*『リンゴが腐るまで』著者 笹子美奈子 を複数回に分け紹介します。51回目の紹介
『リンゴが腐るまで』原発30km圏からの報告-記者ノートから-
著者 笹子美奈子
----------------
**『リンゴが腐るまで』著書の紹介
第3章 復興が進まないワケ
リンゴが腐るまで
(前回からの続き)
コーヒーカップの事例はないが、水が入ったグラスが落ちた事例があれば、その事例の過去の対処法を採択することになる。それでガラスの破片は処理されるが、水の対処法では床のシミは解消されない。地元から「シミをどうにかしてくれ」と再三にわたって要望が上がってきて初めて、シミの対処について検討される。
だが、時間がたったコーヒーのシミを取り除くのは難しい。専門業者に依頼して高額な料金がかかることになる。その料金の負担をめぐって検討が始まる。国が払うのか、地元負担もあるのか。費用対効果はあるのか、財務省から突き返され、再び”ご説明”申し上げて認められて、ようやく業者に発注される。
今回の原発災害を取材していて、このようなことが多く見られた。帰還をめぐる問題も、当初は放射線の影響が最大の問題だったが、避難生活が長期化するについて、家庭環境が変化し、嫁姑問題に発展し、複雑化した。営農再開をめぐっても、放射線の問題に農業の高齢化が絡み合い、事態を複雑化させている。
連立方程式になる前に、迅速に対処するスキームが災害対応には必要だ。
リンゴが腐るまで待っていたら、この国は滅びてしまう。
あとがき
約2年間の福島県での取材を終え、久しぶりに戻った東京は、まるで外国のように感じられました。福島では東日本大震災があったあの日からほとんど時計の針が進んでいないというのに、東京ではすでに過去のことのようでした。福島にいたとき、毎日耳にした「放射線」という言葉など聞くことはありません。転勤の挨拶周りで前任地が福島だったことを告げても、関心を持って訪ねる人はごくわずかでした。
※「あとがき」は次回に続く
2016/9/15(木)22:00に投稿予定です。