はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part144 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第43譜

2020年01月16日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第43譜 指始図≫ 9七玉まで


    [灯心草よ、いいにおい!]

「ボートは漕げるの?」一組の編棒をアリスにわたしながら、ヒツジがたずねた。
「ええ、ちょっとは――でも、陸(おか)じゃだめよ――それに編棒でなんて」といいかけたとたん、編棒は手のなかでにわかにオールに変わっていてね。気がつくと、ふたりは小さなボートにのって、流れにそってすべるように進んでいるところだった。こうなってはもうせいいっぱい漕ぐしかない。
    (中略)
 アリスは少々むっとして、しばらくは話もとぎれてしまった。そのひまにボートはゆるやかに流れをすすみ、ときには水草のしげみをわけ(オールはこうなるとますます水にとられてしまう)、ときには木の下陰をくぐったりした。それでも両岸はあいかわらず頭をこす高さの土手がそそり立っている。
「あら、おねがい、灯心草よ、いいにおい!」アリスがふいにはしゃぎだした、「ほんとだわ、なんてきれいなの!」

     (『鏡の国のアリス』ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)



 「灯心草よ、いいにおい!」の部分は、原文では「There are some scented rushes!」である。
 「scented rushes=よい香りのする灯心草」ということだが、灯心草(とうしんそう= rush)とは、イグサのことだそうである。畳に使うあのイグサである。
 アリスはボートを岸に近づけてこの灯心草をたくさん摘んでいくのであったが、イグサの花は小さく地味なものだし、はたしてイグサが手で容易に摘めるものなのかどうか。畳に使うくらいだから茎の芯が強い気がするが。
 イギリスブリテン島の「rush」という草は、もしかすると、同じイグサ属でも、我々が知っているあのイグサとは少し違う別の草なのかもしれない。
 なお、「イグサ(イ草)」のことを、「灯心草」と呼ぶのは、昔、油で明かりを灯していた時代に、イグサをその芯に使っていたことがあるからだという。だから「燈芯草」と表すこともある。

 「5マス目」に進んだアリスは、強風に乗って現れた「白の女王さま」に会う(チェスの「女王」の動きのダイナミックさを思い出すべし)
 しばらく変な会話を交わしたあと、「白の女王さま」は編棒を十四組もあやつっているヒツジに変身して、一組の編棒をアリスにわたして、「ボートは漕げるの?」とアリスに聞く。
 その編棒がボートのオールに変わり、気がつくとアリスがそのオールをあやつって、小川をボートで漕いですすんでいる。それまで小川なんてなかったのに。

 こうして、アリスは「6マス目」に進んだ。そこにはタマゴの形をした男ハンプティ・ダンプティが高い塀の上に腰かけていたのだった。
 



<第43譜 調べ尽くそう>


≪最終一番勝負 第43譜 指始図≫

 この図を一手戻した図、「6七と図」を、我々は目下、研究調査中である。



6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 互角
  〔栗〕8九香 → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桃〕2六香 → 先手良し
  〔楓〕2五飛 → 先手良し
  〔柊〕3七桂 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉

 ここまできたら、この「6七と図」を調べ尽くしてしまいたい。
 今回の研究発表は、〔柳〕7八歩、および、〔栃〕8一飛 についてである。



[調査研究:7八歩]

7八歩基本図

 〔柳〕7八歩(図)と打つのも、有力な手である。

研究7八歩図01(7六歩図)
 A.7六歩(図)は考えられるが、しかしこれは今までの調査の手と合流し、先手良しになる道がたくさんある。
 「3三歩成」(同銀、5二角成)、「3三香」、「5四歩」、「2五飛」、「2六飛」、「2六香」、「3七桂」で、先手良しになる。(この中で最も勝ちやすいのは「3三香」だろう)
 まだ未調査(未発表)だが、「9七玉」や「9八玉」でも、先手が勝てるかもしれない。
 指してはいけないのは、「8九香」で、これは7五桂、9七玉、7八とで、後手優勢になる。

