ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

海猿:テレビでは越えられない原作の壁

2005年06月26日 | 映画♪
原作のイメージを吹っ切れないで見てしまったという点を差し引いても、やはり原作を越えることはなかなか難しいのだろうか。誰もが楽しめる、誰もが分かるそんな物語はテレビでやっている分にはそんなものだと思うけど、映画だと物足りなさがある。ましてや複雑な部分が織りなす物語こそが原作での魅力の源泉になっているとなるとなおさらだ。加藤あいは可愛かったけれど、もう1つ物足りない「海猿」たちの物語。

仙崎大輔(伊藤英明)は潜水士の資格を目指して潜水技術課程研修に参加していた。大輔は、主任教官・源(藤竜也)に工藤(伊藤淳史)とバディを組むように命じられる。常に足をひっぱる存在だった工藤だが、「人を救いたい」というその思いは誰よりも強く、大輔をはじめ仲間達の協力の下、2人は訓練をこなしていく。伊沢環菜(加藤あい)との出会い、訓練生同士の友情と確執。そんな時、休暇中の工藤は海難事故に出会うのだった…




もともと原作が連載された当時、「少年サンデー」誌上に「め組の大吾」という消防士のレスキューものが人気があった時で、そうしたレスキューものの二番煎じ的なイメージで迎えられたのだけれど、話が進むにつれて全く別ものに。「め組の大吾」が天才的なひらめき・感性をもった朝比奈大吾が主人公のスーパーヒーローものだとしたら、こちらはいたって普通の青年・仙崎大輔が悩みながら、海の恐怖と戦いながら救出を続けるというもの。

この映画については、原作の前半のクライマックスである「潜水士訓練編」をモチーフに異なる物語に仕上げている。あくまで別物なのだけれど、原作を知る人間からすると、まずキャラの設定に違和感が。映画では伊藤英明が主人公を演じているが、原作ではそもそもこんなに格好よくない。もっと泥臭く、悩みつづける。まぁ、映画という90分のメディアだから仕方がないのかもしれないが、キャラの設定が物語の展開にあわせられているところがあって、それが原作とは大きく違う。工藤も三島も原作ではそれぞれの壁があるし、こんなに分かりやすいキャラ設定ではない。そうした紋きり型のキャラ設定が映画の問題点だろう。

伊藤英明が熱演なのに「魂」を感じないのは、自己陶酔系の演技から抜けきれない演技力の問題としても、脚本自体もちょっと作りすぎなのがまた気になるところ。もう少しリアリティと深みのある形にできなかったのだろうか。まぁ、テレビの延長上でスタッフが作ったのだとしたら、分かりやすくしてしまったのも仕方がないのかもしれない。

この映画の重要なモチーフにもなっている「水深40m、バディと2人で取り残された。使えるボンベは1本だけ。残圧30。片道1人分だ。どうする?」という問いかけ。これに対して三島の回答は「体力のある方が1人だけでも戻るべきだ」というもの。これは単純に、生き残る可能性とそうでない可能性のバランスを考えた場合、最適なもののように思える。しかしこれはあくまで「現実」という不確定要素の多い場合を想定したものではない。現実の世界では、選択肢ははるかに多い。例えば、仲間の救出を待ってじっとしているというのもそうだし、船内であれば空気の溜まっている場所があるかもしれない。選択肢は無数となる。その場での最適な判断と「生きる」という意志こそが、この漫画の魅力だった。

しかしその選択にはつねに「死」というリスクがありそれゆえに様々な内的な物語を生み出していたのだ。映画であったように大団円でHappyEnd!というのは、ストーリーは近づいたとしても原作の持つ「魅力」を大きく裏切ったといえるだろう。

うん、正直、原作が凄くいいだけにこの映画のできは何ともいえない。

【評価】
総合:★★☆☆☆
原作:★★★★★
テレビだったら…:★★★☆☆


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「海猿」/佐藤 秀峰


「め組の大吾」/曽田正人


「ブラックジャックによろしく」/佐藤 秀峰






1 コメント

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Unknown (海猿夫)
2011-01-14 14:40:49
確かに私も原作の方がいいと思う派です。

仲間を見捨てなかった工藤。
自らの命のために仲間を見捨てた先輩。

この対比に仙崎が悩みながらも答えを出していく。だからすごく感動するんだと私自身考えていました。

だから、その前半部分である。
工藤が海難事故?
というのがすごく違和感がありました。
ただ、原作通りだったら。
伊藤英明さんが目立たないですから
そういう配慮もあるのかなとも思います。

ですので、私もこの映画は★2つです。

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