くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「百年の誤読」岡野博文・豊崎由美

2013-04-06 05:17:28 | 書評・ブックガイド
 これも古い日記から。「文人悪食」と対になっている感じがします。

 ダ・ヴィンチ連載中からいちばん好きなコーナーで、毎号楽しみにしていた。二〇世紀中の「ベストセラー」と呼ばれる本を選んで、今の視点で評価していく対談。徳富蘇峰の『不如帰』から『ハリー・ポッター』まで百年百冊! (その後、二〇〇〇年以降の十冊も附録として紹介されているので、収録は一一〇冊)
 本誌にあった「いま読んでも鑑賞に堪え得る度」ランキングがなくなっているのが残念~。私は春樹・ばなな系統が苦手なので、その辺の作品が出てくると「ふーん……」としか思わないのだが、あとは大体妥当だった。あ、でも『恩讐の彼方に』は好きなんだけどなぁ。
 脚注もおもしろくて、そこでやっと三島の本名を発見。平岡公威(きみたけ)。なるほど。華族さんだっけか。でも、嵐山光三郎の本名にはびっくりした。祐乗坊英昭 だって。本名の方がペンネームみたいじゃないか!
 思わず膝を打ったのは『だからあなたも生きぬいて』。「巧妙に書かれずにいることがいくつかある」として、代表的な二点をあげている。
 � A子に声を掛けられたのに返事をしなかったことがいじめられる きっかけだったというが、なぜ返事をしなかったのか。また、そのときのA子の心象はどうだったのか。(あとから取材すれば判ることだろう、とのこと)
 � 司法試験の勉強をしているときの生活費はどこから出ていたのか。(これもわざと伏せているのでは? との推測)
このことから、「人生のつまずきのいちばんの理由から目が逸らされている。根本が全く解決していない」と語る。
 私はこれを読んだとき、どうして極道の世界に堕ちていったのか、その中でどういうエピソードがあったのか、そういう部分が全く書かれずにさらりと次に行ってしまうので、ちょっと待ってよー、私が読みたいのはあなたの人生のその部分なのにー、と思ったものだ。正直、司法試験に受かるところよりも、そのへんに筆を費やしてほしかった。変か?
 それから、『積木くずし』。
   岡野 きつい言い方かもしれないけど、これは「虐待」本だと思うよ。
   豊崎 この本を出すこと自体が虐待ですよね。
   岡野 こんなふうに自分のことをあからさまに書いた本が出たとして、学校に行ける?
 というやりとりは肯かされる。私はこの本読んでないけど。
 でも、娘の由香里さんが死んだときのワイドショーにゲスト出演する穂積の厚顔無恥ぶりにボー然とした。ふつう出ないだろう! さらにその死をネタにして新しく本出してるし。信じがたい。
 さて、特に今回おもしろかったのは、最近のベストセラーについて語っている「附録」の部分。紹介されているのは『バカの壁』『世界がもし一〇〇人の村だったら』『盲導犬クイールの一生』など。
 中でも大ウケしたのは、『Deep Love  第一部 アユの物語』に関する豊崎さんのあらすじ紹介。「グレた女子高生が援助交際の果てにエイズになって死ぬ。その過程で、犬、ばあさん、少年、オヤジなどに会う、それっきりの話。筋とおってない、理屈とおってない、意味わからない」。 
 ぶははははは! 本文を引用している部分も笑えるし、ケータイの小さい画面に表現されていたから、主人公アユの視野が狭くなっているのではないかという指摘も可笑しかった。
 作者・Yoshiのインタビューを読んだことがあるけれど、ストーリーが全部できあがる前に読者からのメールがどんどん入ってきて、それにかなり影響を受けたらしい。辻褄が会わない部分があっても、読んでいるときのおもしろさを優先させたというようなことを云っていた。それはちょっと小説を書く上で許されること? と思ってたら、「小説」ではなくて「物語」を書いているつもりなんだってさ。なんかなー。こういうナルシスティックな人は、苦手だ。『Deep Love』、本屋に平積みしてあっても、胡散臭くて手に取らなかったが、やっぱりそうだったか。
 そして、噂の『世界の中心で愛をさけぶ』。
 「主人公の朔太郎っての、究極のバカ。だって最後の最後まで、世界の中心で愛をさけびたいくらい好きな恋人、アキちゃんの名前を漢字でどう書くか知らないんだよ」
 ……笑った。読んだことないし読む気もないけど、生徒の書いてきた読書感想文であらすじは聞いている。そんなんだから二人で修学旅行のやり直しをしよう! としたこともばれるんだよ。
 それにしても、出版当時同僚のうち二人までが「好きな本」として名前をあげた『チーズはどこへ消えた?』。文字通り、消えちゃったんですかね。ベストセラーの寿命、短し。


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