毎月分配型の投信にサヨナラしよう インデックス投資アドバイザー カン・チュンド 2012年7月8日 日経(無料記事)
カネダマモルくんは、怪訝な様子で筆者の顔をのぞき込んでいます。「カンさん。どうしたのですか? お疲れモードの様子ですね……」
カネダくん、そうなのです。今日も一件、資産運用のご相談があったのですが、そのお客様は例によってあの投資信託を買っておられたのです。
「えっ、あの投資信託って?」
毎月分配型ファンドです……。毎月分配型ファンドとは、分配金が毎月入ってくる投資信託のことです。仮にお客様のお名前を鈴木さんとしましょう。鈴木さんは3カ月ほど前、定期預金が満期になったので、A銀行に行って定期の更新をすることにしました。そのとき行員の人に、「定期預金ではお金が殖えませんよね。毎月定期的に利息が入ってくる商品があるのですが……」と言われ、毎月分配型ファンドを勧められたそうです。カネダくん、2月19日付のコラムで「分配金は決して得なものではありません」とお話ししました。覚えていますか?
「はい。もちろんです」
毎月分配型ファンドとは、供給側、消費者側が互いに「自己満足」に陥っている、悲しい金融商品なのです。ファンド運用会社は、「僕たちは毎月ちゃんと分配金をお支払いしている」と自己満足し、消費者側は「私たちは毎月お小遣いをもらっている」と自己満足しています。
「なんだかヘンですね……」
そうです、カネダくん。率直に言って、ファンドの分配金は銀行預金の利息とはまったく異なります。また、投資信託の収益率や利回りを表すものでもありません。分配金とは純粋に、ファンド資産から引き出される「お金」のことです。毎月分配型ファンドを保有されている皆さまへ。今、運用会社の情報開示の内容が変わりつつあります。分配金の概念をより明確に発信するようになっているのです。一例を挙げてみましょう……。
大和証券投資信託委託が運用する「ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン(毎月分配型)」というファンドがあります(愛称は「杏の実」)。当ファンドの運用レポート(週次レポート)を見ると、分配金に関する留意事項として、次の文章が掲載されています。
分配金は、預貯金の利息とは異なり、投資信託の純資産から支払われますので、分配金が支払われると、その金額相当分、基準価額は下がります。
(筆者注:基準価額と基準価格は同じ意味です)
分配金が出ると、その分、基準価格が下がる。この事実は重要です。分配金そのものは自分のお金をただ引き出しているにすぎないのです。わたしはコンサルティングの中で、お客様にこうお話しすることがあります。「もし毎月タマゴがもらえて、それでニワトリも必ず大きくなるファンドがあったら、わたしが先に買っていますよ!」(注:タマゴとは分配金、ニワトリとは基準価格のこと)。 カネダくん、そもそもファンド運用会社の仕事とは何でしょう?
「投資信託の価値を高めることです」
その通り……。たとえば、債券ファンドなら、債券の売買を行ったり、債券から利息を得たりして、ファンドの「収益」を高めようとします。しかし、債券の売買は利益が出ることもあれば、そうでない場合もあります。また、債券には満期があり、世の中の金利も変動するため、債券から得られる利息の大きさも変わります(それに、外国債券ファンドの場合、「為替リスク」もありますね)。つまり、債券ファンドのリターンは本来的に「不確定」なのです。それなのに、どうしていつも「確定した」分配金が入ってくるのでしょうか? リターンはあらかじめ決まっていない。でも、毎月決まった分配金がもらえる……。これは英語でいうところの、「It's too good to be true.=話がうますぎる」
毎月分配型ファンドでは、運用会社の人がファンドの価値を高める「運用」という仕事に加えて、毎月分配金を配る「作業」を行っています。カネダくん、これって未来に向けた作業と後ろ向きの作業を同時にこなすことだと思いませんか?
「はい、そう思います。なんだか効率が悪そうですね」
筆者も同感です。そして、私たち消費者は、運用会社の仕事量を増やしておいて、その分高めの運用管理費用を支払っているのです(ちょっとお人よしかも……)。
先ほどの運用レポートから再び引用してみましょう。
投資者のファンドの購入価額によっては、分配金の一部または全部が、実質的には元本の一部払い戻しに相当する場合があります。ファンド購入後の運用状況により、分配金額より基準価額の値上がりが小さかった場合も同様です
「カンさん、これって一体どういうことですか?」
はい、カネダくん。たとえば、カネダくんが基準価格9000円のときに買ったBファンドがあるとします。このBファンド、基準価格が9600円になったときに「分配金」を1000円分出しました。すると基準価格はどうなりますか?