 ということで、7八歩に、後手は、7六歩以外の手を見つけないと後手の勝ち筋はない、ということになる。


研究7八歩図02(7七歩図)
 B.7七歩(図)はどうか。
 同歩なら、7五桂と打ち、以下9七玉、7七と進んで、これは完全に先手は一手パスの状況になり、後手ペースの戦いになる。(7五桂に8八玉は6六銀で後手良し)
 しかし7七歩は、この瞬間が甘い。7八歩成としても詰めろではないし、7五桂、9七玉に、7七とと寄れないので、詰めろがかけられない。
 つまり、“この瞬間”が先手の大チャンスタイムなのである。放置してそれより速く後手玉を攻略するのが正しい。
 ここは「3三歩成」、同銀、5二角成の基本の攻めで先手勝ちになる。以下5二同歩、3一飛、4二銀左、2一飛成、3七桂の要領である。
 他に、「3三香」(3一銀なら5二角成、同歩、4一飛。3三同銀、同歩成、同玉なら、3五飛、3四香、5五飛)でも、先手良しになる。

 しかしここでは、「2五香」を紹介しておこう。 これがこの場合、“最速の攻め”になるのだ。

研究7八歩図03
 2五香(図)に、もしも「7八歩、7七歩」の手交換がなかったら、7五桂と打たれ、9七玉、7七と、9八金と金を受けに使うしかなく、これは「互角」の戦いになる。
 しかしこの場合は、後手の打った7七歩がじゃまをしてその手段が指せない。なので2五香が有効になるのである。
 ここで後手(1)7八歩成なら、2六飛で、勝ちが決まる(次の図)

研究7八歩図04
 3一桂は、2三香成、同桂、2四金だし、2四桂は、同香、同歩、3五桂、2三香、同桂成、同玉、3五金で、やはり受けがなくなる。先手が「金」を持っているので2六飛と打ったところで“勝負あった”という状態になるのである。

 だから、2五香には、(2)6二金とする。 これなら、2六飛には3一玉があって、これは後手良しになる。
 では、先手どうするか(次の図)

研究7八歩図05
 (2)6二金には、「1一飛」(図)と打つのが奇抜な面白い攻め。そしてこの場合の最速の寄せになっている。
 この攻めは、「先手が金を攻めに使える」という条件があって成立する。
 7八歩成 なら、2三香成、同玉、2一飛成、3四玉、3七桂で、後手 "受けなし"。
 1一同玉 には、2三香成、2二飛、3二角成(次の図)

研究7八歩図06
 7五桂、9七玉、3二飛、同成香、2二歩、3三歩成(次の図)

研究7八歩図07
 先手勝ちが確定した。3三同銀に、5一竜で“必至”である。

研究7八歩図08
 「1一飛」に、3一玉(図)なら、2一飛成とする。 以下、同玉、2三香成、2二飛、3三桂(次の図)

研究7八歩図09
 これで先手勝ち。

研究7八歩図10
 「2五香」に対する後手最後の手段が、この(3)2四歩(図)。 先手2六飛と打たれる前に先手の香を取ってしまおうという手。
 これには、同香、2三歩、そこで―――(次の図)

研究7八歩図11
 ここでもやはり1一飛(図)がある。
 同玉なら上の同じように2三香成で先手が勝てる。
 だから後手は2四歩と香車のほうを取るが、3二角成(次の図)

研究7八歩図12
 3二角成(図)以下、後手玉“詰み”である。 3二同玉、1二飛成、2二合、2三金、4一玉、2一竜、3一銀、3二金まで。

 以上で、B.7七歩 は先手良しが証明された。


研究7八歩図13(7五桂図)
 C.7五桂 ならどうだろうか。これが後手の最有力の手になる。
 以下、9七玉、7八と(次の図)

研究7八歩図14
 7八との位置は、7七との位置に比べると(後手にとって)良くないのだが、先手は7八歩と打つのに「一手」を余分に使っているので、理論上はあまり先手得をしていない(しかも一歩損だ)
 ここで「3三歩成」、同銀、5二角成は、角を渡すと7九角があるので、先手負け。
 「3三香」も、3一銀、3七飛、4二金で、後手が良い。

