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育児の向き不向きに性差はあるのか? 【脳科学者・澤口俊之氏インタビュー】

2016年11月26日 | 新聞や雑誌の記事
たとえば、子どもを産むこと。母乳をあげること。子育てには、身体機能の面で女性にしかできないことがある。
だが、思考や感情についてはどうか。
子どもを守り育てようとする本能は「母性」と呼ばれるが、それは男には備わっていないのだろうか?

身体ではなく「脳」の違いを見たときに、子育ての向き・不向きに性差はあるのか?
男性は、どこまでイクメンになれるのか?
脳科学者の澤口俊之さんに聞いた。

父親と母親では、身体が違う。でも脳は…?

育児の向き不向きに性差はあるのか? 【脳科学者・澤口俊之氏インタビュー】
(画像:ホウドウキョク)拡大写真
――そもそもの話、男女の脳に、行動や性格に影響するような違いはあるんでしょうか?

「もちろん、ありますよ。ただ、こういう話って極論になりがちなんですが、前提として個人差があるということをわかっておく必要があります。生物学の基本として個体差は大前提。それがなければ進化だって起こりません。脳科学者や生理学者は、個体差を認めたうえで、なにが性差なのか? と考えます。様々なデータを扱うときには平均値を取りますから、今回はあくまで男女それぞれの平均の話、という前提でお話ししますね」

――すべての人に当てはまるわけではないということですね。平均すると、どんな違いがあるんですか?

「たとえば、生まれてから1年間の脳の発達の仕方は男子と女子でずいぶん違いますし、発現する脳の遺伝子が1300種類以上違うというデータもあります。8歳を過ぎてからの発達のピークも女子の方が2~3年早いですから、生まれてから成人するまでのすべてに違いがあるといえるでしょう」

――その違いは、個々の経験や育った環境によるものではないんでしょうか。男性と女性では、脳のつくりが違うんですか?

「脳の構造にも違いはありますが、脳はネットワークをつくって動いていますから構造だけでは違いを説明できません。もちろん、そういった違いは環境や関係によっても変わるものの、統計的に処理するとテストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンが影響する男女差が残ります。ジェンダーについては思想が入ってくるので難しいんですが、膨大なデータを淡々と解析すると、生理学的には男と女では80%以上違うだろうという研究もあります」

――行動や性格に影響するような違いが80%もあるんですか?

「そうです。性ホルモンは脳のなかで別の生理的なホルモンに変わります。そういうことを総合すると、男女の脳には大きな違いがある、ということですね」


男女の脳の違いは、狩猟採集時代の名残り?

育児の向き不向きに性差はあるのか? 【脳科学者・澤口俊之氏インタビュー】
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――具体的には、どんな行動が変わるんでしょうか。

「もっとも顕著に表れるのは交友行動ですね。いろんなレベルの男女差がありますが、どの研究でも男性に強く見られるのが『攻撃性』です。男性ホルモンであるテストステロンは、攻撃性を高める一方で、公平性を高めたり、リスクテイクを強めたりする傾向があります。世の中には攻撃的な女性だってたくさんいますが、平均すると男性の方がリスキーで冒険好きで、攻撃性が高いといえます」

――あまり子育てには向かなそうな性質ですね…。

「そうですね。さらに、我々は、こうした脳の行動レベルの違いがどうして表れたのかと考えます。性ホルモンというのは、至近的な要因です。たとえば男性の更年期などが問題になるのは、今この瞬間に男性ホルモンが低いため、元気がなかったり抑うつ症状が出てきたりするんです。もう少し長いスパンで見た中間要因というのは、たとえば胎児期にどれくらい性ホルモンを浴びたのか、幼児期にどう育てられたのか、どんな環境だったのか」

――生まれてからの後天的な要因ですね。それが「中間」なんですか?

「その先に、そもそも男女の差が出てくるのはどうしてなのかという、『究極要因』があります。これは、『進化的要因』と言い換えた方がいいかもしれませんね。進化の過程で、なぜこういう性質を得たのか。この仮説として有力なのが、『狩猟採集仮説』です」

――原始時代までさかのぼるわけですか。

「まあ当たり前の話なので今さら強調するまでもないんですが、男性はおもに遠くへ出かけて狩猟をし、女性はおもに自分が住んでいる場所のそばで果物などを採集していました。仕事面での役割分担があったわけです。これは非常に単純化しているので、とくに育児などについては異論もありますが、脳機能を見ると違いは明らかです。たとえば男性は女性と比べて動体視力が高いし、ダーツを的に当てる能力も子どもの頃から高い。男が素早く動くものを見分けるのが得意な一方、女性は色の識別能力が高いです。女性が見分けられる色って、男性の2倍くらいあるんですよ」

――男性は狩猟に必要な能力、女性は採集生活に必要な能力が高いんですね。

「そうです。よく女性はマルチタスクが得意だと言われますが、並行作業というのは採集や育児に欠かせない能力です。一方、狩猟というのは目的遂行型の作業ですよね。このような特徴は後天的な訓練によるものだと言う方もいますが、女性の方がマルチタスク能力が高いというデータがある以上、それがどうしてなのかと問うのが進化的な脳科学であって、狩猟採集仮説はそれをうまく説明しています。また、育児については、『グランドマザー仮説』もあります。女性がなぜ男性より長生きするのかというと、その方が子孫を残しやすかったから。育児の大部分は学習行動で、本能行動ではありません。今なら情報がたくさんありますが、文字がない時代には、子どもの育て方は一度育てたおばあちゃんに教わるしかなかったんです」

――男性は育児をしなかったんですか?

