野党の学習不足が招いた安倍晋三と旧統一教会との関係調査・検証要請への岸田文雄の「本人死亡、十分な把握限界」等の罷り通り

2023-02-06 08:39:00 | 政治
 岸田文雄は野党が求めた安倍晋三と統一教会との関係についての調査・検証の要請を、記者会見や国会、今通常国会での代表質問答弁等で、「御本人の心の問題」、「御本人が亡くなられた今、十分な把握は限界がある」等と発言、その必要性を認めない立場を取り、野党は論破できずにその立場を結果的に認めさせることになった。岸田文雄の言い分に正当性があり、論破不可能は当然のことなのか、野党が何も学習できない結果の情けない有り様なのか、検討してみることにした。

 この検討の妥当性と2023年1月30日からの衆議院予算委員会で野党が再び検証・調査を求める追及を行うと思われるが、追及するとしたら、どう行うかは予算委員会前までの検証・調査の必要性なしとする岸田発言から矛盾点を如何に見い出すか、自らの学習一つにかかっているはずだから、どう学習したかの妥当性を確かめてみて欲しい。

 問題としている最初の岸田発言は2022年8月31日「記者会」(首相官邸)でのマスメディアとの質疑。

 石松朝日新聞記者「朝日新聞の石松です。よろしくお願いします。
 
 旧統一教会と自民党との関係についてお尋ねします。総理は、先程のぶら下がりで、旧統一教会との関係を絶つことを党の基本方針にするという説明がありましたが、旧統一教会との関係の中心には、常に安倍(元)総理の存在があったりとか、選挙の協力に関しては、安倍(元)総理が中核になっていた部分があると思いますが、今後、旧統一教会との関係を絶つ上で、安倍元首相との関係を検証するなり、見直すなどの考えは今のところございますでしょうか。よろしくお願いします」

 岸田文雄「先ほども申し上げましたが、今日までの(旧統一教会と自民党との)関係については、それぞれ既に点検するようにという指示を出しているわけですが、その点検の結果について、党としてしっかり取りまとめることが大事だということを申し上げています。その中で、党としてそれをどのように公表していき、国民の皆さんに説明をしていくのか、これが重要なポイントになってくると思います。

 御指摘の点については、安倍(元)総理がどのような関係を持っておられたのか、このことについては、御本人が亡くなられた今、十分に把握するということについては、限界があるのではないかと思っています」

 朝日新聞石松記者は安倍晋三が生存中は旧統一教会と自民党との関係の中心に位置していて、自民党議員との選挙協力の重要な仲介者の立場にいた、いわば安倍晋三の仲介なくして旧統一教会の自民党議員に対する選挙協力は考えられなかった、であるから、安倍晋三と旧統一教会の間に出来上がっていた関係を検証し、検証によって洗い出すことができる両者のその利害の構図を発端とした旧統一教会と自民党議員との各関係の見直しに持っていかなければ、引きずっている利害の根絶は難しいのではないかといった趣旨の質問をぶっつけた。

 岸田文雄は安倍晋三が旧統一教会とどのような利害に基づいた関係を持っていたのか、本人があの世に行ってしまった現在、いわば被疑者死亡で取調べ(=検証)は不完全にならざるをえない、「限界がある」と答弁、いわば"本人死亡限界説"を持ち出して、検証の必要性を認めない立場を示した。

 朝日新聞記者も岸田文雄も安倍晋三と旧統一教会との間柄を「関係」という言葉で表現しているが、反共・保守の政治に深く関わっている宗教団体と日本の代表的な保守政治家の結びつきである。利益を共に共有し、損害を共に排除する政治政策的な利害関係で結びついていなければ、1960年代初めの岸信介の時代から70年も経たこんにちに至るまでの延々とした両者関係の系譜は成り立つことはなかったろう。いわば岸信介時代から安倍晋三に至るまで、両者を中心的系譜とした自民党は旧統一教会とは政治政策的な利害を共にする関係を築いてきた。利害を共にしてこそ、密度の濃い長期の関係性を見せることになる。密度が希薄なら、双方共に相手方に対する利用価値の減少を意味することになって、関係は立ち枯れていたはずだが、実際には逆の現象を来していた事実は密度の濃い利用価値を共有する利害関係を延々と、ときには細まることはあったとしても、築いてきたことの証明以外の何ものでもない。

 また、政治政策的な利害関係で結びつく関係とは双方共に相手に対する利用価値を有しているという関係にほかならない。いわば片側通行の利用価値、一方通行の利用価値であったなら、一時的にはあっても、継続性を持たせた利害関係は成り立たない。双方向の利用価値あってこそ、相互的な利害関係が成り立ち、長期に維持されていく。

 安倍晋三が自民党と旧統一教会の政治政策的な利害関係維持の主導権を握るようになったのは岸信介との繋がりでその孫が小泉政権下で官房長官という実力者にのし上がってからか、第一次政権で首相の座に就き、政府を自民党トップとして仕切ることになって以来かは時期そのものは不明だが、旧統一教会と自民党を結びつける首魁と言ってもいい主導者の地位にあったことは、例え本人があの世に行ってしまったとしても、関係者の証言やマスメディアの調査等に基づいた数々の報道事実を突き合わせて、重なり合う部分を拾い出し、前後の整合性を保持しさえすれば、事実の骨格程度は描くことができる。だが、こういったことをする意図は岸田文雄からは一切窺うことはできない。亡くなったとはいえ、岸田政権の生みの親である安倍晋三の権威を失墜させる訳にはいかないからだろう。失墜させたなら、岸田政権自体の権威を傷つけることになりかねないだけではなく、日本の憲政史上最長政権という名誉も、7年8ヶ月も総理大臣に据え続けていた自民党の良識に対する国民の信用も剥げ落としかねない。岸田文雄としては安倍晋三の権威を守ることによって自身の権威を守らざるを得ない永遠の結託関係にある。安倍晋三と旧統一教会との関係の検証など、以っての外ということなのだろう。

 最初に断っておくが、「『限界』という言葉は一定程度範囲外の困難性を意味するが、逆に一定程度範囲内の可能性を意味する言葉となる。"絶対不可"という意味は持たない。前者の困難性を乗り越えてでも、調査・検証の必要性を見い出せるかどうかが"限界"への挑戦を可能とし得る。

 次は岸田文雄の国会答弁から、同様の発言を見てみることにする。最初は2022年9月8日の衆議院議院運営委員会。

 泉健太「さて、統一教会問題や霊感商法被害、そして統一教会における多額の献金による家庭崩壊、生活破綻、さらには日本からの韓国方面への多額の送金、様々な問題が上がっています。そして、自民党との密接な関係も言われている。多数の議員が関係を持ち、安倍元総理は、元総理秘書官の井上義行候補を、今回、教団の組織的支援で当選させたわけです。

 この自民党と統一教会との関係を考えた場合に、総理、安倍元総理が最もキーパーソンだったんじゃないですか。お答えください」

 岸田文雄「まず冒頭一言申し上げさせていただきますが、本日、内閣総理大臣として答弁に立たせていただいております。自民党のありようについて国会の場において自民党総裁として答えることは控えるべきものであると思いますが、ただ、昨今の様々な諸般の事情を考えますときに、これはあえて国会の場でお答えをさせていただくということを御理解いただきたいと思います。

 そして、安倍元総理の統一教会との関係については、それぞれ、御本人の当時の様々な情勢における判断に基づくものであります。ですから、今の時点で、本人が亡くなられたこの時点において、その実態を十分に把握することは限界があると思っております」

 泉健太「改めてですけれども、今の総理のようなお話が私はこの世の中の反発になっていると思いますよ。どう見たって、岸家、安倍家三代にわたってやはり統一教会との関係を築いてきたし、それを多くの議員たちに広げてきたというのは、もう多くの国民は分かっているんじゃないでしょうか。

