北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南スーダン人道危機 UNMISS自衛隊PKO部隊派遣と内戦第三勢力出現に問われる国連姿勢

2017-02-21 21:51:50 | 国際・政治
■危惧される人道危機の放置
 南スーダン内戦は三年目を迎えました。自衛隊がPKO部隊を派遣する南スーダンは、AFPやBBC,F2等海外報道では既に南スーダン内戦という状況を報じています。

 現在、南スーダンでは国民の半分が食糧不足に陥り、既に南部一部地域で飢餓状態が発生、国連はこの数年間で初めての飢餓による人道危機を宣言しました。内戦により経済は破綻し物流が停滞していますが、特に南部のユニティ州では支援を受けられず、国連人道問題統制事務所はこの地域への食糧供給停止への政府の妨害を停止するよう要求しています。

 マシャール前副大統領とキール大統領の民族の違いから300万の国内難民と150万の隣国への難民、中部の穀倉地帯へ戦場が拡大する徴候がある為、今年に入り隣国ウガンダへの難民は45万名にも達しました。南スーダンでは南部を中心に食糧人道支援の国連協力団体職員が南スーダン軍により移動妨害事案もあり、民族間対立激化の様相を呈してきました。

 南スーダンから陸上自衛隊を含む国連PKO部隊の全面撤退を、敢えてのこの状況で英断し、全面的な経済制裁による南スーダン人道危機への介入へ、国連と我が国が求められる姿勢は変化しているのではないでしょうか。現時点で、南スーダンへの武器禁輸など幾つかの国連制裁決議案に対し、PKO部隊へ南スーダンからの圧力を危惧し我が国政府は慎重です。

 内戦は激化様相をみせています。北部アッパーナイル州などで数週間の間に2万名程度の国内難民が発生、その中政府も揺るいでおり、国軍副参謀総長トマスシリロスワカ中将がキール大統領の命令を実行する事が出来ないとして辞任、ガブリエル労相が今週スーダンへ亡命しマシャール前副大統領への忠誠を表明しました。更に第三の勢力としてタバンデン第1副大統領が第1副大統領派反政府行動を開始、キール大統領率いる政府軍へマシャール前副大統領派とタバンデン第1副大統領派が対立しています。

 前副大統領派のT-72戦車が首都に到達したものの政府軍のMi24攻撃ヘリにより撃退された状況を、自衛隊が戦闘と表現し市ヶ谷に報告したものの、政府が戦闘ではなく衝突、という表現を行った点と矛盾し、PKO協力法に基づく戦闘ではなく表現として戦闘のよう、と言い返させ問題が生じている状況は広く報じられていますが、自衛隊派遣に際し首都ジュバの治安は維持されている、との説明に終始する現状も、破綻しつつあるのではないか、と。

 南スーダン自衛隊派遣、戦車も対戦車ミサイルもヘリコプターも迫撃砲さえもない現状軽装備のPKO部隊を派遣しているのですが、単純に自衛隊だけを撤退させるならばPKO任務がそのまま破綻する可能性が高くなり、特に自衛隊宿営地が南スーダン唯一の国際空港外郭防衛線を担当している為、自衛隊だけを単純に撤退する事は、UNMISSPKO部隊13000名を見殺しにするが自衛隊の方が優先なので国連は日本を尊重して他のPKO部隊とは異なる特別扱いを要求する、という発言に他なりません。

 しかし、国連でのUNMISS終了を調整するとなれば話は違います。自衛隊派遣している故にこの人道危機国家の独裁政権への制裁決議に参加できない我が国、そろそろPKO全ての任務を終了し、全面制裁に移行するべき時期が来ているのではないかと思う。単純に、戦闘地域なので撤収、というのではなく、現大統領はPKO部隊へ戦車部隊や攻撃ヘリ部隊を周辺に展開させる示威行動を選択肢として持ち、PKOへ部隊を派遣する日本とともにインドや中国、それに韓国など各国の制裁を回避しているように構図が成り立っている。

 国連PKOは2002年の東ティモールPKO以降、国連安全保障理事会の国連憲章七諸措置に基づく決議を根拠として実施されていますので、今後状況が悪化し続けた場合、UNMISS任務が当初の南スーダン独立に伴う国家創造の支援という任務から、南スーダン内戦の鎮定による人道危機解消への強い施策、コンゴPKO任務や第二次ソマリア平和執行任務の二の枚となりかねません。国連は重装備の派遣を各国へ求めていますが、我が国は応じていない為、不測の事態に巻き込まれた場合でも国連は、重装備派遣に応じなかった日本に責任がある、としかねない構図もあります。

 勿論、現在の国連PKOが2002年以降の大きな変革の最中にあり、紛争が完全に停止した状態で投入される1992年から2002年までの国家創造型PKO任務から、国連憲章七章措置に基づく事実上の国連軍型部隊による戦争外軍事任務としての国家創造という必要ならば求められる措置も辞さないという方式へ変容していますので、将来的に防衛計画の大綱などへ、装甲戦闘車の広範な配備を来ない不測の事態へ備える施策を行うか、日本は今後PKOと世界の平和へは関与しない姿勢を採るか、輸送機を大幅に増強し輸送支援等の後方支援へ転換するかなど、選択肢は求められるでしょう。

 さて、提案として三行半を示した背景です。今回のUNMISS任務を終了し自衛隊を撤退させたうえで南スーダン政府への宥和的な姿勢を切り捨てるべき、との提案ですが、視点として、日本が本来PKO部隊を派遣しないのであれば必ず実施していたであろう対南スーダン武器禁輸措置など、人道危機を回避する手段を執れない、いわば、自衛隊をPKO協力法に縛り、重装備を派遣できない枠組にて各国が内戦状態とする地域へ派遣し、この危機の当事者でありながら解決策を自ら封じている状況から一歩引く方が、長期的な人道上の好影響に繋がるのではないか、という視点に基づくもの。

 PKO部隊を人質の様にして経済制裁から逃れるともとれる南スーダンの状況、必要ならばPKO部隊を撤退させ、勿論、このPKO部隊撤退に伴い南スーダンの内戦は首都ジュバへ戦線が拡大する非常に取り返しの取れない状況となる可能性は否定できませんが、この状況のまま推移すれば飢餓が進行します。飢餓状態を放置して更に取り返しのつかない状況に陥る前に、PKO部隊を日本も含め一旦撤収させ、各国が身軽となった上で経済制裁を行い現政権へ最大の圧力をかける示唆、これは仮に実行せずとも危機感を南スーダン政府が認識するだけでも、状況好転へ寄与するかもしれません。

 危惧される人道危機の放置、故に、UNMISS任務そのものを、南スーダン建国に伴う新国家建国支援という国連安保理決議自体が破綻しており、南スーダンという国家そのものが破綻国家状態にある事から、PKO部隊をすべて撤退させたうえで国家承認取り消しという厳しい制裁措置を含めた内戦終結を日本が中心となり取り組む、との施策に転換する時期が来ているようにも思えます。劇薬のような施策ですが現状、PKOが破綻しかかった国家を延命し人道危機を見過ごしている状況よりはまともでしょう。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする