菅義偉の「個々の研究についてはコメントを差し控えています」の答弁をそのままスルーさせる野党追及の甘さ加減

2021-02-01 11:50:48 | 政治
 安倍政権も菅政権も、コロナ対策として「感染拡大の防止と社会経済活動の両立」を公約としてきた。GO toキャンペーン等の社会経済活動の推進によって各業種の経済状況が向上しても、感染も拡大したなら、「両立」とした公約は破綻する。言わずもがなのことだが、感染も抑え、社会経済活動も活発化させることによって両立は公約として立派に成り立つ。

 2020年11月18日、厚生労働省の発表によると1日の新規陽性者数が2000人を初めて超えて、2179人と過去最多を更新した。同11月18日の東京都の新規感染者は8月1日の472人を上回って、過去最多の493人を記録した。いわゆる第3波の到来と言われた。

 年が明け、菅政権は2021年1月7日に感染拡大が著しい1都3県に緊急事態宣言を再発令した。翌2021年1月8日、東京都の新規陽性者は2392人を記録、過去最多となったが、増減を繰り返しながら、徐々に下降線を辿っていき、東京都の場合は2021年1月29日は868人、2021年1月30日は769人、2021年1月31日は633人と低い人数で推移していくまでになった。

 緊急事態宣言とは飲食店等の営業時間短縮、テレワークの拡大、不要不急の外出の自粛等の要請を柱としていて、これら全ては人の移動制限をベースとしている。人の移動制限こそが自動的で確実な3密回避状態を作り出す。逆に人の移動制限を解き、移動を活発化すれば、いくら気をつけていたとしても、3密回避に緩みが生じて、感染は拡大に向かう。

 あるいは人の移動制限の解除が人々を開放的な気分に否応もなしにいざなうことになって、そのような気分が多くの行動に波及して、コロナに対する警戒感を緩めてしまうといったことも起こり得て、そのことが感染を拡大する要因の一つとなっているのかもしれない。

 2021年1月26日衆議院予算委員会

 大西健介(立憲民主党)「今日も西浦先生、お呼びしましたけども、今日も来て頂くことができなかったですけども、これ、西浦先生はですね、Go toトラベルについてそれが開始されたあとに旅行に関する新型コロナウイルス感染者が最大6から7倍増加したという分析結果を発表されています。

 で、第2波は8月中旬までに減少に転じていたが、初期のGo to事業が感染拡大に影響を及ぼした可能性があると、こういう指摘をされているわけですけども、同じようにこういう指摘をしっかりと踏まえればですね、きのう総理はこの委員会でGO toトラベルは然るべき時期に再開したいと言っていましたけども、この科学的知見をまさにちゃんと踏まえて頂いていくと、再開するとまたぶり返すんじゃないか。またリバウンドするんじゃないか。

 また少なくともですね、再開する場合には今までと同じ形じゃなくて、遣り方を見直さなければいけないと思うのですけれども、菅総理、きのうは然るべきときに再開すると、言ってましたけども、これ、GO toトラベルはやっぱり影響するんだと、西浦先生言ってますけども、これ、どう受け止められますか」

 菅義偉「いずれにしろ一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたいと思います」

 大西健介「やっぱりね、私何度も言ってますけども、都合のいいとこだけつまみ食いだけするんでなくて、ちゃんと受け止めてほしいんですよ。

 それで先程の西浦教授のシミュレーションに戻ると、これ、緊急事態宣言発令の前日に開かれた厚生労働委員長のアドバイザリーボードでこのシミュレーションを西浦教授、しっかりと説明してるんですよ。ところがですね、なぜかその資料そのものが非公開という扱いにわざわざしてるんですよ。

 で、なぜ非公開にするのか。それこそ政権の方針と異なる都合の悪いデータに背を向ける行為じゃないかと私は思うんですけど、総理如何でしょうか」

 田村憲久「これはですね、アドバイザリーボードを開く前日に西浦先生が出したいというお話がアドバイザリーボードにお話がありました。それに関しましてはですね、中身(内容?)の精査もございますし、そういう意味で公表しなくてもいいというご理解を頂く中に於いてですね、そこで資料として、参考資料として出して頂いということであります」

 大西健介「今の答弁よく分からないのですけども、別に資料ですから、先程言われたように別に一つ一つの科学的研究にはコメントしないみたいな話がありましたけども、それが絶対正しいかどうか分かりませんけども、一つの材料として議論するために会議をしているのにわざわざ非公表にすると先生にわざわざ話して非公開にしていいですかと言わなきゃいけない。

