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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【5】 スイス型防衛戦略を採用するリスク

2016-06-19 22:03:09 | 国際・政治
■スイス型防衛戦略採用のリスク
 アメリカのトランプ氏の意見を文字通り尊重し、我が国がスイス型防衛戦略を採用するリスク、という視点から防衛負担の問題を見てみましょう。

 アメリカの悪夢は日本が自国を一国だけで防衛する、スイス型の専守防衛への転換でしょう、国土を戦術ミサイルや機械化部隊で徹底要塞化し第三国に使わせないことで中立を勝ち取る事です。トランプ氏は日本に一国での自国の防衛力整備を促していますが、世界の海洋安全保障政策において海上自衛隊の護衛艦部隊と陸上哨戒機部隊の代わりとなる勢力は中々ありません。

 そして、米軍施設など我が国の米軍駐留経費を全て地対地ミサイルや機械化装備と戦術戦闘機の調達へ移行すればかなりの正面装備を調達し維持する事が可能となりますので、文字通り日本国土から一切出ないが入ってくる外的は確実に消滅させるというスイス型防衛政策へ転換する事は不可能ではない、という事です。

 シーレーン防衛をかなりの部分で断念し保護貿易政策へ転換しつつ、国土の徹底した陸上戦力及び航空防衛力へ転換した場合、これは不可能ではありません、が、この場合、中国海軍及びロシア海軍の太平洋における行動を阻止するにはアメリカ海軍が主体となり西太平洋方面へ艦隊を遊弋させる必要性が高まります。

 実際問題としまして、海上自衛隊の護衛艦部隊の勢力は膨大であり、満載排水量5000t以上の大型水上戦闘艦総数では海上自衛隊は中国海軍を依然として凌駕しています、海上自衛隊護衛艦の主力は6000t前後の汎用護衛艦であり、対艦対空対水上の能力において均衡がとれた防衛力を構成しており、大型水上戦闘艦の総数では欧州NATO諸国の海軍力全体に準じる規模を有しています。

 加えて掃海艇による対機雷戦能力はアメリカ海軍を上回る規模を有しており、海洋哨戒航空部隊はアメリカ海軍の半分強程度の規模でしかありませんがそれでも海上自衛隊航空集団の哨戒機は質と量双方で欧州NATO加盟国の海軍空軍哨戒航空部隊を凌駕する規模を有しています。

 この整備費用は膨大で、特に哨戒機は派生型を合わせ80機以上を運用しているのですが、哨戒機の調達費用は2000t級のコルベットに匹敵する費用を要します、仮に我が国がアメリカ海軍との協同を重視でき無い状況に転換する場合、哨戒機の多くの調達費用を沿岸用護衛艦へ移行する必要が生じてしまうでしょう。

 また、食料などの海洋輸送への依存度を高める事は有事の際の海上交通への重大な懸念と両立する事を意味しますので、農業生産品への更なる保護政策を強いられることとなるでしょう。逆にアメリカ海軍の負担は、大きく増大します。第一に、日本での艦艇基地を撤収しアメリカの拠点、グアム及びハワイの真珠湾へ後退した場合、どうなるのでしょうか。

 在日米軍の拠点はアメリカにとり重要です、簡単に自衛隊に移管したとして、自衛隊は例えば韓国軍の様にアメリカ軍の指揮下にあるのではありません。日本での展開には施設整備費用や借地料と周辺対策費用は元より、乗員の娯楽施設建設から運営費用と人件費まで、また電気料金もアメリカ自身が負担する必要が生じてくるわけで、この点アメリカには日本駐留以上の利点は無い。

 費用にして数千億円程度、アメリカの国防費全体から見ればアメリカが負担した場合でも大きすぎる負担とは言い切れませんが、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦数隻分に匹敵する毎年の費用です。もう一つの不確定要素は、嘉手納や三沢と横田といった施設から撤収した場合、距離の負担が大きくなる。

 アメリカの海軍海洋哨戒機P-8Aでは西太平洋地域の哨戒飛行が航続距離の面から難しくなる点で、これは中距離旅客機であるボーイング737を原型とするP-8Aの想定外の飛行を求められることとなります、新たに航続距離の大きなボーイング777やエアバスA-330等を原型とする新型哨戒機の開発を行う必要も出かねません。更に、水上戦闘艦も、我が国の施設を使用できる意味の大きさを理解すべきでしょう。

 一方で、これは相互互恵の関係があります、日本は憲法上国土を大きく超えた領域へ展開する事は難しいのですが国家である以上その必要はある、そこで互恵関係が成り立つわけでして、逆に在日米軍は日本国土の防衛を元に非常に大きな能力を持つ自衛隊との関係と自衛隊により守られた、そして政治的に安定した同盟国の国土に非常に厚遇されて駐留する事が出来る。

 逆に日本自身の防衛力を高めアメリカが安定した日本国内の基地施設使用を望むのであるならば、日米地位協定の枠外の負担、思いやりという表現のほかない、毎年護衛艦数隻分に匹敵する、同盟国としては駐留分担金以外の思いやり予算の費用を突き返して、娯楽や家族住居費用を米軍自身が負担するか家族を本国に置きその分の費用で自衛隊自身の近代化を求めてもいい程ではないか、とさえいえるのです。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (4)
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