Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

OTELLO (Sat, Oct 13, 2012)

2012-10-13 | メトロポリタン・オペラ
先日(10/8)『トロヴァトーレ』を鑑賞したのにはジャンナッタジオを聴くことと、実はもう一つ目的があって、
それは来る週末に予定されていたHDの収録日の『愛の妙薬』のチケットを、同日の夜の公演の『オテロ』に交換してもらうことでした。
チケットの交換やアップグレードは電話やウェブでは受け付けてもらえなくて、メトのボックス・オフィスまで足を運ぶ必要があるのです。
新演出の『愛の妙薬』の公演については、オープニング・ナイトの公演を見て、
この演出とキャストでは作品の本当の良さを引き出すのに限界があるな、と感じましたので
(しつこいようですが、私はコプリーの旧演出が大好きでしたので、、)、
ベニーニ率いるオケの演奏が非常に良いので(これはオープニング・ナイト後のいくつかの演奏をシリウスで聴いてもコンスタントに同じでした)、
それをもう一度聴けないのはちょっと残念ではあったのですが、
それよりも、気がつけばまだチケットの準備すらしていなかった『オテロ』の方を一度は鑑賞しておかなくては!というわけで、
『オテロ』のシーズン初日の公演は10/9の火曜日だったんですが、
それだと『トロヴァトーレ』に続いて連日で会社から慌しく駆けつけることになってしまうので、
初日の公演はシリウスで聴いて、そのすぐ後の土曜の公演を鑑賞することにしました。

今シーズンの『オテロ』はHDの対象演目でもあるのですが、
主役のボータとフレミングは2007-8年シーズンの公演と全く同じコンビで、
5年経てもめぼしいフレッシュなオテロ/デズデーモナ・コンビをキャスティングできないとはメトも芸のないことよ、、と思います。
その上、ボータもフレミングも決して悪い歌手ではないし、歌唱も安定しているとは思うのですが、
(ま、フレミングはエキセントリックな歌い方が炸裂してぎょっとさせられることも多々ありますが。)、
その分、彼らの歌はいつもどこか”手堅い”という印象が強くて、真に興奮した!という経験が私はあまりないんです。
そんなことなので、シーズン・プレミエの日の夜は、
”さあ、手堅い『オテロ』でも聴くか。”と、大してわくわくするでもなく、シリウスのスイッチを入れました。
ところが、もう冒頭から仰天するような出来事が起こってしまって、違う意味でどきどきしっ放し、なことになってしまいました。
こちらがその日の音源の抜粋で、指揮はセミヨン・ビシュコフです。
音源は三箇所の抜粋になっていて、一番目の、オケが最初に音を出す瞬間からオテロが”Esultate! 喜べ!"と歌い始めるまでで若干時間がありますが、
この間ずっと観客は、手に汗握りつつ、どきどきし、それが最高潮に達したところで、"Esultate!"が聴こえてくる、
この時間の流れが大事(と、そこでこけた時のショックの大きさがオーディエンスにとってどれほどのものか、、)ですので、あえて全部入れました。



ボ、ボータ、、、

言っておきますが、私はボータの歌を、手堅すぎて面白みに欠けるな、とか、上手いけど味がないよなあ、、と感じたことはこれまでにありますが、
技術がない、とか、下手だと思ったことは一度だってありません。
テノールの中では、その歌唱が最もリライアブルなグループに入る、とすら思います。
ですから、この初日の歌唱はもう彼であって彼でない、と言っていいくらいで、
どういう事情があってこんな最悪のコンディションでも歌わなければならないことになってしまったのか、、、気の毒すぎて言葉がないくらいです。
多少オペラに親しんでいる人間なら、これが彼の本来の歌唱ではないことは重々過ぎるくらいわかっているので、
異例なことに、シーズン初日の公演ながらあえて評を出していないメディア媒体もあるくらいです。