 そういう中で、今、総理は、調査、点検とおっしゃった。安倍元総理御本人に聞くことはもうできない。でも、安倍元総理がどういうふうなスケジュールで動いていたか、これは事務所は分かっておられるはずでしょう、秘書だって分かっておられるはずでしょう。それであれば、なぜ、今回、党の調査では安倍事務所を外しておられるんですか。これはやはりおかしいですよ。

 国葬にふさわしいかどうかということの中に、今多くの国民が、統一教会との関係をやはり頭の中に入れている。そういうときに、まさにその御本人がどうだったかというのは、本人に聞くばかりじゃないですよね、調べることが可能じゃないですか。私は、是非、自民党は、岸田総裁はそれを約束するべきだと思います」

 岸田文雄「先ず一点目の御指摘については、先程も申し上げましたが、具体的な行動の判断、これは当時の本人の判断でありますので、本人がお亡くなりになった今、確認するには限界があるという認識に立っております」

 記者会見質疑の発言では"本人死亡限界説"のみであったが、ここでは安倍晋三と統一教会との関係は「御本人の当時の様々な情勢における判断」、あるいは「当時の本人の判断」に閉じ込めた上で"本人死亡限界説"を持ち出している。

 「具体的な行動の判断」は内心に思い描く性質上、他人は外からは窺い知ることはできないが、行動への思い描きを内心にのみとどめていたなら、政治家として成り立たない。「行動の判断」を実際的な行動の意思として本人の判断のみにとどめずに周囲に洩らす場合もあるし、行動への協力を求めるために気の置けない関係者には話しておく場合もある。行動の判断で終わらせずに具体的な行動へと進めた場合は実際の行動から内心の判断との関連を推察できることもある。「本人の判断」だからと言って、確認しようがないというわけではない。行動の具体的な形から初期的な行動の判断は本人の内心をかいくぐって判断できることもある。このことは本人が死亡、生存に関わらず、可能なことである。こういった点が"本人死亡限界説"を無効とする条件となりうる。

 にも関わらず岸田文雄は実際の行動から「本人の判断」を検証する労も取らずに死人に口なしの"本人死亡限界説"で安倍晋三と統一教会との関係実態を葬り去ろうとするのはこのことの矛盾自体に整合性を与える唯一の理由はやはり自身の権威を守るために安倍晋三の権威を失墜させるわけにはいかないことと国民の自民党に対する風当たりを躱(かわ)すためにもその権威を何が何でも守らざるを得ないと見るほかはない。

 朝日新聞記者が総理大臣記者会見で岸田文雄に安倍晋三と旧統一教会の関係を検証すべきではないのかと問い質したのが2022年8月31日。この様子を立憲民主党代表の泉健太が知らなかったでは済まない。知らなかったとしたら、不注意に過ぎるし、不勉強が過ぎる。泉健太は8日後の2022年9月8日の衆議院議院運営委員会で同じような質問をし、同じような答弁を返されたに過ぎない何一つ変わらない収穫を手にしたのみであった。どのような進展も手に入れることはできなかった。総理大臣記者会見の岸田答弁から何一つ学習していなかったことを意味することになる。

 では、ここで自民党と旧統一教会の協力関係の系譜を成す発端となった岸信介時代のいくつかの事実を「Wikipedia」の「国際勝共連合」の項目から眺めて、予備知識として貰う。

 1968年
1月13日、韓国で「国際勝共連合」を設立。
4月1日、日本で「国際勝共連合」を設立。日本統一協会の初代会長の久保木修己が会長に就任。笹川良一が名誉会長に就任。

 「Wikipedia」の「岸信介」の項目には、〈岸は椎名悦三郎・瀬島龍三・笹川良一・児玉誉士夫ら満州人脈を形成し〉ていたとあり、〈岸は文(鮮明)、笹川良一、児玉誉士夫らと協力して、日本でも国際勝共連合を設立した。〉とある。総理大臣退陣の1960年7月19日から8年後ではあるが、岸信介が国際勝共連合と関わりを持ったのは強固な反共主義者である関係から当然の成り行きと見ることができるが、旧統一教会という宗教団体を創設した文鮮明本人が反共主義者であったからこそ、韓国で反共を掲げる関連団体の国際勝共連合を立ち上げたはずで、日本で「国際勝共連合」を立ち上げる前の1964年に渋谷区南平台町の岸邸の隣に教団本部が移転し、教団との関係が始まった際、教祖文鮮明によって代表される教団の思想を知り得たはずで、それ以降からの岸信介と文鮮明との思想的な共鳴を通した関係と見なければならない。

 思想的な共鳴は相互的な利用価値そのものを生み出す、あるいは提供し合う機会を形作っていき、政治政策的な利害関係を伴走者とすることになる。両者のこのような関係性の極めつけがアメリカで脱税容疑で起訴され、1984年4月に懲役1年6カ月の実刑判決を受けて連邦刑務所に収監されていた文鮮明の釈放を願う1984年11月26日付けの書簡を岸信介が当時の米大統領ドナルド・レーガンに出すことになった事実であろう。2022年7月20日付ネット記事ディリー新潮が伝えている。

 《安倍家と統一教会との“深い関係”を示す機密文書を発見 米大統領に「文鮮明の釈放」を嘆願していた岸信介》

 この書簡は米カリフォルニア州のロナルド・レーガン大統領図書館のファイルに収められていると記事は伝えている。

 〈文尊師は、現在、不当にも拘禁されています。貴殿のご協力を得て、私は是が非でも、できる限り早く、彼が不当な拘禁から解放されるよう、お願いしたいと思います〉

 〈文尊師は、誠実な男であり、自由の理念の促進と共産主義の誤りを正すことに生涯をかけて取り組んでいると私は理解しております〉

 〈彼の存在は、現在、そして将来にわたって、希少かつ貴重なものであり、自由と民主主義の維持にとって不可欠なものであります〉――

 記事は、〈結局、釈放は難しいと判断され、文鮮明が出所できたのは翌85年の夏だった。〉となっている。

 「Wikipedia」の「文鮮明」の項目には、アメリカ合衆国で懲役1年6ヶ月の実刑判決を受けたため出入国管理及び難民認定法第5条1項4号の規定により「日本上陸拒否者」となった文鮮明だが、岸信介没後約5年後近くの1992年3月26日に上陸特別許可によって日本に入国している。同項目には、〈この許可については法務省に対し金丸信(当時自民党副総裁)から政治的圧力があったといわれている。〉とあるが、事実を証明する材料がないにしても、5日後の1992年3月31日に自民党副総裁の身分でありながら、文鮮明と〈2時間半に渡り会談、うち1時間は2人だけの密室会見だった。〉と伝えている事実と、岸信介がドナルド・レーガンに文鮮明釈放嘆願の書簡を送付した事実からすると、状況証拠としては圧力説の疑いが濃厚となる。

 この1992年3月31日の文鮮明・金丸信会談の2日前の1992年3月29日に引退後4年半近くの中曽根康弘が文鮮明と会談との記述を見受けることができる。岸信介、金丸信、中曽根康弘といった自民党の大物が、さらに政界黒幕として隠然たる勢力を誇り、自民党に多大な影響力を持っていた右翼笹川良一や児玉誉士夫らが文鮮明と親しい関係にあった事実は両者間の政治政策的な利害関係の深さを物語ることになり、その深さに応じて相互間の利用価値は相当なものがあったと窺うことができる。利用価値なくしてどのような利害関係も生じない。

 前記「国際勝共連合」の項目には、〈日本では日米安全保障条約の自動延長に社会党や共産党が反対し、新左翼による暴力や機動隊などとの衝突が繰り返されており、学生運動が激しさを増した「70年安保闘争」の国内状況の中で、(保守派や右翼等が)「反共」という目的が一致したことで、家庭連合(宗教法人世界基督教統一神霊協会(現・世界平和統一家庭連合)、いわゆる「統一協会」)の教義のカルト性を棚上げにし、反共という一致点で新左翼の暴力対応や選挙ボランティア支援を受け入れていた。〉云々と政治政策的な利害関係を挙げ、利用価値の概要を伝えている。

