ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括【④集客・顧客とのリレーションシップ】

2009年06月28日 | コンテンツビジネス
「いいコンテンツを揃えたのに、ターゲットとなるお客さんにそのことが届いていない」

これは動画配信などに関わらず、ネット上でサービスを提供していく上での大きな課題の1つだろう。いろいろな問題が「コンテンツ」と「配信コスト」に帰されることが多いけれども、現場で一番苦労しているのは、どうお客を集めるかという当たり前のことだったりする。

ここでは、「集客・顧客とのリレーションシップ」という観点から問題をまとめたいと思う。

図 コンテンツ配信における課題ブロック


ネットサービスだという点も踏まえて、サイトへの導線・集客方法にはどのようなものがあるだろうか。

④-1 ブランドの浸透
④-2 検索
④-3 ポータルサイトなどからの導線の確保
④-4 コミュニティ連携
④-5 クチコミ/アフィリエイト

「④-1 ブランドの浸透」というのはお客さんが「自発的に」動画を見るために「○○○」というサイトへ来てもらうためのオーソドックスな方法だ。「動画を見るなら○○○」というブランド、ブランドイメージが浸透していれば、お客さんはまず、「○○○」のサイトに来てくれるだろう。

しかしそのためには「ブランド」を浸透させるためのプロモーションなり、話題づくりなり、コストがかかる。例えばGyaOの立ち上げにおいては、「ブランド」定着にむけてのプロモーションや話題づくりがなされた。USEN 宇野社長も率先して喧伝していたし、マスコミもこぞって取り上げた。瞬く間に数百万の登録者を獲得し、「無料動画を見るならGyaO」というブランド、認知度を高めていった。

それまでの無料で動画配信をしているところはあったし、それに対抗するように、既存のポータルとしても活躍していたBiglobeやMSNなども無料動画配信を推し進めたが、GyaOに比べて認知度は高くない。BIGLOBEのお客さんも動画を見るために「GyaO」へ行くのだ。

ネットだからSEO対策をしっかりやれば…というのは間違いだ。物理的距離の制約にとらわれないネットだからこそ、ブランド力・認知度というのは大事なのだ。

「④-2 検索」は分かりやすいだろう。

多くのインターネット利用者は目的のサイトへ行くために「検索」を利用する。特に「ブランド」がどうしても配信サイト全体のイメージに関わるものだとして、検索はそのサイトで配信されている「コンテンツ」や「メタデータ」に関わるものだ。

つまりブランド展開では、「無料動画を見るならGyaO」というようにサイトやサービス全体の訴求になってしまうが、検索からの導線というのは、その中で配信されている「ガンダム」「EXILE」といった本当に関心がある「キーワード」を中心とした導線の確保となる。その意味で両者は役割が違うし、それに対する対策も異なってくる。

「④-3 ポータルサイトなどからの導線の確保」。

検索を中心とした導線は、ユーザーの中に「既に」興味や関心、目的が存在することが前提となる。つまり「何か」を見たい、欲しいといった欲求があるからこそ、調べ、数多の検索結果から、目的のコンテンツを選択するからだ。では、そうした明確な目的がないユーザーはお客さんになりえないのか?

そんなことはない。「ウィンドウ・ショッピング」や特に目的がないけれど漠然と「ショッピングセンター」へ行くということは誰もが経験しているだろう。そして何となく、興味のあるものを見つけて、そのまま購入する――ネットの世界でこういう経験を作り出そうとするならば、誘導口は「検索」ではない。特に目的がないけれど利用してしまう「ポータルサイト」のような人の集まった場に告知・導線を用意することが求められる。

ただしこれは効率的な手段ではない。やはり多くの人は検索だったり、メールだったり、ニュースだったりとポータルサイト上でも行動パターンが決まっているからだ。Y!やimodeのトップページクラスのメディア力があれば、それでも結果的に多くのユーザーを配信サイトへ導いてくれるだろうが、gooやMSNなど2番手、3番手のポータルサイトの場合、必ずしも強い誘導口にならないかもしれない。それでも継続的な導線を確保するために、より多くの人との接点を確保するためには必要なのだろう。