私も正直なことを言うとここで音源を紹介することについて大変な迷いがあって、
当然のことながら、彼のキャリアの中でもワースト・ナイトに違いない日の歌唱を面白がるためにアップしたわけではありません。
いつぞやの『ロミオとジュリエット』のベチャーワのような一過性のクラックなら、後で音源を聴いてなごむことも出来ますが、
(ただ、劇場で生で聴いている時は、オーディエンスも冷や汗が出るような思いをするので、笑いが出ることはまずないです。)
これはそういう種類の失敗でないことは明らかで、
それこそが、NYの批評家たちの中にさえ、ボータを気遣って初日の歌唱を葬り去ろうとしている人がいる中で、
私があえて、その意図を聴く人に誤解される可能性があるのを承知で、音源を紹介することに決めた理由です。
一体こんな状態で彼が歌わなければならないような状況に陥ったのは、誰の責任なのか?ということを追求したかったし、
そのためにはどんなに言葉をつくして彼の歌唱がボロボロだったかを書くよりも、
音源を一聴して頂く方が、この日のオーディエンスがどんな思いでこの公演を聴かなければならなかったか、ということが良く伝わるはずだと判断したからです。

結局、ニ幕と三幕の間のインターミッションで、ボータがアレルギーで不調であること、しかし、このまま歌い続ける旨のアナウンスがありましたが、
音源を聴けば判るとおり、すでに音がへしゃげる前のEsultate!からいつもの彼の声でないことは明らかですし、
音が引っかかってつぶれるパターンが毎回同じで、とても『オテロ』のような作品の表題役を全幕歌える状態になかったことが一耳瞭然です。
以前、ROHの日本公演でエルモネラ・ヤホ(ヤオ)嬢が不調のために散々な結果を出してオーディエンスから非難轟々だった事件がありました。
その時も思いましたが、オペラハウスは公演前に出演する歌手のクオリティ・コントロールを行う義務がある!と感じるのは私だけでしょうか?
それであらゆる歌唱の不調をキャプチャーできるとは思いませんし、舞台で歌ってみないとわからない類の不調もあるとは思います。
しかし、日本公演の時のヤホ嬢のような、そして、今回のメトでのボータのようなケースは絶対に防げたはずです。
先に書いたように、私のようなトーシロでさえ、何度か彼の歌声を聴いたことがあれば、
"Esultate!"と歌い始めた時の音色から、何か変だぞ、、と感じた位なのですから、
何らかのチェックがあれば、メトの音楽スタッフが気づかないわけがありません。

でも、もっと怖く、忌むべき可能性は、ボータもスタッフもとても歌える状態じゃない、と降板を希望・推奨していたにも関わらず、
支配人が”どうしてもあなたに歌ってもらいたい。”と、頼み倒したのではないか?ということです。
この可能性を私が捨てきれない理由は、仮にボータが”歌いたい!!”と泣き叫んだとしても、
私が支配人だったならば、絶対にニ幕の後のインターミッションまで待たずに一幕後の舞台転換のタイミングで彼を舞台から引き摺り下ろしたであろうに、
あろうことか、インターミッションで降板させるどころか、全幕歌わせた、、、、そこに疑問の念を感じずにはいられないからです。
一体カバーは存在したのか?(昨シーズンの『ワルキューレ』みたいなことになっていたんじゃないでしょうね?
詳細はこちらの記事のコメント欄を参照ください。)、
存在しているならなぜ彼を登場させないのか?
大事な初日をカバーには任せられないから、こんな無理な状態のボータに全幕歌わせたのか?
なら、カバーの存在意義は何なのか?そんな頼りにならないカバーをどうしてメトは雇っているのか?、、、、と、疑問はつきません。

私がなぜにこれほどまでに熱くこの件を語るかというと、こんなことは歌手にとってもオーディエンスにとってもフェアでないからです。
普段力のある歌手であればあるほど、このような不本意な歌唱を、劇場はもちろん、シリウスやらライブ・ストリーミングやらこんな場で配信されて、
どれほど本人は悔しく残念な思いでいることかと思います。
それに『オテロ』のHDは10/27に迫っているんですよ。
具合が悪いのなら、ちょっとでも早く休養させて、その日に備えられるような環境を作ってあげるのが筋ってものではないですか?
それをこんなに無理させて全幕歌わせて何のメリットがあるっていうんでしょう?本当、支配人は何を考えているのやら、です。
それからオーディエンス。
私達は作品を味わうために劇場にいるのであって、こんなに全幕通して”彼は大丈夫だろうか、、。”とはらはらさせられた日には、
『オテロ』を鑑賞した気になれないというものです。

