ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【映画】JOKER:「分断」された社会への危機感が支える共感

2019年11月02日 | 映画♪
 映画が終わった瞬間の重苦しい空気。救いのない様に誰も口を開かず席を立つ……。久しぶりに映画館で味わうこの雰囲気に、何となく嬉しくなる。クリストファー・ノーランなら、同じ様な重苦しさの中にも、映画的なダイナミズムやアクションで観客たちを驚嘆させたのだろう。でもここに描かれた「ジョーカー」は、社会の底辺の精神疾患を抱えた者が社会から疎外され、怨嗟の念を募らせていく映画だ。そこにはダイナミズムではなく、リアリティを持って描かれている。
 この映画の最終的な評価はわからないが、ふと、「タクシードライバー」が上映されたときもこんな風に受け入れられたのだろうか、と感じてしまった。

映画『ジョーカー』本予告【HD】


 それにしても、今、何故、この映画がここまで受け入れられているのだろう。

 この映画は万人に共感されるような映画ではない。見ていて楽しくなるような作品でもないし、感動や勇気といったものも(ゼロではないかもしれないが)、作品を引っ張る主要因ではない。とうことは、好き嫌いは別として、今の時代の人々に何かを訴えかけ、一定の理解を示させる何か、共感させる何かを持っているということだろう。

 景気減速が叫ばれているとはいえ、少なくとも統計上は、アメリカも日本も好景気の中にいる。2019年8月の国内有効求人倍率は1.59、これはバブル崩壊後~2000年代前半の有効求人場率(0.48~0.83)に比べれば倍の数字だ。
 今、思い出しても、バブル崩壊後、あるいはリーマンショック時の不況感は街中でも感じられた。財布の紐は固かったし、街中には浮浪者の姿も目立っていた。年末の日比谷公園に「年越し派遣村」なんていう宿泊場所が提供されたこともあった。それに比べれは、今、そんな切迫感は感じられない。街中にはこぎれいな服装があふれ、テレビでも「貧困」な生活が映し出されることは稀だ。「消費税が上がった」「子育て支援を充実してもらわないと生活に余裕がない」――そんな意見があったとしても、「普通」な人々が「普通」に暮らしているそんな映像に満ちている。そこにはJOKERのアーサーに共感する要素はないように思える。

 その一方で日本の相対的貧困率は15%を超える。「相対的貧困」というのは、最低限の生存を維持するのが困難な「絶対的貧困」とは異なり、その国の生活水準の中で困窮な状態(等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態)をさし、具体的には1人世帯の可処分所得(等価可処分所得)で122万円以下、4人世帯で244万円以下の状態を示す。
 年間122万円ということは月額10万円程度。世界3位の経済大国でありながら、7人に一人は貧困にあえいでいることになる。「ウシジマくん」に描かれている世界は身近にもあるのだ。

 またネット上には、他者を攻撃する不寛容さ、底の浅い正義感、怨嗟、スティグマが溢れている。これらは昭和から平成にかけて豊かな「普通の」生活を享受してきた世代からすれば、違和感を感じるだろう。何故、そこまで攻撃的なのか、何をそんなに恨んでいるのか、と。彼らはその担い手に、自分たちとは違うアンダークラスの人々を想像するかもしれない。

 テレビや雑誌、ニュースの中にこういったアンダークラスが扱われることは少ない。彼らの主力ターゲットである「普通」の人々には普通のコンテンツがあり、普通のニュースがある。普通の人々にアンダークラスを伝えることは求められておらず、普通の人々もまたアンダークラスを見たいとは思わない。ここの普通の人とアンダークラスとの「分断」が存在する。日本は既に階級社会であり、アンダークラスは日本の社会秩序から疎外されているのだ。

 ただし普通の人々も、自分たちはそうでなかったとしても、社会に対する不満、怒り、怨嗟が高まっていることは薄々感じている。「JOKER」という映画、ゴッサムシティという別な社会を通じて、その危機感を感じ取っているからこそ、「JOKER」の共感へと繋がっているのではないか。

映画の中で、ロバート・デニーロ演じる「マレー・フランクリン」が「誰でもコメディアンになれる時代になった」と述べている。現在はまさにそれだ。誰もがYou Tuberとなり、ネットで発言し、アイドルやコメディアン、神にだってなれる時代だ。しかし「普通」の人々のどれだけが、ネットの神々の存在を知っているだろうか。普通の人々から「分断」された世界で、地殻変動は起きているのかもしれない。

1 コメント

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Unknown (ゆきじ)
2020-01-20 01:13:32
はじめまして。
07年に書かれている攻殻機動隊の考察をきっかけにたどり着きました。

ブログとても素敵ですね。
これからも更新楽しみにしております。

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