直接支払い制度の行方 10月25日

日本でも2000年から始まった農業の「直接支払い制度」は、バラマキと思われても仕方がないくらい、発足当初は心もとない状態だった。WTOでは「緑の政策」として既に実績があるこの制度は、食糧自給率の向上と同時に環境保全の見地からも、21世紀の日本の農業の発展を考える上で、大いに期待される制度だった。

所謂「田舎」すなわち過疎化が進む中山間地域における農業の後継者の育成には、都市部と農村部との交流は不可欠であり、折りしも三位一体改革のもと市町村合併が進む中、中山間地域と都市部とが地産地消で結ばれることは、資源の有効利用の観点からも絶対に必要なことだった。21世紀、日本が進むべき道「小さな政府」を実現するために、直接支払い制度が真に意義ある制度に発展していくことは、多くの人々が期待する非常に重要なテーマなのだ。

私自身も、最も重要な政策として、近隣の26市町村すべての役所にヒヤリングし、直接支払い制度の進捗状況や実態を調査して歩いた。中には、堂々と、集落協定を結んだ急傾斜地の棚田を案内して下さる役場の職員の方もいらっしゃり、中山間地域であればあるほど、この制度に対する思いの程は強かった。

発足後5年間の区切りを経て、本制度は継続されることとなったが、同時に、目前に迫ったドーハ・ラウンドを控え、農水省はまったく新たな所得補償政策を始めようとしている。農業は、途上国の経済活動を考える上で最大の武器となる。WTOの農業交渉は、先進国が途上国とのたたかいを迫られる珍しい場だ。当然日本は、先を見越して国内の農業の足腰を固め鍛えておくべきだったのだが、実際には、2000年と今現在とでは殆ど進歩の跡は見られず、結果、ドーハ・ラウンドを乗り切ることを大義名分とする、大規模な農業法人のための新たな直接支払い制度が、どさくさまぎれに導入されようとしているのだ。

5年間に及ぶ直接支払い制度の成果は、残念ながら殆ど見受けられなかったが、今回登場した大規模農家への所得補償は、WTOで認められた「緑の政策」とは異質のものだ。今、大切なことは、中山間地域の農業を発展させていくために、既存の直接支払い制度を充実改善させていくことなのだ。特に中山間地域の直接支払い制度は、今や「環境税」とも切り離すことはできない。欧米諸国のように、「環境直接支払い」の導入も取り組むべき課題の一つになっている。農業の後継者の育成、また地産地消による真の循環型社会の実現を目指す上で、まず取り組むべきは「中山間地域」なのだ。

都市部に隣接する平野部の農家と、急傾斜地が多く過疎化が進む中山間地域の農家とを、同じ「直接支払い制度」でくくることは、そもそも間違っている。本来は、「環境税」を導入する前に、都市部に水や農作物を供給している中山間地域の農家を助成・発展させることに、重点を置かなければならないのだ。

平野部への新たな所得補償を否定はしないが、そのために本来の直接支払い制度の意義が見えなくなってしまったのでは本末転倒だ。過疎化の進む中山間地域の農地は、水源涵養・洪水の防止機能・大気の浄化作用など「緑のダム」としての機能を果たし、都市部の人々にとっても大きなプラスとなる。地球温暖化を食い止めるためにも、中山間地域の農地の多面的機能をフル活用することが重要だ。

食糧の自給率を高め、環境保全の観点からも有効な、真の意味で足腰の丈夫な日本の農業を構築していくために、意義ある議論が活発に展開されることを、中山間地域を大切に思う者の一人として私は心から期待する。
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