ID物語

書きなぐりSF小説

第15話。自動人形、アンドレ。7. Q国、3日目の午後、宇宙服

2009-09-15 | Weblog
 (自動人形がようやく脚光を浴び出したある日、私(奈良)はQ国ID社から開発中のサイボーグ計画、パワードスーツの勉強会に招待された。Q国には一機だけアンドレという自動人形がいたのだが、展示に使われていたのみ。しかし、救護に使ってみると実に優秀な機体であることが判明。本日は、先方から、パワードスーツの紹介がある。)

 (Q国ID社の食堂にて昼食。)

原田。ふう。つまりは、自動人形の操縦は、そうそう簡単ではない、ということ。

奈良。慣れの問題なんだがな。

伊勢。たしかにコツはあるけど、単に動かすだけなら難しくない。そうね、ピアノの演奏のようなもの。とんでもないプロもいるけど、保育園の先生ならある程度の技能で十分に役立つ。どちらが聴衆を楽しませているかも、同程度ともいえるし、比較できないともいえる。

原田。ともかく、訓練は必要か。そうすると、将来は自動人形操縦コンテストとか開かれるのかな。

伊勢。そんな時代が来たらいいわね。

 (昨日の小ホールに行く。舞台には宇宙服みたいなのが飾ってある。)

原田。宇宙服か。ロマンがある。あんなのを着てみたいと思っていたんだ。

伊勢。あの、まさか、あれが…。

奈良。いや、多分、そうだとしか…。

鈴鹿。ええと、誰がモノリスのアーマーみたいとか予想してたんだっけ。

志摩。そんなの誰でもいいよ。現実はあれみたい。

原田。えっ、まさか、あれが、その…、私たちがはるか10,000km彼方から見に来たもの。

伊勢。ま、まあ、性能を見てからね。感想を言うのは。

 (しばらくしたら、6人ほどの開発担当者らしき人が入ってきて、舞台そばに陣取る。我々、機械の素人5人のために、わざわざ時間を作って来てくれたのだ。シモンさんが横に座る。)

シモン。どうです、宇宙服みたいでしょう?。

奈良。ええ、あんな感じのサイボーグの漫画を子供のころに見たような、見なかったような。

シモン。最初は骨格だけだったのですが、耐環境性も持たせるために、あのようになりました。

伊勢。じゃあ、服の下に骨格がある。

シモン。ええ、そうです。図かプロトタイプが出てくるはずです。

 (大仰にプレゼンが始まった。元々は、介護用途のために、ヒトの力を支援する機構。SFなどでは、生体の臓器と置換してしまうが、これは外から包み込むタイプだ。下半身から開発が始まり、何とか小走りまでできたので、胴と腕を追加。ヒトの持ち上げる能力を5倍にするらしい。ここまででも、何とか応用が利きそうだ。デモムービーが始まった。)

鈴鹿。うわあ、ちゃんと動いている。メカ人間みたい。

原田。大リーグボール養成ギプスの逆。

志摩。うまい表現だね。

 (ヒトを1人で持ち上げるのはバランス上、無理のようで、2人で何とか持ち上げている。かなりのコツがいりそうだ。というのも、5本の手の指はパッシブにしか動かない。つかんでおいて、固定して、他の大関節で持ち上げる感じ。つまり、指を動かす力は強化されない。)

鈴鹿。クレーンみたいに使うのか。なるほど。

伊勢。うまく考える。

 (動きに関しては、普段の人間の動作の速度まで。速くなるわけではない。走るのは小走り程度まで。電源を改良して、背負えるようにし、何とか10分ほどは動けるようになったのだと。電源を切ると、ぶらぶらになるので、重いけれど、そのまま筋力で運べる。ここぞと言うときに電源を入れるのだ。自動人形で使っている蓄電器を使えば、2時間は動作できるらしい。)

