ID物語

書きなぐりSF小説

第17話。銀将登場。28. 水族館、4日目夕、ケイコの送別会

2009-11-11 | Weblog
 (ギンはケイコの送別会の会場を館長に相談に行った。近くの旅館に海鮮料理を食べに行くことにした。館長もいっしょ。旅館の広間にて。)

館長。初日からいろいろあった。

伊勢。何かありましたの?。無事にすんで良かったと思ったけど。

館長。ええ、展示の方は大成功。満足しています。でも、ちょっとした事件が起こった。サイレンの音は聞こえましたか?。

伊勢。サイレン。ギンさん、サイレンの音が聞こえた?。

原田銀。さあ、救急車か何かだったの?。

館長。警察ですよ。2人、熱中症か何かで倒れた人がいて、医務室で見たら拳銃を持っていた。

伊勢。そりゃ大変。

原田銀。そういえば、何か光ったんだっけ。あれとの関連はあるのかな。

館長。光の原因も不明。何人もが光ったって言っているから、光ったんでしょうけど、何も異常が見つからない。

伊勢。場所は分かっているのですか?。

館長。イルカプールの客席付近としか分かりません。

原田銀。爆発音か何か聞いた人は?。

館長。いません。不思議。

鈴鹿。ええと、いいかな。じゃあ、ケイコの送別会開始。

奈良。短期間だったけど、ケイコは大活躍。先日はA国の要人の命を救った。その要人が今朝水族館に来てくださり、ぜひケイコをA国に連れて行きたいとのこと。

伊勢。OKしたの?。

奈良。ID社の許諾は取っていたみたいだ。私がOKしたらおしまいの状況だった。

ケイコ。私は新天地で存分に働きたい。それもみな、ここでお世話になり、活躍させてもらったから。みなさんのことは、いつまでも忘れません。ありがとうございました。

鈴鹿。どうなっているの、この発言。ケイコ、本心なの?。

ケイコ。私は体が小さい。最初からそう。だから、活躍させてもらえなかった。ここに来るまでは厄介者だった。でも、ここに来て、分子シンセサイザーと翼をもらった。水中活動用の装置を揃えてもらった。奇跡が起こった。今度は、私がお返しする番。

伊勢。そんなに深刻に考えなくても。自動人形の当然の動きよ。

ケイコ。私が行きたがる理由を今ここで説明することはできない。でも、時が来れば分かる。私がなぜこうしたかを。

奈良。分かった。無理するな。理由があるんだな。

ケイコ。みなさんも、無理しないでください。情報収集部の仕事は時に危険。生きていてください。私も、また会いたい。いつまでも機会を待つ。

鈴鹿。うん、分かった。とてもよく。何かあるんだ。今は私たちは知るべきでない。

 (どう言うわけか、ケイコは鈴鹿に近づいて肩を抱かれている。不思議な発言だ。今まで、自動人形のこんな反応を見たことはない。プログラムされていたのか。)

アン。四郎と五郎が余る。

奈良。誰が操縦してもいいけど、クロ、当分の間、やってみてくれるか。

クロ(会話装置)。任せろ。四郎、五郎、私の支配下に入るのだ。

四郎、五郎。了解。

 (クロは五郎の膝に乗る。)

