リビングルームはエアコンが効いていても、キッチンは暑いです。
そんな中、引き出しを開けて中のものを見ていました。
引き出しの奥の方には普段使わないものがなんとなく薄汚れて鎮座しています。
そして、あ、何かが引っかかっている。
取らなければ。
もしかしたら、何か後ろに落ちているかもしれない。
と思いついたので、引き出しと引き出しの隙間に手を突っ込み探ろうとしました。
普通、引き出しは引き抜けるものなのですが、うちのは古くてなぜだか引き抜けない。
なので私が手を突っ込むしか、取る方法がないのです。
手が届かないかもしれないからトングを持ちました。
トングで面白いようにものが取れます。
ビニール袋、割り箸、ハンカチ、フキン……。
あれあれ、どれだけ落っこちているんだ?
取れたものはキッチンの隅に積み上げていきますが、だんだん山になっていきます。
いったい、どれだけ落ちていたんだろう。
そういえば、スーパーでもらいすぎたビニール袋を何かというとどんどん突っ込んでいました。
そして後ろの隙間から裏に落っこちていたんですね。
よくもまあ今日まで気づかなかったものだ。
そして、疑問に思っていたこと、
本当にこの引き出しは引き抜けないのだろうか?
裏からよく見たら、プラスチックのバネのようなストッパーらしきものがあるではありませんか。
そして、それを押し上げてやったら、想像通り引き出しは抜けました。
あーあ。
引き抜いた後には割り箸だけが残されていました。
私が手を突っ込んでトングでほとんどのものをつかみ取っていたのでした。
そして私の腕には赤い痕が残されました。
打撲のようなものですね。
なんだか笑えます。
でも私、とっても詩的なことを思いついていました。
引き出しとは記憶だ。今日体験したことをどんどん突っ込んでいく。
毎日引き出しに突っ込む。
記憶はいくらでも入っていく。入らないと言うことはない。
私は、この引き出しにはいくら入れても入らなくなることがない、と思っている。
だから毎日突っ込む。
ただ、昨日入れたことは忘れています。
そしたら、記憶は、入れたら初めに入れたものはどんどん下に落ちていっていたんです。
あるとき、何の気なしに引き出しの奥を見てみたら、
すっかり忘れていた過去が山積みになっていました。
私は素手で触りたくないのでトングを使って一つつまんでみました。
それは、記憶の山の隅っこで薄汚くなった、見るもおぞましい過去でした。
……という話です。
嫌なことがあったら、何かに入れて蓋を閉めればなかったことにできる、
と信じていましたが、とんでもない、
どこかにずっと溜まっていたのですよ。
だからね、引き出しにはしまわずに、
その場でどうにかした方がいいですね。