鈴鹿。実用みたい。大したもの。

伊勢。すばらしい出来だわ。

 (思わず、5人で拍手する。でも、まあまあ、という感じで、今度は欠点の話に行く。つまり、この最初のタイプは、一応の成功とは認められたものの、人体との結合部が腕輪のような感じなので、使っているうちに、すぐに痛くなるのだと。だから、完全に外骨格にするのが、次の段階。腕輪を伸ばしてスーツにし、うまく圧力を分散させて、皮膚と接するようにした。これで、1時間ほどの連続作業に耐えられるようになったのだと。)

志摩。よくできている。でも、見たことない。どこかに欠点が。

 (で、今度は熱はこもるは、トイレにはそのまま行けないはで、やっぱり宇宙服のような工夫が必要になったのだと。そして、それならと、視覚、聴覚センサーを装備して、ヘルメットに入れて、今の形になった。)

奈良。ふむ。宇宙服になった理由は分かった。

原田。ストーリはよく分かりました。でも、最初の目的からは、なんだかちょっと。何か、SFに出てくる隔離施設で介護されているみたい。

伊勢。SFじゃないわよ。物理的隔離。そちらの能力もあるのかしら。

 (質問していいかと伊勢が発言したので、概要は終わったからと、受け付ける。当然、気密性や耐環境性は考えたが、実際に応用できる当てがないと、進めない。もうすでに、当初の構想とはかなり乖離があるとの認識らしい。ふむ、こちらと同じ感想だ。)

伊勢。ええと、まだプレゼンは続くのかしら。

 (どこに関心を持たれるか分からないから、各分野の専門家を連れてきたのだと。そちらでリクエストしてくれ、とのこと。)

伊勢。困ったわね。どうやら、こちらがどう質問するのかを待ち構えているらしい。

奈良。話が分散しそうだな。ヘルメットを脱いで、介護などに徹するか、耐環境性を増して、活躍できる場を広げるのか。

伊勢。当然、よく使われる、という意味なら前者だけど、道具を使うのと比べて、何か利点があるのかと尋ねられると、微妙な感じがする。

シモン。恐れ入りますが、その手の議論をいっしょにしていただけないでしょうか。

 (結局、私と伊勢が専門家の中に入って、議論する。とはいえ、しゃべりまくっているのは、伊勢。こういう、複雑な装置が好きらしい。新RPG三人組は、自動人形といっしょにおいてけぼり。)

鈴鹿。あーあ、専門家同士での議論に突入した。私たち、お呼びでない。

志摩。パワードスーツを見に行くか。

鈴鹿。触らせてくれるかな。

 (触ってもいい、というので、一人技術者を付けてくれた。ヘルメットを外して、中の感触を試したりする。自動人形も、近づいてきた。)

タロ。何のための服ですか?。

原田。その答えを探っているのよ。

タロ。作ってから考えている。

原田。最初は、介護目的。人間は重いのよ。介護する人は腰痛とかになる。

タロ。だから、力を増幅する装置が欲しかった。

原田。そう。介護の現場にこれを投入してみるか。

アン。水中で使えるの?。

原田。今、それを議論している。使えるとうれしいかも。

アン。じゃあ、宇宙とか。

原田。普段は普通の場所で使うのよ。

アン。変な格好。

原田。今のところは。デザインは変えないといけないかも。これがファッションだと言いきるのは、かなり無理がある。

アン。宇宙人ファッション。

原田。そういえば、そんなテレビ番組があったような。宇宙人が地球上に降りるときの格好。

鈴鹿。地球人が月や火星に降りるのと同じノリ。

アン。私たちは、そんな工夫はいらない。

原田。あんたたちと私たちは身体の作りが違うのよ。うらやましいわ。こんな格好でもしないと、火星に行けないのよ、人間は。

アン。不便。

原田。まったく。これじゃ、便利にしているのか、不便にしているのか分からない。よほどの利点がなければ、使えないじゃない。

鈴鹿。だから、私たちが呼ばれたんでしょう。どうにか使ってくれと。

志摩。無駄が多い思考法だけど、何とかしたい気もする。熱意は分かる。

鈴鹿。熱意が空回りしている気もするけど。

 (すぐに解決法が思い浮かぶわけでもなく、デモに移ることになった。今の形で、一応の完成と見ているらしい。そして、これ以上の発展がなければ、予算打ちきり、ということらしい。)