鈴鹿。行くのはどんなところなの?。

芦屋。さっき調べた。A国の国立研究所。軍に近いけど、軍ではない。表向きは世界各地のA国軍の出先の環境調査。

原田。地質とか降水量とか。

芦屋。そんなの。場所は海洋も含む。極地も、砂漠も。山岳も、密林も。

原田。だから自動人形が必要なのか。

芦屋。あくまで表向きだ。当然、どのような行動が可能かを探っているだろう。

奈良。推測か。

芦屋。はい。でも、公然の秘密。ついでに、多少の具体的な行動も。

奈良。情報収集部でやっていることと同じ。はるかに厳しい環境下での。

鈴鹿。じゃあ、思いつきじゃない。慎重な考慮の上でケイコを指名したってこと。

芦屋。そうなる。

原田銀。でも、要人と会ったのは偶然。久保田教授といっしょに、森口教授に会った帰り。

原田。要人が日本に来ていることさえ知らなかった。狙うことも、避けることもできなかった。

原田銀。自動人形で乗っていたのは、ケイコとジロ。これも偶然。アンでもタロでも良かった。

原田。そんな起こり得ない偶然を狙っていたの?。

芦屋。単に偶然を生かしただけだろう。

志摩。ケイコもジロも開発したのはA国軍だ。何か記憶があるのかな。

清水。そのあたりでしょう。きっと何か仕掛けがある。それが反応した。でないと、説明できない。

鈴鹿。仕掛けって、ID社の?。

清水。そう言ったつもりだけど。

奈良。ID社が軍から自動人形のすべてを買い取って、最初の1年。単に改良しただけではなかったのか。

鈴鹿。ID社ですもの。何か意味を加えたのかもしれない。データベースに。

奈良。ふむ。たしかに、それらしき反応はある。説明は困難だが。

清水。そう、私も感じた。軍が入れたとは思えない反応がある。もっと巧妙な仕掛けがあってもいい。

鈴鹿。それが、自動人形の開発がいつまでたっても断念されない理由なの?。いつ起こるか分からない偶然を待っていた。

伊勢。さっきのケイコの反応を信じるのなら、いずれ、その仕掛けとやらの内容が分かる。楽しみにしていればいいわ。慌てることなんかない。自動人形に意味を問うても、まともな答えは返らない。これ以上考えても、無駄よ。

鈴鹿。そうね。お料理をいただきましょう。

 (海鮮料理をいただく。自動人形も、お付き合いで、味を確かめながら食べている。館長には伊勢が説明している。私は、ケイコの大きさが気になったので、志摩を呼んでいっしょに考えることにした。)

奈良。志摩、ちょっと付き合ってくれ。

志摩。来ました。どんなご用件ですか?。

奈良。ケイコの大きさだ。彼女はクリスと呼ばれていた時代から、あの大きさだったらしい。

志摩。リリも同じくらいの大きさ。

奈良。体形は違うがな。

志摩。ケイコは大人に見える。

奈良。そう。だから、いくぶん体重はある。

志摩。ええと、進行波ジェットで飛ばすこと。

奈良。勘がいいな。それを考えてほしい。いくつかの偶然が重なっている。まず、ID社が改良しないと、自動人形の体重は今の3倍あった。

志摩。普通のターボジェットで飛ばせばいい。騒音はしますけど。

奈良。大きくなる。

志摩。ずいぶんと大きくなるはずです。

奈良。今の重さなら、ぎりぎり進行波ジェットが使える。あの大きさのターボジェットはあるのか。

志摩。作れますよ、簡単に。出力も同等。実例はID社にもDTMにもありませんけど。IQの作ったものだ、というのを見たことがある。

奈良。IFFに競合するIQのことか。

志摩。そうです。高度な技術を持っている。侮れない。でも、ものすごい騒音。

奈良。クルマの屋根に、気付かれずにマーカーを付けるなど無理。

志摩。想像もできません。あからさまな攻撃用です。恐怖心を与えるための。

奈良。じゃあ、あの絶妙な組み合わせは偶然なのか。

志摩。要点が分かりました。最初から、こうなることが分かって、ケイコをA国軍が作製したのだと。

奈良。そういうことだ。

志摩。どうですかね。虎之介の意見を聞いていいですか?。

奈良。ああ、そうしてくれ。

志摩。虎之介、来てくれ。奈良さんが知りたいことがあるそうだ。

芦屋。来ました。何でしょうか。

志摩。奈良さんの知りたいことは、ケイコの大きさだ。進行波ジェットの翼でクルマに気付かれずにマーカーを付けるなど、あまりに偶然の組み合わせと思える。何かケイコの大きさに意味があったのかだ。

芦屋。お前、おれの頭脳の明晰さを分かって発言しているんだろうな。その質問に答える最適者は亜有だ。亜有、来てくれ。

清水。来たわ。何かしら、私に用って。

 (志摩は同じ質問を亜有にする。)

清水。ふーむ。最初から狙っていたと言いたいわけですか。

奈良。そうだ。

清水。いくつもの偶然頼り。不可能です。常識的には。それより、救護に必要な最低線を作ってみたかったのが真相ではないですか?。あれ以上小さくすると、救護には使えない。陳腐な答えですけど。

芦屋。クロは。

清水。あなた、分かっていて質問するとは度胸のある。自分で答えなさいよ、さっさと。

芦屋。分かったよ。探索と初期治療に重点を置いた。搬送と障害除去はあきらめた。

清水。ピンポーン。でも、点数あげない。当然の答え。

芦屋。先生、厳しいです。

清水。学問は厳しいのよ。進行波ジェットは、偶然の産物。サンプルは成功したけど、人の乗るジェット機の開発は失敗。だから、サンプルの量産をしている。模型規模の小型ジャイロ用。ロケット人間に応用するなんて、伊勢さんのアクロバット。