 だが、ここで「2五飛」がベストの選択になる(次の図)

研究7八歩図15
 ここで先手の手番なら、2六香で先手勝ちだ。
 とりあえず後手は、7七ととして、9八金と、先手に金を使わせる。
 そこで後手は6二金(先手の2六香に対応するにはこれしかない)だが、先手は3三香(次の図)

研究7八歩図16
 この変化は、前々譜(第41譜)での〔楓〕2五飛の研究で出てきた手順である。その時と何が違うかと言えば、先手の歩の数が一歩少なくなっている。しかし違いはそこだけで、他はまったく同じである。
 だから結論としては「先手良し」と決めてよさそうだが、“一歩の違い”が形勢に影響をもたらさないことを確認する意味でも、もう少し先まで見ておきたい。
 3三同桂、同歩成、同玉、5五飛と進む(次の図)

研究7八歩図17(5五飛図)
 ここで先手の狙い筋は4五桂で、たとえばここで後手6九金 なら、4五桂、4四玉(2二玉なら3三歩、同銀、5三桂成)に、4六銀とする。以下5四銀に、7五飛(次の図)

研究7八歩図18
 7五飛(図)が決め手で、先手勝勢。

研究7八歩図19
 したがって、先手の5五飛に、後手は 9五歩 と攻めてくるのが考えられる。香車を持っているのでこの攻めが有効手になりそうだ。
 しかしこの場合、都合の良いことに、4一の角が9六にまで利いている。なので、この後手の9五歩は詰めろにはなっておらず、先手はここで2五桂と攻めていく。
 2五桂に、2二玉 なら、7五飛がある。桂を取って3四桂がねらいだ。
 対して、7五同金、同馬、7八飛(詰めろ)は、9五歩で先手勝勢。
 7五飛以下3一玉には、3三桂打がうまい手だ(次の図)

研究7八歩図20
 この図は、先手優勢の図になっている。
 後手玉は詰めろにはなっていないが、金が入れば詰めろになるし、7七飛で先手玉はまったく安全になる。
 だから、後手9六歩、同角成、9五香のような攻めが考えられるが、同飛、同金、4一桂成、2一玉、2二香、同玉、6六馬、4四歩、9五竜のように応じて先手が勝てる。

研究7八歩図21
 2五桂に、4四玉(図)の場合。
 5九飛、5四銀、4六銀、5六香、3九飛(次の図)

研究7八歩図22
 次に3四飛以下の“詰めろ”。 それを避けて5三玉が考えられるが、5五歩、6三銀、8四馬、同銀と進めば、5四金以下後手玉が詰む。
 先手勝勢。

 C.7五桂、9七玉、7八とは、2五飛で、先手良しになる。


7八歩基本図(再掲)
 “強敵”の C.7五桂を退治したので、おそらくこれで、〔柳〕7八歩 は先手良しであろうと、見通しが立った。
 「7八歩基本図」で、後手に他の手ないかを確認したい。


研究7八歩図23
 D.6二金(図)に、どうするか。

研究7八歩図24
 D.6二金(図)には、3三香とするのが明快な勝ち方になる。
 3三同桂、同歩成、同銀なら5一竜だし、3三同桂、同歩成、同玉には、3五飛、3四香、2五桂、2四玉、5五飛だ。


研究7八歩図25
 E.6六銀 にはどう対応するのがよいか。
 ここは3三香でも先手が良さそうだが、最も勝ちやすいのは2六飛ではないかと思われる(次の図)

研究7八歩図26
 ここで後手がどうするか。先手のねらいはもちろん2五香だ。
 1四桂なら3六飛として、次の3三香が猛烈に厳しいので1四桂が無駄な手になる(後で1五歩のような手も生じてくる)
 3一桂 と先受けしてどうか。先手はそれでも2五香と打って、2三香成、同桂、2四金を狙う。
 後手は6二金とするが、そこで3三歩成(次の図)

研究7八歩図27
 3三同銀なら、2三香成、同桂、5一竜。3三同桂には、2一金、同玉、2三香不成、同桂、同飛成、1一玉、3二角成で寄っている。3三同玉には3六飛である。