伊勢。やれやれ、やっぱり、予算絡み。

原田。ここまで工夫したのに、もったいない。

伊勢。傷口が広がらない前に、終息させないと。

原田。あの中に入ったら、自動人形みたいに何処へでも行けると思ったのに。

 (伊勢の思考速度は並みではない。これは行けるか、と思ったようだ。)

伊勢。原田さん、そうしてみようか。短時間なら、極限環境に耐えるパワードスーツ。自動人形といっしょに、何処へでも行ける。

原田。まさか、伊勢さん、本気だとか。

伊勢。あらあ、単にアイデアよ。本当にできるかどうかは、十分な検討がいる。安全性が十分に確信できないと、あなたを中に入れるなんて、できない。

原田。あの、まだ私が入るとも何とも。

伊勢。ああら、あんなのを着てみたいとか言ってなかったかしら。

原田。いや、たしかに、関心がないかといえば、あると答えるかもしれないかな、なんて思ったりみたりして。

伊勢。つまりは、検討に値する、ということ。よろしい、この伊勢に任せなさい。十分に検討します。

原田。はあ。止めても無駄みたい。

 (デモはそれなりによかった。重いものを持ち上げたり、そのまま走ったり。何とか機械組み立ての作業もできる。普通の宇宙服や潜水服よりもずっと動きやすそうだ。)

伊勢。パワーアシスト宇宙服。そんなコンセプトかな。

奈良。夢が膨らんでいるようだな。

伊勢。そうね。こんな大きな山、久しぶりですもの。ねえ奈良さん、相談してもいい?。

奈良。何だ。

伊勢。先方の予算は先細り。こちらの要件を絞られそうな感じ。それでは、原田さんを危険にさらすことになる。

奈良。宇宙服と原田くんの危険がどう結びつくのか微妙だが、それはそれとして、何を言いたいのだ。

伊勢。パワードスーツを自動人形にする。今年作られるという自動人形の一機を、パワードスーツにする。

 (正直、数秒間、伊勢が何を言っているのか分からなかった。)

奈良。つまり、生きているパワードスーツ。

伊勢。奈良さんの感覚からすると、そうかな。自動人形の力は人間と同じだから、中身の原田さんと力を合わせて二人分。でも、耐環境性は、数分間なら自動人形と同じ。

奈良。誰が構想のデザインをするのだ。

伊勢。私に任せてくださいます?。

奈良。私にはさっぱり分からん。好きにしてくれ。

伊勢。じゃあ、OKということ。

奈良。計画が自己崩壊する可能性が高いと思う。成功しただけで天晴れ。

伊勢。ふふ、細工は隆々仕上げをご覧じろ。と言いたいところだけど、正直、自信はない。

奈良。普通に言えば、自信満々ということだな。

伊勢。やってみる。

 (伊勢はまるで、人形を与えられた少女のように喜んで、専門家集団に議論をふっかけに行った。詳細を詰める気らしい。もちろん、先方は伊勢の怪物ぶりに驚き始めた。伊勢は機械の専門家ではないから、細かい点は分からないのだが、十分に先方を刺激する内容だったらしい。プロジェクトが組まれた。人間の外骨格になった自動人形。)

鈴鹿。伊勢さんが喜々として専門家と意見を交している。

奈良。パワードスーツ型の自動人形を作るそうだ。中に人が入れる自動人形。

志摩。パワードスーツは現実に軍事目的でも作られている。

原田。そうなんですか。怖そう。

鈴鹿。怖くない。単なる乗り物らしい。自動二輪みたいなもの。

原田。何だ。そうか。楽そう。

鈴鹿。人間の走破できる地形ならたいてい、重いものを持って移動できる。

原田。そういうことか。オートバイよりも、さらに機動性が高い。

鈴鹿。速度は若干落ちる。

原田。そりゃそうね。自重もあるし。