「8600円に下がります……」
その通りです、カネダくん。この場合、もともとの個別元本(9000円)を上回る部分、つまり、600円分の分配金については「普通分配金」と呼びます(現状10%の税金がかかります)。しかし、400円部分の分配金については、もはや分配金という言い方はしません。これは「元本払戻金」という名称で呼ばれます。文字通り、元本を取り崩して支払われるためです(この元本払戻金には税金はかかりません)。ほとんどの毎月分配型ファンドでは、この「元本払戻金」が相当程度含まれているのです。カネダくん、ニワトリとタマゴを想像してみましょう。毎月タマゴをもらっていると、やがてニワトリは痩(や)せてしまいます。痩せたニワトリから生まれるタマゴは早晩どうなるのですか?
「やがて、小さくなってしまう……?」
その通りです、カネダくん。
「でも、カンさん。定期的にお金をもらいたい、というニーズは少なからずあると思うのですが……」
そうですね。その場合は、投資信託を定期的に解約すればいいのです。一例ですが、この3月からSBI証券が「投資信託定期売却サービス」を始めています。このサービスを利用すれば、毎月「定額」でファンドを購入する「逆のイメージ」で、毎月「定額」で投資信託が解約されます。毎月分配型ファンドと違って、皆さん自身が「金額」を決め、ファンドを自動的に解約できるのです。もうそろそろ、毎月分配型ファンドにさよならする時期かもしれませんね。
参考までに出典元を挙げておきます。
・ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン(毎月分配型)(愛称:杏の実)2012年6月26日「週次レポート」(http://www.daiwa-am.co.jp/funds/doc_open/fund_doc_open.php?code=3002&type=7)
ん…。そもそもこの毎月分配型ファンドというのは、元々は年金手取り額の少ないお年寄りを想定して元本を取り崩しつつ運用していくのが暗黙の前提となっていたのに、いつの間にか『分配金を元本に自動再投資』という何をしたいのかよくわからないタイプの商品が誕生したり、そもそも毎月分配型で運用する必要性に乏しい30代~50代の働き盛りの層にも、売り込んでいることに根本的に問題があるんですけどね。
銀行の場合は、
1)そもそも販売手数料を稼ぎたいから、販売手数料がかからずに信託報酬も安いノーロードファンドはあまり積極的に販売したくない。(それ以前に取り扱っていないことも多い)
2)解約一つとっても書面上の手続きが証券会社より面倒
といった理由もあり、こういったアピールしやすい投資信託を取り揃えていることも多いのだとは思いますが、睡眠時間以外の大半の時間を働いていて株式・金融相場に張り付くことが物理的に困難な大半のサラリーマンやOLにとって一番魅力的な金融商品は、商品構成がシンプルで販売手数料も安いインデックスファンドやETFのはず。
もし誰もが簡単に銀行経由で原油ETFやノーロードのインデックスファンドを購入することができれば、例えば先月28日のNY原油相場が1バレル77.69ドルと80ドルの大台を割り込んだ時点で明らかに売られ過ぎと判断&スポット買いをいれることも十分可能だった(参考までに翌29日は前日比7.27ドル高の1バレル84.96ドルと急騰)でしょうし、日経平均が8500円や8000円といった心理的節目を割り込んだところでスポット買いを入れて1割上がったら売却といった手法も取れるのに、どうも銀行全般。とりわけお殿様銀行と呼ばれる地元のリーディングバンク程、自分が売りたい金融商品だけを取り揃え、個人客が本当に欲している投資信託を取り扱っていないように感じます。
建前は長期保有前提でも実質定期的に売買してもらわないと銀行だって手数料が稼げないのだから、そのためにはまず顧客に儲けてもらうことが必要。ETFの値動きにほぼ連動するインデックスファンドを作り販売することはそれ程技術的に難しいことでもないでしょうし、もう少し機動的に売買しやすい金融商品を取り揃えて貰わないと、金融商品の勧誘を受ける顧客の側との思惑のミスマッチがますます拡大していくだけだと思いますね。
カネダマモルくんは、怪訝な様子で筆者の顔をのぞき込んでいます。「カンさん。どうしたのですか? お疲れモードの様子ですね……」
カネダくん、そうなのです。今日も一件、資産運用のご相談があったのですが、そのお客様は例によってあの投資信託を買っておられたのです。
「えっ、あの投資信託って?」
毎月分配型ファンドです……。毎月分配型ファンドとは、分配金が毎月入ってくる投資信託のことです。仮にお客様のお名前を鈴木さんとしましょう。鈴木さんは3カ月ほど前、定期預金が満期になったので、A銀行に行って定期の更新をすることにしました。そのとき行員の人に、「定期預金ではお金が殖えませんよね。毎月定期的に利息が入ってくる商品があるのですが……」と言われ、毎月分配型ファンドを勧められたそうです。カネダくん、2月19日付のコラムで「分配金は決して得なものではありません」とお話ししました。覚えていますか?