私が鑑賞することになっている公演は初日からたったの4日後ですので、
この歌いっぷり+全幕歌わされてしまった事実からして、”土曜にボータが出演する可能性はまずなくなったな。”と思いました。
そこで、誰が代わりにオテロを歌うのよ?という大問題の浮上です。
今シーズンの『オテロ』はBキャスト(何度も言うようですが、BキャストのBはB級のBではなく、単純に”二番目の”という順序の問題です。)に
クーラ&ストヤノヴァの二人が予定されていて、個人的にはこのBキャストの方を余程楽しみにしているのですが、
スケジュールが空いていればそのクーラを引っ張ってくるか、後はアントネンコかドミンゴ様(←これは話題になるでしょう!)、、
このあたりのテノールでないと、NYのヘッズたちは納得しないんじゃないかな、、と思っていて、誰が代役をつとめるのかしら?とちょっぴりわくわくして来ました。
なのに、その私の気持ちをじらすかのように、メトのサイトで土曜の公演からボータの名前がなかなか消えません。
いやーん、誰!?誰!?!?!?

しかし、ようやく前日の金曜になってサイトに現れた代役の名前を見て私は固まりました。
アマノフ、、、、? 誰、それ?

ということで、早速調査開始!したところ、どうやらマリインスキー劇場系のテノールのようです。
マリインスキー劇場系といえば、月曜の『トロヴァトーレ』のザジックの代役、ニオラーゼもそうだったよな、、と、
彼女の怪しい歌唱を思い出して、実に不安な気分になって来ました。
さらにYouTubeに上がっている彼の歌唱を聴いて、嘘、、、と思いました。
オテロを歌っている彼の声はひょろひょろと頼りなく、どうしてオテロなんかを持ち役にしているのか?と思うほどだし、
下の写真を見てもわかる通り、先に名前を挙げた3人の堂々とした(少なくともオペラ的基準では)良い男振りと比べると、
悲しくて泣きたくなってくるようなうだつのあがらない風采で、
このうだつのあがらない風貌はどれほど顔を黒塗りにしても隠せまい、、と、暗鬱とした気分になって来ました。



モシンスキーのプロダクションは1993/4年シーズン(このプロダクションの初演のオテロはドミ様でした)から存続しているもので、
再演を重ねるうちに当初のモシンスキーのアイディアが薄まっていったこともあると思いますが、
実にオーソドックスで、何ということのない、演出志向の強いオーディエンスには間違いなく”つまんね。”とレッテルを張られてしまうであろう演出です。
支配人の”次にスクラップするべきプロダクション”のリストの上位に食い込んでいるであろうことは間違いありません。
私はこのブログですでに何度も開陳している通り、演出を楽しみにオペラハウスに通っているわけでは全くないので、
正直、よっぽど出来の悪い、もしくは作品の妨げになっていると思われる演出以外なら、それなりに楽しめてしまいます。
むしろ、アイディアががちがちに決め込まれている新演出ものよりは、
ちょっと古ぼけた演出の方が、歌手に自由な演技・歌唱を許す余白があって、彼らの実力がよりはっきりわかって面白い、と思う時すらあります。
そんなことなので、まったくもって物語に忠実なモシンスキーのプロダクションは本来ならMadokakipの許容範囲内に収まっているはずなのですが、
どっこい、この演出はある欠陥のせいで、私としては実に珍しく、支配人の”そろそろ引退させても良いプロダクション”の判断に賛成です。
このプロダクションのセットはメトの舞台の奥行きを存分に利用したものになっているのですが、
その上に舞台上のプロップの配置の仕方のせいで、歌手の声が異常に大きく聴こえるスポットと、まるでその逆のエリアが混在しています。
フレミングとシュトルックマンに関しては、以前違う演目で歌声を聴いていますが、
彼らが舞台の奥行きのせいで声量が舞台後方に向かって大量に拡散してしまう、いわゆる”聴こえずらいスポット”に入った時は、
”彼らの声はこんなに小さくないのに、、、。”と気の毒になるほどです。
しかし、逆にすぐそばに背の高いプロップ(例えば柱など、、)がある場合は、声が異常に反響して、
作品の内容が内容だけに歌手に豊かな演技が求められるせいもああり、彼らが舞台上で良く動くのですが、
その度に歌手の声の聴こえ方が不自然に大きくなったり小さくなったりして、実に鑑賞しづらい。
デズデーモナがオテロに殺害される場面に関しては、それまでの半分位の舞台スペースしか使用しておらず、
しかも、ベッドの少し後ろに大きな壁があって、非常に音が聴き易く、ビジュアル、アコースティック共に優れた場面になっていますが、
それ以外の場面はビジュアルとしては悪くないものの、音響の面でほとんど欠陥があるとみなしてよい位ひどいです。
『愛の妙薬』をとっかえてる暇があったら、『オテロ』に手をつけるべきでした。



