セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「宋家の三姉妹」

2015-12-15 22:55:53 | 映画感想
 「宋家の三姉妹」(「宋家皇朝」、1997年、香港・日)
   監督 メイベル・チャン
   脚本 アレックス・ロー
   撮影 アーサー・ウォン
   美術 レオン・ワーサン   エディ・マー
   音楽 喜多郎  ランディ・ミラー
   出演 マギー・チャン
       ヴィヴィアン・ウー
       ミシェル・ヨー
       ウィンストン・チャオ
       ン・ヒンゴッ

 「一人は富を愛し、一人は力を愛し、そして一人は国を愛した」
 冒頭に記されるテロップ。
 通常、三姉妹なら長女、次女、三女の順なのに、長女、三女、次女の順にな
ったのは、三姉妹の内、次女の視線で話が進行していくからだと思います。
 この作品、邦題、英題より原題の「宋家皇朝」が正確ですね。
 父母が築き上げた財力と娘達が嫁いだ夫達の影響力は正に一つの王朝な
のです。
  宋靄齢(長女) 富豪と結婚し、夫は国民党軍の金庫番となり財政を担う
  宋慶齢(次女) 中国建国の精神的父 孫文と結婚、孫文死後、その思想
             を受け継ぐ、只一人本土に留まり、共産党から国母待遇
             を受け、党籍が無いにも拘わらず共産党副主席、最晩年、
             党籍取得後、名誉国家主席
  宋美齢(三女) 蒋介石へ嫁ぎ、相談役・スポークスマンとして辣腕を振るい
             中華民国(台湾)の国母となる

 映画は三人の幼少期をプロローグとし、適齢期、それぞれの結婚、そして日
中戦争中の別れまでを描いています。

 中国動乱期を背景にした壮大なドラマなのですが、「さらば、わが愛/覇王別
姫」に較べるとスケール、深み、共に足りない気がします。
 突き詰めれば、配慮が作品に必要な「毒」を消し去ってるから。
 これは宋家の家族物語だから家族の絆と愛情はしっかり描けてるのですが、
立場の違う三姉妹の絆と姉妹愛ばかりで「憎」が無い。
 「愛情物語」だけど「愛憎物語」じゃない平板さ。
 共産党名誉国家主席まで上り詰めた慶齢の視点で進む為、物語上必要な
「憎」を共産党嫌いの蒋介石に全て押しつけてる。
 この2時間半の物語で、だれが悪役かと言えば軍閥でも日本軍でもなく三女
の夫、蒋介石が実質担ってる。
 その為、靄齢の夫・孔祥熙の金銭の汚さ、慶齢の夫 孫文の女癖の悪さ、こ
れらを華麗にスルーしながら蒋介石の短気、女性問題だけはスルーしない。(笑)
 「西安事件」も蒋介石の窮地を救った美齢の武勇談に重きを置いてます。(半
分以上、事実だとしても)

 実は観ながら南京事件をどう描くのか恐々としてたのですが、見事にスルー、
かなりズッコケました。
 帰って調べたら、この作品、香港と日本の合作だった。
 南京市街戦で兵士・多くの民間人の殺戮があったのは事実だと思います、そ
れを宣伝戦で虐殺・大虐殺としたのは蒋介石夫人の宋美齢で、それが今に至
る「南京大虐殺」の重要な証拠の一つなのだけど、スポンサーへの配慮で華麗
にスルー。
 この作品、日本軍の侵攻の描写が極めて少なく、殆ど背景画と言ってもいい
くらい。
 やがて併合される中国への配慮、スポンサーの日本への配慮、それらが蒋介
石一人を悪者にする結果になったんじゃないでしょうか。
 (「南京虐殺」について僕は否定しませんが、故・山本夏彦氏の見解が当たら
ずとも遠からずじゃないかと思っています~日本以外、聞く耳持たないけど)

 確かに三姉妹の関係、家族愛、絆は描けてるけど、それ以外は踏み込み不足。
 これは原題とおり宋家の史記で、その視点で観る作品なのでしょう。
 映画館を出た時は「いい作品を観た」気になりましたが、段々、醒めていく。
 そんな作品でした。

※史記のスタイルでいけば、次女・宋慶齢が「本紀」で、それ以外は「世家」、「列
 伝」となります、本作の美齢は「列伝」と言える存在ですが、靄齢は列伝には遠
 い存在、縁の下の力持ちなんだろうけど、やはり夫が汚なすぎたのかな。
 (国民党の金を横領、私腹を肥やし形勢不利と見るや夫婦で国外へトンズラ)
 「本紀」は美辞麗句(でないと書いた人間の首が文字通り飛びます)、本紀で書
 けないマズイ事は世家や列伝に忍ばせると読んだ事があります。
 列伝とは、それぞれの時代の有能、特異な人物の伝記、世家は或る家系の伝
 記、本作のタイトルが「宋家皇朝」でなければ、これは本来「世家」に位置する物
 語。
※実在の写真見ると、かなり皆、似せてますね。

 2015.12.13
 TOHOシネマズ日本橋

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 覇道以て覇道を制し四千年 時は経るとも人は変わらじ

 中国が舞台なので漢詩風にしてみました(座興です、漢詩なんて出来ないモン)

 覇道以ッテ覇道ヲ制スコト四千年
 時悠久ナレド人亦変ワルコトナシ
 草川朱ニ染マリシモ ヤガテ元ニ戻ラン
 一時ノ静寂有リテ続カズ是則チ也天道
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2 コメント

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鉦鼓亭さん、おはようございます☆ (miri)
2015-12-16 08:42:46
>音楽 喜多郎

おっ! 懐かしいお名前が!

鑑賞するつもりがないので全部読ませて頂きました☆
難しいお話で、なおかつ、色々と興業的なアレがあるのですね~。


>映画館を出た時は「いい作品を観た」気になりましたが、段々、醒めていく。
>そんな作品でした。

酷評ではないので、まぁまぁだったのですね?
そのくらいの作品が一番多いかもしれませんね~?


.
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2015-12-16 23:13:03
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

喜多郎>そうなんですよ、吃驚したんだけど、「はて、どんな音楽だったっけ、「蘇州夜曲」が流れたのは気付いたけど・・・」(汗)
昔、「シルクロード」のCD買いました。
あと、衣装はワダエミさんです。

この作品、総合評価すれば「午前10時の映画祭」に選ばれて不思議の無い、良い作品だと思います。
只、良い所、悪い所の混在する作品で、ちょっと意図的な感じもしました。

僕の感想は、良い部類だけどそれ程でもない、といった所です。

短歌、ちょっと漢詩風にしてみました。(大汗)

※ちょっと調べてみたのですが、映画では影の薄かった長女の宋靄齢。
「能ある鷹は爪隠す」ってやつで、非常に怜悧で先見の明がある人物らしいです。
離れていった慶齢は別として、宋家を頭脳、財力、影響力を駆使して舵取りしてたのは彼女だそうです。
美齢を蒋介石とくっ付けたのも彼女だとか。
渡米後、ニクソン(ジョンソンだったかも)のスポンサー、華僑票の纏め役になり夫の事業を有利にしたらしいです。
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