「はい。もちろんです」
毎月分配型ファンドとは、供給側、消費者側が互いに「自己満足」に陥っている、悲しい金融商品なのです。ファンド運用会社は、「僕たちは毎月ちゃんと分配金をお支払いしている」と自己満足し、消費者側は「私たちは毎月お小遣いをもらっている」と自己満足しています。
「なんだかヘンですね……」
そうです、カネダくん。率直に言って、ファンドの分配金は銀行預金の利息とはまったく異なります。また、投資信託の収益率や利回りを表すものでもありません。分配金とは純粋に、ファンド資産から引き出される「お金」のことです。毎月分配型ファンドを保有されている皆さまへ。今、運用会社の情報開示の内容が変わりつつあります。分配金の概念をより明確に発信するようになっているのです。一例を挙げてみましょう……。
大和証券投資信託委託が運用する「ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン(毎月分配型)」というファンドがあります(愛称は「杏の実」)。当ファンドの運用レポート(週次レポート)を見ると、分配金に関する留意事項として、次の文章が掲載されています。
分配金は、預貯金の利息とは異なり、投資信託の純資産から支払われますので、分配金が支払われると、その金額相当分、基準価額は下がります。
(筆者注:基準価額と基準価格は同じ意味です)
分配金が出ると、その分、基準価格が下がる。この事実は重要です。分配金そのものは自分のお金をただ引き出しているにすぎないのです。わたしはコンサルティングの中で、お客様にこうお話しすることがあります。「もし毎月タマゴがもらえて、それでニワトリも必ず大きくなるファンドがあったら、わたしが先に買っていますよ!」(注:タマゴとは分配金、ニワトリとは基準価格のこと)。 カネダくん、そもそもファンド運用会社の仕事とは何でしょう?
「投資信託の価値を高めることです」
その通り……。たとえば、債券ファンドなら、債券の売買を行ったり、債券から利息を得たりして、ファンドの「収益」を高めようとします。しかし、債券の売買は利益が出ることもあれば、そうでない場合もあります。また、債券には満期があり、世の中の金利も変動するため、債券から得られる利息の大きさも変わります(それに、外国債券ファンドの場合、「為替リスク」もありますね)。つまり、債券ファンドのリターンは本来的に「不確定」なのです。それなのに、どうしていつも「確定した」分配金が入ってくるのでしょうか? リターンはあらかじめ決まっていない。でも、毎月決まった分配金がもらえる……。これは英語でいうところの、「It's too good to be true.=話がうますぎる」
毎月分配型ファンドでは、運用会社の人がファンドの価値を高める「運用」という仕事に加えて、毎月分配金を配る「作業」を行っています。カネダくん、これって未来に向けた作業と後ろ向きの作業を同時にこなすことだと思いませんか?
「はい、そう思います。なんだか効率が悪そうですね」
筆者も同感です。そして、私たち消費者は、運用会社の仕事量を増やしておいて、その分高めの運用管理費用を支払っているのです(ちょっとお人よしかも……)。
先ほどの運用レポートから再び引用してみましょう。
投資者のファンドの購入価額によっては、分配金の一部または全部が、実質的には元本の一部払い戻しに相当する場合があります。ファンド購入後の運用状況により、分配金額より基準価額の値上がりが小さかった場合も同様です
「カンさん、これって一体どういうことですか?」
はい、カネダくん。たとえば、カネダくんが基準価格9000円のときに買ったBファンドがあるとします。このBファンド、基準価格が9600円になったときに「分配金」を1000円分出しました。すると基準価格はどうなりますか?
