くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

2011年ベスト

2011-12-31 06:43:50 | 〈企画〉
今年も残すところわずかです。いろんなことがあって、なにかと気忙しい一年でした。例年よりも年間読破数は少ないように思います。とりあえず、今年もベスト本を並べてみましょう。
1「ゴーストハント」小野不由美(いなだ詩穂)
2「銀盤が溶けるほど」久保寺健彦
3「しらべる力を育てる授業!」赤木かん子&塩谷京子
4「あなたの恋人強奪します」永嶋恵美
5「先生と僕」春日ゆら
6「4ページミステリー」蒼井上鷹
7「聖夜」佐藤多佳子
8「鉄のしぶきがはねる」まはら三桃
9「突然僕は殺人犯にされた」スマイリーキクチ
10「柿のへた」梶よう子
特「くるねこ」くるねこ大和
今年一月、図書室に入れようと「ゴーストハント」を購入。二冊めまで買ったあとに地震があり、図書室は立入禁止、わたしは転勤、その後入荷予定なしで、なんだか非常に切ない。で、結局自分で買いました。まんがもリライト前の文庫も、もう販売されていない続編も、とにかく今年は読みふけりました。筋はほとんどわかっているのに、読まずにはいられない。小野さんの本も結構再読したと思います。とにかく今年の一位はこれをおいてない。
それから、去年の暮れに入手していたのに、結局年明けに読んだ「聖夜」。やっぱりクリスマスに読めばよかったと思ったものですが、なんと課題図書に選ばれて嬉しかったんです。が、わたしの周囲の先生方には不評で悲しかった……。ある人は、「主人公がマザコンとしか思えず、挫折」といっていて、あれをそう読み取るのはどうなのかと苦悩しました。
今回は入れなかったんですが、有川浩「県庁おもてなし課」を読んだあとに、宮城にパンダがくるかもとのニュースが流れて色めき立ちました。でも、意外と反対意見が多くて、驚き。神戸のときはどうだったんでしょう。ディベートのネタにしようと思って探したんだけど、結構苦戦しました……。
今年知って本を探し求めた作家といえば、永嶋恵美、蒼井上鷹、梶よう子。
トリッキーなものもスタンダードも、わたしは好きです。一冊しか出てないけど「アナザー修学旅行」の有沢佳映さんももっと読んでみたい。
図書室活用の調べ学習についても、もっと提示していかなければならないと感じます。赤木さんの様々なアプローチは参考になりました。塩谷先生の土台作りとかサポートも効いている。わたしは、レファレンスに興味があるので、そういうことをやらせてみたい気がします。まずは蔵書を増やさなくては……。(レファレンスをとりあげた「夜明けの図書館」もいいまんがです)
久保寺さんの短編はバラエティーにとんでいておもしろい。「銀盤」の菜摘が、亡くなったお父さんを思う場面に、涙しました。
漱石の周辺のことに関心をもってしまうまんが、「先生と僕」も早く三巻が出ないかと心待ちにしております。「次の一冊」につながる本、好きなんです。
今年もお世話になりました。2012年も、時間の許す限り読みたいと思っておりますので、よろしくお願いします。

