ID物語

書きなぐりSF小説

第17話。銀将登場。29. 水族館、5日目朝~昼

2009-11-12 | Weblog
 (展示の2日目、最終日。水族館や大学本部には結構問い合わせがあったようで、混雑が予想された。場合によっては、午後の演技を3回にしてほしいとのこと。親子連れと、大学生も多い。技術者らしき人も多いが、初日のような仕事ではなく、自分が好きでやってきたようだ。余裕があるから、イルカの演技もしっかり見て、拍手している。)

原田。朝から満員。でも、ちゃんと反応するお客。

鈴鹿。うん。こうでなくちゃ。やりがいがある。

芦屋。A国のシークレットサービスみたいなのが、6人ほどいる。ご苦労なこと。

原田銀。何か起こりそうなの?。

志摩。ちっとも起こりそうにない。起こるとしたら、要人を直接狙うだろう。自動人形は、ケイコだけではない。ただ、何かの間違いが起こる可能性はほんのわずかにある。

原田銀。間違いって、起こったら大変なことになるじゃない。

志摩。そうだね。

原田。報道が来ている。でっかいカメラを構えている。一部始終を撮るみたい。

原田銀。インタビューとかあるのかしら。

鈴鹿。あちらで、館長と奈良さんが相手している。任せておけばいいわ。

 (演技は昨日と同じで、特に問題はなかった。普通に受けている。チャリティーの絵も、そこそこ売れた。お昼に入る。ギンや亜有や鈴鹿の級友が来ているらしく、学生どもはいっしょに食堂に行ったようだ。伊勢と私は自動人形を宿泊施設に戻す。虎之介が弁当を買ってきてくれた。自動人形は、もちろん純エタノールを飲んでいる。)

芦屋。今日はうまく行っています。

伊勢。夕方にトラブルのタネがやってくるけど。

奈良。昨日の午後の件が伝わったのか、昨夜から連続してA国軍が警戒している。

伊勢。これじゃ、攻めようがないわね。観客を巻き添えにする派手な攻撃をしない限り、どうしようもない。

芦屋。なんか、とんでもない装備が来ている。

 (窓から海岸が見えるのだが、水族館の先、海洋が見渡せる位置にA国軍の車両があって、あからさまにレーダーのアンテナが回っている。航空機やミサイルを警戒しているのだ。)

伊勢。んでもって、水中も警戒しているとか。

芦屋。そのようです。朝にシリーズGがA国の小型の潜水艦が湾に進入したのを捉えた。沖には同巡洋艦。

伊勢。あんたならどう攻める?。

芦屋。戦争を仕掛けるんではなくって?。

伊勢。当たり前じゃない。小隊ぶち込んだら双方の被害甚大。いくらバカでも、それくらい分かる。

芦屋。じゃあ、逃げるのが前提なら狙撃者を2~3人。逃げないのなら、自爆テロ。

伊勢。前者か。ヘリコプターの着陸地は?。

芦屋。あの車両のあたり。対岸から狙うなら、ミサイル。狙撃銃は、この付近からしか狙えない。航空機で進入しようものなら、たちまち撃墜されるし、海上も海中も無理。

伊勢。狙撃者対策はしているでしょうね。残りはミサイル。それで、レーダーか。

芦屋。機関砲で弾幕張る。やたらうるさい。

奈良。爆発物対策もやっているだろうな。

伊勢。当然。自動人形もある程度反応するでしょう。

奈良。まずは、大丈夫ってことか。

 (自動人形は、これよりはるかに危険な状態に置かれたことがあるようで、普段よりは緊張度が少し高いくらいの評価のようだ。普通に落ち着いている。一方、水族館の付属施設の食堂にて。志摩の同級生が来ている。)

