ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

リモート演劇・オンライン演劇を作るための課題とは【アフターコロナの演劇実践編】

2020年06月03日 | 演劇
5月30日(土)に、無事、実践編ともいえるオンライン公演を実施したので、その取り組みについていったん整理。
作品はこちらなので、本文と見合わせてもらうとわかりやすいかも。

「 #オンライン演劇 ヤッテミタ」


吉村府知事が発言されたことで、何となく一般にも認識されたかもしれないが、ウィズコロナ・アフターコロナの時代は、ゼロリスク社会ではなくリスクとともに生きる、リスクをコントロールしながら生きる世界になった。いつまた突然「プチ自粛」「業界別自粛」が要請されるかわからないのだ。
そんな中で、演劇を続けていくための方法論として、今回、「オンライン演劇」を試してみた。

今回、実施するにあたって意識したこと(試したかったこと)は、大きく5つ。

1)オンライン演劇を実施する上での課題の確認
2)オンライン上でどこまでリアルに近づけられるのか
3)オンラインらしさ、オンラインならではの表現は何か
4)投げ銭・送金といった課金は可能か


また作品を書くにあたって、意識したこととして、

5)オンライン演劇で演劇的な虚構性、ダイナミックスさは可能か

ということ。

「1)オンライン演劇を実施する上での課題の確認」については、最後に総括したい。ということで、2)から記載したい。

2)オンライン上でどこまでリアルに近づけられるのか

Zoomにしろ、WebEXにしろ、ビデオ会議を利用した人ならわかると思うが、発言の「遅延」が必ず発生する。仕事の打ち合わせであれば多少、会話の「間」が遅れようが、テンポが悪かろうが気にならないだろうが、演劇はそういうわけにいかない。
会話はキャッチボールだし、そこで生み出されるリズムによってお客さんが芝居に乗れるかどうかが決まる。
この「間」の違和感をいかに減らせるか、そこが一つの課題だった。

映像を見てもらうと、どうだろう。もちろんリアルな舞台とまではいかないものの、かなり違和感は減らせているのではないだろうか。

但し、これはリアルな舞台とは違う調整が必要になる。
リアルな舞台であれば、「間」や「テンポ」は役者の力量やセンスによるものだ。
しかしオンラインでは、役者の技量とは別に、その役者が利用しているインターネット環境の影響が大きい。

自宅まで光ケーブルが引かれ、さらに有線LANで高いスペックのPCに接続されている場合と、4Gとはいえモバイル環境で古いモバイル端末を利用している場合では、反応速度が違ってくる。(モバイル環境は総じて不向きだ)
しかもその「遅延」はその都度違う。
周囲でインターネットが混んでいれば遅延は大きくなるし、電波状況が悪ければ繋がりにくくなる。

その上で、お客さんに違和感が無いようにするには、それぞれの環境に応じて、相手の会話にちょっとずつ被せ気味に会話をつなぐ必要が出てくる。
こうすることで結果としてスムーズな会話に聞こえるからだ。

また映像と音声で、微妙にタイムラグがあることも。
ビデオ「会議」である以上、まずは音声が優先されるのだ。
相手の動きに合わせるのではなく、まずは音声ベースで組み立てる必要が出てくる。

もう一つの課題だと思っていたのが、どこまで感情や熱気といったものを伝えることができるのか、ということ。
これは役者側がどこまで気持ちを作れるのかということもあるし、オンラインを通じてどこまで伝えられるかというのもある。

この環境は役者にとっては非常に気持ちを高めるのが難しい。多くの場合、ビデオ会議だと自宅で座った状態になるだろう。また実際にセリフはやりとりしても、あくまでモニター越しであり、リアルな演劇のような役者相互で気持ちを高め合うこともできない。

また「間」を作るということもやりづらい。
リアルな芝居では、セリフの聞こえない瞬間というのは、決して少なくない。

むしろ所作だけで魅せることもあるし、その表情や全身から放たれる感情やオーラに心打たれることもあるだろう。
これがオンラインだと、セリフのないまま(無音のまま)魅せるということが予想以上に難しい。役者の力量が問われるということか。

ここは今回も課題として残ったところ。
役者個人としての感情の高まりもそうだし、他の役者とその熱気を共有していくこともまだまだだった。
ビデオ会議という特性上、超えられない壁なのか、やり方によって変わるのか、いずれにしろ今後の宿題だ。


3)オンラインらしさ、オンラインならではの表現は何か

今回、試したものとして、ビデオ会議の機能を使ったものとビデオ会議の特性を利用したものがある。
まぁ、分かりやすいとこでいうと、
ビデオ会議の機能を使ったものとして、
・バーチャル背景
・美肌モード
・ビーム
・ビデオをoffにして音声だけの参加