研究7八歩図28
 ということで、後手は桂馬で受けても意味ないということで、7五桂(図)と攻めに使うほうが可能性がある。
 以下9七玉、7七と、同歩、同銀成、9八金と進む。この変化は、先手が7八歩と打つのに一手手間をかけているので、後手の攻めが一手早いが、しかし先手は後手の「と金」を消すことができたことが主張になる。
 このままなら先手2五香があるので、後手はそれを受けて6二金。
 そこで6三歩と打つ(次の図)

研究7八歩図29
 7二金なら6一竜で次の2五香が受からない。
 よって考えられる手は、3一玉 か、7六桂
 3一玉 以下は、6二歩成、4一玉、2三飛成、7九角、8八香(次の図)

研究7八歩図30
 8八香と受けて、先手玉に詰みはない(後手の6七とが存在していたら8七桂成以下の詰みがあった形)
 6二銀右には6一竜で後手受けなしだ。先手の勝ち。

研究7八歩図31
 7六桂(図)の場合。
 この手には、3三香が決め手になる。以下、同桂に、そこで6二歩成(次の図)

研究7八歩図32
 後手玉にまだ詰みはないのだが、次に8四馬で金を取れば、2一金以下の詰みがある。
 8八桂成なら、同金、同成銀、同玉、8七金、7九玉で先手玉は詰まず、銀をもらって後手玉に2一金以下の詰みが生じて、先手勝ち。
 2四香なら、3三歩成、同銀(同玉は3六飛)、5一竜。3一香も、3三歩成、同銀、1五桂、3四銀、3五歩と攻めて、結局、後手は手がなくなる。


7八歩基本図(再掲)

 〔柳〕7八歩 は先手良し、が結論である。





[調査研究:8一飛]

 〔栃〕8一飛 と打つのはどうだろうか。

8一飛基本図
 〔栃〕8一飛 (図)と打った。この手に狙いは、5二角成である。同歩なら、2一飛成で先手勝ちだ。
 後手の有力候補手は6つある。
 <A>7一歩<B>6二金<C>6六銀<D>7五桂<E>7六歩<F>1四歩 の6つ。


研究8一飛図01
 最初に、<B>6二金(図)から見ておこう。
 この手は、先手のねらう5二角成の金取りに対応した手で、その意味では自然な応接である。
 この手には、3三歩成とする。 同銀では5一飛成があるので、同桂だが、そこで5四歩とする(後手陣の金銀の連結を切る意味)
 以下、7五桂、9七玉、7七と、8九香、5四銀に、8五歩(次の図)

研究8一飛図02
 8五同金や7四金なら、7五馬、同金、3四桂で、先手勝ち。
 よって、後手は6五銀とし、以下8四歩、7六銀で、先手玉に“詰めろ”がかかった。
 先手はこれを、8六金と受ける(次の図)

研究8一飛図03
 8六金(図)は、詰めろを受けつつ、次に7五金の桂取りを狙っている。
 7四歩と受けても、7五金、同歩、3四桂、3一玉に、4二桂成以下、後手玉詰み。

 <B>6二金 には、3三歩成以下、先手が勝てる.


研究8一飛図04
 <A>7一歩(図)
 この手は最新コンピューター・ソフトが第1候補手に推す手だった。 次にこの手を調べよう。
 これを同飛成なら、後手の術中にはまる。 7一同飛成、6二銀右、6一竜、6三銀となって―――(次の図)

研究8一飛図05
 これは、やや後手ペースの戦い。 これが後手<A>7一歩 と打った意味である。

研究8一飛図06
 <A>7一歩 には、3三歩成(図)が先手の“正着手”。
 同銀に、5二角成(次の図)

研究8一飛図07
 これを〔1〕同歩 なら、7一飛成、3四銀、2一飛成、3三玉と進む。
 そこで3六桂がある(次の図)