 そこまで出したくないということは何なんでしょうか。田村大臣、どうしてわざわざ出さないということを言わなきゃいけないのか。そのまま出せばいいんじゃないですか」

 田村憲久「様々な資料がですね、アドバイザリーボードには出される場合があります。その場合は表に出すもの、一定の時間を置いてから表に出すもの。色んなものがありまして、その中に関してですね、今回の資料に関してはですね、ご本人の了解を得た上で、まあ、公開しなかったということであります」

 大西健介「今の答弁に関してもあんまりよく分からない。結局、政権の方針と違うようなデータは出したくないということなんかなあと受け止めてしまいます」

 結局のところ、菅義偉の「研究結果についてコメント差し控え」をスルーさせてしまった。田村憲久が答弁しているように本人の了解を得た非公開で済ませることができる問題ではないことに大西健介は気づかなかった。西浦教授のGo toトラベルが感染拡大の要因となったとしている分析結果を追及材料と決めた時点で菅政権のGO toトラベルに関する答弁を頭に入れておかなければならなかったのだが、そのように準備する心がけさえ持たなかった。

 2020年11月25日予算委員会。

 枝野幸男「政府は、GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはないと繰り返して仰っていますが、じゃ、何でこの時期にこんなに急増していると認識をされているのか。その原因、理由をはっきりできなければ対策を打てないはずだと思います。なぜ今こんなに急増しているんですか」

 厚労相の田村憲久は専門家の方々に色々と確認しているが、GO toトラベルが感染増加の要因だとは明確な断定はできないが、人の動きというものが増えてきていること、気温の低下が感染増加の要因となっているとの趣旨の答弁をしている。

 要するに人の移動ということに関してはGO toトラベルがそれを活発化させて、感染増加の要因となっていることだけは認めている。
 
 枝野幸男「人の移動が活溌になれば、感染が広がる。GO toトラベルは人の移動を政府が推奨した、勧めていた、これは間違いないですね。今も勧めているんですよね、全面中止じゃないですから。総理」
 
 菅義偉「先ず政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることで、そうした中でGoToトラベル、今日まで約4千万人の人にご利用頂いていております。そして現実的にコロナの陽性になった方は180人であります。元々このGoToトラベルを進めるに当たって、当然、政府の分科会のみなさんに意見を聞きながら進めさせて頂いております。まさにこのGoToトラベルによって地域経済を支えていると、これ、事実でないでしょうか。

 そして先週(11月)20日の日に専門家の分科会の提言においてGoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない、こうしたこともご承知だと思います。先ず専門家委員会のみなさんから20日の日に提言を頂いた。その提言を尊重し、感染拡大地域に於いてGoToトラベルの運用のあり方について早急に検討して頂きたいということでありましたので、私たちは20日の翌日にコロナ対策の全体会合を開いて、新たに感染拡大防止のために予防措置として医療体制を守るために一部の地域に一時的にそうした方向を決定したということでございます」

 田村憲久の答弁と異なって、「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とGoToトラベル感染拡大説を否定している。

 GO toトラベルによって「コロナの陽性になった方は180人」。この180人は症状が出てPCR検査の結果、陽性と判定された数なのか、GO toトラベルそのものには関係していない濃厚接触者をPCR検査にかけて陽性とされた人数をプラスした180人なのだろうか。2次感染、3次感染をカウントしていくと、GO toトラベル以外への影響が広がっていき、問題が大きくなることから、GO toトラベルそのものに関係していない濃厚接触者のうちの陽性者はカウントしないことにしているのか、はっきりしたことは公表していない。

 但しGO toトラベル中に感染したものの、症状が出ずに自分が感染していることに気づかない無症状ウイルス保有者はPCR検査を受ける動機がないことを考えると、GO toトラベル終了後に知らないままに市中感染させ、感染経路不明となったケースは絶対ないとは言い切れないから、GoToトラベルでの感染者数にカウントされないことだけは確かである。要するに180人を180人だけで終わらせることはできない。

 いずれにしても菅内閣は政府分科会の意見を受けて、「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とするGoToトラベル感染拡大説を否定する態度を取り続けている。

 であるなら、初期のGo to事業が感染拡大に影響を及ぼした可能性があるとしている西浦教授の分析と菅内閣の「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」とする主張が真っ向から対立することになるのだから、菅義偉の「いずれにしろ一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたいと思います」の発言をそのままスルーさせてしまうのは策がなさ過ぎる。

