ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括【⑤課金手段】

2009年06月30日 | コンテンツビジネス
実際に有料サービスを展開しはじめて意外と苦労するのが、この課金まわりの問題だ。本来はサイトの問題の1つと捉えてもいいのだけれど、この問題は個人的にも重要な課題の1つだと感じているところもあり、あえて1つの課題ブロックとして切り出してみた。

図 コンテンツ配信における課題ブロック


課金に関して、どんなところが課題となるのか。大きく2つの観点から考えることができる。

⑤-1)回収手数料
⑤-2)課金IDに対する戦略

リアルな世界であれば貨幣「円」という流動性の高い・流通コストが不要な決済手段が存在するが、ネットの世界ではキャリアの電話料金重畳を利用した課金なり、クレジットカードなりISPの決済IDなりを利用した「決済手段」が必要になる。「回収手数料」の問題とはこの「決済手段」に関わるコストの問題だ。

リアルな世界でもニコニコ現金払いであれば問題ないけれど、銀行振込を利用すれば振込手数料が必要だし、EdyやSUICAのような電子マネーを利用すれば店舗側が販売した商品から数パーセントを手数料として電子マネー提供事業者に支払わなければならない。

動画コンテンツ配信ビジネスの収益モデルは「RS(レベニューシェア)型」が中心だ。売上の60%~70%はコンテンツホルダーが持っていくことになる。残りの30%~40%の中からこの決済手数料を支払うことになる。少なければ少ないほうがいいに決まっている。そうでなくても利幅が薄いのだから。

ではどのような決済手段があるのだろうか。

携帯公式サービス上で展開するサービスならば、携帯キャリアの課金を利用することになるのだけれど、【①動作環境・ネットワーク環境】でも述べたように、PCインターネットの世界ではそういったプラットフォーム機能は分散してしまっている。その結果、多様な組み合わせが考えられるようになってしまった。

・クレジットカードを利用した決済
・ISPの決済IDを利用した決済
・ポータルサイトや楽天などの決済IDを利用した決済
・電子マネーを利用した決済

などなど。

これらはそれぞれ手数料料率や条件が違ってくる。クレジットカードであれば比較的料率は低いかもしれないが、その分、自社で管理する項目も増えてくる。逆にISPやポータルサイトの決済IDを利用した場合、そもそも彼らの決済ID自体が直接ユーザーから回収しているわけでなく、クレカや銀行口座からの引き落としといった他の決済手段を利用している以上、手数料料率は高くならざろうえないし、回収保証を行わない場合もあるだろう。そうなると実際の料率にプラスして未回収コストがかかる場合がある。

またWebサイトにクレジットカード番号を入力することに対するユーザー側の心理的障壁は決して低くはない。そう考えると決済手段というのは、ユーザーが普段から利用しやすい状態とするか普段から利用している決済IDを利用するかということになる。前者を考えるならば、購入のたびにクレカなどの番号を入力させるのではなくそうした決済手段に紐づいた別のID/PWで決済をさせようということになるし、後者であればISPやポータルサイトの決済IDを利用しようという話になる。

後者は前者のように新たにIDを登録してもらう、クレカを登録してもらうという「心理的負荷」は少ないものの、ISPであればそのISPの会員しか決済手段が使えない、ポータルサイトの決済IDでも登録済みのユーザーのみにターゲットが絞られてしまう、という問題がある。

クレカをもたない人や決済手段をもたない未成年のユーザーには電子マネーという選択肢もある。ただしWEBマネーにしろNETCASHにしろ、こうした電子マネーはプリペイド型が主流だ。いざ購入しようとするときに残高が不足していたり、月額サブスクリプションの商品などで引き落としができずに販売停止になるといったこともある。

果たして、決済手段に対してどのような戦略を描くのか、結局はそういうことになる。

決済手段を新たに登録してもらうことは想像以上に大変なことだ。それくらいユーザーの心理的負担は大きい。だったらいろんな決済手段に対応してユーザーが利用しやすいようにすればいい。よくそういう話がでるがこれも決して正しい判断ではない。上述したように、決済手段はいくつも存在し、それごとに料率や条件、バックヤード側の手続きなどご異なってくる。そうなると決済手段を追加するごとに裏側は複雑になり、システム開発コストや管理コストが増大していくことになる。薄利の中でそれをカバーできるほどの売上に貢献できるのか。

また複数の決済手段をもつことは、ユーザーからすると「わかりにくさ」を増加させることになる。

例えばコンビニでペットボトルを購入するとしよう。ペットボトルを手に取りレジに並ぶ。今までなら小銭がなければお札を出すくらいしか考える必要はなかったが、最近では電子マネーでの決済も可能になっている。携帯にはEdyが残っている。これで払ってみるか。そう思って、レジに来るとカードリーダーが3つも4つも並んでいて、SuicaとPASMOの方はこのカードリーダー、IDの方は真ん中のカードリーダー、QuickPAYの方は…慣れてしまえば何ともないことかもしれないけれど、初めての人からすれば購入を「ためらう」要因となってしまう。リアルな世界であればどこででも流通する「現金」で支払ってしまえば済むのだけれど、ネットの世界では「誰もが持っている決済手段」は存在しない。ただでさえ決済手段を「登録する」という心理的負荷が高いのに、さらにこの障壁をあげることになる。多ければいいというものではない。

また「このサイト」にしかこのコンテンツがなく(「限定性」)、かつDVDレンタルなどの代替手段がない・入手手段がない、必要性が高いといった場合、課金登録に対する心理的な障壁は低くなる。どうしても欲しければ、面倒くさくても利用するのだ。

そうした状態だからこそ、課金手段に対する戦略はそのコンテンツの特性やそこから期待される顧客数や収益と合わせて検討する必要がある。

AppStoreの場合、売上に対して30%の利用料をとることになるが、世界中を相手に膨大な顧客を手にすることができるだろう。またiModeの公式サービスであれば回収コストを含めて12~14%程度の課金コストが必要になるものの、国内数千万人というユーザーとiModeポータルへの露出の機会を得ることになる。

ネットユーザーへの普及度合いでいえば、「Yahoo!プレミアムID」「楽天ID」「amazonID」だろう。amazonIDは今のところオープン化はされていない。Y!IDや楽天IDは外部サイトへのオープン化も進められているが、その場合にYahoo!ポータルのもつメディア力がどの程度提供されるかどうかはわからない。自らのサイトで集客力が十分にあるというのであれば、より普及している決済手段を選べばいいのだろうが、その決済手段のもつ顧客基盤、集客効果を期待するのであれば、そうしたことも考慮したうえで選択しなければならない。

いずれにしろ決済手段を登録させるということは、未だにユーザーへの心理的障壁が高く、かといってどんな決済手段にも対応させるというのは決してプラスの効果だけではない。そこから得られる顧客基盤と利便性、そういったものを踏まえたうえで「戦略的に」対応させねばならないのだろう。


決済手段に求められること - ビールを飲みながら考えてみた…


■動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括■
【①動作環境・ネットワーク環境】
【②配信コスト】
【③コンテンツ】
【④集客・顧客とのリレーションシップ】
【⑤課金手段】
【⑥サイト】
【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】


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