奈良。最初のモノリスのロケット人間は派手だったな。

志摩。人工衛星のロケット打上げ、そのもの。わざわざその効果を狙ったみたい。

清水。やってみたかったのよ。ドカーンと打上げ。目だってなんぼ。

芦屋。残しておいたら良かったな。受け狙いで。

清水。正太郎とサクラは現に成功した。こちらで良い。その前に、エスとリリのオートジャイロがある。

奈良。そうだった。オートジャイロが作戦用で、エスが音も立てずに獲物に忍び寄るのが、部門長の霊感を鼓舞したのだ。ID社の進行波ジェットはあのとき初めて見たのだ。

清水。そうだったんですか。じゃあ、クロのオートジャイロが単なるジェット機になるのは悪乗り。

奈良。その表現が妥当だ。

清水。じゃあ、ますます偶然。小さくて小回りの効く救護ロボットを作ってみた。でも、予想より役立たない。ところが、偶然、進行波ジェットがツボにはまった。鳥のように空を飛び、イルカのように泳げるし、宇宙でも活動可能。私たちは軍がなし得なかった完全な自動人形を完成させた。

志摩。だから、A国の軍関連施設に売れた。狙っていたようなシナリオ。そして、さっきのケイコの不気味な反応。

清水。どう考えても偶然になるように見せ掛ける必要があった。必要なら、何年でも待つ覚悟だった。そんな無謀な計画。じゃあ、私たちが必死で自動人形を維持したのも、この日を呼び込むために、まんまと乗せられたってことになる。

奈良。要人は、A国政府が自動人形の開発を再開するとはっきり言った。ケイコはその近くに配備される。参考にされるかもしれない。

清水。当然、参考にされるでしょう。場合によっては、ハードウェアの基本部分や根幹部分のプログラムを流用されるかもしれない。

志摩。それが狙いか。自動人形は使い用によっては危険な機械。もしもコピーされたら、その部分はID社にとっては脅威でなくなる。

清水。普通じゃだめだわ。よほど工夫しないと。奈良さん、そのID社の最初の1年に何があったかを調べてみます。

奈良。ああ、調べてくれ。なぜ軍で役立たずと評価された自動人形を高額で買い取ったかの秘密があるはずだ。

清水。そして、その後の展開をどこまで予想したのかも。

 (ケイコは、その後、元の普通の自動人形に戻ってしまった。そして、来れば分かるその時、というのは、ずいぶん先のことだったのである。)

 (深夜0時近く、亜有は志摩と鈴鹿と虎之介を呼びつけて、旧車両で作戦会議。)

志摩。今頃呼び出すなんて、何かの思いつきなの?。

清水。そうよ。でも、必要と思ったから呼んだ。明日夕方、例の要人が来る。警備の規模は早く決めた方がよい。

鈴鹿。あなた、虎之介に行動パターンが似てきた。

芦屋。さんざんな言われようだな。

清水。虎之介さん、何か情報が入ったの?。

芦屋。IFFの警戒度は上がっている。要人が去るまでつづく。鈴鹿は何かつかんだか。

鈴鹿。要人はヘリコプターで来る。2機の護衛を付けて。そのままケイコを連れて、近くのA国軍基地まで運び、専用機でA国にいっしょに帰る。付属品は、日本ID社から直接A国の研究所に送る。日本で買った衣裳なども添えて。

芦屋。基地からはA国ID社所属のコントローラが付くそうだ。だから、ケイコはコントロールを外れることはない。

清水。久保田教授を勘違いで襲った2人の正体は分かったの?。

芦屋。分かっていたとしても、言うことができない。ご想像の範囲内と思う。

清水。じゃあ、想像するしかないか。ヘリコプター2機を従えるとは、物々しい護衛。

志摩。ミサイルくらいは平気で積んでいそう。

鈴鹿。私たちの出る幕じゃない。きっと。

清水。じゃあ、A国軍に任せるか。

志摩。今も2基のシリーズGが海中で待機しているし、飛行船は交代で上空から監視している。明日夕までは、この態勢を維持する。重複しても、競合はしないはずだ。

清水。元来、観測装置か。

志摩。この前みたいに潜水艦がいるとか、その手の異常はないよ。平穏無事に済んでも、驚かない。

清水。ごめん、無駄足させたかしら。

志摩。安心代だ。確認にもなったし。ん、通信だ。タロから。

鈴鹿。何なの?。

志摩。水族館の玄関近くに、A国軍らしい車両があるって。で、何人かA国軍用の通信機と軽機関銃隠した人間が水族館を取り巻いていると。探索で発見したらしい。

芦屋。ご丁寧なこと。

清水。ケイコの警護のつもりなの?。

志摩。それ以外ないよ。VIP扱いだ。奈良さんたちにも知らせておく。

鈴鹿。うん。私たちは眠ろう。


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