「一朝の夢」梶よう子

2011-12-30 19:24:49 | 時代小説
清々しい物語でした。桜田門外の変を縦糸に、朝顔作りを横糸に紡がれた、梶よう子「一朝の夢」(文藝春秋)。
同心の三男坊で、将来は学者にでもなるほかはないと思っていた中根興三郎。突然の兄の死により、家督を相続することになります。背は高いのに、どこかぼんやりしている彼は、閑役といわれる両組御姓名掛りをもう五年も勤めています。
同役の村上は、かつて北町の虎と呼ばれたほどの使い手。息子にあとを譲るので、あと半年で引退するつもりといいます。
ところが村上は、ある早朝、息子と同輩を切り殺して出奔。信じられない思いを味わった興三郎は、真実に少しずつ近づいていくのですが……。
多少頼りない興三郎ですが、朝顔にかけては誰にもひけをとりません。変化朝顔の系統を記録し、いつの日か黄色い花を咲かせてみたいと考えています。そんな彼は、競争を嫌って品評会などには出品しません。
ところが、幼なじみの里恵が借金に苦しんでいることを知り、一鉢を店に置くようにと手渡します。今年の朝顔合わせで、「天」に輝いた職人の朝顔とひけをとらない逸品。里恵は借金を払い終わりますが、家主にすまいを追い出されます。
里恵と息子の小太郎を屋敷に引き取った興三郎は、二人との暮らしに温かいものを感じます。下男の藤吉は里恵を嫁にするようにせっつきますが、無骨な興三郎はなかなか踏み出せません。
小太郎は朝顔作りに関心を示し、興三郎とともに働くようになります。そして、大輪朝顔の交配についても知恵を出してくれる。
「その人の一生に一度だけの朝顔からのご褒美」であるという黄花。果たして二人は咲かせることができるのでしょうか。
朝顔は槿花であるという言葉がありました。朝咲いて間もなく散ってしまう。一年限り。変化朝顔は子孫すらも残さないものがあるそうです。江戸時代には朝顔作りに精魂を傾ける人が多かったと聞いたことがありますが、なんと、あの大人物まで。そして、わずかな共まわりで中根家を訪ねてくるのですよ。この側近松江金之助がいい。まだ若いのに剣の腕が立つことが描写でわかります。
松江に限らず、血の通った人物が多いですね。時代小説の王道からいくと、主人公は村上伝次郎さんか浪人の三好貫一郎あたりが書きやすいように思いますが、興三郎という視点があることで、政治に翻弄されるだけではない何かが描かれるように思いました。
なかでもわたしが感銘を受けたのは、実際には登場しない兄、政太郎です。学者の道を示し、居合を教えるその先見の明。すばらしい。
「私は背丈がある分、腕も足も長いので、間合いが相手よりも一歩余分にあります。ですから半歩下がっても、刀を伸ばせば十分に届くと教えられました。そのかわりただ一撃で決めろ、と。それを逃せば勝機はないものと覚えておくよういわれました。ですから、これだけを稽古しました」
中盤の里恵の悲劇と、最初はいい人だと思っていた鈴やの驕慢さが印象的でした。
次の夏には朝顔に注目しようと思います。

「転迷」今野敏

2011-12-29 05:41:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
「隠蔽捜査4」です。「転迷」(新潮社)。3と3・5がわたしには納得いかなかったので、ちょっと心配だったのですが、おもしろかった。
今回とくに竜崎さんの淡々としたはんこ押しが冴えていました。野間崎さんも矢島も内山も、どんどんシンパになっていくような気がしました。土門はまだかな。でも、どうしてあれほど頑なに強行犯係を本部に入れたがったのかわかりませんでした。ただの意地? もう一歩何かあるかと思ったんですが。
矢島が「あんた、いったい、何者だ?」と言い出したときには「出たよ!」と思いましたが。今回はさらにいろいろとお約束ネタが多かったようにも思います。
なにかにつけて正論を押し出す竜崎に困惑しながらも、本当にくだらない時間つぶしをやめてまっとうなシステムになるといいのにという周囲の面々。理路整然と自説を展開する竜崎に「柳沢教授みたい……」と思ってしまいました。
今回は、娘の彼がカザフスタンの飛行機事故に巻き込まれたのではないかという発端なんですが、娘はこのことから二人の関係を見直すために現地に行きたいと言い出し、妻からは娘が結婚したら寂しいだろうとからかわれ、そんなことはないといいながらも、実はそうなのかなと思わせる手腕に感心しました。
ちなみにこのことで外務省に問い合わせをしたことから、内山とのパイプラインが生まれ、伊丹から話を聞き出すようにせっつかれることになります。
コロンビアの麻薬カルテルにつながる殺人事件。麻薬取締官の矢島と知り合ったことがさらに事件と深くつながっていくことから、なんだか気づくと二つの捜査本部の総括をやらされている竜崎なのでした。
同時期に、放火事件が連発し。強行犯係の半数を貸し出してしまったために人数が不足。補うためにやってきたのは、指折りの精鋭部隊・本庁の特命班です。ところが、彼らには捜査員の戸高の行動が納得できないようで……。
あのひねくれ者の戸高が、なんだかいいポジションなんですー。火事は思い出を、人生の過去を奪い去る。彼にそんな過去があったとは。
最後には特命班と意気投合しちゃいます。
この本を読んでいるとき、調子悪くてふらふらでした。食欲がなくて、夕食もパス。元気はあるんですが、立っていられない。だから、ずっと寝転んで読んでました。
ラスト5章くらいで、子供が寝るというので電気を消したため、続きが気になって……。
東大目指して勉強に励む息子も、久しぶりに登場しましたね。登場人物たちもなじみの顔が多くて、楽しめました。まあ、どんな顔立ちなのかはわからないんですが……。