研究8一飛図08
 この手以外では、先手が悪くなる。
 この局面は、我々はすでに学習している。(第36譜第35譜 〔松〕3三歩成の変化)
 そのときの変化との違いは、先手が一歩多く持っていること。 違いはそれだけで、そのことはどうやら大勢に影響しない。
 図の3六桂が好手で、6九角と打たれるが、これは“打たせる”ための犠打である。 9七玉、3六角成と馬をつくられるが、この馬を目標に攻勢が取れる。
 しかしそこから先手がどう攻めるかたいへんに難しいところだったが、我々は「勝ち筋」を見つけ出すことに成功したのだった。
 その復習をしておくと、3一竜左、4四玉、3二竜右、4二桂に、3九香の手順が良い。以下、3七歩、同香、2五馬に、1五金と打つのがが好手である(次の図)

研究8一飛図09
 3四香と銀を取るのではなく、1五金(図)から馬を取るほうが良い(先手は3四竜と活用したい)
 以下、5四玉、2五金、同銀、7五金と進む。 実戦的にはまだ「互角」だが、正確に指せば先手の勝てる将棋である。

研究8一飛図10
 戻って、先手5二角成に、後手〔2〕7五桂(図)の変化を見ていこう。
 9七玉、7七とに、4三馬(次の図)

研究8一飛図11
 これで、どうやら先手良し。ここで後手4二銀右と4二歩があり、どちらも先手良しになるが、ここは4二歩のほうを示しておく。
 4二歩、9八馬、8七と、同馬、同桂成、同玉、5四角、6五歩、8一角、同竜、6六銀(次の図)

研究8一飛図12
 ここで3四歩と打つ。同銀なら2六桂と打って、2五銀に6四歩(桂を取る)で先手良し。
 したがって後手は6七飛と攻めてくる。以下9八玉、7七銀成、3三歩成、同歩、8九香(次の図)

研究8一飛図13
 ここで7六桂では7九金でもう後手の攻めがない。
 また6八飛成も9七玉で、攻めが続かない。
 よって後手は6九飛成とする。 “詰めろ”だ。 8八銀の受けなら、7八竜で後手が良い。
 4五角と受けるのは7六桂があってたいへんだ(以下9七玉、8八桂成、同香、9九竜、9八金、9五歩は形勢不明)
 しかし、このピンチを切り抜ける3四桂の手がある(次の図)

研究8一飛図14
 3四同歩なら5五角から7七角で先手勝ち。
 よって、後手3二玉だが、2二金、4三玉、4二桂成(同銀は2五角がある)、4四玉と進む(3四玉なら7九歩とし、以下同竜には3五金、同玉、5七角)
 そこで8八銀と受ける(次の図)

研究8一飛図15
 7八竜は6六角~7七角があるし、8八同成銀、同香、6七竜も、6四歩で後手の攻め駒が足らなくなる(後手は7一歩と打っているので7筋に歩が使えない)
 ここでは7六桂が一番きびしい攻めだが、7七銀、7八竜、9七玉、7七竜、8七金と受けて、受け止められる。
 後手の攻めが止まれば、4六銀のような手で後手玉を包囲していけば、先手が勝てる。

 以上の調査によって、<A>7一歩 は、3三歩成、同銀、5二角成で、先手良しと決まった。


研究8一飛図16
 <C>6六銀(図) も、結論から言うと、先手良しである。
 やはりここでも、3三歩成から入る。 これには、「同銀」、「同桂」、「同玉」と3通りの応手がある。
 「同玉」なら、3七桂とし、5四銀(4四玉のねらい)に、4五歩で、先手良し。
 「同銀」なら、5二角成とする。以下7五桂、9七玉、7七銀成(代えて7七ともあるが9八金、4二銀左、3六香で先手良し。7七銀成のほうが攻めが厚く9八金の受けには7六歩が詰めろになる)
 ここは、先手は8九香と受ける(次の図)

研究8一飛図17
 ここで後手は自陣に手を戻すことになる。 しかし4二銀右なら3四歩があるし、6二銀右なら4一馬として次に3一金の狙いが残る。 よって、4二銀左が妥当なところ。
 先手は、3七桂と右桂を活用する。
 以下、7八とに、5三馬(次の図)