 「西浦教授の分析結果が正しいのか、政府のGo to関連政策が感染拡大に関係しないとしている主張が正しいのか、導き出すことが国民に与える安心材料となるのだから、説明責任が伴うことになって、コメントしないとするのは無責任過ぎないか」と攻めることもできるはずである。野党の追及の甘さがこの場面にも出たとしか思えない。

 大西健介に続いて質問に立った同じ立憲民主党の奥野総一郎も大西健介と同様の質問をしている。「西浦先生の研究結果によると、GO toトラベルに関する新型コロナウイルス感染者が最大6倍から7倍増加したとの分析結果を発表した。この研究通りとすると、GO toトラベルはやめなければいけなかった。この研究についてどう思うか。GO toトラベル停止は遅れたと思うか」と追及した。

 西村康稔(経済再生、担新型コロナ対策等担当大臣)「先ほど総理も答弁されましたけど、一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません。いろんな研究を私共は見ております。この件についてご質問でありますので、申し上げればですね、研究者自身、西浦先生自身が書かれていますけども、これは旅行や観光等の行動履歴を分類しており、GO toトラベルの利用者か否かを分析したものではない。

 それから、これは(Go toトラベル開始の)7月22日から26日は4連休を挟んでおりますので、そもそも観光が活溌な時期であることなどから、著者自身がですね、我々の分析は観光キャンペーンと日本に於けるコロナ発生率との因果関係を断定するには余りにも単純化し過ぎているというふうにご自身が書かれておりますので、私たちは様々な研究を受け止めながらですね、対応してまいりたいと思います」

 西村康稔の答弁を理解するためにこの衆院予算委員会前日の2021年1月25日付の「NHK NEWS WEB」記事を参考にする。

 西浦教授の分析は京都大学のグループの形で国際的な医学雑誌「ジャーナルオブクリニカルメディシン」に発表した研究論文だという。2020年5月から8月にかけて24の県から報告された新型コロナウイルスの感染者約4000人を分析、約20%・約800人が発症前に旅行していたり、旅行者と接触したりするなど旅行関連とみられる感染者だったとしている。

 GO toトラベルが開始されたのは2020年7月22日。それから8月にかけた感染者となると、新型コロナウイルスの潜伏期間は1~14日間程だが、WHOの報告によると、感染してから症状を発症するまでの平均期間は平均5~6日程度としているから、GO toトラベルの利用者の感染が入っていないとは言い切れないが、GO toトラベルであっても、GO toトラベル以外の旅行であっても、人の移動によって成り立たせているのだから、人の移動制限が3密状態回避の自動的で確実な方法となることに反して気をつけているつもりでも、3密回避に緩みを誘い込む要因となることを考えると、人の移動を推奨することになるGO toトラベルのみを感染と関連付けないで済ますことはできない。

 このことは次のことが証明する。安倍政権が2020年5月25日に最初の緊急事態宣言の全国解除後、つまり人の移動制限を解除後、暫くは落ち着いていた新規感染者数が6月末頃から増えていって、いわゆる第2波を迎えて8月1日を挟んで頂点を迎えたのは2020年7月22日のGO toトラベルの開始による人の移動の推奨もさることながら、緊急事態宣言全国解除による人の移動制限解除が感染拡大への発端と見なければ、第2波の説明がつかないことになる。

 西浦教授の分析は期間ごとの発生率を比較する手法で詳しく分析した結果、「GO toトラベル」が始まった2020年7月22日から7月26日までの5日間での旅行に関連した感染者は、と言うことはGO toトラベル以外の旅行と言うことなのだろうが、127人、発生率は前の週の5日間と比べて1.44倍に高くなっていたことが分かった上に旅行の目的を観光に限定すると、発生率は前の週の5日間の2.62倍になっていたとの分析結果を記事は伝えている。

 この傾向を前提とすると、GO toトラベルであっても、GO toトラベル以外の旅行であっても、観光を目的としているなら、人の移動と共に観光施設内での飲食を伴い、3密に対する意識を薄れさせる機会が二重三重に待ち構えている状況を考えると、GO toトラベルだけを西浦教授の分析から除外することはできない。