個々の歌手についてふれる前に先にオケの演奏の話を。
そういえば、フレミングとボータが再キャストされているだけでなく、指揮のセミヨン・ビシュコフまで5年前の公演と同じなんですね、、。
まるで、メトのアーティスティック部門は頭を使うことを拒否しているのではないか?と思えるほどのワンパターンです。
しかし、実は5年前の公演のことを言うと、ビシュコフの指揮は決して悪くなかった、、、
音楽作りが自然で、メトのオケのサウンドを尊重した演奏を心がけたのが勝因だったと思います。
しかし、今回はどうしたっていうんでしょう!?
5年の間にどこかで転んで頭でも打ったんでしょうか?それともHDにも乗るということで、変に肩の力が入っているんでしょうか?
妙なやり方で音楽をさわりすぎです。今回の彼は。
特に気になったのはヴェルディがせっかく流れを大切に書いている部分で、音楽をチョップアップするような味付けが散見されること。
例えば三幕でデズデーモナが、嫉妬に狂って完全に自分を見失なったオテロにあらぬ疑いをかけられ、
腕をつかまれたはずみで倒れたところに、”地に伏して泣くがよい!”と公衆の面前で唾棄され、
"A terra!... si...nel livido fango..percossa... io giacio"と歌い始める、オーディエンスの胸が最高に張り裂ける場面、
彼女の旋律に絡むように入ってくる金管がエキセントリックなまでにスタッカートになっていたり、だとか、枚挙に暇がありません。
そのようなビシュコフ節の中で10発中1発くらいは面白いな、、と思う箇所もありましたが、
全体的には、ムーティなんかが聴いたら頭から湯気を出して怒りそうな、ちょっぴり変った演奏になってます。
インターミッション中に、とあるカップルの会話が聴こえてきて、男性が女性に”なんかこの作品、プッチーニみたいだよね。”と言っているので、
”『オテロ』がプッチーニに聴こえるとは、変った感性だな、、。”と思いながら盗み聞きしていましたが、
今考えてみると、もしかすると、ビシュコフの、わざとヴェルディらしさを抹消するかのような指揮の仕方にも
そんな意見の一因があったのかもしれないな、と思えて来ます。



ルネ・フレミングのデズデーモナ。
彼女が歌ういわゆる”イタリアもの”の中では、一番の当たり役と言ってもよいのがデズデーモナ役でしょう。
相変わらず奇妙なねばっこい母音や独特のディクション炸裂!で、”いつものルネ様”してしまっている部分があるのは否めませんが、
最近少し声の響きの美しさに翳りが出てきた彼女にしては、この役で必要とされる全ての高音が思いの外綺麗に響いていて、
良くコントロールが利いており、全く危なっかしいところがなく、安心して聴いていられるのはポイントが高いです。
また、回数をこなしているだけあって、ペース配分も巧み。
逆にこなれ過ぎている感じがして、それがほんの少し興奮を殺いでいる部分がある、と言ったらちょっと厳しすぎるでしょうか?

”柳の歌~アヴェ・マリア”は私の好みからするとちょっとべたべたし過ぎている感じはあるのですが、
柳の歌での声のボリューム・コントロールは優れたものがあったと思います
(salceの繰り返しの表情の付け方、それからAh! Emilia, Emilia, addioでのAh!の爆発の仕方も適切だったと思います)し、音の響き自体は非常に綺麗です。
アヴェ・マリアも表現力はあるので(それだけに余計、ねばねば母音が惜しい!と思う)、
究極的にはヴェルディが書いた音楽の素晴らしさだとは思いますが、彼女が歌い終わって、オテロが寝室に入ってくる前に
ビシュコフが指揮棒を下ろして観客の拍手を待っても、オペラハウスは水を打ったように静かになったままで、
結局、オテロが舞台に現れるまで、この場面の悲しさ・せつなさを静けさの中で存分に堪能出来たのは幸いでした。
(シリウスで聴いた演奏は初日のそれもこの日の後の公演もここで拍手が出ていましたので、本当、ラッキーでした。)



