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映画とその脚本「悪の法則THE COUNSELOR」

2024-04-23 14:44:58 | 映画
(映画)監督 リドリー・スコット、キャスト マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット。(脚本)コーマック・マッカーシー、2013年早川書房刊

 コーマック・マッカーシーの書き下ろし脚本を基に、リドリー・スコットが監督して出来上がった映画だが、批評家の採点が低くコメントも批判的なのが多い。私も期待外れの烙印を押したい。象徴的な豹2頭の扱い以外、女優に魅力がないし主演のマイケル・ファスベンダーの声がざらついていて女たらしの魅力が発揮できていない。あのハンサムなブラッド・ピットも精彩がない。私的にはハビエル・バルデムの脂ぎった粘着質な演技には注目した。それでも獲物を狩る豹のように、メキシコの麻薬カルテルに簡単に射殺されてしまう。死に際が凄惨で恐ろしいのは、ブラッド・ピットだ。ボリートと呼ばれる殺人器具だ。首にひょいとワイヤー付きの首輪をかけられれば、もう絶体絶命強靭なワイヤーがモーターの作動で外せないしワイヤーも切れない。ブーンという悪魔の音とともに頸動脈が切れるのを待つしかない。おびただしい血が噴出して痙攣とともに静かになる。
 物語は主人公の弁護士(マイケル・ファスペンダー)が恋人のローラ(ペネロペ・クルス)といちゃつく場面から始まる。脚本では真っ暗な部屋になっているが、映画ではテキサス州エルパソにある弁護士の部屋。午後の2時、明るい部屋で白いシーツに絡まりながらの会話。
弁護士「僕にどうしてほしい。言えよ」
ローラ「私に触って!」
弁護士「どこを?」
ローラ「ずっと下の方よ」
弁護士「本気かい?」
ローラ「ええ、そうよ」
弁護士「もっとセクシーに」
ローラ「触って」
弁護士「もう濡れてる?」
ローラ「ええ」
弁護士「本当だ」
 この弁護士、恋人を愛するがゆえに一生に一度の大儲けを企む。禁断の麻薬ビジネスなのだ。ところがどう間違ったのか、メキシコの麻薬カルテルに命を狙われる羽目になる。そしてすべてが「手遅れだ」と嘆くしかない。

 結局、麻薬の金2000万ドル(約30億円)は、ハビエル・バルデムの恋人キャメロン・ディアスに横取りされる。彼女は投資の金以外は、ダイヤモンドに換えて香港に高飛びを考えている。豹が獲物に飛びかかり貪り食うのがセクシーだという彼女の心情そのままなエンディングと言える。
 こういうガラの悪い映画であっても、高級レストランで流れる音楽はテイラー・スウィフトでなく、アンネ=ゾフィー・ムター独奏のモーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第2番」なのだ。

 脚本を書いたコーマック・マッカーシーは、1933年ロードアイランド州生まれ。大学を中退すると、1953年に空軍に入隊し四年間の従軍を経験。その後作家に転じる。1973年「チャイルド・オブ・ゴッド」や、1985年「ブラッド・メリディアン」の発表などにより評価を高め、(国境三部作)の第一作となる第六長編1992年「すべての美しい馬」で全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞した。続いて三部作の第二作1994年「越境」、第三作1998年「平原の町」を発表。第十長編2006年「ザ・ロード」はピューリッツアー賞を受賞した。映画脚本として書かれた本書は、リドリー・スコット監督により映画化された。名実ともに現代アメリカ文学の巨匠である。

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読書「ザ・ドロップTHE DROP」デニス・ルヘイン著 ハヤカワ・ミステリ2015年刊

2024-04-09 15:09:00 | 読書
 本書の書評の一つに「ボストンの労働者階級の犯罪を扱った、タイトでざらざらした感触の小さな物語……ルヘインは肩をすぼめて暮らす登場人物たちの生活の細部に本物の命を吹き込み、彼らの一挙手一投足に無言の感情を通わせる」がある。

 ボストンのある集合住宅地に住むボブという男。変わり者で孤独なボブは、集合住宅地の裏側にあるバー「カズン・マーヴの店」で午後4時から翌日午前2時までバーテンダーをやっている。カズン・マーヴは、ボブの従兄弟でかつてオーナーだったが、今はチェチェン・マフィアのボスが実質的なオーナーなのだ。

 本のタイトルのドロップが表すように、マフィアが裏で稼いだ金、違法賭博、売春、コカインなどの売り上げを警察の手入れで没収されないように、一時的にこのバーに保管する場所でもある。金の匂いを素早く感知する輩が多く、強盗に襲われ金を持ち去られた。ボスから金を早く取り戻せとも言われる。

 ボブが子犬を助けた縁で知り合ったナディア、ナディアの知り合いの刑務所から出てきたエリック、刑事のトーレス、マフィアのボスの息子チョフカなどが入り乱れて、まさにざらざらした感触の小さな物語が、まるでゴキブリがはい回るように描かれるのである。物語の最後の最後に「この世はままならない」で終わるが、まさにそれなのである。

 またいつものように、音楽で表すとすればジャズの「ラウンド・ミッドナイト」かな。エディ・ヒギンズ・クインテットでどうぞ!