 西村康稔の西浦教授の分析は「旅行や観光等の行動履歴を分類しており、GO toトラベルの利用者か否かを分析したものではない」と答弁していることに対応する説明が記事の最後のところで、〈地域によって公開情報に差があることなどから、今回の分析だけでは「GO toトラベル」が感染拡大につながったかどうかを決めることはできない。〉と記載されているが、続けて、GO toトラベルが〈少なくとも初期の段階では感染の増加に影響した可能性があるとしていて、グループでは今後、感染の抑制と経済活動の回復のバランスが取れた政策を探るためにも、さらに科学的な証拠が必要だとしている。〉との解説がなされている以上、菅内閣は自らが「GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはない」としている分析と西浦教授の分析のどちらがより妥当性があるのかを、国民に対する安心材料とするためにも実証しなければならない立場にあることになる。

 当然、西村康稔の「一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません」も、菅義偉の「一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたい」も、正当性ある国会答弁とは言えなくなる。

 また西村康稔が「これは(Go toトラベル開始の)7月22日から26日は4連休を挟んでおりますので、そもそも観光が活溌な時期であることなどから、著者自身がですね、我々の分析は観光キャンペーンと日本に於けるコロナ発生率との因果関係を断定するには余りにも単純化し過ぎているというふうにご自身が書かれておりますので、私たちは様々な研究を受け止めながらですね、対応してまいりたいと思います」と答弁していることは、「4連休の観光が活溌な時期」は人の移動も活溌な時期と重なるのだから、注意していても3密維持にどうしても油断が生じるケースとなり得て、これらのことを抜きに、いわばGoToトラベル感染拡大説の否定理由とするには自己都合な解釈となる。

 もし菅内閣が「GoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない」を絶対的分析として掲げ続けるなら、枝野幸男が「政府は、GO toトラベルが感染拡大させたというエビデンスはないと繰り返して仰っていますが、じゃ、何でこの時期にこんなに急増していると認識をされているのか。その原因、理由をはっきりできなければ対策を打てないはずだと思います。なぜ今こんなに急増しているんですか」と追及したようにGoToトラベル開始以降の感染拡大の傾向が何を原因としているのか、その明確なエビデンスを示さなければならない。その分析結果が西浦教授の分析結果と異なる、正当性あるエビデンスを示し得たとき、西浦教授の分析を如何ようにもコメントしないとすることができる。
 
 菅義偉は奥野総一郎との遣り取りの中でGO toトラベルに関わる人の移動について見落としてはいけない答弁を行っている。

 菅義偉「当初は移動によって感染はしないという見解を頂いて、私共はスタートしました。しかし確かに去年の12月14日ですけど、まあ、あの、コロナ感染の拡大し始めて、確か、あー、医師会の会長がエピデンスはないけれども、そういう脇を甘くしていると、そういう発言があったと思います。そういう中で私は12月14日に年末年始についてGO toトラベルを全国一切、一斉にですね、停止するという決断をさせて頂きました。

そういう意味に於いて全体としてはですね、その間の意見を聞きながら、そこは行ってきたところありです。それは分科会の方針でもありましたので、そうしたことについては私自身決断をして行いました。そして一つのGO toトラベルが12月8日に私が発令したときに尾身会長もここまでは想定外のことだったということも言っていたということもこれは事実であります」

 次の発言箇所、「一つのGO toトラベルが12月8日に私が発令したときに」の意味が素直に取れないが、菅内閣は2021年1月末までの予約で終了するとしていたGoToトラベル事業を2021年6月末まで延長する方針を固め、その政策と1兆311億円の予算を「追加経済対策」に盛り込んだ日付が「12月8日」で、「新たなGO toトラベルを」と言うべきところを、「一つのGO toトラベルが」と言い間違えてしまったのだろう。発言自体に覇気がなく、言葉をスムーズに押し出すこともできないから、リーダーとしての雰囲気がどこからも見えてこない。
 
 発言の趣意は政府分科会の専門家は人の移動を推奨することになるGoToトラベルを始めても、感染は拡大しないと見ていた。菅義偉もその見解に従い、2020年7月22日にGoToトラベルをスタートさせた。ところが第2波を迎えることになり、その第2波の鎮静が高止まりの状態で落ち着き、11月に入って再び拡大傾向へと移行、第2波を遥かに超える感染者数で第3波を迎え、新規感染者数が増加傾向にある中でGoToトラベル事業の延長を2020年12月8日に決定。

 その際、尾身会長は「移動によって感染はしないという見解」に反したことになったからだろう、「ここまでは想定外のことだった」と言っていた。要するに人の移動促進によって感染者数がこれ程までに拡大するのは想定外だったと驚いた。勿論、人の移動を推奨するのはGoToトラベルやGoToイート等、GoTo関連のイベントだけではない。既に触れたように人の移動制限の解除が人々を開放的な気分に否応もなしにいざなって、そういった気分が多くの行動に波及し、コロナに対する警戒感を緩めて、感染が収まらない状況を作り出しているという可能性は否定できない。