研究8一飛図18
 5三同銀に3一銀以下、後手玉“詰み”
 なお、7八とに代えて6二銀右なら、8五歩で良い。

研究8一飛図19
 戻って、3三歩成に、「同桂」(図)の場合。
 これにも、5二角成とする。 以下、7七銀成、9七玉、1四歩。
 そこで3四金と打つ手が好手になる。ここに金を打っておけば5二歩なら2一竜で後手玉詰みだ。
 以下、7五桂(詰めろ)、9八金、7六歩(詰めろ)、8九香。
 金と香を受けに使うことになったが、しかしもうこれで後手の攻めは止まった。
 7八とがあるが、8五歩で―――(次の図)

研究8一飛図20
 7四金なら、5三馬、同銀、5一飛成で先手勝ち。7九角に、8六玉と逃げる“小部屋”ができている。
 よって後手は8九とで勝負だが、8四歩、同銀に、5三馬(次の図)

研究8一飛図21
 5三馬(図)で、2一金以下後手玉への“詰めろ”になっているし、受けもない。
 先手勝ち。


研究8一飛図22
 <D>7五桂は、9七玉、7七と に、この場合は8九香と受けるほうが良さそう(9八金は6二金で形勢不明)
 次に先手5二角成があるので、後手は6二金とする。
 そこで7八歩(次の図)

研究8一飛図23
 5四歩が先手の狙い筋なのだが、同銀、5一飛成と攻めた時、飛車を敵にわたすと8七飛で詰まされてしまう。
 だからその前に、7八歩(図)と打つわけだ。
 7八歩(図)に、7六と なら、5四歩、同銀、5一飛成と攻めて、先手良し。
 後手7八同と として、5四歩に、8九とで勝負してどうか。 以下、5三歩成、同金、8五歩(次の図)

研究8一飛図24
 7四金なら、8六玉で先手玉が安全になってしまい、それでは後手は勝負所を失うので、6六銀と勝負する。
 しかし、8四歩、同銀に、3二角成で―――(次の図)

研究8一飛図25
 後手玉に“詰み”があった。
 3二同玉に、4一銀、同玉、3一金というのがうまい手順(次の図)

研究8一飛図26
 3一同玉に、5一飛成、同銀、同竜、4一合、4二銀、2二玉、3三歩成以下の詰みとなる。

研究8一飛図27
 戻って、先手7八歩に、7六歩(図)の場合。
 これには、8五歩。7四金なら、9四馬として、8六玉~9五玉の脱走路を確保して先手良し(後手に7六歩と打たせた場合にはこれが先手のねらい筋になる)
 後手は3一玉から角を取りに来る。以下5二歩、6一歩、5一歩成、同銀、5二歩(次の図)

研究8一飛図28
 5二同金、同角成、同銀、8四歩、5一歩、8三歩成、7四銀、7三と、8五歩(詰めろ)、8九香、7九角、8八歩(次の図)

研究8一飛図29
 先手の欲しい駒は「桂」。7四と~7五馬として桂馬を取れば、3四桂の筋で簡単に後手玉を攻略できる。
 後手は8七とから攻めてくる手がある。8七と、同金、同桂成、同玉、6八角成(詰めろ)、9八玉、7八馬、7四と、7七歩成、7九歩(次の図)

研究8一飛図30
 7八馬をずらせば3四桂が打てる。だから6七馬が予想されるが、6四と、同銀上に、5四桂と打って先手優勢である。6四とを同銀引には、6六馬の大技がある。また、6七馬、6四とに、8六歩、同飛成、8七歩には、7七竜がある。
 図の7九歩には、4五馬もあり、以下6四と、同銀上、3七桂、6七馬、5四桂でやはり先手優勢。

