北大路機関

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【防衛情報】海上自衛隊ミサイル防衛専用艦構想とオーストラリア海軍原潜2040構想,インド空母ヴィクラント

2022-11-28 20:21:15 | 国際・政治
■週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は海軍関連の話題を10論点集めてみました。最初の話題は海上自衛隊が構想する巨大なミサイル防衛専用艦についての話題です。

 海上自衛隊はミサイル防衛専用艦を2万tクラスの大型艦とする検討を進めています。ミサイル防衛専用艦とは陸上配備型ミサイル防衛システムイージスアショア計画の中止を受け代案として提示されたものです。イージスアショアは迎撃にも通るスタンダードSM-3の切り離しブースターが周辺民有地落下の懸念を払拭できず、中止された背景があります。

 SPY-7レーダー。代案としてイージスアショアへ搭載用の陸上用SPY-7レーダーを艦船に搭載する方式が執られる事となりましたが、SPY-7そのものには艦載型の事例はあるものの、既に発注されているものは陸上配備型であり、まや型イージス艦など既存設計に搭載するには難しい可能性がありました。一方、専用艦に多用途性能を求める声もありました。

 スタンドオフミサイル、防衛省は敵基地攻撃能力の整備として導入する長射程の誘導弾を、このミサイル防衛専用艦に搭載する構想を進めると共に、長期間の弾道ミサイル警戒任務に対応させるには乗員休息へ個室等の確保が必要としており、これにより余裕を持たせる為、船体は基準排水量で2万t規模、いずも型護衛艦より大型化させる検討を始めたのです。
■オーストラリア原潜要員訓練
 ゼロから始める原子力潜水艦計画はイギリスの支援を受けて要員教育を加速させ早ければ20年後に実現するようです。

 オーストラリア海軍は将来の原潜要員訓練をイギリス海軍原潜において実施するようです。これはイギリス政府が8月31日に発表したものです。イギリスのウォレス国防相は8月31日、イングランド北部のバローインファーネスにおいて行われました最新鋭攻撃型原潜アンソンの就役式典においてオーストラリア潜水艦要員訓練受け入れを表明しました。

 オーストラリア海軍は難航を続けるコリンズ級潜水艦後継計画として、一時契約したバラクーダ級潜水艦のフランスからの導入を破棄し原子力潜水艦を導入する発表を行いました。ただ、オーストラリアは過去の核実験影響などから核技術への反発が強く国内に専門家がいません。この為、イギリスとの防衛協力枠組AUKUSに基づく防衛協力を求めたかたち。

 ウォレス国防相のアンソン就役式典にはオーストラリアからマールズ副首相兼国防相も出席していました。オーストラリア海軍は2050年までに原潜導入を計画していますが、これを可能ならば2040年に前倒ししたい方針で、設計は未だ未定ですがイギリスのアスチュート級とアメリカのヴァージニア級の設計に影響を受けた独自の潜水艦を計画するようです。
■空母ヴィクラントの就役
 アメリカ海軍のエセックス級空母SCB-27改修型くらいの大きさということでしょうか。

 インド海軍は9月2日、国産初の空母ヴィクラントの就役式典を挙行しました。ヴィクラントは航空母艦運用国として長い経験を持つインドにとっても初となる国産航空母艦で、2009年に起工式を迎え進水式は2013年に行われていましたが幾つかの問題が生じ公試まで期間が長くなるも夏に入り開始、満載排水量は40600tと全長262m、乗員は1600名だ。

 ヴィクラントと共にインド海軍にはロシアから廃棄空母アドミラルゴルシコフを再生させた空母ヴィクラマディーチャが運用されていますが、このヴィクラントの就役により2隻の空母によるローテーションが可能となりました。航空母艦は過去の印パ戦争において沿岸航空作戦を支援しましたが、近年では中国海軍のインド洋進出が脅威とされています。

 モディ首相も出席したヴィクラントの就役式典ではあたらしい海軍旗も公開されました。あたらしい海軍旗はイギリスからの独立当時から維持されていたイングランドを示す十字がヒンズー教徒の戦士を示す紋章に改められており、国産空母と共に国産装備の強化を進める象徴的な一隻となります。なおインド海軍は続いて空母ヴィシャルを建造予定です。
■フリゲイトラインラントプファルツ
 ドイツ海軍は徐々に外洋での作戦能力を整備していますがウクライナ戦争を受けての陸軍再編の予算がどのようにグローバル戦略に影響するかが関心事です。

 ドイツ海軍は新フリゲイトラインラントプファルツを就役させました。引き渡し式は7月13日にヴェルヘルムスハーフェンにおいて行われています。ラインラントプファルツはバーデンヴュルテンベルク級フリゲイトの4番艦で最終艦、本型は1番艦から全て、建造はティッセンクルップ社とリュールセン社の合弁会社ARGE F125により行われています。