「一匹羊」山本幸久

2011-12-28 19:52:25 | 文芸・エンターテイメント
これです、これこれ。この軽みのある明るさが山本幸久の持ち味だと思うのです。とてもおもしろかった。やるなぁ光文社。
「一匹羊」、短編集です。タイトルで予想がつくと思いますが、もとは一匹狼的な役割だった男性が、今では組織に抵抗しない羊になっている。この会社は衣料を作るので、羊のアドバルーンを持っているんですね。新参の人が来るときにはそれを揚げて目印にする。今回は、中学生のキャリア教育が行われます。
女子の中に一人、キクチくんという男子がいて、この子の存在感がいい。
同族経営の会社なので、そうでない人には出世は望めない。パターンナーの大神も、もう昇進はありません。
昔の自分を見るような若手の沖元。大神の作る弁当を会社のブログにアップするという小技もほほえましい。
子供に昔の遊びを教える「どきどき団」に参加する富音子と、夫とのやりとりとか、長距離恋愛の彼に会うために夜行バスに乗る女の子の「狼なんか怖くない」が好き。
でも、いちばんよかったのは、「テディベアの恩返し」かな。
就職支援の会社に勤める鮒村は、受講生に元野球選手の熊田の名を発見します。球界のテディベアとあだ名された彼は、ピッチャーとして活躍したあと引退。再就職を目指して受講するらしいのです。
実は鮒村は熊田と同じ高校の同級生で、甲子園に応援に行ったものの貧血で倒れた経緯をもっています。
彼をめぐって、社員たちがいろいろと噂話をするんですが、その会話が、もうそれぞれの性格をよく表していて上手いんですよね。
で、何が「恩返し」なのかというと。
熊田は、ちゃんと鮒村のことを覚えていて、「おれにとって、鮒村は目標だったんだ」というのです。
高校時代にプロまんが家としてデビューしていた鮒村に負けまいとして努力をしてきたことを打ち明けられた鮒村は、コンビニで当時掲載された雑誌を買って、帰るのでした。
お互いが励みになるのっていいな。ファミレスで簿記の勉強をしたり、会社の人たちの仕事のフォローをしている真面目人間の鮒村と、年俸二千万円というスター選手でありながら、今は苦境にある(でも気持ちは前向き)熊田が、いいバランスなんです。
それにしても、「踊り場で踊る」の牟田くんが就職するデザイン事務所って、やっぱり「凹組」なんでしょうかね。わたしも小布施に行ってみたーい。