シーズン・プレミエから批評家からの評価も高く、
この日の公演でももしかすると一番拍手が多かったのではないかと思われるイアーゴ役のシュトルックマンなんですが、
確かに演技や役作りにきちんとしたメリハリもあって、歌にパッションがあるのは良いと思いますが、
彼の歌だけに限って言うと、私のこの役での好みから言うと、少し歌い崩しが過ぎるかな、と思います。
彼をメトで初めて聴いたのは2010/11年シーズンの『トスカ』なんですが、
あの時も、生で聴いた時はすごく良いな、と思ったのですが、後日の公演を音だけで聴いた時には、あれ?結構崩してるなあ、、と感じました。
彼は生で鑑賞すると、演技との相乗効果で、そのあたりの崩しが気になりにくくなる、もしくは気づいても、ま、いいか、、となりやすいのですが、
私の場合、イアーゴはスカルピアより崩しの許容範囲が狭いので(ここがヴェルディとプッチーニの違いの一つかな、、と思う)、
歌に関しては少し不満が残りました。
ただし、彼は演技は本当に上手いな、と思います。そして、彼の演技の良いところは、いつも正攻法なところ。
あの糞『トスカ』でも、ガグニーゼがボンディの言いなりになっていたのに比べて、
彼は真っ当なスカルピア像で押し通すという、一つ間違えたら舞台で浮きまくっていたかもしれないリスクを犯しながら、説得力を持って歌い通してしまいましたし、
今回も、イアーゴと聞いて大部分の人がイメージする、そのままを舞台に再現してくれてます。
これは言うに易し、ですが、ここ最近メトでイアーゴを演じた歌手で、ここまで黄金正攻法のイアーゴ像を描出出来た人はいないです。
小悪党みたいなアプローチが多くて。



さて、いよいよオテロ役のアモノフ。
まずは、この大変なオテロという役を、リハーサルも立ち会っただけで、おそらくきちんとオケと一緒に歌う機会は一度もなかっただろうと思われる中で、
ひやひやしないで聴かせてくれただけでも感謝しないといけないと思います。
"Esultate"を乗り切った時は、客席から思わず安堵の吐息が聴こえたように感じたほどです。
結構背丈があってがっちりした幅をした体型のせいでしょうか?思いの外、写真で予想していたほどにはうだつのあがらない感じはなかったです。
また声もYouTubeで聴いて予想していたよりは、暗めの声で、
先ほど書いたようにセットの配置のせいで聴こえにくくなってしまった部分があったのは気の毒で、
こちらのトーシロ(ってトーシロのお前が言うな!ですが)・ブログで、彼には声量がない、と一刀両断していた人がいますが、
実際にはそう声量のない人ではないと思います。
とりあえず、『トロヴァトーレ』のヒューズ・ジョーンズのマンリーコ役のような、
”なんであんたがそんな役歌ってるわけ?”と詰め寄りたくなるようなレベルのものではありません。
また、既に実際の舞台で結構な回数歌っているせいか、代役としては演技も歌唱も落ち着いていました。
(ただし、5年前の公演で、オテロがデズデーモナを殺害する場面で、
ボータがフレミングを羽交い絞めにして、オケが演奏するタイミングに合わせて三度ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、と首を絞めていた演技に比べると、
アモノフは体ごとフレミングにのしかかったまま、ずっと静止状態で、
扼殺というよりは、オテロの腹の脂肪で口をふさがれての窒息死か、もしくは彼の体重による圧死という感じがしてしまったのと、
そのせいで、フレミングの体の動きが制約されて、かろうじて、客席側に見えている腕だけで
気が遠くなった瞬間を表現しなければならなかったのが大変そうだな、、とは思いました。)
インターミッション前のカーテン・コールでフレミングをはじめとする共演者が本当にほっとしたような表情を浮かべていましたが、
今回、ボータの件があったり、また、このアモノフという代役がどういう歌を歌うか、心配しながら聴いたからでしょうが、
改めて、このオテロ役は、本当に大変な役だ、、という思いを新たにしました。
なので、それなりにこの作品をきちんとオーディエンスに味わわせてくれた、という点で私は感謝してます。

しかし、もし、聴き手が、メトでオテロを歌うというなら、最高のものを聴かせてくれ!というタイプの人なら、
彼の歌唱を物足りなく感じるだろうな、とは思います。
一幕、ニ幕では高音が少し浅い音になっていて、先に名前を出した3人のテノールの確固とした音の出し方に比べると、
いかにも自信なさそう、、という感じがします。結果としてはきちんと音は出ているので思い切りの問題もあると思うのですが。
後、彼にはカリスマが不足しているので、では、この先、彼をメトでこの役に配役し続けて、客がずっと満足するか?と言われれば、
かなり苦しいといわねばなりません。
実はこの感想を書いている時点で、『オテロ』のAキャストについては、HDが予定されている10/27の一公演を残すのみとなっているんですが、
結局、初日以外、ボータは一日も歌っておらず、このアモノフがずっと代役をつとめています。
どうなっちゃうんでしょうね、HDは、、、。
ボータが元気で戻って来ていつもの歌唱を聴かせられるよう、願掛けのために、トップの写真は初日のもの(ボータ+フレミング)を貼っておきました。