 こういった事実関係がこんにちにまで続いてきた旧統一教会と安倍晋三を中心とした自民党との政治政策的な利害関係の系譜の大本を成していた。自民党も旧統一教会も、双方共に相手方から利用価値としての効果を見い出すことができていた。だから、かくも長きに亘って関係を続けることができた。

 旧統一教会系開催の「世界文化体育大典」の「希望の日 晩餐会」ページに、〈希望の日晩餐会が、1974年(昭和49年)5月7日 東京・帝国ホテルで行われた。文鮮明の講演会「希望の日晩餐会」では、岸信介元首相が名誉実行委員長となっており、福田赳夫大蔵大臣が祝辞を述べ、「アジアに偉大な指導者現るその名を文鮮明と言う」と語った。〉と出ている。

 そこにある動画には福田赳夫の祝辞の様子が映し出されているが、祝辞後の場面は水滴様の模様を入れて隠しているものの、ネットに流布している同じ動画では福田赳夫と文鮮明がお互いの背中に両手を回し合う抱擁でそれぞれの背中を叩き合う親密な敬意を示す様子が映し出さている。どのような祝辞を述べたのか、その内容は「Wikipedia」の「世界平和統一家庭連合」の項目に紹介されている。

 「東洋に偉大な指導者現る。その名は文鮮明、ということを聞いて久しいのですが、今日、親しく文先生の教えを聞くことができて、とてもいい晩だったなあという感じです。文先生に『お前たちは神の子である』といわれて、少し偉くなったような気分ですが、それは、そういわれるように国のために一生懸命に働け、ということだと思います」( 福田赳夫〜1974年5月、帝国ホテルにて)

 出典は、〈福田信之『文鮮明師と金日成主席―開かれた南北統一の道』世界日報社 p70~81〉と紹介されている。世界日報社は旧統一教会系のマスメディアで、なおこの希望の日晩餐会には、〈来賓として安倍晋太郎、中川一郎、倉石忠雄らの自民党議員が出席。〉と出ていて、安倍晋三の父親安倍晋太郎が来賓席にかしこまっていたことを窺うことができる。

 さらに、〈1976年12月17日、帝国ホテルで教団系のイベント「希望の日実行委員会」が開催され、名誉委員長には岸信介、実行委員長には三菱電機元会長の高杉晋一や日本生産性本部会長の郷司浩平らが名を連ねた。会合には船田中、増田甲子七、石原慎太郎、毛利松平、中川一郎らの自民党議員が出席し、その他にも数十人の議員が祝電を送った。石原慎太郎は来賓代表として「敬愛する久保木先生…私は同志として選挙運動を助けてもらいましたが、こんなに立派な青年がいまの日本にいるのかと思った」と久保木修己を絶賛するスピーチを行った。〉との記述も見かけることができるが、このイベントでも岸信介が名誉委員長を務めているから、文鮮明との付き合いは政治政策的に相当に親密な利害関係にあったことの裏付けとなるし、相当な利用価値を受け、文鮮明側にも相当な利用価値を与えもしていたはずである。でなければ、こういった関係は生じない。そして石原慎太郎も選挙運動でそういった利用価値のお裾分けを受けていた。尤も本人そのものは芥川賞受賞作家としての知名度はあったが、映画俳優の弟石原裕次郎の当時の絶大なる人気に大衆的な知名度の点で助けられ、稼いだ票数から比較したら旧統一教会信者の電話作戦とか、ポスター貼りや直接的な投票で稼ぐ票数はかなり見劣りすることになるだろうが、無報酬で労を惜しまずに忠実に働く点で一定程度は重宝する利用価値を受けていたことになる。

 旧統一教会と自民党との政治政策的な利害関係の系譜の中で特筆できる最適な出来事の一例として安倍晋三の銃撃死によって世間に広く知られることになった旧統一教会系団体の大会に送った安倍晋三のビデオメッセージを挙げることができる。
 《「神統一韓国のためのTHINK TANK 2022希望前進大会」での安倍晋三の基調講演》(You Tube)

 安倍晋三「日本国前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPF(天宙平和連合)の主催のもと、より良い世界実現のための対話と諸問題の平和的解決のためにおよそ150カ国の国家首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で世界平和を共にけん引してきた盟友のトランプ大統領とともに演説の機会をいただいたとことを光栄に思います。

 特にこの度出帆したThinktank2022の果たす役割は大きなものであると期待をしております。今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(ハン・ハクチヤ)総裁を始め、皆様の経緯を表します。

 さて、いまだ終息の見えないコロナ禍のなかではありますが、特別な歴史的意味を持つこととなった東京オリンピック・パラリンピック大会を多くの感動とともに無事閉幕することができました。ご支援をいただいた世界中の人々に感謝したいと思います。史上初の1年延期、選手村以外外出禁止、無観客等、数々の困難を超え、開催できたアスリートの姿は世界中の人々に勇気と感動を与え、未来への灯(あかり)をともすことできたと思います。そしてイデオロギー、宗教、民族、国家、人種の違いを超えて、感動を共有できたことは世界中の人々が人間としての絆を再認識する契機となったと信じます。
 
 コロナ禍に覆われる世界で不安が人々の心を覆いつつあります。全体国家と民主主義国家の優位性が比較される異常事態となっております。人間としての絆は強制されて作られるべきではありません。感動と共感は自発的なものであります。人と人との絆は自由と民主主義の原則によって支えなければならないと信じます。

 一部の国が全体主義・覇権主義国家が力による現状変更を行おうとする策動を阻止しなければなりません。私は自由で開かれたインド太平洋の実現を継続的に訴え続けました。そして今や米国の戦略となり、欧州を含めた世界の戦略となりました。自由で開かれたインド太平洋戦略にとって台湾環境の平和と安定の維持は必須条件です。日本、米国、台湾、韓国など自由と民主主義を共有する国々の更なる結束が求められています。UPFの平和ビジョンにおいて家庭の価値を強調する点を高く評価いたします。世界人権宣言にあるように家庭は社会の自然かつ基礎的集団としての普遍的価値を持っています。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう。

 いつの時代も理想に向かう情熱が歴史を動かしてきました。理想の前には常に壁があります。よって戦いがあるのです。情熱を持って戦う人が歴史を動かしてきました。自由都民主義を共有する国々の団結、台湾海峡の平和と安定の維持、そして平和半島の平和的統一の実現を成し遂げるためにはとてつもない情熱を持った人々によるリーダーシップが必要です。

 この希望前進大会が大きな力を与えてくれると確信いたします。ありがとうございました」

 統一教会教祖文鮮明の三番目の妻韓鶴子(ハン・ハクチヤ)は教祖文鮮明と共にUPF(天宙平和連合)の創設者として名を連ね、同時に文鮮明死後、現統一教会(世界平和統一家庭連合)の総裁を務めている。UPF議長に誰が就いていようと、韓鶴子(ハン・ハクチヤ)が事実上のナンバーワンということなのだろう。世界で300万人、日本で60万人と言われている統一教会の信者を相手にしてビデオで政治的なメッセージを発信すること自体が安倍晋三と統一教会の政治政策的な利害関係は生半可ではないことを物語ることになる。そしてこの利害関係には生半可ではない程度に応じた双方向からの利用価値が埋め込まれていることになる。韓鶴子(ハン・ハクチヤ)にしても利用価値なくして安倍晋三にビデオメッセージを求めはしないだろうし、安倍晋三にしても旧統一教会に対して何も利用価値なくしてビデオメッセージに応じたりはしないだろう。