「あきらめないこと、それが冒険だ」野口健

2011-12-27 18:28:53 | 芸術・芸能・スポーツ
なんと、わたし、この本の感想を書いてなかったんですね。いろいろありすぎて、忘れていたものと思われます。感想文指導で忙しかったからなー。
というわけで、これも感想文を書いてきた子から教えてもらった本です。野口健「あきらめないこと、それが冒険だ エベレストに登るのも冒険、ゴミ拾いも冒険!」(学研)。
登山家の野口健さんの自伝です。語りものなのかな。野口さん本人が文章で書いているとしたら、ものすごい文章力だ。いきいきしていて、臨場感あふれるおもしろい本です。
外交官の父、外国人の母、そして兄。野口さんは四人家族でした。
手元に現物がないので、記憶違いがあったらごめんなさい。外国で暮らす少年が、登山に引かれて世界の高峰を制覇し、やがて山に捨てられたゴミをどうにかしなくてはならないと呼びかけます。
著名な登山家のラッセルが、富士山はゴミが多いと発言したことがきっかけ。マナーの悪さに落胆しながらも、人間が汚したものは人間が綺麗にしなくてはと奮起するのです。
かつてCMで、高度の高い山ではゴミも凍りついて自然に還ることがないと野口さんが語る場面を見たことがあります。食べ残しや様々な日用品、パッケージ等々、意外に山にはゴミが残っていたよう。
活動に賛同する人が増えて、富士山も綺麗になっていきます。
なんといっても、野口さんのバイタリティがすごい。高校生のうちから、非凡な感じがしました。
もちろん、それは現在の彼の名声を知っているためもあるのでしょうけど。
野口さんが一般向けに書いた新書を新古書店で発見し、買おうかと思いましたが、ちょっと高かったので見送りました。でも、その後見当たらないんですよねー。まさに本と出会うのは運です。
関係ないんですが、一日書類点検して暖房に酔ったようです。具合悪い~。年末なのに、トホホです。

「いろあわせ」梶よう子

2011-12-26 22:02:06 | 時代小説
梶よう子はおもしろい! 「いろあわせ 擦師安次郎人情暦」(角川春樹事務所)。連作短編です。
北斎好きのわたしにとって、絵師・彫師・擦師の連携で作りあげられる浮世絵の話というだけでもストライクゾーンなんですが、この話はさらに色合いが見えるようなところがよかった。
字だけで絵を描くのは、難しいことなんですが、章題に多色刷り版画の技法を用いて、かなり鮮やかに浮かび上がらせています。
「かけあわせ」は、二色を重ね合わせて、さらに別の色を出す。版木の上で混色するんですね。
「からずり」は、白を表現するためにそれ以外の場所に色をのせるだけではなく、型押しをして浮き立たせる技法。それから、下絵にあっても彫れない雲を、擦師が一枚一枚見当をつけながら直接版木に描いてぼかす「あてなぼかし」。
「神奈川沖浪裏」にも、このぼかしは使われていますよね。版によっては区別つけられないものもあるけど。
安次郎は、この高度な技法を、工房の誰よりも見事に表現できる擦師です。武家に生まれながら火事で焼け出され、擦師の長五郎に救われる。
「八犬伝」の主要人物を娘(しかも武装した娘)にかえて売り出した「艶姿江都娘八犬伝」や、坂をテーマにした連作の擦りを任されていて、その腕なら「おまんまの喰いっぱぐれも心配ない」と言われるほど。
小間物屋の息子でありながら、安次郎の腕に惚れこんで家を飛び出した直助、長五郎の娘のおちか、小料理屋のお利久、長屋に住むおたきばあさんや浪人竹田、幼なじみの大橋新吾郎や妹の友恵といった面々が豪華キャストです。
安次郎には数年前に失った恋女房との間に息子がいて、この子と凧揚げをする場面がしみじみします。
直助の面目躍如たる「ぼかしずり」、死んだはずの長男が舞い戻る「まききら」が好きです。