「8600円に下がります……」
その通りです、カネダくん。この場合、もともとの個別元本(9000円)を上回る部分、つまり、600円分の分配金については「普通分配金」と呼びます(現状10%の税金がかかります)。しかし、400円部分の分配金については、もはや分配金という言い方はしません。これは「元本払戻金」という名称で呼ばれます。文字通り、元本を取り崩して支払われるためです(この元本払戻金には税金はかかりません)。ほとんどの毎月分配型ファンドでは、この「元本払戻金」が相当程度含まれているのです。カネダくん、ニワトリとタマゴを想像してみましょう。毎月タマゴをもらっていると、やがてニワトリは痩(や)せてしまいます。痩せたニワトリから生まれるタマゴは早晩どうなるのですか?
「やがて、小さくなってしまう……?」
その通りです、カネダくん。
「でも、カンさん。定期的にお金をもらいたい、というニーズは少なからずあると思うのですが……」
そうですね。その場合は、投資信託を定期的に解約すればいいのです。一例ですが、この3月からSBI証券が「投資信託定期売却サービス」を始めています。このサービスを利用すれば、毎月「定額」でファンドを購入する「逆のイメージ」で、毎月「定額」で投資信託が解約されます。毎月分配型ファンドと違って、皆さん自身が「金額」を決め、ファンドを自動的に解約できるのです。もうそろそろ、毎月分配型ファンドにさよならする時期かもしれませんね。
参考までに出典元を挙げておきます。
・ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン(毎月分配型)(愛称:杏の実)2012年6月26日「週次レポート」(http://www.daiwa-am.co.jp/funds/doc_open/fund_doc_open.php?code=3002&type=7)
ん…。そもそもこの毎月分配型ファンドというのは、元々は年金手取り額の少ないお年寄りを想定して元本を取り崩しつつ運用していくのが暗黙の前提となっていたのに、いつの間にか『分配金を元本に自動再投資』という何をしたいのかよくわからないタイプの商品が誕生したり、そもそも毎月分配型で運用する必要性に乏しい30代~50代の働き盛りの層にも、売り込んでいることに根本的に問題があるんですけどね。
銀行の場合は、
1)そもそも販売手数料を稼ぎたいから、販売手数料がかからずに信託報酬も安いノーロードファンドはあまり積極的に販売したくない。(それ以前に取り扱っていないことも多い)
2)解約一つとっても書面上の手続きが証券会社より面倒
といった理由もあり、こういったアピールしやすい投資信託を取り揃えていることも多いのだとは思いますが、睡眠時間以外の大半の時間を働いていて株式・金融相場に張り付くことが物理的に困難な大半のサラリーマンやOLにとって一番魅力的な金融商品は、商品構成がシンプルで販売手数料も安いインデックスファンドやETFのはず。
もし誰もが簡単に銀行経由で原油ETFやノーロードのインデックスファンドを購入することができれば、例えば先月28日のNY原油相場が1バレル77.69ドルと80ドルの大台を割り込んだ時点で明らかに売られ過ぎと判断&スポット買いをいれることも十分可能だった(参考までに翌29日は前日比7.27ドル高の1バレル84.96ドルと急騰)でしょうし、日経平均が8500円や8000円といった心理的節目を割り込んだところでスポット買いを入れて1割上がったら売却といった手法も取れるのに、どうも銀行全般。とりわけお殿様銀行と呼ばれる地元のリーディングバンク程、自分が売りたい金融商品だけを取り揃え、個人客が本当に欲している投資信託を取り扱っていないように感じます。
建前は長期保有前提でも実質定期的に売買してもらわないと銀行だって手数料が稼げないのだから、そのためにはまず顧客に儲けてもらうことが必要。ETFの値動きにほぼ連動するインデックスファンドを作り販売することはそれ程技術的に難しいことでもないでしょうし、もう少し機動的に売買しやすい金融商品を取り揃えて貰わないと、金融商品の勧誘を受ける顧客の側との思惑のミスマッチがますます拡大していくだけだと思いますね。
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