古」と同じ発想ですな!

これを聞いた ぬえは、子ども能の稽古のあと のん出演の「しゃぎり」を見に行くことにしました。

「しゃぎり」とは、能の世界でも使う言葉で、狂言の「末広」などで めでたい終わり方をするときに笛一管で演奏される、ほんの十数秒ほどの囃子のことですが、この伊豆では神社の祭礼のときなどに笛・鉦・太鼓で賑やかに演奏される、一種の祭囃子のことをいいます。

調べてみると「しゃぎり」は語源不明ながら歌舞伎や落語でも使われている囃子で、名称は同じながらそれぞれ関係性はなく内容はまったく別物のようですね。ぬえも今から20年前に伊豆の子ども能に携わって、すぐにこの「しゃぎり」の存在は知ったのですが、今回調べてみると全国でも伊豆はとくに盛んで、三島のしゃぎりが有名なようです。

さて子ども能のお稽古も終わり、ママさんの車に乗せて頂いて会場に向かった ぬえ。到着してみると会場は地域の公民館のお隣にある倉庫でした。近づいただけですぐわかる賑やかな囃子の音。雨の中、倉庫の中で立派な山車に乗って子どもたちだけが演奏しています。そういえば当地で何度か「しゃぎり」を見ましたが、やはり山車の上で演奏されていました。地域によって大人ばかりだったり、子どもが混じっていたり、いろいろなようです。ここは普段山車を収めている倉庫なのかも。



演奏は素晴らしく、曲により明らかに16ビートの曲もあって(笑)興味深いものでしたが、聞いてみると本当はお祭りのときにこの山車に乗って「しゃぎり」を演奏しながら町内を練り歩くものなのだそうです。今回はその機会が奪われ、地域の大人たちが子どもたちのために山車の倉庫の中で日頃のお稽古の成果を発表する機会を設けてあげたのです。

なるほど。。見学者は地域の役員や保護者のみ。山車の上の子どもたちは密のようでしたが、全員マスク着用、笛の担当の子はフェイスシールドの姿。。 しっかりと感染対策はしながらの発表のようでした。



なんだかなあ。。ここまで地域の伝統を踏みにじり、子どもたちにまで悲しみや屈辱感を与えたのが目に見えない小さなウイルスだなんて。

病気なんかに負けたくないなあ。。そんな話を東京の生徒さんにしたらこんなやり取りに。

ぬえ「目に見えない、ってのが困りますよねえ」
生徒「ウイルスに色でもついていればね~」
ぬえ「そうなら殺虫剤をプシュー! ってね!」
生徒「見えたらそれも怖いですけどね。あっちこっちに緑やら赤やらのものがフワフワと。。」
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伊豆「子ども創作能」の公開稽古

2020-10-10 08:01:50 | 能楽
コロナ禍のために出演機会がなくなってしまったのは伊豆の子どもたちも同様でして、彼らは2月に地元の「梅まつり」で市民の前で上演して以来、発表の場を失っています。

まずは4月に予定されていた恒例の「鎌倉まつり」公演。東京からお囃子方の先生の来演も願って、子どもたちにとっては1年で一番大きな上演機会ですけれども、「鎌倉まつり」自体が中止になりました。

夏は伊豆の国市の花火大会に合わせて開かれていたイベントに出演していましたが、これは一昨年に中止になってしまって、今年はその代わりに箱根での上演の計画を進めていたのですけれども、これも中止になってしまいました。

さらには秋10月に、こちらも恒例となっていた市内の「守山八幡宮」の祭礼での奉納上演。こちらは伊豆に流された源頼朝が崇拝していた由緒ある神社で、頼朝の創作能を演じる子どもたちにとっても意味ある上演だったのですが、こちらも祭礼自体が中止に。。 しかもこの神社の祭礼は去年は台風の直撃を受けて中止になっていて、2年連続しての中止となってしまいました。

神社には江戸期に大久保長安が当地に伝えた能が郷土芸能化した「三番叟」が残されていて、これと子ども能の競演も毎年意義深いと思っていたのですが残念です。

こうして2月の上演以来、子どもたちはもう8カ月も上演の機会を奪われてしまっています。仕方なく、上演の目標もないまま、せめて上演曲を忘れないために毎回配役を替えて稽古だけは続けています。

が、これが意外な盛り上がりを見せていまして、毎度みんな楽しそうにお稽古していますw

でも、ここで我慢できなくなったのが ぬえでして。とにもかくにも、子どもたちの上演に機会を与えてあげたい! しかも新規参加の児童もいるから、彼らにとっては参加はしたけれど、一度も舞台に立つチャンスがないのです。これではいけない。

要するに、人が集まるイベントは密を避けるために軒並み中止になっているので、これらのイベントに参加することを期待してはいけない。密を避けて、宣伝もなし、保護者のママさんたちだけが見る程度の無観客での自主上演をすれば良いのだ、と ぬえは思い当たりまして、市内にいくつかあるちょっとした野外ステージでのゲリラライブを行うことを考えつきました! これなら保護者以外にも、たまたま通りかかった市民の方にも見て頂けるかもしれない!