 ここで岸信介とその孫安倍晋三に受け継がれることになった旧統一教会との間の政治政策的な利害関係の系譜の中間点をなす岸の娘婿であり、安倍晋三の父親である安倍晋太郎は結果的に旧統一教会に対してどのような位置に立たされ、安倍晋三にどのような意味を与えていたのだろうか見てみることにする。 

 「旧統一教会関連団体トップに問う 教会と政治、安倍元首相との関わり」(NHKクローズアップ現代/2022年8月29日 午後6:59)
     
 -国際勝共連合としては、岸信介さん、安倍晋太郎さん、安倍晋三さんと3代にわたって応援してきた関係性を指摘されています。その理由をご説明いただけますか。

梶栗(正義)氏(国際勝共連合会長)

結果としてそうなっていますが、「3代」だから応援をさせていただいたのではない、ということをご理解いただけたらと思います。岸信介先生は、古くから国際勝共運動のよき理解者であり、そのような立場から私たちは応援させていただきました。安倍晋太郎先生は岸先生の娘婿だから応援させていただいたのではなく、晋太郎先生の率いた清和研究会の前任者・福田赳夫先生を応援させていただいた延長線上に、晋太郎先生の政治姿勢を応援させていただいた。安倍晋三先生においても、晋太郎先生の息子さんだからというよりも、その政治的姿勢を評価して応援させていただいた。数ある反共意識の高い政治指導者を応援させていただいてきた中に、特に安倍家3代の皆様もおられたということだと思います。

-安倍元首相を具体的に応援するようになったのはいつ頃からなのか、その理由について教えていただけますか。

梶栗氏

自民党が政権復帰を果たした2012年頃から応援をさせていただいたと思います。理由は、安倍元首相の国家観、政治姿勢を高く評価したからです。

-そこに至った経緯について、詳しく伺えますか。

梶栗氏

私たちとしては、共産主義の脅威から国民の平和と安全を守らなくてはいけないという観点から、与野党を問わず反共意識の高い政治家を応援させていただいてきた歴史的経緯があります。安倍元首相については、反共意識が高い方が国のトップに立たれたということで引き続き応援させていただいた、ということになろうかと思います。政治家個人ということであれば、地元山口で、ひとりの衆議院議員として(以前から)応援させていただいてきたということは、間違いなくあると思います。

-関係はずっと続いていたと。

梶栗氏

先方がどのような認識をしておられたかわかりませんが、後援会活動の中で、私たちの会員の皆さんがそれなりの役割を果たしたのではないか、と思っています。

 「後援会活動の中で」とは主に選挙活動ということで、ときには後援会主催のイベント等に裏方として便宜を図ってきたということなのだろう。

 もう一つ、《「日本はとんでもない間違いをした」岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三…3代続く関係性から見える旧統一教会が目指した“国家宗教” 》(TBSテレビ報道特集/2022年9月24日(土) 22:20)から安倍晋三の父安倍晋太郎と旧統一教会の関係をみてみる。 

 文鮮明の言葉。

 「中曽根の背後を引き継ぐために、その直系になれるのは、安倍(晋太郎)さんしかいませんでした。選挙の時、安倍さんの派閥の議席数は13しかなかったんです。それを88名まで、全部教育して育ててあげました」――

 自身の力を誇示する一種のハッタリだろうが、選挙への関与を示して余りある。教祖の教え・指示に絶対的に心服する信者を無償労働力として提供するのだから、手当が少ないとか、そのほかの文句を一つ並べずに体の続く限りに働いてくれて、重宝な裏方の選挙戦力になったに違いない。しかしこのような便利な選挙補助は統一教会によって社会正義に反する集金システムで蓄財した資金力をバックに教団の言いなりに動く信者を通して与えられた利用価値であって、統一教会と自由民主党間のこのような政治政策的な利害関係の構図は社会正義に反する集金システムが絡んでいる一点のみを取ったとしても、社会的正当性を得る資格はない。石原慎太郎に対する旧統一教会側からの選挙補助に対しても同列な指摘ができる。

 文鮮明は中曽根後の後継に安倍晋太郎を望んだものの思いどおりには事は運ばなかった。中曽根は3選禁止のルールによって2期目任期は1986年9月迄と決まっていたところ、突如衆院を解散、1986年7月6日に衆参同日選挙を決行、与党自民党大勝の功績により中曽根の自民党総裁としての任期が特例で1年延長され、翌1987年10月30日までの任期となり、竹下登、安倍晋太郎、宮沢喜一の3人が後継に名乗りを上げたものの、1987年(昭和62年)10月20日に中曽根がいわゆる“中曽根裁定”によって党幹事長竹下登を次期総裁に指名、安倍晋太郎は後継レースに敗れることになった。文鮮明の後継レースそのものに対する影響力は取り立てて言う程のことはなかったことになる。密接な関係にあった岸信介が首相を退陣したのが30年近く前の1960年7月19日、90歳で没したのが中曽根裁定約2ヶ月半前の1987年8月7日。岸信介の実質的な政治的影響力は見る陰もなく消失、しかも直系ではなく、娘婿ときているから、数を集める決定的な後ろ盾としては遥か背景に退いていて、その前に中曽根が現首相としての存在感を持ち、立ちはだかっていたといったところだろうか。

 安倍晋太郎は1987年11月6日の竹下内閣成立時に自民党幹事長に就任したが、1年半後の1989年(平成元年)4月18日に膵臓がんで入院、同年7月25日退院、1991年(平成3年)1月19日に「風邪」を病名として再入院、1991年5月15日、入院先で死去、67歳。死因膵臓癌。出典は「安倍晋太郎」(Wikipedia)

 安倍晋太郎は2度と総理の椅子に就くチャンスに恵まれることなくこの世を去った。その子安倍晋三はもしかしたら、あくまでも推測だが、文鮮明が父親の安倍晋太郎を首相に推してくれたことに対する恩義が旧統一教会に肩入れをする思い入れとなっていたのかもしれない。勿論、反共思想を共通の素地としていたこと、その信者たちから選挙活動や後援会活動の際、使い勝手のよい無償の熱心な奉仕を望めること、同様の奉仕を他議員にも斡旋して、その議員に対する影響力を手中に納めることが可能といった利用価値を望めること、その代償として統一教会の会合やイベントにその趣旨に対して政治を通した自分たちの世間的知名度に基づいた支持や賛同をメッセージや挨拶という形で提供して統一教会側の得点とする利用価値を与えて、その相互的利益付与を交換条件とした政治政策的な利害関係を持てることの現実的実利が後押ししていた、安倍晋三と統一教会との接近の一番の理由といったところなのだろう。繰り返して言うことになるが、どのような利用価値も望むことはできないそのような利害関係は存在しないからである。

 但し安倍晋三側、あるいは自民党側が旧統一教会に対してどのような利用価値を持ち、どのような政治政策的な利害関係を築いていたとしても、既に触れたように旧統一教会が社会正義に反する不法な集金システムで組織を太らせ、蓄財したその資金力と信者を使った人的資源が与えてくれる利用価値であり、そのような政治政策的な利害関係が社会的正当性を欠いている点に変わりはない。そしてこのような両者関係にあるという点にこそ、岸田文雄の"本人死亡限界説"が示している安倍晋三と統一教会の関係調査・検証の一定程度範囲外の困難性を乗り越えてでも、進めなければならない理由がある。

 では、旧統一教会と自民党との政治政策的な利害関係は懸念されているように旧統一教会の自らの政治思想を自民党の政策に変えて、間接的に旧統一教会好みの政治社会に持っていくことができる程に支配的な力を有しているのかどうかを見てみることにする。先に挙げた「TBSテレビ報道特集」記事の中に次のような一文が記されている。

〈■統一教が日本の国家宗教になるまで「何十年も遅れる」

元信者
「総理大臣を文鮮明が決めていると言われてました。ちょうど中曽根総理大臣から、次の総理はだれになるかということで、安倍さんのお父さんが次の総理大臣になるというふうに言われたというところが、竹下さんになってしまったので、日本はとんでもない間違いをしたと。これで日本の復帰は何十年も遅れると」

