フィクション『同族会社を辞め、一から出直しオババが生き延びる方法』

同族会社の情けから脱出し、我が信ずる道を歩む決心をしたオババ。情報の洪水をうまく泳ぎ抜く方法を雑多な人々から教えを乞う。

愛しているという意味

2023-03-21 23:08:06 | とある知人の話

彼は妻を愛していたと言っていた。

だけど、日々100%と言うわけではなかったらしい。

つまり、憎んだり、疎ましく思ったり、嫌だと感じたり、いなくなったらどんなに楽だろうと願ったり、と言うことだったと思う。

実際彼の口からそれを聞いたわけではないが。

そう、愛するといってもずっと愛し続けてはいられないと思うのだ。

嫌なところを見たら嫌だなあと思うし、相手を見下したり。そんな一瞬があると思う。

そして彼は私の事も愛していたと思うのだが、恐らく私に対してもそのような感情はあったはずだ。

なぜなら、私は彼に対してそう感じていたからだ。時々愛したり、時々ひどく憎んだり、見下したり、侮辱したり軽蔑したりこきおろしたり。

ただ、そのような感情を持っていても態度や口に出さなければ分らないのかも知れない。

その感情を巧みに隠し、相手にずっと愛されていると思わせる技術が彼にはあった。

それで彼と知り合う女性はほぼ彼に愛されていると思い込み彼を独占したがった。

それは彼の大きな罪だと思う。

彼が死んだと聞いてどれだけの女性が涙を流しただろう。

実際のところ、彼はどの女性を愛していたのか、それは永遠の謎である。

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彼の家族

2023-03-13 07:46:53 | とある知人の話

彼は21歳の時に会社の同僚と同棲を始めた。

それから10年後籍を入れて夫婦になった。

子供はいなかった。

妻が50歳になった春乳がんが判明した。

すでに手遅れの状態だった。

桜の満開の中妻は息を引き取った。

彼は一人取り残された。

彼は妻の母親とこまめに電話で話した。娘を亡くして睡眠導入剤なしには眠れなくなった義母を支えていた。

それから8年経った夏、今度は彼が亡くなった。クモ膜下出血だった。恐らく身体のあちこちが痛んでいたのだろう。そして心も。

妻の母は元気にしているだろうか。

娘と婿を亡くして、今どうしているだろうか。

 

 

 

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彼は高校生だった

2023-03-01 22:05:08 | とある知人の話

去年の夏に人知れず亡くなっていた知人。

もちろん、彼と懇意だった人たちはその知らせにすぐ触れることが出来ただろう。

でも私は懇意ではなかったので、それを知ったのは一月以上経ってからだった。

 

もう40年以上前のお話。

彼は私が在籍していたアマチュア劇団の公演を見て、興味を持ち入団してきたのだ。

当時高校三年生。

詰め襟で背が高くヌーだかボーだかそんな感じで突っ立っていた彼の眼鏡がギラリと光っていた記憶がある。

高校生だ?変な子。何しに来たの?と私はそんな印象しか持たなかった。

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