ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

議論(03、論争的報道番組のあり方)

2005年06月12日 | カ行
 去る(2005年)03月28日、NHKの夕方の看板番組「クローズアップ現代」で、東京都(の主として都立高校の入卒業式)における日の丸・君が代の「強制」問題が報道されました。

4月5日、都議会自民党はこの番組について、「番組は著しくバランスを欠いている」として、批判の「コメント」を発表しました(NHKに対する申し入れは、時節がらでしょう、避けたようです)。

4月6日、東京都教育委員会は「『趣旨説明』を聞いた上で取材に協力したのに、その『趣旨説明』とは異なる内容だった」ことを問題にして、NHKに文書で申し入れをしたそうです。

これらに対してNHKは、「教師たちの意見と教育委員会の考え方とを丁寧に伝えた公正な内容だった」と答えています。

 以上は、4月15日付けの朝日新聞に書いてあったことです。

 その後の朝日紙の報道によりますと、この「強制」に反対している教員たちは、都議会自民党のコメント発表に対して抗議したようです。

私もこの問題に関心を持っている者としてあの番組を見ました。その感想は、「キャスター(国谷裕子さん)の準備不足で内容のない番組だったな」というものです。

決定的に欠けていたものは、双方の言い分をかみ合わせる努力です。横山教育長の主張の中心は次の2点でした。第1に、学習指導要領に従ってやっている、第2に、学習指導要領は判決によって「法的拘束力を持つ」とされている、です。

これはこの問題を少しでも注視している者にとっては十分に予想された発言です。それなのに、これを予想した次の質問がないのです。教師たちの意見の中にもこれに反論するものはありませんでした。

それに対して、横山教育長は教師たちの「内心の自由」の主張に対して、「内心の自由は当然だが、それが表に出て式典を阻害するなら自由ではない」と反論を用意していました。

全体として、横山教育長は余裕しゃくしゃくで、薄ら笑いすら浮かべながら話していました。当然でしょう。

私は前号のメルマガ「小林俊太さんへ」でこの問題を論じた時、「これを押し進める勢力と反対する勢力の動きを冷静に評価してみると、前者は巧妙かつ組織的であるのに対し後者は拙劣ないし幼稚であると思います」と書きました。これが又証明されました。残念ながら。

都教委では「担当部署が録画を見直して分刻みで点検した」そうです。自民党は90年代から報道モニター制度を造ってメディア監視を強めてきたが、それが地方組織でも定着してきたようです(15日付けの朝日紙に載っている服部教授の話)。

それに対して、教師の側では、いまや組合すら動けなくなっています。法律(それに準ずるものを含む)と人事権を武器にした反動勢力に対する武器が、相も変わらず「内心の自由」と
個々の教師たちの抵抗だけではどうしようもないと思います。

そして、このような現状をくっきりと浮かび上がらせるべきキャスター(国谷裕子さん)もただ心情的な態度で教師の側を応援しているように見えます。卓球では「3球攻撃」というのがあるそうですが、まず質問したら、相手の答えを予想して、それを踏まえた次の質問をするのは常識ではないでしょうか。

 私の好きなラジオ深夜便では、アナウンサーが誰かにインタビューする場合、アナウンサーは相手の書いた本を何冊か読んでおくとか、相当の準備をしているようです。放送を聞いているとそれが分かります。

報道番組では毎日、新しい問題と取り組まなければならないからそんな事をしているヒマがないとでも言うのでしょうか。それなら、キャスターなど辞めるべきです。国谷さんはもう長い間この仕事をしているはずです。女性で英語が出来ればいい、という時代ではないと思います。

換言するならば、争いのある問題を扱った報道番組を公正で客観的なものにするためには、キャスターはディベートの審判のような技術を持っていなければならないということです。

そういえば10年ほど前、この「クローズアップ現代」で「ディベート甲子園」を取り上げたことがありました。高校生が「首相公選制は是か非か」でディベートの全国大会を開いたときの様子を報じたものです。

とてもありがたかったです。授業で使いました。しかし、これはその後どうなったのでしょうか。ディベートのやり方の勉強になるような番組はその後見当たりません。それを報じたキャスター自身がその技術を知らないということと関係があるのかもしれません。

03月28日の「クローズアップ現代」は落第番組でした。唯一の収穫は、都教委が校長を集めた「会議」で、課長が今の式典の様子を「寒々しい光景」などと話をしていましたが、その態度の傲慢無礼なのがはっきりと分かったことだけです。話し合うのではなく、命令し説教するという態度でした。

世の校長の中にもこういう態度で教師や保護者に接している人がいますが、それはこういう課長の態度を見習ったものらしいと思いました。

では我々は、こういう態度の教委や校長とどう戦ったら好いのか、それは回を改めて考えましょう。
 (2005年05月02日発行)