「夢をかなえる。」澤穂希

2011-12-25 21:06:57 | 芸術・芸能・スポーツ
娘が胃腸炎で、休日当番医に連れて行ったんですよ。ところが、会計まで一時間半……。娘を夫が先に連れて帰って、その間に読み終わってしまった。澤穂希「夢をかなえる。 思いを実現させるための64のアプローチ」(徳間書店)。
自伝的な「ほまれ」がすごくおもしろかったので、こちらも借りてみました。ただ、ライターさんの違いかな。前作の方が断然おもしろい。
というのも、この本、自己啓発ものなんですよ。パターンとしては、ありきたりの感を拭えません。わたしが澤さんのプロフィールをもう知っているからなのかもしれませんが、正直なところ本当にこれでいいのかなーと思ってしまう。
読んでいると、なるほどと思ったり、他の人にも伝えたいと思うことがたくさんあります。例えば、「夢のレンガを積む」。毎日のたゆまぬ努力が夢の実現を作る。このまま印刷して生徒に配りたいほどです。
半月板の手術からの壮絶なリハビリを描く「泣いてもいい。だけど逃げない」と、その次の「起こったことすべてに意味がある」をつなげると、なんだか弁論文のようになります。体験から学び、それを意見として伝える。
というよりも、澤さんこれだけでもう講演はできるんじゃないかと。
おそらく、前回も今回もあるテーマのもと自分の生い立ちやサッカーのことを話しているのではないかと思うんですが、この本の中で澤穂希という人をすごく理想的な人物として描き、それをフォーマットに突っ込んでいるような妙な感じがするんです。わたしが自己啓発ものを好きじゃないから、偏見なのかもしれませんが。
澤さんは、自分を「普通」だと言います。とりたて突出する部分があるわけではない。走ることでは他の選手に敵わない。万能である必要はない。
でも、どう考えても、彼女のいうように「オール3の選手」じゃないよね(笑)
華やかなライトを浴びながらも、計画的な買い物をして自炊し、ミネラルウォーターをマイボトルに入れて持ち歩く。旅行にいくときは入念にスケジュールを組み、掃除や片付けを厭わない。恋人や友達とは喧嘩しない。リラックスタイムはお風呂。アロマを焚いたり数独をしたりするけど、汚すのが嫌だから読書はしない。東野圭吾と宮部みゆきが好き。
そんな等身大の澤さんを知るのも楽しいんですが……。わたしは結局、自己啓発ものが好きではないんですね。つくづくわかりました。
うーん、それに加えてライターさんの文章を好きになれないことも大きかったように思います。敬体の話し言葉を文章におこすのはたいへんですよね。でも、なんだか文末がワンパターンで。澤さんがこんなふうにしゃべるのだとしても、それを文として構成し直すのはまた違うようにわたしは思うのです。
夢についての本、話題の澤選手を起用、という企画は悪くないと思いますよ。でも、アプローチという語では捉えきれないようにも思うし。
そうそう、昔アメリカで結婚しようと思っていた男性のことも書いてありました。過去のことなのに、取材でよく聞かれるので驚くというあたりがおもしろいですね。
何人もの人が「澤さんみたいな選手になりたい」と言う。「どんなところが澤選手らしさだと思う?」と聞き返すと、答えは全員違う。いろんなエピソードは、とても楽しく読みました。澤穂希という人が魅力的だからでしょう。結局サッカー観戦はしていないわたしですが、男子だけのスポーツではない、と訴え続ける彼女たちに、強い意志を感じます。注目を受けるだけではなく、次は後進を。なでしこたちの今後も、見つめていたいと思います。