「④-4 コミュニティ連携」

「ポータルサイトからの誘導」という手法が、不特定多数の人々にコンテンツをアピールしサイトへ誘導していこうというアプローチだとしたら、「コミュニティ連携」というのは真逆のアプローチだ。

共通の「興味」「関心」をもち、特定の「キーワード」に反応するようなターゲット層に対して、彼らの反応のありそうな「コンテンツ」を提供することで、一気に刈り取ろうとする。(ここでいうコミュニティとは、SNSなどに限らず、共通の分野やジャンル、属性で括ることができる「塊」くらいの意味で考えてもらうといい)

物理的な距離という制約の解放と、多様化する興味・関心という状況の下、ネットの世界ではリアルな世界以上に「コミュニティ」が形成しやすい。そうした特定の「興味・関心」をキーとしたコミュニティに対して、彼らの関心にマッチしたコンテンツを提供していくこと。それはアプローチできるユーザーの「数」は少ないかもしれないが、確実にターゲットに届けることができるし、また「刈り取り」の確実性も高いだろう(購入率が高いこと)。コア・ニッチな商材に関して有効なアプローチとなる。

ネットの世界を席巻したかっての「韓流ブーム」は、もちろん「冬のソナタ」「ヨンさま」というTVが生み出した流れがあったとはいえ、ネット上での「韓流コミュニティ」の発達とそこでの口コミや情報の伝播、動画配信サイトへの誘導というモデルが成り立ったからだといえる。

あるいは「宝塚」というリアルな世界(宝塚歌劇団)のファン(コミュニティ)をターゲットにネットでもコンテンツを楽しめる「タカラヅカ・オン・デマンド」や受験生という特定のセグメントを対象にした「ブロードバンド代ゼミTVネット」などこうした例の1つだといえる。

ここで留意すべきことは、

A)送客先の動画配信サイトが分散すれば効果が薄い
B)漠然としたセグメント(ex.音楽、映画)ではこの効果は薄い

ということだ。

特定のコミュニティをターゲットとする以上、その「数」は限られる。仮にそこからの送客先(動画配信サイト)が複数存在したとすると、当然、それぞれの動画配信サイトの利用者も減ることになる。またコミュニティの参加者からすると、複数の動画配信サイトを選択する/登録する/コンテンツを探すといった「手間」が発生し、購入をやめてしまうこともあるだろう。効率的に「刈り取る」つもりが、その効果を十分に活かせなくなる。

コミュニティ連携を活用するためには、コアとなる「コミュニティサイト」を中心に、そのサイト利用者を満足できるラインナップを用意した1つの動画配信サイトに送客するような連携を実現することだ。「コミュニティサイト」と「動画配信サイト」との一体感こそが、コミュニティの参加者への安心感を生み出すからだ。

またこうしたアプローチは何にでも効果的なわけではない。例えば、あなたが「音楽」が好きで、「JPOP」が好きで、「YUI」が好きで、「again」が好きだとしよう。「音楽」「JPOP」「YUI」「again」、果たしてどのキーワードに反応するだろうか。

「YUI」というキーワードには関心は高く、そうしたコミュニティに参加するかもしれないが、「音楽」や「JPOP」では「YUI」以外の要素も幅広く包含し過ぎていて関心は弱いだろう。また逆に「again」では絞りすぎてしまっている。

コミュニティ連携を考えた場合、そのコミュニティの適切な規模感、関心の深さを理解しておかないと、高い効果は得られない。

「④-5 クチコミ/アフィリエイト」

これは主に「ブログ」などの通じた送客・誘導というパターンだ。
先ほどの「コミュニティ連携」の場合は、「コミュニティサイト」やそういったユーザーが集まりそうな「サイト」があり、そこからの誘導をどう図るかということだったが、こちらの場合は、一般ユーザーが書いたブログということで、もっと分散された形となる。

