長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

286. 古寺巡礼(五)・京都 妙心寺周辺

2017-04-14 19:40:12 | 旅行
先月14日。大阪の画廊での版画のグループ展オープニングの翌日から、ある仕事の取材を兼ねて京都の古寺巡礼に出かけた。関西に来る前に家で計画していた時には、一年半ぶりの関西だったので日頃、ご無沙汰している関西地域の取扱い画廊への挨拶の合間に回ろうと思っていたのだが、回りたい寺院のタイムスケジュールを計算していたら全く時間が足りそうにない。今回は京都での『古寺巡礼』と取材に徹することに決定した。

というわけで大阪の心斎橋のホテルで早い朝食を済ませてからチエックアウト、地下鉄とJRを乗り継いで京都駅に向かった。京都駅で下車、昼の弁当を買ってから山陰本線に乗り継いで花園駅へ向かう。ここからは徒歩。ただひたすら歩きます。今日の目的地は京都五山の一つで臨済宗の大本山、妙心寺周辺を回って歩く。
ガイドブックで調べたところ花園駅を下りて妙心寺とは反対方向に向かい2-3分のところに律宗の「法金剛院」という寺院があり、ここに藤原時代の代表的な阿弥陀如来坐像(重文)があるということで最初に行って観ることにした。境内に入ると池のある美しい庭園が現れた。極楽浄土にならって作られたという庭園は四季を通じて桜、菊、紅葉などの名所となっていて古くから西行法師を始め多くの貴族たちの歌題となってきたということである。
その他、境内には古い擦り減った石仏が多く点在し、これを観て回るのも楽しかった。西御堂という落ち着いた佇まいのそれほど広くない御堂に入ると正面に御本尊の阿弥陀如来坐像が現れた。瞼を半分閉じ穏やかな表情をしている。光背の彫刻もとても繊細な彫刻が施されていて美しい。全体にとても気品のある仏像である。参拝者は僕以外、誰もいない。静かなお堂の中で仏像と一対一で向かい合い、しばらく座って眺めていた。阿弥陀如来は僕の生まれ年、亥年の守り本尊でもある。

随分ゆっくりしてしまった。先は長いので法金剛院を出て元来た道を反対方向へと歩いていく。12分ほどで妙心寺の山門に到着する。こちらはさすがに大本山である。門をくぐると広大な敷地に大伽藍が広がっている。12:00を過ぎていたので広い境内の隅のベンチで昼食をとる。古寺巡礼する時は少しでも時間が惜しいので外の食堂などには入らない。いつもこの調子である。昼を済ませてからまず周辺の塔頭寺院を拝観し禅宗特有の枯山水の庭を観て回る。ここでも拝観者はまばらであり冬から3月頃までの京都はねらい目だなと思った。

さて、ブログの始めに「ある仕事の取材」と書いたが、実は来年以降の話になるのだが出版社への企画が通って絵本の制作を進めることになっているのだ。そのテーマが『シルクロード幻獣図鑑(仮称)』として、大陸から我が国に伝わった幻獣たちの龍、鳳凰、麒麟、唐獅子などをモチーフとした内容とする予定となっている。京都の寺院は建築や障壁画、彫刻などにこれらの幻獣・聖獣たちが数多く登場し、まさにメッカとなっているのだ。

ここ妙心寺でぜひ観たい幻獣がいる。それは僕の敬愛する幻想文学者、澁澤龍彦氏がその著作「澁澤龍彦の古寺巡礼」の中で写真と共に紹介している狩野探幽筆の江戸時代の天井画『雲龍図・うんりゅうず(重文)』である。そして円形の中に描かれたこの龍は観る方向によってさまざまな表情に変化するというのである。「ますます興味津々、是非一度観てみたい」。受付で拝観チケットを購入すると「解説付きでご案内しますので15分後にもう一度ここに来てください」と言われた。
ブラブラと周囲を散策してから集合時間通りに戻ると5-6人の人がベンチに座って待っている。すぐに案内役の女性が出て来て出発。僧侶の浴場などを見学してから「法堂」と呼ばれる大きなお堂に入っていく。「この先の天井に雲龍図が描かれています」と案内された広間の高い天井を見上げると力強いタッチの墨線で描かれたダイナミックな構図の龍が出現した。直径4-5mはあるだろうか、圧巻である。探幽の「どうだ!」という声が聞こえてきそうである。しばらく見上げて感心していると「少しずつ移動しながら眺めてみましょう、龍の動きが変化して見えますよ」との解説。他の参拝者の後ろについてゆっくりと歩いていく。確かに観る場所によって雲の中を回転しているように見えたり、天に向かって登って行くように見えたりさまざまな姿に変化していくのである。「う~ん、不思議だ」。

すっかり龍に魅せられて御堂を出ると2時を過ぎていた。まだ閉門までは時間があるので、中心伽藍からさらに奥の塔頭寺院を順番に回り、障壁画や枯山水の庭を時間の許す限り観て回ったのだが残念ながら『雲龍図』のインパクトに優るものは観られなかった。
閉門時間ギリギリまで歩いて回り南総門を出て元来たルートを花園駅まで戻った。今日の宿は京都駅前の定宿ホテルである。夕食は「京ラーメン」。京都駅周辺は知る人ぞ知るラーメン店激戦区なのである。コクのあスープのラーメンを食べ、また明日からの「京都幻獣探訪」の旅を続けることにしよう。

画像はトップが『雲龍図(重文)』。下が向かって左から同図のアップ、法金剛院庭園、『阿弥陀如来坐像(重文)』、庭園の石仏、妙心寺伽藍風景、退蔵院の枯山水庭園、屋根瓦の麒麟?、庭園の石。