「龍の子太郎」松谷みよ子

2011-12-24 21:51:31 | YA・児童書
小学生の頃、この本がわたしのベストでした。松谷みよ子「龍の子太郎」(講談社)。新装版だそうですが、あとがきの年が七九年ですから、家にあったのもおそらくこれでしょう。
三十年ぶりに読み返すことになります。非常に懐かしい。そして、NHK教育の人形劇のような展開に驚きました。
当時松谷さんがご主人と主宰していた「太郎座」は、人形劇団なので、それが当たり前といえば当たり前なんですけどね。
劇と感じるのは、作中に流れる(書かれる)民謡的な歌も大きいと思います。
様々な民話が、この児童文学の中にパッチワークのように組み込まれており、三匹の岩魚を食べて龍になる母とか、蜘蛛が切り株に糸をかけていく話とか、鬼に娘がさらわれていくとか、雷さまのでんでん太鼓とか、どこか懐かしい(耳にしたことがありそうな)物語が語られていきます。
ただ、当時と自分のものの見方は変わったようで、太郎が母の住む沼を壊して、大きなたんぼにしようとする行動にちょっと戸惑いました。
池の底で隠棲していた龍に声をかけてくれた魚を始めとして、沼の生態系はどうなるのか。人々がこれまで守ってきた土地を、簡単に捨てられるのか。
太郎は「にわとり長者」の家で一年間働いて作った米を、すべて一人でかついで、行く先の村々に配ります。というのも、黒鬼を退治したときに振る舞われたご飯がおいしかったから。太郎の家は貧しく、粟や稗を山の畑に作るばかり。しかも、それをおばあさんだけにやらせて、太郎は団子を食べるだけ(笑)。
てんぐと相撲を取ることで大きな力を授けられますが、なんの根拠もなくあやを救いに行こうという無謀さ。(ただ、そういう状況でも行かずにはおられない心境はあやとしては好印象かもしれません)
人のためなのか、自分だけのためなのか。しかたのない行為ならば、許されるのか。母が三匹の岩魚を食べてしまう部分は、わたしにとって印象に残る場面だったようで、とりあえず魚を一人占めはしないことにしています。(あまり好きではないからですが)
最初は、わたしが読んだときと同じ年頃の息子に読ませようかとも思ったんですが、すすめてみたけど気が乗らないようだったのでやめました。ちなみに好きなシリーズは「ゾロリ」と「○○のひみつ」という学習まんが。うーん、わたしが今の小三だったら、どんな本を読んでいるんでしょう。

「このノートで成績は必ず上がる!」後藤武士

2011-12-21 05:07:15 | 社会科学・教育
借りたことをすっかり忘れて、車に置き去りにしていました。深く反省。とりあえず、冬休み前にこの暗記ノートの作り方だけは紹介できそうです。わたしも似たようなことはやりましたが、さらに工夫されている。
まず、ノートを一ページ、中心から折ります。片側に例えば漢字を書き、反対に答えを書く。白い紙を挟み込んで答えを書いていく。
記憶に残すには、反復練習が必要です。間違いを徹底して覚える。そのためには、どこができない(わからない)のかをチェックしなければ。赤ペンでしっかり訂正し、間違ったところを暗記します。
後藤武士「このノートで成績は必ず上がる! 受験・塾・定期テスト…実戦で勝てる!」(大和書房)。一時間半で読めます。もう、この学習方法を読むだけでも価値あり。昨夜は興奮して眠れませんでした(笑)。
ただ、受験生に薦めるには時期が遅い部分もあるので、もっと前に読みたかったな。後藤さんの本、確か買ってあるから読んでみよう。
確かに、いろいろな教科のノートが雑居しているようでは、学習成績は伸びません。わたしも、ルーズリーフは使用不可にしています。結構提出多いので、なくしやすいから。で、ノートを中心にやっているつもりなんですが、どうしてもプリントも多くなってしまう。
どんな子が伸びるか、共学と別学の特徴は何か、中高一貫の公立校に本当にメリットはあるのか。そんな教育に関する雑感もあります。
過去問を拠点にしたノートの作り方も書かれていました。こういうとき、国語の自主学習ノートって作りにくいよなーと実感します。
いちばんやりやすいのは、漢字の書き取りですね。でも、わたしは好きじゃなかったな。言葉は文脈のなかでしか覚えられない。
後藤さんの提案は、「言い回し」「日本語の骨組み」についてコレクションするノート作りです。なるほど!
中学生の語彙に最近不安を感じることが多くて……。「朗々」の意味がわからないと言われたときには目眩がしました。
問題を読むのに時間がかかるので、国語のテストは処理スピードが落ちるようです。まあ、じっくり読むのは必要なんですけど……。
でも、ある程度の早さで読めないと、厚い本なんか最初の方を忘れてしまったり、伏線がすくえなかったりしませんか。
読解力がついていない子供に読書をさせても、間違った解釈をしてしまい、継続できないだろうとこの本にも書かれています。
どんなに有効な方法でも、相手に受け入れられなければ使えません。そうするためには効果的に伝えることが大切です。
さて、暗記ノートの作り方、伝受してみました。食いつきのいい子は、すぐに応用まで考えますね。こういう具体的な学習、わたしは好きです。

