ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「闇に消えた怪人-グリコ・森永事件の真相-」/ 一橋文哉

2005年09月22日 | 読書
映画「レディ・ジョーカー」が面白かったこともあって、思わず現実の「グリコ・森永事件」の真相が知りたくなって購入。流し読みだったので、細かな詳細は追いきれていないかもしれないが、この事件がいかに深く、複雑であったか、あるいは何故、解決されえなかったのかが描かれている。



「レディ・ジョーカー」はもちろんフィクションであるが、この本も「犯人」は誰だ!というのが述べられているわけではない。一橋文哉さんが取材を進めた、警察庁指定広域重要一一四号事件「グリコ・森永事件」の捜査関係者や事件関係者の資料などから、幾つかの(有力な)可能性を示唆したに過ぎない。とはいえ、膨大な資料の中から提示された可能性なので、信憑性も十分感じられる。

 レディ・ジョーカー:高村薫が描いた社会的弱者の復讐劇

この本を読んで、その要素を「レディ・ジョーカー」に当てはめてみると、高村薫自身も非常によく取材をしていることがよく分かる。何故、「レディ・ジョーカー」の物語が事件が始まる四十数年も前に由来するのか、何故「労働争議」や「同和問題」が背景として描かれているのか、そうしたものも現実のグリコ・森永事件との対比で考えるとよくわかる。また「レディ・ジョーカー」の中では所謂「レディ・ジョーカー」一派が社会的弱者の怨嗟を動機として動いていたのに対し、その動きに連動するように、総会屋・暴力団関係と思われる一派が仕手戦で儲けようとしている様が描かれていたが、これも、この本でいう怨嗟をその動機の中心とした「グリコ原点説」と「金」が動機となったそれ以降の犯行との断絶を示しているのだろう。

この事件の原点とは何なのだろう。

「グリコ原点説」にたった場合、その根本はグリコの成り立ちそのものに由来するようだ。天才的な経営者であり創業者の江崎利一氏ではあったが、非情ともいえる合理主義者であるため、関係業者や職員からも相当の恨みを買っていた。一説には戦前のグリコは特攻隊員に「ヒロポン」を販売していたり、被差別出身者から恨みをかっていたりと、相当の問題を内部に抱えていたようで、系団体や闇の勢力といわれるものにつけこまれる要素を孕んでいた。そうした「恨」がこの事件、特に「グリコ」への恐喝事件についての原点にあるというのだ。

確かに江崎社長が誘拐から数日後に自ら脱出できたことや、その後のグリコ側の警察への非協力的な態度、表立っては「裏取引はしていない」といいながらも不可解なグリコ側の新聞広告とその直後の「犯行終結宣言」など、グリコと犯人の間でしかわからない何かがあり、それゆえにグリコは表面上は警察と協力しながらも、何らかの「裏取引」をしたのではないか思わせるには十分な材料が揃っている。

その一方で、森永やハウス食品など、それ以降の「恐喝」にはそうした「恨」よりも「金」の要素が強くなっている。特に恐喝された企業の株の空売りで100億ともいわれる利益を得た仕手集団の存在など、これらはリクルート事件と並んで新しいタイプの企業犯罪ではないかとも思われる点も多々紹介されている。

しかも実行犯と思われるメンバーとその背後にいる勢力(本書では「X」という風に伏されているが、「利権」に絡む勢力と考えられる)など、その闇の深さは下手な小説を凌ぐほどだ。もともとはグリコに対する「恨」だったものが、ある時点を境に「金」を目当てとした「闇の勢力」主導に姿を変えていった…そんな構図が否が応でも想像されてしまう。

それにしても、この事件はやはり「関西」という土壌だからこそ起こった事件と言う気がしてならないのは僕だけだろうか。

関西の職場から東京に移ってつくづく思うのだが、やはり関西は「商人の町」としての土壌が残っているというか、「名」より「実」、「崇高な理念」より「具体的な結果」を重んじる土壌だと思う。「森永」に脅迫状が届くと直ぐに店頭から商品を撤去した「ダイエー」と犯人の言うなりになるわけにはいかないと販売を続けようとした「西友」の態度にみられるように、関西は直接的・具体的なな結果として何が残るかをもとに行動を決定する要素が強い。だからこそ、グリコのような暗部を内に抱えたり、あるいは「利権」を巡る問題がいつまでも残ったりしているのではないか。

談合がいつまでたってもなくならないのも、「ハンナン」の浅田被告のような勢力がいまだ力を残すのも、建前や理念といったものを軽視する傾向・それを許容する風土があるからこそのモノではなかったのか。この事件が発生した原因も、あるいはこれだけ闇の勢力の介入を許したのも「関西」だからこそのような気がする。

もちろん建前や理念を何が何でも重視すべきだというわけではないし、その「実」があるからこそ「情」をベースにした付き合いがあるという美点もあるわけだが、結局はバランスの問題として、もう少し「名」を重視しない限りこのような問題はなくならないのだと思う。




2 コメント

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Unknown (三田)
2020-05-04 15:21:22
犯人、俺の昔の知り合いの小父さんかも
そのおじさんは産廃業者で、なんか知らんけどハウス事件の不審車両から某電機メーカー(名前は伏せるけどコテハンで察してね。)の工場からの廃棄物が出て、そこからある産廃業者が浮かび上がったらしい。
おじさんも実は当時その某電機メーカーの工場に出入りしていた。しかも浮かび上がった産廃業者は事件当時50歳で、そのおじさんも事件当時50歳ぐらい
ちょっとゾッとした。
Unknown (Unknown)
2020-10-24 15:22:20
三田ねぇ...
もしかしてSグループ傘下の”アソコ”ですか?

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