9月号の特集取材で福岡県の航空自衛隊築城基地に出かけた際、
正門を入って左側にあるグラウンドの隅に建てられたF-15Jの
垂直尾翼のモニュメントを見かけました。
この垂直尾翼、2008年9月11日に山口県沖で墜落したF-15J(72-8883)のもので、
墜落した現場の海上に浮いていたものを回収、事故調査の後に事故の教訓と
パイロットの生還を感謝する意味で飾られたものです。
事故は高度1万メートルを飛行中にエンジン温度が
制限値の1,000度を超えたと計器が警告、エンジンを再始動しても温度は下がらず、
エンジン出力を絞って飛行したものの墜落にいたったもので、
パイロットは軽傷を負いましたがイジェクトして無事でした。
取材中、事故の当該機を操縦していたパイロットとも会うことができましたが、
当時まだ経験も少なかったこのパイロットも、
現在は第304飛行隊の屋台骨を支える中堅。
当時を振り返り「事故のことは2ちゃんなどでかなり叩かれました。
『機体のこと何も知らないんだろ』とか『よく基地に帰ってこれたもんだ』とか。
マジで凹みましたよ…」と話してくれましたが、
事故調査委員会の「発電機の故障か発電機と計器をつなぐ線のショートで供給電圧が下がり
計器類が正常に作動しなかったと考えられるが、その原因は特定できなかった」
との最終調査結果を見ても、コックピットでパイロットができる対処は
ほとんどなかったことが理解できます。
そんな状況でも、異常の予兆が出てからのこのパイロットの対応は
教科書どおりともいえる的確なもので、部内では
非常に高い評価を受けていると聞いたことがあります。
もちろんとても高価な機体を失うことは損失ですが、
若くして訓練どおりの冷静な対応をでき生還したことは、
いたましい航空事故が発生することもあるなかで、評価すべきことだと思います
(現場復帰も迅速だったそうです)。
航空機に限らず、ほとんどの事故はなんらかのミスが
不幸にも重なって起きるのは間違いのないこと。
航空機事故の場合そのミスがパイロットのエラーであるとは限りませんが、
実際の事故を見ていくと、意外と“ベテラン”と呼ばれるような人たちが
引き起こしていることも少なくありません。
人間誰しも「慣れ」から注意や確認がおろそかになってしまったりするわけで、
実際事故が発生してからの対応にしても、やはり基本に忠実に対処することが、
被害を最小限に食い止めることなのだということでしょう。
私たちも身近なところで事故やトラブルを起こさないよう、
「慣れ」には注意しないといけませんね。
余談ですが、このパイロットが「マジで凹みましたよ…」
と語ってくれたことを第304飛行隊のある後輩パイロットに話すと
「いや、あの人はそんなんで凹むようなキャラじゃないですよ!」とニヤリ。
そしてこう続けました。「それがファイターパイロットです!」