日本の復帰。つまり、統一教が日本の国家宗教になるのが、晋太郎氏が総理に就けなかったことで何十年も遅れるといわれたのだという。〉――

 元信者の言葉に矛盾があることに元信者自身が気づいていない。中曽根裁定が歴史の事実として控えている以上、文鮮明に日本の首相を決める力など存在しないことの証明でしかない。信者たちに日本では政治的に凄い力を持っていると思わせる大言壮語に過ぎない。その大言壮語を事実らしく見せかけるために旧統一教会の様々なイベントや会合に自民党の有力議員を出席させ、挨拶させる、あるいはメッセージを送らせる利用価値を必要とし、利用価値の見返りに信者を選挙運動に無償派遣して、得票獲得に有利となる様々な便宜を与えて、議員側の利用価値とさせるという関係を築くことになっていたのだろう。

 文鮮明が「日本の復帰」イコール統一教の日本の国家宗教化を望んでいたということは日本の政治を文鮮明が思いのままに支配することを望んでいたことになるが、その望みと現実の間には安倍晋太郎に総理の椅子を与えることに失敗した一例からして、望みを潰えさせる程の距離があるように見える。実際はどうだったのだろうか、立憲民主党代表の泉健太が質疑を行った2022年9月8日衆議院議院運営委員会で最後に質疑に立った共産党議員の塩川鉄也が旧統一教会の自民党政権に対する政策的影響力について質した。

  塩川鉄也「もう一つ申し上げたいのが、政策への影響の問題であります。

 統一協会とその関連団体は、選択的夫婦別姓や同性婚について反対を主張し、国政や地方政治への働きかけを行ってきました。安倍氏は、統一協会の、家庭の価値を強調する点を高く評価しますとも述べておりました。安倍氏と統一協会の親密な関係が、選択的夫婦別姓や同性婚に否定的な自民党や政府の政策に影響を及ぼしたのではありませんか。
 
 岸田文雄「まず、政府においても、政策を決定する際には、多くの国民の皆さんの意見を聞き、有識者、専門家とも議論を行い、その結果として政策を判断しています。一部特定の団体によって全体がゆがめられるということはないと思っておりますし、また、自民党においても、国民の声を聞く、また、政府から、様々な関係省庁の説明を受ける、さらには専門家、有識者の意見を聞く、こうした丁寧な議論を積み重ねて政策を決定しております。

 一部の団体の意見に振り回されるということはないと信じております」

 塩川鉄也「安倍氏は、反社会的団体の統一協会の広告塔であり、統一協会の選挙応援の司令塔だった。さらに、選択的夫婦別姓反対や同性婚反対、憲法改正など、統一協会の政策面での影響が問われております。岸田総理は、安倍氏と統一協会との関係について調査も行わず、国葬を行うのか。これでは国民の理解は得られない。

 国葬は中止すべきだと申し上げて、質問を終わります」(以上)

 塩川鉄也が「安倍氏は、統一協会の、家庭の価値を強調する点を高く評価しますとも述べておりました」と指摘している点は先に挙げた安倍晋三のUPF(天宙平和連合)に寄せたビデオメッセージ内の発言を指すが、統一教会が掲げる家庭の価値を守るための選択的夫婦別姓制度反対のキャンペーンは関連団体「国際勝共連合」のサイトに記載がある。

 《『選択的夫婦別姓 制度』やっぱり危ない!5つの理由》  

1.日本の婚姻・家族制度を弱体化し破壊する
2.夫婦別姓は親子別姓。子供たちの福祉が脅かされる
3.日本で提唱されている夫婦別姓は「ファミリーネームの廃止」に向かう
4.推進派の思想の根底は、家族制度を敵視する「共産主義」
5.夫婦別姓容認派多数は悪質な印象操作!『通称名拡大での対応』は夫婦別姓反対派と分類すべき――

 この反対キャンペーンは安倍晋三と精神的に性愛関係にある高市早苗の反対論とほぼ重なる。

 塩川鉄也は選択的夫婦別姓や同性婚反対の旧統一教会の政治思想が自民党議員の一定数に影響を与え、反対気運の形成に成功していないかといった趣旨の疑いをぶつけた。対して岸田文雄は「一部特定の団体によって全体がゆがめられるということはないと思っております」、「一部の団体の意見に振り回されるということはないと信じております」と答えている。「思っております」、「信じております」は単なる推測で、事実をイコールする証明とすることはできない。事実とするには検証し、その結果の提示が必要となる。検証もせず、その結果を提示もせずに「思っております」、「信じております」の推測に基づいて、統一教会の政治思想の影響を受けて自民党の政策が歪められることも、振り回されることもない、「これが“事実”です」と矛盾したことを言っているに過ぎない。塩川鉄也はこの点を突くべきだったが、時間の関係か、突くことはしなかった。

 塩川鉄也の「安倍氏と統一協会の親密な関係が選択的夫婦別姓や同性婚に否定的な自民党や政府の政策に影響を及ぼしたのではありませんか」の指摘を事実とすることができるかどうか見てみる。安倍晋三も選択的夫婦別姓制度や同性婚制度の反対派で、何しろ生存中は自民党最大派閥のボスという立場からも、首相在任中は派閥を離れてはいたものの、首相という立場からも出身派閥に対する影響力は離れているいないに関係しないことと、選挙での公認推薦に大きな力を握っていたということは派閥に関係せずに多くの自民党議員の首根っこを押さえていることのできる状況を手にしていたことになり、安倍晋三自身の政治思想が影響を与えていた結果の選択的夫婦別姓制度や同性婚制度反対の自民党の大勢ということもありうる。

 このいい例として2021年3月25日に自民党内に設立、総会を開いた「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の設立の呼びかけ人の一人だった岸田文雄が首相になった途端に法制化に慎重な姿勢に転じたのは最終的には安倍晋三の支持で首相になれたからで、その選択的夫婦別姓制度反対の姿勢に逆らうことができなかったことを挙げることできる。

 つまり旧統一教会も安倍晋三も共に反共・保守主義という立場を取っていて政策を似通せているものの、実際は安倍晋三発の形で自民党内での反対派が形成されることになったことが旧統一教会の働きかけによるものと見えるケースが生じていることも考えられるし、ほぼ政権党の地位にある反共・保守の自民党を布教活動に利用するために自らも反共・保守であることから旧統一教会の方から自民党の政策に抱きつき、結果として同じような政治思想を掲げることになったということも考えられる。いずれが実態かは旧統一教会と自民党が陰で政策協定でも結んでいない限り、検証は難しいと思われる。

 旧統一教会発の政策が自民党の政策に反映されたかのように見える一例を挙げてみる。以下、(Wikipedia)の「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(略してスパイ防止法)を参考にする。

 1980年1月、陸上幹部自衛官がソ連側情報機関に防衛庁の秘密文書を漏洩する事件が発生したが、自衛隊法第59条の守秘義務違反でしか罰することができず、与党であった自民党はこの事件を直接のきっかけとしてスパイ防止法制定の準備に入った。5年後の1985年6月6日の第102回国会に「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(スパイ防止法)が議員立法として衆議院に提出されたが、審議未了廃案となった。

 「国際勝共連合」のサイトにはこの年を約6年遡る出来事として、〈1979年 スパイ防止法制定3000万人署名国民運動〉、〈1980年 スパイ防止法制定促進都道府県民会議が全国に設立〉と紹介している。1979年は陸上幹部自衛官が秘密文書漏洩事件を起こす1年前で、あたかも旧統一教会が実現を促したスパイ防止法のように見えるが、2018年12月19日付の「NHK政治マガジン」《「秘密保護法」制定めぐり 岸元首相に米が厳しい要求》によると、1957年6月(20日)に初訪米した当時の日本の首相岸信介にアメリカ側が日本の防衛力増強を求めたうえで、新兵器に関する情報交換について「日本には秘密保護法ができていないので、これ以上の情報の供与はできない。日本で兵器の研究を進めるにはぜひとも新立法が必要だ」と迫ったのに対して岸信介は「科学的研究はぜひやらねばならないし、アメリカの援助も得たい。秘密保護法についてはいずれ立法措置を講じたい」と応じたと、2018年12月19日公開の外交文書で明らかになった事実として伝えている。