 バーデンヴュルテンベルク級フリゲイトはドイツ海軍のアフリカ地域など遠隔地の戦力投射能力整備へ建造された満載排水量7316tの水上戦闘艦で、ドイツ海軍含むドイツ連邦軍は、その歴史的経緯から長らくNATO域外での軍事行動を大きく自制してきた過去があり、この為に冷戦終結後のEU共通安全保障政策に基づく活動拡大に対応できませんでした。

 大規模な水上戦闘よりは安定化作戦などを想定した設計で、127mm艦砲と機関砲にハープーンミサイル、RAM個艦防空ミサイルを搭載していますが、対潜兵装を持たず哨戒艦的な運用を想定し母港を出航し2年間は乗員のみ入れ替え母港に戻らず作戦行動が可能です。4隻体制となったことで、今後は複数の海域におけるプレゼンス発揮が可能となるでしょう。
■45型駆逐艦ミサイル防衛艦
 先日掲載の際にお教えいただいた話題です。

 イギリス国防省の海軍45型防空駆逐艦を弾道ミサイル防衛艦へ改修する計画についての補足と訂正です、これは先に掲載した防衛情報への訂正です。ミサイル迎撃にはアスター30block1NTミサイルが用いられると記載しましたが、搭載されるミサイルはアスター30 BlkIとのこと。レーダーの能力向上などについては8月時点では画定していないもよう。

 水上戦闘艦に搭載する弾道ミサイル迎撃用装備としてはイージスミサイル防衛システムが採用するスタンダードSM-3が知られていますが、これは放物線を描き飛翔する弾道ミサイルを高高度で迎撃するものであり、終末段階の弾道ミサイル迎撃に際しては航空機や巡航ミサイルに対処するスタンダードSM-6を改良して、終末段階迎撃に転用する構想です。

 アスター30 BlkIはスタンダードミサイルシリーズよりも小型であり、また側方サイドスタスタ構造を採用しており不規則軌道目標への対処応力が高いことから、改良によっては従来のミサイル防衛が想定していた弾道ミサイルのような放物線軌道を描く目標の他に極超音速滑空弾など急激に軌道を変更する目標に対しても対応能力を高める事が期待されます。
■フリゲイトテ-マナ
 こちらも先日掲載したものへのコメント欄にてお教えいただいた話題です。

 ニュージーランド海軍のフリゲイトテ-マナのカナダでの近代化改修についての補足です、これは先に掲載した防衛情報への追加情報です。戦闘情報システムの更新にレーダーの改良と個艦防空システムの刷新、対電子装置の更新とともに対艦ミサイルや魚雷に対する回避装置を追加していますが、この程この話題を紹介しましたところ詳細情報を頂きました。

 カナダにおいて改修を受けたテ-マナは、近代化奇襲においてカナダ海軍のハリファクス級フリゲイトに準じた改修を受けたといいまして、戦闘システムもハリファクス級のCMS-330 戦闘システムに換装、近代化改修を踏襲しています。またレーダーはSMART-SMk2-3Dレーダーとしたとのこと。ただ、ミサイルについては別の選択肢を。

 カナダ海軍はMk56VLSにシースパローを搭載し改修によりミサイルをESSMとしています、そしてテ-マナの艦対空ミサイルもシースパローでしたがニュージーランド海軍ではSeaCeptorへ改修に際し換装したとのこと、20発を搭載している。ミサイル用デコイにDLEシステムを採用するなど、これはイギリス海軍に歩調を合わせた改修となっているもよう。
■ビントゥニ級戦車揚陸艦
 カーフェリーの様な揚陸艦の様な上陸作戦よりは輸送能力を重視しているような。

 インドネシア海軍は国産のビントゥニ級戦車揚陸艦の9番艦カリトルクカラングを受領した。ビントゥニ級戦車揚陸艦はインドネシアの防衛力国産化政策の一環としてPT-DRU造船所において建造されたもので、観音開扉を有する伝統的な戦車揚陸艦構造の船体に地巨大な上部構造物と飛行甲板を配置したインドネシア独自の運用思想に基づき設計された。

 ビントゥニ級戦車揚陸艦は満載排水量2300t、全長117mと全幅16.4mで最高速力12ノット、また上陸用舟艇4隻を搭載可能でレオパルド2主力戦車10両かBMP-3装甲車15両と兵員361名が乗艦し12日間の航海が可能となっている。インドネシア海軍ではこの9番艦を区切りとし、今後は改良型の建造に移行し、最終的に12隻体制を目指しているようだ。
■イラン海軍の無人空母艦隊
 無人機母艦といいますと自由主義圏では機雷掃討などにあたる艦艇がその地位を占めつつありますが将来の海上戦闘ではどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 イラン海軍は7月15日、貨物船に多数の無人航空機を並べた世界初となる“無人空母艦隊”の訓練映像を発表しました。映像には無人航空機の船舶からの発信映像も含まれており、イラン国営テレビによればこれらは潜水艦と航空母艦用船舶より成り、索敵と追尾から破壊までの一連の作戦行動を可能とする強力な無人艦隊であると説明しています。