「男と女では繁殖戦略が違うんです。世界の民族研究を総合すると、自分の子孫を残す男性は2人に1人くらいしかいません。ヒトの原型に近いと考えられるアフリカの原住民の研究では、生涯に残す子どもの数は女性が6人程度、男性が10人程度。今の先進国でも、妻が自分以外の子どもを育てている割合が1割程度はあるそうです」

――つまり、女性は自分の子どもを育てるけれど、男性は必ずしも自分の子どもを育てるとは限らない?

「寂しいんですけれど、男性は自分の子どもであるという確信が持てないんです。文化的な背景によっても変わりますが、もともと重婚や一夫多妻制が許されている地域が多いのは、そういった理由でしょう。不倫というのも、男性がもともと持っている性質だった…というと極論ですが、遺伝子や生理学のデータを淡々と分析すると、こんな仮説が成立します」

男は育児ができないのか?

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――これまでのお話を踏まえると、どうやら男性は育児に向かない生き物だという気がしてきました。

「性別だけで向き、不向きを言うのであれば、不向きでしょうね。1歳未満の乳児はすべてにおいて母親頼みです。言葉を聞き分け、文法も理解していることがわかっているけれど、脳の反応を見ると母親の声には父親の声より2倍ほど強く反応しています。この時期の子どもにとって重要なのは、お母さんが語りかけたり笑いかけたりしてくれることと、おばあちゃんがコミットしてくれること。実際のところ、お父さんはあまり関係ないんです」

――関係ないんですか! それは、父親が子どもと触れ合う頻度が低いから?

「いえ、触れ合う頻度を高めても意味がないんです。1歳未満の場合は、お父さんがコミットしてプラスになっているというデータがほとんどない。ただ、だからといって男性が育児に参加するなということではありませんよ。アフリカなどの狩猟採集民族の子育てを見ると、やっぱりお父さんもコミットしているし、もっと大勢の親族やまわりの大人たちが、全員で子どもを育てています。狩猟採集民族って、そんなに忙しくないですからね。たまに子どものところに行って、かまったりはしている。そういう点を踏まえると、本来子育ては全員でしろ。少なくとも、親族でしろということになりますね。進化的に考えると」

――なるほど。ただ、昨今「イクメン」と言われているのは、親族と離れた核家族化が進み、共働きが増えているからです。社会的・経済的な理由もあって、夫も家事や育児をやらないと生活が成り立たなくなっていますよね。

「そうですね。そうした時代に男性が子育てするには、学習してスキルを磨く必要があります。男性は本来、子どもの扱い方が乱暴なんです。おむつを替えるときにばんばん頭をぶつけたり、ぐいぐいと引っ張ったり。赤ちゃんは攻撃されたと思って泣いちゃいますよね。そうやって女性が当たり前にできるようなことが男性は当たり前にできないのだから、イクメン学校のようなところへ行って方法として学んだ方がいい」

――母親には、育児の方法は自然とわかるんですか?

「ええ。女性はスキルを磨かなくても本能的に育児ができます。たとえば、女性は赤ちゃんを頭が左胸にくるように抱く。そうすると心拍の音で赤ちゃんが安心するんですね。これは女性にとっては無意識の行動ですが、男性は訓練しないとできません。男性の身体は子どもができても変化しませんが、女性は子どもを産むと脳の体積が増えたり、遺伝子の染色体の構造が変化したりと物理的にも変化するんです。母乳を与えるのは女性にしかできないし、体のにおいも赤ちゃんを安心させられるようになっています。注意しないといけないのは、お母さんが不安感を持っていると、子どもにも伝わってしまうことです。父親はおむつを替えたりして直接育児にコミットするほかにも、お母さんの不安を減らすという間接的なコミットの仕方もあります。本来は、直接的にも間接的にもできればいいんですが…」

――「子育てする奥さんを支える」というのが間接的な育児参加ですね。

「奥さんをサポートすることは、夫婦が仲良くするためにも必要ですよね。子どもの頃に夫婦喧嘩を見るとIQが下がるというデータがあるくらいで、夫婦仲が悪いだけでも子どもの脳に悪影響が出ますから。直接の役には立たないとしても、お父さんがいないのもよくありません」

――悪影響も母親を通して間接的に伝わるんですね…。男が直接育児にかかわる方法はないんですか?

「子どもと一緒に寝るといいですよ。子どもが生まれても男性の脳は変わりませんが、子どもと一緒に寝るとテストステロン(男性ホルモン)が下がるんです。そうすると温厚になりますし、子どもへの興味が湧きやすくなるかもしれません。それに、おむつを替えるというような育児行動には、男女の差はありません。狩猟採集民はおむつを使いませんし、常に自分の肌の上に子どもを抱いているという状況で育児をします。今はそういう状況では育児ができませんから、本来なかった進化的な育児行動は、男性であれ女性であれ学習する必要があります。スキルは学ぶことができて、親になったら学んだ方がいいのは明らかです」

――なるほど。文明の進歩によって新しく生まれたことなら、男女のスタートラインに差がないんですね。イクメンがどういうことに注力すればいいか、考えるヒントになりそうです。

プロフィール

育児の向き不向きに性差はあるのか? 【脳科学者・澤口俊之氏インタビュー】
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澤口俊之さん
人間性脳科学研究所所長、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授。1959年生まれ、北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。エール大学医学部研究員、京都大学霊長類研究所助手、北海道大学医学研究科教授を経て、2006年に人間性脳科学研究所を設立。専門は認知脳科学、霊長類学で、前頭連合野(前頭前野)を中心に研究。近年は、発達障害の子どもにかかわる実践的なアプローチに取り組んでいる。

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