ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括【②配信コスト】

2009年06月26日 | コンテンツビジネス
映像配信がもう1つ伸び悩んでいるのは何故か、それは単に「コンテンツ」の問題だけではない。環境的な課題、構造的な課題などいくつかの要素がある。ここでは映像配信の課題を以下の6つのブロックに分けて課題を整理していきたい。

図 コンテンツ配信における課題ブロック


【②配信コスト】

無料/有料に関わらずこの配信コストの問題というのは映像配信ビジネスにとっては切っても切れない問題だ。GyaOはコストの1/3が回線コストだったといわれているし、YouTubeでもコストの約半分が(サーバを含む)配信関係のコストだったといわれている。

配信コストの問題については、以前から何度か書いているとおりだ。あらためてここで整理をしておこう。

まず映像配信のコスト構造は、

「コンテンツ調達コスト(利用料)」+「配信コスト」+「固定費(人件費など)」

であるとするならば、この配信コストをどのように抑えるかというのは大きな問題だ。しかしながら映像配信の場合、例え1Mbps×60分の動画を配信しようとすると、1人のユーザーのために60分間1Mbpsの帯域を割り当てることになる。仮に100万人の会員がいて同時接続率を1%だとしよう(≒視聴率1%)、同時に視聴している人間が1万人いるということは、1万人×1Mbps=10Gbpsのコネクティビティが必要になる。また映像配信の場合、よく利用される時間帯とそうでない時間帯があることから、最繁時のコネクティビティを確保するために15~20Gbpsの帯域が必要になるだろう。そしてこのコストは利用者が増えれば増えるほど必要となるのだ。

この構造を避けるためには基本的には3つのアプローチしかない。

②-1 圧縮効率の向上
②-2 ダウンロード型配信の導入
②-3 P2Pやマルチキャストなど配信効率の高い配信方式の導入

「②-1 圧縮効率の向上」というのは、同じ品質の映像を圧縮効率の高い方式を用いることで配信帯域を減らそうというもの。現在1Mbpsで配信している映像をその品質のまま500kbpsで配信できるのなら、単純に配信コストは半分になる。コスト削減が可能なのだ。

ただ個人的には、今後、HD時代を迎えることや「有料」配信の場合の最低品質を考えるならば、現状の圧縮効率の8倍程度ないことには効果は期待できないと考えている。つまり現状、4Mbpsの品質のものを500Kbpsくらいで配信できるようにならなければ、利用者の求める品質に応えつつコスト削減効果は期待できないのだろう、と思うのだ。これはそんなに簡単なことではない。

コネクティビティの利用効率を活かすという点で考えた場合、「②-2 ダウンロード型配信の導入」という手もある。先ほどの例でいうと、最繁時のコネクティビティを確保するために、本来10Gbpsでいいはずの帯域を15~20Gbpsのコネクティビティを用意する必要があると述べた。そうした「無駄」を省くための方法として「ダウンロード型配信」という選択肢はある。

つまりユーザーが視聴しようとしたとき、空帯域があるうちにどんどん先に映像を渡してしまってPC側で1Mbpsとして再生させようというのだ。こうすることでコネクティビティの利用効率を高めることが可能となり、平準化され、「無駄を省く」ことができるのだ。

ダウンロード型の場合、ユーザー側にもメリットがある。ネットワーク環境が不安定であっも(極論するならばいったんダウンロードされれば接続されていなくても)安定した品質で楽しむことができるからだ。

また「YouTube」のように、ダウンロードされながら同時に再生させる「プログレッシブ・ダウンロード」のような方式や「代ゼミTVネット」にみられるように完全にダウンロード・保存してから再生させるなどやり方など一部違いはあるものの、そのあたりはサービス設計・技術面での違いだろう。

ただしこのダウンロード型配信というのは、あくまで「利用効率」を上げることで「無駄を省く」という発想だ。必ずしも高いコスト削減が期待できるわけではない。


また昨今注目を集めているやり方としては、P2P型配信がある。「P2P」というとWinyのイメージがあり、コンテンツ業界からはネガティブイメージが強いが、技術的な観点からは配信サーバ側で全ての負荷を処理するのではなく、ノード端末を通じたネットワーク全体で負荷を分散させることから魅力ある技術の1つでもある。

海外ではJoostなどが注目を集めたこともあって、P2Pが盛り上がったが日本ではまだまだだ。とはいえ、本当に「大規模な」配信システムが必要な場合は、コスト削減効果も期待できる方式であることに間違いはない。

またオンデマンド・ストリーミング系でなく、大多数が同時に同じものを視聴する「ライブ中継型」あるいは「放送型」の配信であれば「マルチキャスト」を利用するという手もある。NGNではIPv6を利用することもありこうした「マルチキャスト配信」の対応も可能だ。この方式であれば、地デジの再送信でも利用されているし、関西ではラジオをPC向けに再送信する「RADIKO」トライアルなどにも利用されている。またY!などではP2Pを利用した「オーバーレイ・マルチキャスト」という方式を利用して、ホークスのネット中継を行っている。いずれにしろこれらの方式は用途が限られており、「これから」といったところだろう。

②-1~②-3のいずれの方式もまだまだ本当の意味で効果的なレベルにまで到達していない。配信コストの問題は今後も大きな課題であり続けるのだ。


(参考)
J-CASTニュース : 「ユーチューブ」もうジリ貧なのか 09年は赤字4億7000万ドル!!

動画配信が成り立つための分岐点 - ビールを飲みながら考えてみた…


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■動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括■
【①動作環境・ネットワーク環境】
【②配信コスト】
【③コンテンツ】
【④集客・顧客とのリレーションシップ】
【⑤課金手段】
【⑥サイト】
【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】



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