 これで、<D>7五桂 も先手良しが明らかにになった。
 ――――と結論しかけたが、実はそうではなかった。


研究8一飛図31
 今の手順の途中、7七と の手が悪かったのだと後で判明したのだった。
 代えて、7六歩(図)が後手の最善手だったのである。この手で、逆に「後手良し」になるとわかったのだ!!
 7六歩は、7七歩成のと金造りが目的だが、7七とに比べると一手遅い。しかし二枚の「と金」によって、“攻めに厚み”ができる。
 ここで先手がどう攻めるか。5二角成は、7七歩成、9八金、1四歩で、後手良し。
 ここは3三歩成が最善手と思われる手。
 これを同銀なら、先手に勝てる可能性が出てくる(調べると先手良しになった)が、しかし同桂が後手の最善の応手のようだ。
 以下、5二角成に、1四歩が好手となる(次の図)

研究8一飛図32
 後手の「7五桂」と「7六歩」と「1四桂」とそれから3三歩成を「同桂」と取る手。この組み合わせが、“黄金の組み合わせ”になっているのだ。
 先手のねらい筋は5三馬だが、ここで5三馬は、同銀、5一飛成に、8七桂成、同玉、7七歩成、9八玉、7六角で、先手玉が詰まされる。
 3四歩や1五歩では、7七歩成、8九香に、5二歩と馬を取られてしまう。
 ここで指すとすれば、(あ)3四金 か、(い)4一馬 ということになるだろう。
 (あ)3四金 で先手が勝てそうに見える。これなら後手5二歩なら2一飛成で後手玉を仕留められる。
 以下、7七歩成(次の図)

研究8一飛図33
 先手玉の詰めろを受けるには、“8九香”か、“9八金”の2通り。
 しかし“9八金”だと、6六銀(詰めろ)とされ、8九香、7八ととなって―――(次の図)

研究8一飛図34
 先手負けになる。

研究8一飛図35
 だから、先手“8九香”(図)と受ける。7八となら今度は先手は金を持っているので5三馬が2一金以下の詰めろになっていて、先手良しである。
 だから後手は、8七と、同香、7七とと攻めてくる。これが後手が「二枚のと金」をつくった効果だ。
 先手は9八金と受けるしかない。
 後手は6六銀。次に後手7六歩とすれば、先手玉に“詰めろ”がかかり受けもない。
 だからその前に、先手は7八歩と受ける(次の図)

研究8一飛図36
 [7八同と]なら5三馬、同銀、5一飛成で先手良し。
 [7六歩]なら、7七歩、同歩成、7八歩で千日手の可能性が大きくなる。
 後手としては、[8七と]と勝負に行って勝ちたいが、同金、同桂成、同玉、7五金、9八玉という展開は、9三の馬が働きだし、先手良しになるようだ。これが先手7八歩の狙い。
 それ以外の手だと、[7六と]ということになり、これが後手の最善手だろう(次の図)

研究8一飛図37(7六と図)
 [7六と](図)に、先手の指す手が難しい。
 ここで 5三馬、同銀、5一飛成は、7九角で後手勝ち。

 では、8四馬、同銀、5三馬はどうか。これを同銀は、2一金で、先手勝ちとなる。
 しかし 5三馬に、7九角と打つ(次の図)

研究8一飛図38
 以下8八銀、同角成、同金と角を銀に代えて、それから8七と、同金、同桂成、同玉に、7六銀と打つ。
 さらに、9八玉、8七金、8九玉、7八金、9八玉、8八金で―――(次の図)

研究8一飛図39
 先手玉“詰み” 

研究8一飛図40
 「7六と図」(研究8一飛図37)に戻って、では後手に他に手はあるか。 1五歩(図)は有効手であるが‥‥
 これには、後手7七歩。
 そこで5三馬が先手狙いの一手。同銀なら1一銀で後手玉詰みだ。
 後手は8七と、同金、同桂成、同玉、7八歩成と応じる(次の図)

研究8一飛図41
 「1一銀」と指したいところだが、同玉、5一飛成、同銀、同竜に、2一金と受けられて―――(次の図)

研究8一飛図42
 2一金合(図)で後手玉は詰まない。よってこの変化は後手勝ち。

研究8一飛図43
 戻って、7八歩成に、「4三馬」(図)という手段が残っていた。
 これは"詰めろ逃れの詰めろ"である。今度は後手玉は1一銀以下詰む。
 しかし、7七と、9八玉、8七金、同馬、同と、同玉と馬を消し、5四角と打てば―――(次の図)