 無人空母部隊を発表した7月中旬は、アメリカのジョーバイデン大統領が中東歴訪を行う最中であり、これに対抗する目的が在ったとされています。イラン製無人航空機はアラビア半島のイエメン内戦などで使用されており、一定程度性能があるとされています。他方、イラン製装備はサエゲ戦闘機がズフィカル戦車のように未知数の部分が多いのも事実です。
■韓国海軍ゴールキーパー
 ファランクスよりもゴールキーパーの方が高性能だったのですが継続的に改良が続いたのはファランクスの方だったという。

 韓国海軍が多数を採用したゴールキーパー近接防空火器CIWSについて韓国のLIG-Nex1社はオランダ のタレス社との間で包括整備契約を結びました。韓国海軍はLIG-Nex1社へ次期CIWS開発契約を締結しており、これによりゴールキーパーCIWSとともにCIWS関連の整備契約統合を目指すものと思われます。契約は3000億ウォンという。

 ゴールキーパーCIWSはオランダが1979年に開発した対艦ミサイル迎撃用の自律型防空システムで、アメリカが開発したバルカンファランクスの20mm口径と比較し、ゴールキーパーは30mmという大口径を採用し迎撃力を高めています、しかし、普及はオランダ艦と中古輸出艦、韓国艦など限られており、長期運用の整備契約が課題となっていました。
■デンマーク水上戦闘艦計画
 これもウクライナ情勢の影響という。

 デンマーク海軍は8月21日、400億クローネ規模の海軍水上戦闘艦計画を発表しました。400億クローネとは邦貨換算7400億円規模です。水上戦闘艦計画の背景にはやはりロシア軍のウクライナ侵攻に伴う安全保障環境の変化が有り、極圏など遠隔地に離島を有するデンマークとしては北方海域などでの作戦に対応する専用の水上戦闘艦艇が必要となります。

 デンマークのブドスコウ国防相は国防相と海運業界の協力を強化する為にも水上戦闘艦は必要であるとしています。現在デンマーク海軍にフリゲイトは3隻のみ、そのアイヴァーヒュイトフェルト級も2011年に建造されたもので10年以上フリゲイトを建造していません、他方セティス級哨戒艦の老朽化が進み、その後継にフリゲイトを構想するのでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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防衛費増額抑制を考える:人件費-即応機動連隊を45個整備した場合の人員は3万8250名,本来任務に集約が条件

2022-11-28 07:01:45 | 国際・政治
■防衛費増額抑制を考える
 災害派遣など昔の様に市町村の消防と土木系公務員に余裕があれば今問題とされる防衛費の問題で少なくとも人件費の問題は抑えられるかもしれない。

 防衛費負担、この命題は様々な報道媒体やNHK日曜討論などで討議される段階となっています。ただ、自衛隊を本来業務に特化させるならば、従来の防衛費にミサイル防衛の予算を加算した程度に収められるかもしれません。例えば、災害派遣などを自治体防災能力強化し、ゲリラコマンドー対処に警察機動隊の人員や装備を強化する等方法はあるのです。

 人件費についても。機械化によるマンパワーの省力化、考えれば製造業ではあたりまえの施策なのですが、自衛隊においては置き去りとされた分野でもあるようにおもいます。特に戦闘防弾チョッキという1990年代に装備化された個人用防護装備、データ通信端末に威力とともに重量を増す対戦車装備、これらをかついで近接戦闘、徒歩機動には限界がある。

 装甲戦闘車、火力の強い装甲車と理解されたのは1980年代までであり、1990年代に冷戦後の地域紛争増大とともに欧州で戦車に置き換わり装甲戦闘車が増強されたことで、下車戦闘の直前までを機関砲により火力支援する事で攻撃陣地の数十m以内まで進出するという戦術を構築しています。これならば個人装備の重さは負担とならない。歩兵の趨勢です。

 即応機動連隊、単純な発想かもしれませんが、普通科連隊は1200名規模となっていますが、即応機動連隊とすることでおなじ連隊という呼称であっても850名規模、いや普通科連隊以上に高射小隊と火力支援中隊があり、施設作業小隊の機材も若干充実、つまり連隊戦闘団を組まずともあるていどまでは独立した作戦能力を有しており、より省力化している。

 人件費、即応機動連隊を45個整備した場合の人員規模は3万8250名です。この人数は少々心細い規模ですが、機動戦闘車900両と装輪装甲車2250両、なかなかの心強い規模と逆に考える事も出来るでしょう。勿論、ウクライナの状況を見ますと火砲か代替手段による特科火力、機動戦闘車の一部を戦車か戦車相当の装備とし、架橋などの施設器材も必要だが。

 人件費は抑えられます、こうした手法で装備を充実させることで陸上防衛力は現役要員を7万以下とすることも不可能ではない。いやいや防衛費を抑えても自治体と警察で歳出全体は膨らむではないか、こう反発があるかもしれませんが、問題は防衛費、行政サービスが拡大する中で歳出を抑えるのは物理的に難しい。ただ、防衛費の伸びについては、こうした選択肢はあるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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