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読書「死亡告示TROUBLE IN MIND」ジェフリー・ディーヴァー著 文春文庫2022年刊

2024-04-04 15:45:33 | 読書
 ニューヨーク市警刑事課のジミー・マロイ巡査部長の趣味は読書、ジャンルは問わないが特に好むのはミステリーなのだ。考え抜かれた筋書き、スピードのある展開、ユーモアや気の利いた比喩それに何らかの目新しい発見、例えばスターバックスの名前の由来とかがあれば仕事を忘れ、妻や娘とのいさかい、住宅ローンの返済を忘れさせてくれる。

 ちなみにスターバックスの名前の由来は、メルヴィルの小説「白鯨」に登場するコーヒー好きの航海士「スターバック(Starbuck)」と、シアトルの南西部に位置するレーニア山の鉱石採掘場「スターボ(Starbo)」から名付けられたといわれる。

 さらに「左右非対称の笑顔」という文体に戸惑うことも愛嬌の一つと言って喜ぶ。ところで、この左右非対称はやや病的な意味が含まれるので、非対称の笑顔が想像すらできない。

 この本には短編が6篇編纂されていて、どれも読みごたえのあるものだった。中編とも言うべき「永遠」と名づけられた物語が秀逸だった。、理数系の若手刑事タル・シムズとベテランの刑事グレッグ・ラトゥールの相補うコンビとタルが心を奪われる看護師のクレア・マカフリーとのハッピーエンドも心に残るものだった。

 ニューヨーク州ウェストブルック郡は、大きな台形の中に優雅な郊外とみすぼらしい郊外、たくさんの公園、企業本社、各種小売業者を詰め込んだような都市だ。住民の大半は南へ数キロ下ったマンハッタンに通勤して生活している。その人口90万のウェストブルック郡にも殺人事件、レイプ事件強盗事件等々の発生は見られる。

 そのウェストブルック郡の高級住宅地の一つグリーリーで、9億円から10億円もする邸宅で高齢夫妻の銃による心中事件が発生する。

 ニューヨーク州ハミルトン、ウィエストブルック郡の中でマンハッタンに一番近い高級住宅地で銀行家や弁護士が目立つ。ハミルトンでもとりわけ大きな屋敷が並ぶモントゴメリー・ウェイに退職した夫婦が住んでいた。床面積600平方メートル(181.5坪)の住宅のガレージで一酸化炭素による自殺体で見つかった。この二つの心中事件から、背後にある詐欺事件を突きとめるのは理系刑事タルなのだ。なかなか楽しい読み物だった。

 この物語に適切な音楽は何か? 多分これがいいかも。「You don't know me私のことを知らないくせに」マイケル・ブーブレでどうぞ!
You give your hand to me
Then you say hello
I can hardly speak
My heart is beating so
And anyone can tell
You think you know me well
But you don't know me

No, you don't know the one
Who dreams of you at night
And longs to kiss your lips
And longs to hold you tight
Oh I'm just a friend
That's all I've ever been
'Cause you don't know me

I never knew
The art of making love
Though my heart aches
With love for you
Afraid and shy
I've let my chance to go by
The chance that you might
Love me, too

You give your hand to me
And then you say good-bye
I watch you walk away
Beside the lucky guy
You'll never never know
The one who loves you so
Well, you don't know me



あなたは私に手を差し出す
そしてハローという
私はほとんど話すことができない
心臓がドキドキして
そして誰でもわかる
あなたは私をよく知っていると思っている
でも、あなたは私を知らない

いいえ、あなたは知らない
夜、あなたの夢を見る
あなたの唇にキスしたくて
あなたを強く抱きしめたい
私はただの友達
それが私のすべて
あなたは私を知らない

私は知らなかった
愛し合う術を
胸が痛むけれど

怖くて、恥ずかしくて
チャンスを逃してしまった
あなたが
私を愛してくれるかもしれない

手を差し伸べて
そしてさよならを言う
あなたが立ち去るのを見送る
幸運な男の横で
あなたは決して知ることはない
あなたを愛している人
あなたは私を知らない

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読書「嘘と聖域Legacy of lies」ロバート・ベイリー著 小学館文庫2023年刊

2024-04-01 10:02:30 | 読書
 アメリカ南部テネシー州ジャイルズ郡プラスキ、ここが小説の舞台である。人口約29,000人86%が白人という町である。ジャイルズ郡を含む4郡を司法管轄とする第二十二司法管轄区検事長ヘレン・エヴァンジェリン・ルイスが殺人容疑で逮捕される。被害者はヘレンの元夫であり弁護士のブッチ・レンフローだった。

 1978年テネシー大学ロースクールを数少ない女性として卒業したヘレン・ルイス。ヘレンは美人の部類に入る。髪の色はミッドナイトブラック、青白い肌に黒いスーツとハイヒールを履き唇を真っ赤に塗っている。テネシー州南部のあらゆるミスティーン・コンテストに参加して、優勝はしなかったが三位には入賞できた。

 実社会では保安官で実績を上げ今や検事長、周囲の人たちはゼネラル(将軍、総統)という軍の階級で呼ぶ。今、抱えている案件に日本の自動車会社を誘致して、雇用を生み出そうとする男マイケル・ザニックの十五歳の少女レイプ事件がある。

 ヘレンは検事として、仮釈放なしの十年という重い刑を提案している。弁護士から情状酌量の余地を求めて来たが、ガンとして拒否した。が、さらに加えてブッチも同じ話を持ち掛けてきた。断ったがブッチは古い話を持ち出し、秋の検事の選挙の前に秘密をぶちまけると脅しても来た。その秘密というのは、ヘレンとブッチが付き合っていた1977年ロースクール三年生のとき、ヘレンがレイプされ妊娠した。ブッチにはレイプを言わず中絶を告げた。ブッチは怒り狂ったが、中絶を秘密にする合意ができた。

 この保守的な地域で中絶は、命取りになりかねない。ヘレンは弁護を旧知の黒人弁護士ボー・ヘインズに依頼する。実力者のボーの奮闘によって、無罪への道筋が見えてくる。ところがどこにでもあるような結末にはならない。嘘が幾重にも重なっていて、アッと驚くエンディングが待っている。
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