 つまり1957年後半当時の岸信介の頭にはスパイ防止法といった類いの法律制定の必要性が既に存在していた。日本で「国際勝共連合」が設立された1968年4月1日よりも約11年前である。岸信介と文鮮明との関係は既に触れたように旧統一協会が1964年7月に宗教法人として認証、同年11月に本部を東京都渋谷区にある岸信介宅隣に移転後だとされているが、岸信介が訪米話のついでにスパイ防止法といった類いの法律制定の必要性を話していたとしたら、陸上幹部自衛官防衛庁秘密文書漏洩事件を起こす1年前の1979年にスパイ防止法制定3000万人署名国民運動を全国的に展開したとしても不思議はないし、旧統一教会が求めて自民党が応じた政策だとは断言できないことになる。

 自民党の一定の政治、あるいは政治姿勢が旧統一教会側が求めたそれらであるかどうか、政策協定が締結されていない限り検証は困難であるとするなら、両者が歴史的に政治政策的に深い利害関係にあり、相互に利用価値を置いている無視できない関係にあることはマスコミ報道や自民党議員及び元信者の証言等によって明らかにされている事実から、その利害関係や利用価値の関係実態を検証することの方が利害関係を持ち、利用価値を受け入れ、自分たちのために活用してきた国会議員たちのその政治的・社会的正当性は問い詰めやすく、その面からの追及を優先させるべきではないだろうか。
  
 信者に「悪い霊を集める壺」等、霊験あらたかな神聖な品物であるかのように見せかけるか、あるいは信仰上の虚栄心を満足させる意図のもと安物を高額で売りつける霊感商法や植え付けた信仰心を利用して様々な言葉で恐れを抱かせ、それを解消する目的で、あるいは威嚇的な言葉まで用いて差し出させる多額な寄付金等を原資としたカネの力を用いて、信者を無報酬の人的資源として選挙の票数に直結させたり、選挙応援の形の利用価値を旧統一教会側から自民党側に提供、その見返りに自民党側からは議員の先生方の名前やメッセージを頂くことで知遇を得ていると思わせて既に獲得した信者の教団に対する信用を高め、忠誠心を鼓舞する材料とするか、あるいは新たな信者獲得の際の権威付けの材料とする利用価値は社会的正当性を欠いているだけではなく、双方の利用価値は本来的に無限に循環する構造を備えていて、少なくとも安倍晋三の銃撃死以後、この構造が問題視されるまで今まで挙げてきた双方それぞれの利用価値に基づいて、自民党側は政党として社会的正当性を欠く、それゆえに国民の信託を裏切る行為を、旧統一教会側は真の宗教団体としての社会的正当性を欠く、単に信者からカネを集めて政治的な権力を手に入れる行為を延々と循環させてきた。この点にこそ、責められなければならない問題点がある。

 この問題点を白日のもとに曝すには安倍晋三と統一教会との関係実態の調査・検証が是非必要になってくる。さらに言うと、自民党は国民の信託を裏切る国会議員を党内に多数を占めていたことはこの点に於いて政治集団としての資格を失う。霊感商法を展開、高額献金で多くの信者やその家族を経済的困窮に陥れた旧統一教会はこの点に於いて宗教団体としての資格を失う。このような利用価値に基づいた社会的正当性を欠いた政治政策的な利害関係を自民党内に機能させてきた中心的政治家は岸信介に始まって、安倍晋太郎、安倍晋三の系譜を主として辿ることができる。中心的政治家となりうる地位上の実力を備えていて、実力相応の目立つ形で政治政策的な利害関係を旧統一教会側と築いてきたからである。そして銃撃死するまで、安倍晋三が自民党側の代表格として居座り、社会的正当性を欠いた統一教会と自民党との間の政治政策的な利害関係を仲介する役割を担ってきた。

 以上、1960年代半の岸信介の時代からその孫である安倍晋三に至るまでの統一教会と自民党との密接な利害関係のほんの一部をネットで調べながら描き出してみた。参考になるかどうかは分からないが、これらの利害関係を頭に置いて貰って、安倍晋三と旧統一教会との関係の検証の必要性を排除する岸田文雄の発言の正当性を改めて眺めてみることにする。

 2022年10月6日衆議院本会議(代表質問)

 志位和夫(日本共産党委員長)「第四は、総理が、安倍元首相の調査について、限界があると背を向けていることです。

 安倍氏は統一協会の最大の広告塔だった政治家です。参院比例選挙で統一協会の会員票を差配する役割を担っていたとの証言もあります。故人になったとしても、関係者や関係書類の調査など、意思さえあれば調査できるはずです。安倍元首相と統一協会の癒着の全貌について、責任を持って調査すべきではありませんか。

 第五に、自民党と統一協会とは、1968年、笹川良一ら日本の右翼と岸信介元首相らが発起人となって、統一協会と一体の勝共連合を日本で発足させて以来の歴史的癒着関係があります。

 半世紀以上にわたって、自民党は統一協会を反共と改憲の先兵として利用し、統一協会は自民党の庇護の下に反社会的活動を拡大してきました。この歴史的癒着関係の全体を過去に遡って徹底的に調査し、国民に報告すべきではありませんか」

 岸田文雄「安倍元総理及び自民党と旧統一教会の関係についての調査についてお尋ねがありました。

 安倍元総理が旧統一教会とどのような関係を持っていたかの調査については、当時の様々な情勢における御本人の心の問題である以上、御本人が亡くなられた今、十分に把握することは限界があると考えております。関係者や関係書類を調査したとしても断片的にならざるを得ない上、本人が何も釈明、弁明できないなど、十分な調査はできないと考えております」――

 代表質問は一括質問一括答弁方式で、質問しっぱなし、答弁しっ放しで終わるから、答弁に対して別角度から質問し直すことはできないものの、岸田文雄が既に本人死亡を理由に調査・検証には限界があるとする"本人死亡限界説"を持ち出している以上、自民党と統一協会との関係の調査をストレートに求める同じ質問を繰り返すのではなく、"本人死亡限界説"を打ち破ることのできる論理を学習して、質問の方向を変えるべきだったが、泉健太の2022年9月8日の衆議院議院運営委員会からこの2022年10月6日の衆議院本会議まで約1ヶ月間と十分な時間がありながら、続けて同じことの繰り返しの質問と答弁で終わらせる収穫ゼロを見せたに過ぎなかった。

 調査拒否の理由は泉健太のときとほぼ似通っているが、具体的には「御本人の心の問題」だから、本人死亡で「十分に把握することは限界がある」に新たに加えて、「関係者や関係書類を調査したとしても断片的にならざるを得ない上、本人が何も釈明、弁明できないなど、十分な調査はできない」としている。だが、人間の如何なる行為も心の問題から発する。いい歳をした男性教師が女子生徒にスマホ等を使って卑猥な写真を送りつけるのも、本人の心がそうさせるのであり、政治家が国民の利益に適うとして政策を進めるのも、実際にはそれが選挙の票稼ぎであろうと、支持率回復の手立てだとしても、国民の生活上の利益向上を頭に置いていたとしても、全ては心がそうと命じる「心の問題」となる。当然、御本人が死亡していたとしても、心から発して何かしらの行為の形を取り、事実として現れた事象のみを取り上げて、それらの事象から行為の意図、目的、結果等を様々に推測はできる。そして数多くある推測のうちから、妥当性ある推測を個人それぞれが受け止めていけば、最も多くの妥当性を得た推測が事の実態と看做すにふさわしい資格を得るはずである。