また先ほどの例との対比でいうと、ユーザーがブログに書いた記事が送客のための「トリガー」となるため、関心の度合いもより狭い範囲になりがちだ。つまり「音楽」「JPOP」よりアーティスト名の「YUI」や曲名である「again」となる。

無数のユーザーの書く無数の記事が導線となるということは、その記事を読む無数の読者にリーチできる可能性があるということだ。ただしこうしたブログやクチコミを活用するためには、そうしたアフィリエイトやBUZZマーケティングの基盤が必要になる。アマゾンや楽天のように自社で提供する場合もあれば、そうしたサービスを利用することもできる。


ここまでが主にサイトへの導線・集客方法の話なのだけれど、大きく考え方を2つに分けて考えられる。「サイト」や「サービス」を中心に顧客とのコンタクトポイントを据えるのか、コンテンツ単位で据えるのかということだ。このアプローチの違いによってサイトの作り方・デザイン、ターゲットとなるユーザーの規模感などが変わってくる。

とはいえ、これらのアプローチは「受身」のモデルになりがちだ。継続的にお客さんにサイトに来てもらうためには、商品情報、更新情報などを積極的に「届けていく」必要がある。お客さんとの継続的な関係を構築するためのツールとしては、「メールマガジン」や「RSS」といった方法がある。

詳細は省くものの、これらの方法は配信事業者側からお客さんに対して「情報」を届けて、サイトに来てもらうというアプローチだ。しかし「動画」を見てもらうことが最終的な目的だと考えるならば、サイトにきてもらう「手間」を省いて、直接コンテンツを届けるという方法もある。それが「⑦-6 ポッドキャスト」や「iチャンネル」といった仕組みだ。

「⑦-6 PODCAST」

「ポッドキャスト」というとどうしてもMP3やH.264のファイルをダウンロードして利用する、というイメージが強いが、技術的な点から見れば「RSS」+動画ファイル(ストリーミング含む)という組み合わせでで考えることもできる。DAPなどへの転送や持ち運び視聴という用途を除けば、DRM付の動画でも問題ないし、ストリーミング形式だってよいのだ。ここでは「ポッドキャスト」というか、このRSS+ストリーミング動画という組み合わせの可能性について書いておきたい。

ポッドキャスト「聴く日経」の有料化に見られるように、このポッドキャスト(RSSを使ったコンテンツ配信)という仕組みは定期更新性の高いコンテンツ配信を行っている事業者にとっては以前から魅力的な仕組みだった。しかしその名の通りiTunes、iPodでの利用が前提であり、「無料」「DRMフリー」「ダウンロード」での提供が主流だった。つまり、配信事業者からすると他の商材のプロモーションの一環として捉えるか、配信するコンテンツの中に広告を挿入するかしか収益モデルが描けなかった。

そこで「聴く日経」などはRSSに認証機能を設けることで有料化を実現したわけだけれど、例えばPC上での「動画」に特化するならば、WMVのDRMを利用して課金やセキュリティ管理を実現することもできるだろう。そうすると、RSSを利用して更新された映像ファイルのパスを更新しつつ、DRMを書けた状態で、ユーザーには常に最新のコンテンツを利用してもらうことが可能となる。そのパスをasxファイルのパスにすることで、動画自体はストリーミング配信にするということも可能だ。

こうした技術を利用することで何が変わるのか。

ニュースなどが分かりやすいと思うのだけれど、TVのような時間編成型メディアであれば、利用者がニュースを見たい時に見るのではなく、ニュース番組をやっている時間に合わせてニュースを見るという形にならざろうえない。これに対して、ネットのいい点は見たいときにアクセスでき、かつその時点での最新ニュースから順にならんでいることだ。もちろんライブ性という点ではテレビニュースに勝てはしないのだけれど、そこまでのライブ性が求められていることはあまりない。であれば、ユーザーが知りたいときに最新ニュースにアクセスできるネットのよさは捨てがたい。

