ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】

2009年07月02日 | コンテンツビジネス
映像配信・動画配信の課題について、その全体像を6つのブロックに分けてピックアップしてきた。では、何故、我々は成功していないのか――。この言葉には2つの意味が込められている。1つは、現状が「成功」とは言えないということ。もう1つは「失敗」ではなく「成功」への途上だという想いだ。まだ勝負がついたわけではない。

その上で、何故、成功していないのかと問われれば、組織体特有の事情・理由が存在する。

⑦-1 全体視点・トータルシナリオの不足
⑦-2 草食系あるいは内向き志向


「⑦-1 全体視点・トータルシナリオの不足」

これまで課題分析のために6つのブロックに分割して述べてきた。しかしこの6つのブロックは互いに独立して存在する事象ではないし、どれか1つが改善されたから一気に状況が変わるわけでもないからだ。それは例えばこういうことだ。

問題ブロック毎に抱えている「障壁」の度合いが仮にこのように存在するとしよう。
(障壁となっている度合いを10段階評価し、高いほど障壁となっている)

①環境:7
②配信コスト:8
③コンテンツ:7
④集客:8
⑤課金:8
⑥サイト7
------------------
合計 45

仮にコンテンツホルダーとの条件交渉を有利に行い、かつ魅力的なコンテンツが提供されたとしよう。その結果、③コンテンツの障壁度合が「7→3」と4ポイントも減ったとしよう。「コンテンツ」に課題を感じていた人は、問題が半減し一気に利用者が増える/売上が上がると考えるかもしれない。しかし実際には「45-4=41」にしかなっておらず、またコンテンツにたどり着くまでの環境やサイト側の障壁でお客さんが抜け落ちてしまうため、思ったほどの効果は上がらないかもしれない。

あるいは6ブロックをそれぞれ少しずつ改善し、いずれも「-1」ずつ障壁を減らしたとしよう。それでも全体では6ポイントしか減らず、まだまだ障壁は大きいことになる。

つまり「トータル」に「一気」に改善を行わなければならないのだ。

しかしこうした取り組みはなかなか難しい。僕らの習性として、また組織としての役割分担などもあって、それぞれがそれぞれの課題に対して、それぞれの役割の範囲で「改善」に取り組んでしまうからだ。もちろんそれは当たり前だしそのこと自体も決して悪いわけではない。

課題①→A①
課題②→A②
課題③→A③
課題④→A④
課題⑤→A⑤
課題⑥→A⑥

それぞれの課題に対してそれぞれの改善策を出す。当たり前の話だ。しかしここで改善策A⑤と改善策A⑥とが矛盾していたとしたらどうだろう。「利用者の利便性を高めるためにいろいろな課金に対応させよう」「できるだけシンプルな商品設計、サイト設計で『わかりにくさ』をなくそう」この2つの取り組みは、場合によっては相反する可能性もある。シンプルなサイト・分かりやすいサイト上で複雑な購入フローが必要になる可能性があるのだ。

個別最適の結果が全体最適ではない。

たとえ個々の課題を解決するとしても、全体視点あるいはトータルシナリオが必要だ。お客さんにどのようにリーチし、どうようにサイトに誘導し、どのように購入してもらい、楽しんでもらい、次に商品につなげていくか。そうしたトータルのシナリオ、ビジョンを踏まえたうえで、それぞれの課題に取り組まねばならないのだろう。そのためには、場合によっては、複数の課題を1つの対策や施策で解決をはかるといった「思考の飛躍」が必要になるかもしれない。そうしなければ、「トータル」に「一気」に変化することはない。

「⑦-2 草食系あるいは内向き志向」

コンテンツ業界というのは「肉食系」だ。彼らは後ろを振り向く暇があれば前方の獲物のことを考える。だからこそ「勝負勘」が磨かれる。「蒼き狼~」が惨敗であれだけ叩かれたにも関わらず、「レッドクリフ」の「驚愕の」大成功でavexの映像事業を叩く人間はいなくなった。レッドクリフにしても当初のプロモーションプランとは全く違う展開をしたという。それは(当初うまくいっていなかったプロモーションの中で)ちょっとした「きざし」を感じ取り、新しいプランに切り替え、一気にやり遂げてしまったのだ。この感覚。この「肉食」ぶりこそがコンテンツ業界なのだろう。

これに対し配信事業者・通信業界の側に立つとあきらかに動きが悪い。もちろんそこにはシステム投資が必要であり、1度作ったシステムは簡単にやめるわけにはいかないということもよくわかる。しかしそうした「草食」ぶり、コツコツと1つずつ改善していこうというスタンスは、コンテンツ業界のスピード感にはついていけない。

本来ならば、だからこそ、相手より先を読み、あるいは肉食系とともにうまく立ち振るまえるような対応をとらねばならないのに、「成功の可能性」ではなく「失敗の回避」を、「外」ではなく「内」を見てしまう。草食系なら草食系なりの「挑戦」し続ける姿勢がなければ、いずれの「成功」もないだろう。

いまは「失敗」ではなく「成功」への途上である。

有料配信を中心に動画配信・映像ダウンロードの課題をまとめてきた。これが課題の全てだとも思わないし、肝心な「コンテンツ」の中身については何も述べていない。しかしいずれ誰かがこれらの課題を超えて「成功」してくれたら、と思う。

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■動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括■
【①動作環境・ネットワーク環境】
【②配信コスト】
【③コンテンツ】
【④集客・顧客とのリレーションシップ】
【⑤課金手段】
【⑥サイト】
【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】

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