 このように炙り出していく調査・検証を否定するとしたら、当事者も行為も既に過去の世界に沈んでしまっている歴史の検証はできないし、歴史を語ることもできない。  

 また、「本人が何も釈明、弁明できない」と言っているが、生前の「釈明、弁明」がウソ偽りのない事実そのものを口にするとは限らない。安倍晋三は国会で虚偽答弁の前科がある。「桜を見る会」に関わる国会答弁では報道で明らかになった検察の捜査に関する情報と食い違う答弁が少なくとも118回あったことが衆議院調査局の調査で明らかになっている。また自身に都合の悪い質問には直接答えずに無関係なことをそれとらしく答えて誤魔化すといった論点のすり替えといったこともする。死亡によって本人を取調べることができない以上、生存する関係者全員から旧統一教会に関する安倍晋三との関係事実を聴き出し、聴き出した事実から、少しの矛盾もゴマカシも見逃さない細心さで事実と誤魔化しを篩い分けていって、事実を一つ一つのピースにして関係の全体構造を組み立て、その全体構造から安倍晋三が統一教会と自民党の各議員の間で果たしてきた役割――相互的な利害関係が求め合うこととなっていた役割を拾い出していけば、自ずとその関係実態を描き出すことはできるだろう。正直さを当てにできない釈明、弁明を持ち出して、それができないことを理由に調査・検証を排除する岸田文雄はペテン師そのものである。

 志位和夫代表質問翌日に同じ共産党の小池晃が2022年10月7日参議院本会議で行った代表質問を見てみる。

 小池晃(共産党)「安倍晋三氏は、統一協会とは真逆の考え方に立つ政治家どころか、関連団体の会合に韓鶴子総裁を始め皆様に敬意を表しますというビデオメッセージまで送ったのに、なぜ調査対象にしないのですか。岸元首相以来、六十年以上にわたり自民党と統一協会、国際勝共連合が深い関係にあったことは周知の事実です。しかも、八年八か月、総理・総裁を務めた安倍氏と統一協会の関係について何の調査もせずに、自民党と統一協会に組織的関係はなかったとなぜ断じることができるのですか。

 参院議長を務めた伊達忠一氏は、安倍氏がどの候補者を統一協会に支援させるか差配していたことを実にリアルに証言しています。なぜ調査しないのですか。

 総理は、統一協会への解散命令について、信教の自由を理由に慎重な姿勢です。しかし、宗教法人格がなくなると税制上の優遇などは受けられなくなりますが、宗教団体としては活動ができます。総理は、今後も統一協会に宗教法人としての特権を付与して優遇することに国民の理解が得られるとお考えですか。

 政府は、宗教法人法に基づく解散命令を請求すべきです。それもせずに統一協会と関係を絶つなどと言っても、その場しのぎにすぎないのではありませんか」

 岸田文雄「安倍元総理及び自民党と旧統一教会との関係についての調査についてお尋ねがありました。

 安倍元総理が旧統一教会とどのような関係を持っていたかの調査については、当時の様々な情勢における御本人の心の問題である上に、本人がお亡くなりになった今、本人は何も釈明、弁明ができないなど、十分な調査はできないのではないかと考えております。

 自民党においては、所属国会議員と旧統一教会との関係について点検を行い、その結果を発表いたしました。旧統一教会との関係については、各議員が政治家の責任において丁寧に説明を尽くす必要があると考えており、今後も、各議員が最大限説明責任を果たすとともに、当該団体と関係を持たないことを徹底してまいります」――

 志位和夫と小池晃は質問内容に違いの工夫はあるが、突きつめると、両者だけではなく、ここで取り上げた質問者全員が安倍晋三と統一教会との関係の調査・検証の必要性を訴える、その域を出ない質問を行い、対する岸田文雄は朝日新聞記者の質問に対する答弁以降、新たな付け加えはあるが、ほぼ同じ答弁の繰り返しで調査・検証の必要性を拒否する口実に仕立てている。この繰り返しの過程で口実から何かを学習し、質問に何らかの工夫があって然るべきだが、何も学習せず、何の工夫もなく、岸田文雄に調査・検証の必要性拒否の同じ口実を何度でも使わせている。 

 本人死亡も、本人死亡釈明・弁明不能も調査・検証しない理由とはならない。既に周知の事実として現れている安倍晋三を仲介者とした統一教会側からの選挙補助を受けた複数の自民党議員に対する聴取を行い、事実関係を洗い出していき、洗い出すことができた諸事実を突き合わせて、どういったシステムとなっていたのか、選挙補助を受ける選択基準、優先順位、成果等の全体構造を真相解明していく。その全体構造が旧統一教会側から社会正義に反する集金システムで蓄財した資金力に基づいて教団の言いなりに動く信者を通して与えられた社会的公平性を欠いた選挙補助としての利用価値であることが明らかになっている以上、これらの利用価値の上に安倍晋三と統一教会との政治政策的な利害関係が成り立っていたことの詳細な実態は社会的公平性を欠いていた点で立証の努力を果たさなければならない。"本人死亡限界説"等の口実で拱手傍観は許されない。

 立証できたなら、当然、何らかの断罪の対象としなければならない。でなければ、岸田文雄は旧統一教会との関係を見直す必要性は生じない。その受益の社会的不法性を問わなければならないし、そのような利用価値を安倍晋三が統一教会と自民党議員の間に立ち、自民党議員に振る舞い、そのことを以って自らの政治的影響力の源泉とする主導的立場にいたことが判明したなら、その責任はどの自民党議員よりも重いことになる。

 但し真相解明に於いて選挙補助を便宜とした自民党議員自体の釈明・弁明が不正直な色彩に彩られている場合もあるし、検証・調査側が安倍晋三や自民党に味方するバイアスがかかっていたとしたら、真相解明は安倍晋三や自民党を無実とする方向に進む可能性が生じる。このことを防ぐためには当然のこととして検証・調査チームは第三者の立場にある人物で構成すること、聴取前にウソをついたり、口裏を合わせようとしたりする場合は表情に生理学的反応が現れ、その反応の性質で本当のことを話しているのか、ウソはいつかは露見するということを前以って伝えておくべきだろう。「露見したとき、慌てても遅いですよ」と牽制しておく。
 
 安倍晋三との関係で調査・検証対象としなければならない重要議員は2016年7月10日参議院選挙で比例区で当選した宮島喜文(よしふみ:当時64歳)と2022年7月10日の参院選比例区で当選した井上義行(59歳)としなければならないだろう。2人をネット記事頼りで順番に見てみる。

 「宮島喜文」(Wikipedia)

 統一教会との関係

 参院選における支援

2016年の参院選に、宮島は、同じ臨床検査技師出身で細田派に所属する伊達忠一からの打診を受け、立候補を決めた。「票が足りない」と踏んだ伊達は安倍晋三首相に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の組織票を回すよう依頼し、安倍はこれを了承。公示の直前、伊達は、「世界平和連合」の支援を取り付けたことを宮島に告げた。宮島は「世界平和連合」が統一教会と関係があると知らされて戸惑うが、陣営幹部から「上がつけてくれた団体ですから、もうあとには引けません」「外でおおっぴらに言っちゃいけません」と忠告された。この結果、宮島に統一教会の票が回り、宮島は自民党が比例で獲得した19議席中、17位で初当選を果たした。元事務所職員も宮島が「世界平和連合」から推薦を受けていたと証言し、宮島自身もその事実を認めた。

2022年の参院選に際して、宮島は安倍に2回会いに行き、前回選と同様に「世界平和連合」の支援を依頼した。しかし安倍は「6年前のような選挙協力は難しいかもしれない」と返答した。代わって伊達が接触すると、安倍はかつて自身の首相秘書官を務めた元職の井上義行に票を割り振ると述べ、明確に断った。再選の望みが薄いことを悟った宮島は同年4月に公認を辞退し、不出馬を選んだ。