そうそう、もう1人。
Aキャストのカッシオ役は映画『The Audition』でいい味を出しまくっていたマイケル・ファビアーノが務めています。
彼はメトでは2009/10年シーズンの『スティッフェリオ』に続いて二度目の準主役での登場ですが、
彼は一回一回メトへの登場を大事にしているな、、という感じは伝わって来ます。
まだ主役級の役ではないから、ということもありますが、どの公演でも出来の差が本当に少なくて、自己管理もしっかりしてそうです。
彼の泣き所は、一声でそれとわかるような個性的な声でも美声でもない点と、
この役に必要な優男風、根は善良なのだけど、酒や女に弱い、という雰囲気が不足している点で、
この点で数年前にザルツブルクで同役を歌った、彼と同じ学校の先輩にあたるコステロの歌唱に比べると説得力で劣ります。
しかし、そのコステロがリリコの役への脱皮で苦労しているのに比べて、
ファビアーノはきちんとそれらの役を歌える素地やサウンドがあることをのぞかせる歌唱で
(トップに上がった時のしっかりしたよく開いた響きなどにそれを感じます。)、焦らずこのまま精進を続けて欲しいと思います。
そして、Bキャストのカッシオは2011年のメトの日本公演でメト・カンパニー・デビューを果たしたドルゴフ。
彼はまだNYでは一度も歌ったことがなくて、カッシオが正真正銘のメト・デビューになるのでこちらも大変楽しみです。


Avgust Amonov replacing Johan Botha (Otello)
Renée Fleming (Desdemona)
Falk Struckmann (Iago)
Michael Fabiano (Cassio)
Eduardo Valdes (Roderigo)
Stephen Gaertner (Montano)
Renée Tatum (Emilia)
James Morris (Lodovico)
Luthando Qave (A herald)
Conductor: Semyon Bychkov
Production: Elijah Moshinsky
Set design: Michael Yeargan
Costume design: Peter J. Hall
Lighting desing: Duane Schuler
Choreography: Eleanor Fazan
Stage direction: David Kneuss
Dr Circ B Odd
ON

***ヴェルディ オテロ オテッロ Verdi Otello***

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11 コメント

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ご無礼の段、平にお許しを… (みやび)
2012-10-22 13:17:42
すみません、トピックとは関係ない話題をお許し下さい。(HDを楽しみにしていた「オテロ」ですが、それどころではない!のです。)

今月号の「音楽の友」」に掲載されたインタビューによれば、ドミンゴが来年、『タメルラーノ』を日本で歌うことを計画中だとか。…もっとも、この方はちょいと口が軽いところがあるというか(笑)、本決まりでない時点でおっしゃっているので、まだまだ予断を許しません。
(「あとは日にちが決まってないだけ」とか言っていた『指輪』の全曲録音もボツになったし…。)

できればミンコフスキ指揮で、とお考えのようですので、バロック・ファンからすれば、それならドミンゴではなくバロック・スペシャリストで…とお思いでしょうが、この際、他人様の事情は一切無視!でドミンゴの来日が実現するようお祈りする所存です。

…で、できればMadokakip様にも、ひとつ、企画倒れに終わらないようにと念を送っていただけますと大変心強いのですが…いや、一回、バシッと送っていただけば十分、鬼に金棒でございます。
あ、mamiさん、ご覧になっていたら一緒にお祈りいたしましょう~。
返信する
オテロなので (mami)
2012-10-22 21:14:17
Madokakipさま

お帰りなさいませ♪♪♪
きっと、METの初日の頃には、帰っていらっしゃるだろうと、夏の終わりのころから、指折り数えて楽しみにしておりました。

お帰りなさいコメント、毎年楽しみにしているオープニングのドレスのところ(ヴァレンチノのドレス、素敵でしたでしょうね!)にしようか、それとも、「愛の妙薬」HDを見てからにしようか、、、なんて迷っておりましたが、オテロのここになってしまいました。結局、ドミなのね、、、、ということで、お許しくださいませ。