この状態をネットでの動画ニュースに利用しようとすると、こうしたRSS+動画配信というのは使い勝手がいい。例えば「ニュースチャンネル」というものを用意しておき、それを押すとその時点での最新ニュースから順にニュースが再生されていく。ユーザーが見たいときに、最新ニュースから順に、1つのニュース番組のように再生されるのだ。「リアルタイム」でもなく「アーカイブ」でもない「あいまいな時間間隔」をもち、かつユーザーが選択するわけでも徹底的に編成された番組でもない「あいまいな番組」として。

こうしたプッシュ型メディア、更新性を確保することは、ユーザーに「アクセスする」「選択する」といった負荷を与えないまま、継続してコンテンツを利用してもらう契機となる。顧客とのリレーションシップを作り出せるのだ。

これはDoCoMoのiチャンネルでも同じことだろう。


また全く違うアプローチで継続的な顧客接点、リレーションシップを確保する方法もある。そのいい例が「iTunes」「iPod」だ。

⑦-8 アプリケーションによる顧客接点の確保

iPodという日常的に利用するデバイスをトリガーに、あるいはPC上での楽曲管理という切り口をトリガーにアップルは「iTunes」というアプリケーションをユーザーに無料で配布した。このアプリケーションは、PC上の楽曲管理が簡単にできる・CDからリッピングをすることができるということで、iPodをもたないユーザーにも一気に広がった。それだけではない。このiTunesを通じて、ユーザーはiTS(かってのiTMS)に接続され豊富な楽曲を99セントで購入することもできる。

これによってアップルは何を手に入れたのか。もちろん膨大な顧客接点だ。

日本でもいくつもの楽曲配信サイトが存在するが、まだまだ成功を収めたといえるものはない。特にmora/mora winのように、レコード会社が出資して、自らの楽曲を独占的に販売させ、圧倒的に有利な状況を作り出したにも関わらず、その販売額はiTSの半分程度しかない。CDや着うたフルなど、代替手段のある中で楽曲配信用の販売権をコントロールしたところで、iPod/iTunesを通じて顧客接点を押さえてしまったアップルには勝てなかったのだ。

iTSが単純にウェブサイト上のサービスとして展開していたとしたら、ここまで有利な状況にはならなかっただろう。「音楽」を管理するという目的に沿ったアプリケーションを配布することで、ユーザーの意識の中に、「PCで音楽を聴くならiTunesで」という「状態」を作り出したことが分水嶺となったのだ。

ウェブサイトは今や様々なサービスを提供することができる。これからもますます様々なサービスを実現するだろう。しかしあまりにも何でもできてしまうこととは、時に「分かりにくさ」をもたらしてしまう。今、ガジェットなど特定のサービスに特化したWEBアプリケーション、RIAに注目が集まっているのは偶然ではない。特定の目的に応じた、簡単に利用できる、アプリケーションが求められているのだ。そしてそうしたアプリケーションは、「目的」に特化しているがゆえに、1度、ユーザーにインストールされ、「なじみ」はじめると簡単に他のアプリケーションへは移らない。そのアプリケーションを通じて、ユーザー自身が「経験」を高めていくからだ。

他にもある。例えば携帯電話でもGメールやY!メール、gooメールといったWEBメールを利用することはできる。しかし多くの人は、PCでは利用していたとしても、携帯ではメールボタンを押し、携帯メールを利用するだろう。送ることのできる内容に大差はない。PCでも確認できるという点ではWEBメールの方が上回っているかもしれない。しかし立ち上げる手間や、メールが届いた瞬間にそれがわかることなど、専用の機能として利用したほうが「便利」なのだ。

ユーザーの日常生活の一部に専用のアプリケーションを組み込ませること。「映像を見るときはこのボタンから」そんな状態を作ることができれば、ブラウザとは別次元で勝負することもできるだろう。数多あるWebサイトに埋もれることなく、安定した&継続した関係を構築することもだきるだろう。





■動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括■
【①動作環境・ネットワーク環境】
【②配信コスト】
【③コンテンツ】
【④集客・顧客とのリレーションシップ】
【⑤課金手段】
【⑥サイト】
【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】







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