。。が。保護者からは慎重な意見が相次ぎ。。いわく「やはりこの時期に行うのは不安」「わざわざ上演して、かえって批判の目で見られるのではないか」。。なるほどごもっとも。。(-_-;)

で、またまた ぬえは考えまして、「公開稽古」というのを提案しました。これならどうだ。
つまり、毎々続けているお稽古をもっと拡充しまして、お囃子方はナシで普段の稽古通りに ぬえが拍子盤を打ちますが、子どもたちは装束を着けて本番のつもりで稽古をする。要するに「公開リハーサル」のようなものを行うのです。

これは保護者も賛成してくださって、「会場は室内なので換気に気を付けましょう」「椅子を離して並べて密を避ける工夫を」「受付を設けて見学者の名簿を作る」「保護者はスタッフなのでマスク着用。見学者にもマスク着用をお願いする」「検温器は私が用意できます」。。と次々にアイデアが出ました。

これなら最小限度の宣伝をして市民に見て頂くこともできるかも、という所まで来ましたので ぬえがチラシを作って、これは参加者だけに配布を任せて、参加児童のお友だちなどに配ってもらうようにしました。

こうしたわけで、このブログでも簡単に宣伝させて頂きます。子ども能の上演時間は20分程度しかないので、当日は ぬえも面や扇などを展示して開演時に簡単に説明などしてみようと思っています。お近くの方はぜひお出ましください!

【期 日】令和2年11月8日(日)14:00~15:00
【会 場】あやめ会館(長岡中央公民館)3F多目的ホール(静岡県伊豆の国市長岡346−1)
※観覧無料
※新型コロナウイルス感染予防のためマスク着用でご来場ください
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伊豆の「観月の夕べ」は中止になりました

2020-10-05 17:38:22 | 能楽
毎年 仲秋の名月の夕に伊豆の名刹・国宝の願成就院さまで催しておりました「観月の夕べ」。今年は去る10月2日(金)に予定しておりましたが、やはり新型コロナウイルス問題の影響で中止になってしまいました。

この催しはお月見をしながらクラシック音楽と能を楽しんで頂く、というとってもロマンチックなイベントで、ぬえも楽しみにしていたし、また出来栄えに自信も持っていました。能の上演は音源を使ったデモンストレーション程度の略式ですし、音楽家のみなさんやスタッフさんも ほとんどボランティアのような形で協力を頂いてようやく開ける催しなのですが、お客さまには毎度大変好評を頂いております。

わけても伊豆で教えている「子ども創作能」の子どもたちにとっては能を見る唯一の機会で、それを狙ってイベントを続けている、という意味もあります。かつては薪能やホール能も行われていた土地なのですが、いまはどの自治体も財政難などの影響で能の公演はどんどん縮小の傾向に。。 伊豆でも例外ではなく、「子ども創作能」は、なんと「能を見たことがない子どもたちによる創作能」になってしまっているのです。。

これではいけない、ということで始めた「観月の夕べ」ですが、東北の被災地で何度か同じようなイベントを行った経験もありましたし、もともと ぬえがクラシック音楽ファンだということもって、音楽家の友人が何人かいたため そのご協力も得ることができました。音響や照明の器材については東北での活動で笛の寺井宏明さんがご自分で所持の器材を持ち込んでおられたのを見て、これは ぬえも自主的な催しのために買い揃えなければならないな、と考えて、寺井さんにもいろいろご教示を得て買いそろえていったものです。



なによりこの催しでは「子ども創作能」の参加児童がいろいろと設営や撤収を手伝ってくれますし、彼らを楽屋に招いて装束の着付けを見学させたり、子どもたちにも良い経験になっていたと思います。子どもたち、こういうクラシック音楽のイベントなのに騒ぐこともなく静かにお手伝いしてくれて、毎年 ホントに感心しています。普段の能のお稽古でも教えたわけではないのに、自然に体得しているのでしょうか。自慢の子どもたちです。とくに今年は新しく参加した児童もいるので、ぜひこの子たちに本物の能を見せてあげたかったです。

しかも今回はコロナ禍の下での上演でお客さまの減少も見込まれて苦しい運営が予想されたので、文化庁の助成金を申請していました。この助成金、ほかの助成金でも見られることですが、オンライン配信が強く意識されて推奨されていたり、感染対策のための用具の購入や客席担当係員の人件費などもかなり手厚く助成してくださるのですが。。肝心の申請者本人には一銭たりともお金を頂くことができない、という恐るべき助成金でして。。 それでも感染対策を講じるためにはありがたく、密を避けて万全の体制を持って上演に臨むべく、子ども能の主宰団体とともに共同申請を行いました。

出演の音楽家も、第1回目から参加してくださっているフルート奏者の うっちーや、去年から参加してくださっているバイオリニストの里千佳さんが今年も出演を快く承諾してくださり、今年は彼女たちのお子さんも出演させようという計画もあって、美しいお月見のほかにも楽しい上演になる計画でした。





が、チラシの印刷を始める直前に関係者に最終的な確認連絡をしていたところ、会場の願成就院さまから「やはり今年は中止にしたいと思う」とのご意見が。。

伺ってみると、願成就院さまがある地区では神社の秋祭りも中止になり、それどころか小さな子供会の催しまですべて自粛になっているそうです。そんな中で願成就院さまだけがイベントを行うのは地区の趨勢に逆らうことにもなり。。なるほど。。じつはその願成就院さまがある地区の神社の秋祭りとは、まさに子ども創作能も毎年奉納出演させて頂いているお祭りでして、しかも去年も台風の直撃を受けてお祭りが中止に追い込まれていました。地区のみなさんも満を持して今年は行わいたかったはずのお祭りも、やはりコロナ禍のいまは2年続いての自粛をせざるを得ない状況なのですね。そんな中での「観月の夕べ」の催行は、たしかにいかにも場違いな行動です。しかも主催者が東京者の ぬえだし。

そんなわけで、お楽しみになさっていた方も多いこの催しも、コロナ禍が終息することを信じて来年に盛大に行うことと致します。音楽家のお子さんたちも、子ども創作能の子どもたちにも、もちろんお客さまにとっても思い出にのこる美しい夕べにしてみせますとも!
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