ビデオ会議の特性を利用したものとして、
・ビデオ会議あるある
・ドリンク受け渡し

本当は他にも試したいネタはあったんだけど、話の流れ上、今回はお蔵入りに。
この辺りはいずれも楽しんでもらえたのではないかと思う。
特に、ドリンクの受け渡しについては、「ならでは」の表現といってもいいと思う。

こういったテクニカルな要素は比較的やりやすい。アイデアと特性を知っていればいいからだ。
問題はこうしたオンラインらしさをどのようにストーリーに盛り込むかだろう。
ストーリー自体に「オンラインならでは」の特性が盛りこめれば、もっともっと面白いストーリーが出てくるだろう。

4)投げ銭・送金といった課金は可能か

今回、Zoomでのビデオ会議をYouTubeのライブ配信機能を利用したわけだけど、YouTubeの投げ銭機能としては「Super Chat」がある。
ただしこの機能を利用するためには、公開動画の総再生時間が4,000時間以上であり、登録者数が1000人以上いることと、小さな劇団ではハードルが高い。

その他にも投げ銭機能を提供しているものもあるが、一般の人が気軽に利用できる程普及しているかというと難しい。

そのため、今回は「Paypay」とAmazonの「ギフトカード」を利用した。

Paypayは現時点で課金手数料がかからなかったことで採用したが、商店と違い、公演の際のチケット収入がメインの収益基盤の劇団の場合、固定費用が発生するような課金手段は利用しづらい。Paypayにしても継続的に利用できるかは微妙だ。

Amazonのギフトカードは、劇団の投げ銭機能としてはグレーゾーンだ。ギフトカードの細則には「換金することまたは他のアカウントで使用すること」が禁止となっている。劇団の備品等の購入に充てる等の対応が前提となる。ただ利用する側からすると、Amazonでの購入歴のある人は多いし、ギフトカードだと誰が贈ったか、送り先へメッセージを付けることができるなどメリットは多い。

今回、お客さんから投げ銭をいただいたが、PaypayとAmazonで6:4といったところ。

Super Chatや他の投げ銭機能の利用を考えるのであれば、劇団単体で考えるのではなく、YouTube上で仮想の劇場というか、劇団向けの配信PFのようなものを検討した方がいいかもしれない。


5)オンライン演劇で演劇的な虚構性、ダイナミックスさは可能か

書き手としても、実際にいくつかのオンライン演劇を見ても、どうしても役者が自宅から配信するとなると、日常に近い設定になりがちだ。そしてその状況に引きづられて、ストーリー自体もその延長線でまとまってしまいがちだ。

しかしリアルな演劇だとどうだろう。例えそれが素舞台だろうと、つかのようなドラマチックな世界があり、唐組のようなダイナミックな世界が展開される。

オンラインでも演劇的なダイナミックな展開・虚構性が描けないだろうか。それが今回の挑戦の1つ。
それもあって、前半の「オンラインで稽古をする」という日常的な設定から、後半に大きな展開をすることにした。
ストーリーに無茶はあるのだけど、今回は試したいことのてんこ盛りだったので、多少は目をつぶることにした苦笑。

と、最後に今回のオンライン作品を創るにあたって感じた課題をまとめておきたい。

1)オンライン演劇を実施する上での課題

a)役者の利用環境をどう整備するか

b)役者の感情の高まり、役者間の空気の共有

c)ライブ感・一体感をどう作るか

d)課金・投げ銭

e)物語のダイナミクス


a、b、d、eについては既に記載したので、そちらを読んでもらうとして、「c)ライブ感・一体感をどう作るか」という点について補足を。

こちらは必死な思いで配信をし、特に問題なく胸をなでおろしているのに、お客さんの感想の中には「ライブ感がない」「編集しているのかどうかわからない」というのがあった。うーむ。ライブ感というのは一体なんだろう。

例えば作品中で、今の時刻を示すこと、つまりリアルタイムでやっていることの証左を示すことが「ライブ感」なのかというと、そうではないだろう。何が起こるかわからない緊張感だったり、役者と一緒に作り上げている空気や、皆で一緒に体験しているという一体感、そういったものがライブ感なのではないか。とすると、これをどう疑似的に作り出すか。(今回、あえてディスプレイの向こうの観客をいじるというのを入れてみたりはした)
これも大きな課題の1つだ。

この先、オンライン演劇を創るかどうかはまだ決めていない。
ただもっともっと面白いものが創れる手ごたえだけは残っている。

とはいえ、リアルな舞台が作れるに越したことはないのだが。




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