 菅義偉はGoToトラベル事業の延長を決定した2020年12月8日の3日後の12月11日午後のインターネット動画番組に出演、GoToトラベルの全面的な一時停止について「まだ、そこは考えていない」と述べたものの、さらに3日後の12月14日に年末年始についてGO toトラベルを全国一斉停止に踏み切らざるを得なかった。

 菅義偉も尾身茂も、遅まきながら、人の移動が感染を拡大する要因になると気づいた。となると、GoToトラベル自体が直接的にか、あるいは開放的な気分を醸し出すキッカケとなって、間接的に感染の原因としていたなら、GoToトラベルが〈少なくとも初期の段階では感染の増加に影響した可能性がある〉としている西浦教授の分析に対して西村康稔の「一つ一つの研究については答弁することは私共しておりません」も、菅義偉の「一つ一つの研究結果についてコメントすることは差し控えたい」もなおさらに許されないことになる。

 だが、奥野総一郎は「当初は人の移動による感染はないと見ていたと仰ってましたけど、では、今どう思われているのか、このことは大事なことだと思いますね。人の移動がもし感染拡大に、西浦先生の論文もそうですけども、関係しているとすれば、早急なGO toの解除と言うか、執行というのは避けるるべきだということになりますし、過去の反省、なぜ今こうなっているのかという分析が非常に重要だと思います」等、人の移動と感染を仮定の関係に置いて追及するのみで、直接的に関係付けて、「コメントの差し控えは許されないのではないのか」と追及することはなかった。

 この奥野総一郎の問い質しに対する続きは次のようになっている。

 菅義偉「やはり飲食店ですね。今8時から時間短縮させて頂いています。そこの部分が甘かったんではないかなあというふうに思っています。当時は確か10時ぐらいに首都圏については、そういう状況だったというふうに思っています」

 奥野総一郎「今のご答弁だったと、人の動きは関係していないと。飲食が原因だと。会食が原因だと。まあ、そう言いながら、自ら会食をされていたわけですけどね、ということになったわけです」

 追及が甘いのは大西健介だけではなく、奥野総一郎もその一人となる。飲食店にしても、人の移動によって成り立っている。営業時間の短縮要請は人の移動制限の求めに他ならない。

 2021年1月29日、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県の知事がオンラインで意見交換をし、2月7日が期限となっている緊急事態宣言が延長された場合、つまり新規感染が予定通りに抑制されなかった場合、休業要請などの強い措置を検討せざるを得ないと決めたということだが、飲食店に対する休業要請は飲食店そのものへの人の移動のシャットアウトを意味することになる。

 要するに菅義偉は飲食店に関係する人の移動が感染の大きな要因の一つとなっているということを明かしたことになる。奥野総一郎は「そう言いながら、自ら会食をされていたわけですけどね」などと言っている場合ではない。

 飲食店への人の移動が感染に関係しているなら、GoToトラベルも人の移動によって成り立っているのだから、飲食店程には密な距離を維持しなくても、GoToトラベルが感染に関係しないとは言えなくなる。180人の感染者にとどまらずにGoToトラベル中に感染し、ウイルス保有者になったものの、無症状であったためにカウントから免れ、PCR検査を受ける機会も持たずに市中で2次感染させていた疑いは払拭しきれない。

 あるいはGoTo関連のイベントを受けた人の移動が人々の気分を開放的な方向に持っていって、コロナに対する警戒心を緩め、感染拡大の一因となったということも決して否定しきれない。

 要するに人の移動と感染は密接な相関関係にある。人の移動が活溌化すれば、感染は拡大する。人の移動を抑えれば、感染は縮小する。このことを誰もが当然のこととして認識する必要がある。認識していたなら、菅義偉の「当初は移動によって感染はしないという見解を頂いて、私共はスタートしました」などと言った発言は口が裂けでも出てこないし、「コメント差し控え」の発言も許されないことになるし、その手の発言をスルーさせることもなくなる。

 2021年2月1日の朝のNHKニュースで菅内閣は医療提供体制の逼迫状況の点から緊急事態宣言を延長する方向で調整に入ったと伝えていたが、解除に障害となる点を全てクリアして解除されて人の移動も再開された場合、緊急事態宣言再発令によって現在減少傾向にある新規陽性者は人の移動と感染が密接な相関関係にある以上、再び増加傾向を取ることになる。そしてこの繰り返しは国民の大多数がワクチンを接種するまで続くことになる。