みやびさま
もう、お祈りします!全身全霊をかけて、お祈りします!!
>できればミンコフスキ指揮で
では、ドミ様指揮はナシですね(笑)

もちろん、お元気に来日してくださるのなら、もう、どんな形でも、うれしいですが、やはり歌、しかもオペラ全幕なんて、狂喜乱舞でございます。
数年前に、「もう、全幕オペラの来日は、これが最後」とおっしゃった、METの『ワルキューレ』。。。。これが最後と、こちらも、涙涙で見ましたが、まあ、うれしい変化ということで!!
返信する
すみません… (みやび)
2012-10-23 13:02:32
なんか、騒々しくて申し訳ありません。ちょっと、いえ、かなり動揺いたしまして…(汗)

>では、ドミ様指揮はナシですね(笑)

あ、そう、そうですね。指揮をすることに比べれば、歌う方がずバロック・マニアの方々にとってもずっとよろしいかと(笑)

>やはり歌、しかもオペラ全幕なんて、狂喜乱舞でございます。

今年のザルツブルグの上演が念頭にあるようですので、(準備期間が短そう・経費の問題等を考えるに)コンサート形式の上演になるかもしれないな、と思います。が、「オペラ全幕」の魔力は強大です!日々、精進することにいたします。

(Madokakipさん、話題を逸らせてしまって申し訳ありませんでした。)


返信する
みやびさん (Madokakip)
2012-10-23 14:01:39
それはそれは嬉しいニュースですね!!

>なんか、騒々しくて申し訳ありません。ちょっと、いえ、かなり動揺いたしまして…(汗)

大丈夫ですよー。私もフィラ管の『レクイエム』にポプシー(箱ふぐのポプラフスカヤ)の代役でミードが登場したと聞き、
もしや明日のNYカーネギーでの引越し公演(フィラデルフィアからNYまでの短距離ですが、、、)でも同じことが起こるのではないかと大興奮し、
Kinoxさんのブログで大暴れしてしまいましたから、気持ちは本当によくわかります。

まだまだキャリアはこれから、、のミードに対してですらこうなのだから、
もう日本では全幕公演は歌わない、と仰っていたドミ様が全幕公演(しかも、今度こそは本当に日本で最後の全幕公演になるかもしれない、、)に登場されるとなれば、
もっともっと興奮されてもよいくらいです。

オケはどこになるのでしょうね?
ドミ様の最後の日本全幕公演なのですから、オケのコストをけちる、なんてことがあってはいけません!!!

>できればMadokakip様にも、ひとつ、企画倒れに終わらないようにと念を送っていただけますと大変心強いのですが…いや、一回、バシッと送っていただけば十分

もちろんでございます。
一度と言わず、濃い~のを二度、三度、、と送っておきます。
まじめに、私はこれまでメトで何度か念力によって願いを成就したことがありますので、
(HDの蝶々夫人にラセットを代役で登場させたり、また逆パターンで、グリゴーロ君のGood morning America登場中に彼の“人知れぬ涙”の最後の部分ををぶったぎって選挙のコマーシャルを入れて来た立候補者を落選させたりとか、、、)
どうぞ、このMadokakipに安心してお任せくださいませ!!
OONYが企画していたドミ様登場!のはずだった演奏会形式の公演がキャンセルされてしまったので、
その分の穴埋めをドミ様の日本公演で行うよう、願をかけときます!!!
返信する
mamiさん (Madokakip)
2012-10-23 14:03:48
コメント頂いてありがとうございます♪
すっかり長い間、お休みを頂いてしまって、こうして久しぶりにお話させて頂けるのが本当に嬉しいです!

>ヴァレンチノのドレス、素敵でしたでしょうね

そんな風に言って頂いて、、(涙)
ドレスそのものは良いものを選べた!と思っているのですが、自分がネトレプコ化してしまったのは大変な誤算でした、、、
来年は自己管理からしっかり行きたいと思います。

さて、『愛の妙薬』のHDは間もなくでしょうか?
この記事で書きました通り、私は結局、その日の公演を鑑賞しなかったのですが、劇場にいた友人によると、公演の出来はオープニング・ナイトよりも良かったようです。
ぜひ、ご覧になった後のご感想をうかがわせてください!