「えひめ丸事故」山中利之

2011-12-20 05:43:40 | 工業・家庭
父は、航海で家にいないことが多かった。今でも、まだ仕事で家をあけているのだと思うことがある。
今年、十年という節目を迎えて、遺族の方が答えたインタビューを覚えています。記事が手元にないので、細部は違うかも知れませんが、強く印象に残っています。
えひめ丸事件。潜水艦と水産高校の実習船の衝突。九人の犠牲者を出した事故の背景になったのは、民間人が体験航海として乗っていたせいで視野の確認と注意がおろそかになったこと、その民間人が浮上スイッチを押したらしいこと、なかなか表舞台に現れようとしないワドル元艦長等、ショッキングな内容が次々に報道されたことも忘れられません。
「えひめ丸事故 怒りと悲しみの狭間で」(創風社出版)。著者は地元愛媛のテレビ報道記者山中利之氏。
事故から五年経って、それでも危機管理に対する規則がないことを告発し、その間に関係者たちがどのように苦しんだかを描きます。
家族を失い、言葉の通じないハワイで、情報がきちんと得られないまま苦しむ人。急に海に放り出され、なんとか救出されたものの、仲間を失い、生き残る自分をすら許せずにいる人。度重なるメディアの取材を嫌悪する人。
彼らの姿を知るほどに、わたしは三月の地震との共通点を感じました。二度と体験したくない。失ったものはとてつもなく大きい震災でした。
わたしの生活圏内は、被災地とは呼べないほど落ち着いてはいます。実際、三ヶ月遅れで行った修学旅行で、「被災地に募金してきた!」といっていた子もいました。
ただ、その二年前にも大きい地震を経験していて、復興作業がやっと終わるかと思った矢先のことだっただけに、ショックは強かった。
どうしようもないこの自然災害に比べ、えひめ丸事故は人為的な事故です。過失責任を負うべき人が、謝罪すらしない。アメリカと日本の考え方の違いを感じるとともに、それでも理解されない心情を思うと憤りを感じます。
メディアの行き過ぎた取材について、救出時骨にひびが入った男性が地元空港で報道陣に取り囲まれ、カメラにぶつかって症状が悪化したということが書かれています。家の周りにも同じように群がり、親戚宅に身を寄せざるを得ない。
辛い思いを抱えて帰った人が、肉体的にも精神的にも追い込まれていくのです。
この本にも、被害にあった生徒さんのお父さんや乗組員、救出されたことに後ろめたい気持ちをもつ同級生等、実名で描かれます。
しかし、名前が伏せられている人もいる。遺族の方が、認めなかったのでしょう。どうしても必要のある場合は、役職で書かれていました。
文中で奇異に感じたのは、新しい船が建設される間、職員が陸上での二重生活を強いられるくだりです。今までは、係留された三浦市で現地解散、二ヶ月の休み、また集合して航海というターンだったようですが、海に出ないのだから当然長期休暇はないし、愛媛県の職員だから何かしらの仕事をしないわけにはいかない。調理担当の男性は、家族が山形にいるそうです。事故のとき、夕食にステーキを出そうと下ごしらえをしていたとか。
眠る前には、必ずそのときのことを思い出してしまうと言っていました。苦しいときこそ家族の支えがほしいと思うのですが、公務員だと仕方ないのですかね。なんだか辛いな。