志摩の友人1(男)。演技良かったよ。大したものだ。

志摩。見てくれたのか。ありがとう。

友人1。鈴鹿さんも良かった。もう一人の男は誰だ?。

志摩。おれの友人。頼もしい助っ人だよ。

友人1。そうなのか。全然見たことがない。別の大学だな。

志摩。大学じゃないけど、そう、昔からの友人。

友人1。水着の美女が2人。

志摩。大きい方は清水。清水は理学部数学科の同じ学年だった。今、休学中でヨーロッパのID社に所属している。

友人1。聞いたことがある。学生なのに多国籍企業に引っこ抜かれた。ID社だったのか。

志摩。そうだよ。もう一人は、原田の妹。ケイマ。

友人1。姉がギンで妹がケイマ。将棋だな。

志摩。本名は桂(けい)だけど、周りにケイマと呼ばせている。

友人1。お前、美女に囲まれすぎ。伊勢さんはいつ見ても素敵だし。

志摩。みんな個性がある。強烈だよ。

鈴鹿。志摩っ、あんた、説明できるんでしょうね。今の言葉。

志摩。もちろんだよ。鈴鹿はスタイル抜群で精悍ですばしっこい。オタクにはぐっとくる。

友人1。うん、ダントツ。ぐっとくるぜ、だよ。

鈴鹿。そ、そうなの?。

原田。確認しないでも、当然。で、私はどうよ。

志摩。かわいくて、切れ者で、ルックスもいい。多数の男性のツボにはまる。

原田。ツンデレならなお良い。

友人1。それは姉さんの方だな。我ら海洋生物学科のホープ。特に欠点のない美少女役。

原田銀。役って何よ。

志摩。まだお近づきになってない、ということ。でも、近づいても同じだよ。

友人1。美少女ゲームのヒロインだよな。恋人にしたいタイプの筆頭。

原田銀。ええと、素直に信じていいのかな。

原田。姉さん、もちょっと愛敬があれば、バカ受けよ。

原田銀。無理しない主義。

清水。私は何なんですか。

友人1。君は美少女ゲームの脇役の筆頭。ええと、役柄を一言で現す言葉があったか。

志摩。例なら多いんだけどね。さる事情によって、具体名をここで挙げる訳には行かない。

原田。必ずいるわよ。たいてい髪が真っ直ぐで短くて、メガネかけていて、頭も性格も容姿も良くて、なのになぜか胸が豊か。

清水。なぜかって何ですか。

原田。亜有さん。カマトトはやめましょう。その系統のアニメやソフトはよく知ってらっしゃるはず。

清水。まいりました。

友人2(女性)。志摩さんなら安心して近づけそう。なぜかしら。

鈴鹿。志摩っ、図に乗るんじゃないわよ。この男、これはと思う女性が寄ってくる限り、けっして振りほどかないんだから。

友人2。じゃあ、これはと思えない女なら振り切るの?。

鈴鹿。知らん顔してるわよ。志摩っ、あんた、さりげなーく女を選別しているんでしょう。

志摩。そんなの、当たり前の範囲だよ。

友人1。鈴鹿さんだって、来る男をすべて受け入れているわけではあるまい。

鈴鹿。そうか。

友人2。それじゃあ、志摩さんの好みが分かるってことか。

鈴鹿。共通点はほとんどない。身長、学部、髪の長さ、全部ばらばら。

友人2。性格に鋭いところがほしい。自分はおっとりしているから。

鈴鹿。志摩がおっとり。そりゃ誤解だわ。この男、飛び出すときは速い。

友人2。そうなの。いつもふらふらしているのは擬装なのかしら。

鈴鹿。いや、あれは本当にふらふらしている。

友人2。つかみ所がない男。それに耐えられる女か。たしかに、4人ともタフそう。少々のことが起こっても、平気。

友人1。そうだったのか。なるほど。

鈴鹿。あんた、納得してくれても困るのよ。志摩っ、さあ、どうするのよ。いっぺんに4人も選ぶなんてできないはず。

原田。4人じゃありません。伊勢さんに関さんに…。

鈴鹿。よく考えたら、あともろもろ。あんなこともあったし、こんなこともあった。

友人2。女ったらし。

原田。万人の感想。

志摩。おれにどうしろと。

ケイコ。まあ、そうなの。私、お付き合いしたことない。使ってはくださったけど。

アン。以下同文。

志摩。ケイコとはいっしょに料理の材料を買いに行った。

ケイコ。そうだった。もう一機いたけど、うれしかった。

友人2。もう一機って、それじゃ複数の女性型ロボットにまで手を出してる。

鈴鹿。今日という今日は…。志摩っ、来なさい。いっしょに探索よ。

アン。私も行く。

ケイコ。私も。

友人1。…行ってしまった。

友人2。結局、鈴鹿さんが必要なわけ。

原田。まあ、予想は付いていたけど。

清水。強固な仲です。恋人とは言い難いけど。

 (鈴鹿と志摩とアンとケイコで海岸を散歩。)

志摩。どうなることかと思った。

鈴鹿。あんたが悪いのよ。とうとうと演説して。

ケイコ。狙撃手が屋根にいる。

アン。A国軍の制服着ている。

志摩。やはりいたか。先手を打ってにらんでいるんだ。

ケイコ。私のために。

志摩。要人のためだ。ケイコは自動人形の中の一機。たしかに優れているけど、代りはいる。

ケイコ。私でなくてもいいんだ。

志摩。要人にとっては、ケイコが大切だろう。命の恩人だと思われている。きっと大切にされるよ。

ケイコ。うん、そう思うことにする。

 (自動人形を使って、A国軍の配置を確認する。なんだか大げさ。それだけのことがあるのか。)

アン。何か相手方の動きを察知したのかな。

志摩。実際、刺客が2人来た。こちらには他の情報は入ってこないけど。

鈴鹿。憶測まで含めると、この間から活躍しているのは当方ばかり。我が軍は何をしているのだと、圧力がかかっているのかも。

志摩。これだけ揃えると、費用も馬鹿にならないはずだ。たしかに、どこかで意地になっている。

鈴鹿。一応、裏でやっているだけましか。入り口で観客のボディチェックでもされたら大変。


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