研究8一飛図44
 これは後手優勢の図になっている。
 5四角(図)に9七玉なら7七銀成、7九桂、8一角、同竜、8九飛で、後手良し。
 8八玉なら、8一角、同竜に、7六桂がある。以下9七玉、5七飛、8七合、7七銀成と迫って、後手が勝つ将棋である。

研究8一飛図45
 (あ)3四金 と打った手に代えて、先手(い)4一馬(図)とするのはどうだろう。
 7七歩成、9八金、7八と左、3四歩、8八と寄、3三歩成、同歩(次の図)

研究8一飛図46
 後手勝ち。先手玉の受けがない。


8一飛基本図(再掲)
 以上の調査研究により、〔栃〕8一飛<D>7五桂 で後手良し、が結論となる。

 ただし、<E>7六歩、および、<F>1四歩 でも後手良しとなる。
 最後に、そのことに触れておく。
 この「8一飛基本図」から、後手は「7六歩」と「7五桂」と「1四歩」を指す方針でいけば、どうやらどの順番でこれを指しても、結局は同じ図になっていくようだ(つまり変化すると先手がより悪化してしまうということ)

研究8一飛図47(7六歩図)
 <E>7六歩(図)と打ったところ。
 ここで7八歩は、7五桂、9七玉、7八とで、これは後手良し。
 3三香、同桂、5二角成というのが有力な変化であるが、7七歩成、9七玉、7五桂、4三馬、8七とと進み―――(次の図)

研究8一飛図48
 4三馬が "詰めろ逃れの詰めろ"だったが、8七と(図)、同馬、同桂成、同玉、7五香で、後手良しになる。

 ということで、「研究8一飛図47(7六歩図)」から、結局、3三歩成、同桂(同桂と応じるのが大事)、5二角成、7七歩成、9七玉、1四歩、3四金、7五桂と進むことになり―――(次の図)

研究8一飛図49
 これは、違う手順を経て、「研究8一飛図33」(7五桂のからの変化)に合流している。
 今回の調査によって、すでに「後手良し」の結論の出た図である。

研究8一飛図50
 そして、<F>1四歩(図)も、どうやら後手良し。
 同じ図に合流することを先手が避けるとすれば、ここで5四歩のような変化があるかどうかだが、5四歩、7六歩、5三歩成、7七歩成、9七玉、7五桂、3三歩成、同桂、8九香、7八と左以下の調査結果は、後手良しとなった。
 また、3三歩成、同桂に、3四金と打って、次に2六香を狙うのは考えられる。これなら7六歩の攻めでは間に合わない。しかし7五桂、9七玉、7七と、8九香、6二金と応じられ、以下8五歩に3一玉の変化は、後手良しとなった。

 8一飛とすでに打っているわけだから、5二角成をベースに攻めていかなければ2枚の飛車が無駄になる。けれどもそれは、7六歩~7七歩成~7五桂で、結局同じ図(研究8一飛図33、49)に合流するのである。



 ―――ということで、最終的なまとめは、次のようになる。

8一飛基本図(再掲)

 〔栃〕8一飛 は、<D>7五桂、または<E>7六歩、または<F>1四歩 で後手良し である。




6七と図
  〔松〕3三歩成 → 先手良し
  〔竹〕5二角成 → 先手良し
  〔梅〕2五香 → 互角
  〔栗〕8九香 → 先手良し
  〔柿〕7九香 → 後手良し
  〔杉〕5四歩 → 先手良し
  〔柏〕2六飛 → 先手良し
  〔橘〕3三香 → 先手良し
  〔桃〕2六香 → 先手良し
  〔楓〕2五飛 → 先手良し
  〔柊〕3七桂 → 先手良し
  〔桜〕9七玉 = 実戦の進行
  〔桐〕9八玉
  〔柳〕7八歩 → 先手良し
  〔栃〕8一飛 → 後手良し


 見つけた「先手勝ち筋」の数はついに二桁に。




第44譜につづく
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