 宮島喜文は当選後安倍派に所属したが、70歳を超える年齢と政治的力量の点で20歳も若い上に第1次安倍内閣で首相秘書官を務めていた近親性も含めて井上義行よりも利用価値が低いと見られたのだろう。安倍晋三の思惑一つ、差配一つで前回の参院選で宮島喜文に回された旧統一教会の票は剥がされ、2022年7月参院選では井上義行に回されることになった。井上義行は旧統一教会の力を実感したと同時に安倍晋三の自らの思惑、あるいは差配一つで統一教会を動かすことができる教団に対する強力な影響力を実感したに違いない。実感の現れの一つが統一教会の賛同会員になったという事実であり(信徒になったという噂もあるという)、その事実は統一教会とその関連団体の票を永続的なものにしたい思惑が生じせしめたものに違いない。当選と同時に、2選、3選と重ねていく自身を頭に思い描いたかもしれない。

 宮島喜文に対しては安倍晋三がどのような言葉で教団の票を回すと言ったのか、次は回すことはできないと断ったのか、井上義行に対してはどのような言葉で教団の票を回すと言ったのか、それぞれの言葉から両者共に旧統一教会とその関連団体に対しての安倍晋三の票を回す影響力をどの程度に感じ取ったのか、あるいは安倍晋三自身が自らの口から票を回すについての旧統一教会とその関連団体に対する自身の影響力の程度について話し、当選をどの程度に請け合ったのか、請け合わなかったのか。このような会話に基づいて安倍晋三という日本の首相が旧統一教会に対してどのような位置を占めていたのか、感じ取った感触等が解明できれば、旧統一教会側が日本の首相としての安倍晋三という名前そのものや存在自体を教団の権威付けのための利用価値に位置づけ、その利用価値によって新たな信者獲得の武器とし、既に獲得した信者の教団に対する信用と信頼を高めるさらなる道具としてきた、安倍晋三と旧統一教会との利害関係の程度と質が判断可能となり、利用価値を与え合う全体構図の一端は窺い知ることができる。

 勿論、統一教会が信者に対しての霊感商法を用いた高額商品の売りつけや法外な額の寄付金集めで手にしたカネを教団の規模拡大及び勢力拡張の原資とすることが当初からの戦略だったとしても、岸信介から始まって安倍晋三に至る大物政治家が身につけている優れた知名度と信用力を教団側の原資獲得の利用価値としてきたことはこの手の組織の常識的な常套手段で、自民党の保守的な政治思想及び政治主張と重なるそれらを統一教会側が特に関連団体を通して掲げ、団体の顔の一つとしてきたのだから、統一教会と自民党の利害関係は政治政策的な側面をも含み、双方向性を確立させていたことは勿論のことで、そのような利害関係はその性質から言って、社会的正当性を欠いていることは言うまでもないことで、調査・検証しないのは政治の、さらに政府の不都合を隠蔽する行為にほかならない。

 百歩譲って調査・検証したが、社会的正当性に反する事実が出てこなかったということになったとしても、あくまでも調査・検証の結果であって、社会的正当性が様々に疑われるにも関わらず、あれこれの口実を設けて調査・検証を排除し、疑われる社会的正当性をそのままに放置しておくことは一政党の社会的正当性を維持する役目を総裁の立場から責任者として負う、このことは首相の立場にも影響することであるが、岸田文雄側の政治の不作為に当たり、当然、責任問題を問わなければならない。

 以上、2023年1月30日からの衆院予算委員会からの質疑とは別に安倍晋三と旧統一教会との関係についての岸田文雄の調査・検証の必要性なしの発言を取り上げ、その正当性を検討してみた。検討の内容が的を得ているかどうかは判断して貰うしかない。野党は衆院予算委開始後、引き続いて調査・検証を直接的に求めると思っていたが、2023年1月30日と31日のNHKで放送した予算委員会実況中継では誰も求めなかった。例えば2023年1月30日の衆議院予算委では立憲の山井和則が統一教会側は現在も信者に対して高額献金を求める姿勢を崩していないなどとその違法性を頻りに訴え、岸田文雄から「組織の実態把握、被害者の救済、そして再発防止、この3点について改めて法の原理に従って取り組みを進めていく」といった答弁を手に入れてはいるが、統一教会の現在まで続く違法性に限った問題点の指摘であって、政治側が宗教団体の社会的な違法性を持たせた組織増殖に手を貸し、宗教団体側が選挙補助で政治側の党勢拡大に手を貸す、それぞれの利用価値を満たし合う政治と宗教団体の相互利害関係の維持・構築に安倍晋三が主導的役割を果たしていたのではないのか、その調査・検証を直接求める追及ではなかった。

 上出「NHKクローズアップ現代」にUPF(天宙平和連合)ジャパントップの梶栗正義が安倍晋三について「自民党が政権復帰を果たした2012年頃から応援をさせていただいたと思います。理由は、安倍元首相の国家観、政治姿勢を高く評価したからです」と述べ、「私たちが安倍政権をさまざまな形で応援させていただいてきた」とも述べている。要は統一教会側が安倍政権に対してそれ相当の利用価値を与えていた。一方通行の利用価値というものはあり得ないから、安倍政権側からも統一教会側に対して最低限、釣り合うだけの利用価値を提供してきた。結果、統一教会側と安倍政権は安倍晋三を窓口として長いこと相互的な利害関係を築くことができていたということでなければならない。
 
 統一教会側が社会正義に反する不当な集金システムで蓄えたカネの力、金力とその金力が深く関わって大きくすることができた組織力や権力をバックに政治家側に利益となる利用価値を提供、政治家側がその利用価値に応えて統一教会側との結びつきを見せることで世間的信用を担保する利用価値を提供、信者獲得や団体としての活動に便宜を与える利害関係を相互に築き合っていたこと、安倍晋三が政治家側の窓口となっていたことは事実そのとおりであって、事実そのとおりのことを事実認定するためには政府による、あるいは国会の国政調査権を用いて調査・検証する必要があり、前者の調査・検証は国会で岸田文雄に求め、"本人死亡限界説"などで逃げられることなく、認めさせなければならない。国政調査権は自民党が反対するのは目に見えているから、その反対を乗り越えなければならない。事実認定に向かわなければ、安倍晋三が窓口となって一宗教団体の不法活動に便宜を与えた事実は闇に葬り去られることになる。

 だが、野党は安倍晋三と統一教会との関係を追及することは予算委員会開催前までで、岸田文雄の"本人死亡限界説"に立ち往生してしまって、開催以後は2023年2月1日現在までのところ、音沙汰なしとなってしまっている。

 2023年2月1日衆院予算委員会では立憲の代表代行の西村智奈美が「旧統一教会と自民党との関わりは引き続き明らかにしていく必要がある」と大上段に構えはしたものの、4月に統一地方選を控えているからだろう、教団と自民党の地方組織や自治体議員の関係を調査するよう求めただけで、安倍晋三と統一教会との関係追及にまで踏み込むことはなかった。岸田文雄の"本人死亡限界説"に如何にお手上げ状態となっているかを窺うことができる。

 安倍晋三は森友学園国有地格安売却への便宜供与、加計学園獣医学部新設認可に於ける政治の私物化、総理大臣主催桜を見る会招待を巡る党ぐるみの選挙利用、その他その他の疑惑を引き起こしてきたが、「政教分離の原則」に抵触する統一教会という特定宗教と政治の相互的な加担という新たな疑惑が加わることになったが、野党は追及するものの何一つ証拠立てることができずに疑惑を疑惑のままに放置させることになるお決まりのコースに突入、時間経過による風化が待ち構えるいつもの状況に立たされている。

 追及相手の逃げ口上の論理を打ち破るだけの学習能力を持たない結果である。
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