ドミ様の件は、みやび様にも申し上げましたが、この私にお任せを。
今日から祈祷モードに入っておきます。

>では、ドミ様指揮はナシですね(笑)

(笑)そうなのです!そのためにもドミ様は歌わなくてはなりません!!!
返信する
これはひど過ぎ (けやき)
2012-10-23 15:09:35
YouTube聞きました。
これって、どんな事情でこうなったのかは知りませんが、不調でもどの程度歌えるかは本人にしか分らないことでしょうし.....やっぱり本人の責任でしょうね。エズルターテはともかく、私の大好きなあの場面を...めちゃくちゃじゃないですか。途中で、頭を下げて歌わない方がマシ、それか劇場側が幕を降ろすとか。
こんな状態で頑張っちゃうってプロと言えるのかなぁ。
ロドヴィーコのジェイムス・モリスってあのモリスですか?
返信する
けやきさん (Madokakip)
2012-10-24 12:44:43
>私の大好きなあの場面を...

Si pel ciel marmoreo giuro 、ぼろぼろですよね、、。
とりあえず目立ったものを3箇所ピックアップしましたが、もうあちこちがこういう感じで、本人ももう破れかぶれになって歌ってる感じがしました。初日を歌ってしまったことで、回復も遅らせたんじゃないかな、、と思います。

まあ、考えてみればボータが絶対に歌わない!と頑固につっぱねていれば、メトだって無理矢理舞台に引きずり出したり(あんな体重の人を、、)、頭に銃をつきつけたりはできないんですし、逆にメト側はボータが仮にどれだけ歌いたいといっても、無理矢理幕を下ろす方法だってあったわけですから、結局のところ、両者共々今回の状況に貢献した、ということなんでしょうね。

>ロドヴィーコのジェイムス・モリスってあのモリスですか?

(笑)さすが、けやきさん、良くお気づきになりましたね。本文では全く触れず軽く流していたところを、、。
ええ、間違いなく、あのモリス御大です。
軽く流している理由は、もうお察しになっていることと思います(笑)
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Unknown (an)
2012-10-31 15:40:13
Madokakipさま、ご復帰の折には、いつも見せていただいているだけの私にまでご挨拶をくださいまして、
恐縮しております。ありがとうございました。
丁度 私の誕生日の頃でしたので、嬉しくって神様からのプレゼントのような気がいたしました。

私の今シーズンの一番の楽しみは、実はアレクセイ・ドルゴフのキャシオです。
昨年のメト来日公演での代役に続き、バイエルン来日公演でも、ホセ・ブロスに代わって「ロベルト・デヴェリュー」のロベルト役。
若々しく素直な歌唱と演技にとても好感を持ちました。サイン会での印象は 素朴な好青年そのもので、経験と年齢を重ねていったらこの人は素晴らしいテノールになる! 応援しよう!と心に決めたのでした。
今年3月には小沢塾の「蝶々夫人」でピンカートンの予定でしたが、公演そのものがキャンセルになり、本当に残念でした。
メーリのように 巨大な本場メトに押しつぶされないよう祈っております。 大丈夫、ドルゴフは。
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anさん (Madokakip)
2012-11-01 14:01:03
こんにちは!そうすると、一ヶ月前の頃のことでしょうか、お誕生日おめでとうございます

>神様からのプレゼント

えーっ!!すっごく嬉しいですけれど、大丈夫ですか、anさん?
このブログを神様からのプレゼントと感じる感性はちょっとおかしいかもしれません(笑)
やはり、ここは、Shevaさんがおっしゃる通り、“サディスティックな毒舌ブログ“に近いですから、どちらかというと、悪魔の置き土産、と言った方が良いでしょう。

>私の今シーズンの一番の楽しみは、実はアレクセイ・ドルゴフのキャシオです

はい、今シーズンのキャストを見ていて、“いよいよ来たなー!”と思いました。
日本の皆様からも評判良かったですし、早くメトに来て欲しいな、と思ってましたので!
Bキャストは私の好きなストヤノヴァにクーラのコンビ。クーラが調子よければ、Aキャストより断然こっちのBキャストの方が良い公演になると期待してます!
ドルゴフの様子も目と耳に焼き付けてまいりますので、楽しみにお待ちください!
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ありがとうございます (an)
2012-11-05 13:01:18
Madokakipさま、大丈夫です。その「悪魔の置き土産」を 数か月の間 心待ちにしておりましたの。

現地まで飛んでいきたいのですがままならず、感想がとても楽しみです。よろしくお願いいたします。
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