 この繰り返しの波の頭を少しでも抑えるためには感染して、ウイルス保有者となりながら、無症状なためにPCR検査を受けないままに市中に放し飼いの状態に置くことになる、その多くが新規陽性者の半数前後を占めている感染経路不明と考えられる無症状感染者を如何に効率よくPCR検査の網にすくい取るかにかかってくることになるはずである。

 だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めている尾身茂も菅義偉もこの視点に欠けている。

 2021年1月27日参院予算委 徳永エリ

 徳永エリ(立憲民主)「尾身会長は若い人たちの協力が不可欠なんだというふうに仰ってます。先日ですね、『20代から50代へのみなさんへ』ということで、今実行を拡散して欲しいということでメッセージを出されました。このメッセージを出された思いを尾身会長にお伺いしたいと思います」

 尾身茂「実は先生方、ご承知のようにこれはウイルスのせいで、誰のせいでもありませんが、特に若い人は感染しても無症状であったり、まあ、症状が軽いということが分かっています。当然のことですけども、若い人は我々高齢者に比べて活動がアクティビティが高いのですので、これは本当に強調させて頂きますが、ご本人たちのせいではなくて、まあ、気がつかない内に感染を、二次感染をして、それがですね、実は先程西村大臣が高齢者施設で多いという話がございましたがけども、実はその結果、この感染が少し時間差があって、高齢者施設とか、あるいは医療、あるいは家庭に、そういうことがほぼはっきりと分かってきました。

 そういう中で、勿論、若い人は我々高齢者に比べて重症化する率が少しないんですけども、それでも何人かの人は後遺症があるということが分かっているので、そういう意味では既に多くの人も、若い人も、多くの人が協力して頂いているわけですけども、我々の実感はですね、若い人の一部になかなか、これ、我々、努力不足ということがあったかもしれませんけども、メッセージが伝わらないっていうことも、これも明らかにあって、従って若い人にテレビとかラジオとか、社会意見だけでは、新聞やテレビを見ない人が結構多いということが分かっているので、どうしても最近のツイッターだとか、ラインだとか、フェースブックのSNSで使う、活用して貰う。

 我々ではなくて、若い人が若い人に伝えて頂くということが大事だと思って、まあ、そういうメッセージを有志の会(ツイッターアカウント「コロナ専門家有志の会」)のネットワークを使って、お願いしたわけですけども、そういう中で、まあ、若い人がちょっとしたことを気をつけるだけで、マスクをする、3密を避ける、食事は家族か、同居する人というようなこと、ほんのちょっとしたことをするだけでですね、ご自身の命を守り、それからおじいちゃん、おばあちゃん高齢者の命を守るだけではなくてですね、日本の医療を救う。

 是非、これから彼らの時代ですから、日本の医療を救う立役者になって頂きたいという思いでこのメッセージを出して頂くことにしました」

 徳永エリ「しっかり知識を得てですね、正しく恐れるということが大事なんだなというふうに思います。今、無症状感染者というお話がありましたけど、無症状感染者と約2割がですね、スーパースプレッダーという方がいると。他
者への感染が極めて強いということで、中国の天津で一人で160人に感染させたと、この事例が発表されましたよね。このスーパースプレッダーについて尾身会長、お伺いしたいと思います」

 尾身茂「実はこれは日本がずっと、いわゆるクラスター、(聞き取れない。「集団感染」?)これは世界で恐らくクラスター班を中心に最も早くそれを見つけたグループだと思いますけども、実は例えば5人に感染した人がいるとしますよね、5人のうち、4人が2次感染させない。そのうちの1人だけが2次感染、他の人に感染させて、その人がいわゆる我々が前から言っている3密のような場所ですね、非常に狭い場所、ひどい狭い空間、換気の悪い空間に行くと、爆発的に感染するということがまあ、当初から分かっていて、それをスーパースプレッダーイベントということで、これが実はほかの疾患、インフルエンザだとか、そういう疾患とまったく違う今回の特徴なんで、そういう意味でこれ、クラスター、クラスターと言っている。

 そういう意味でこれはもう(2020年の)2月、3月のところから日本の、まあ、クラスター班が突きつめたことですけども、この今の現象、大体大まかに言って5人に1人だけが2次感染して、その人がそういう場所に行って、感染させ、それから高齢者ということで、それが現在でも全く当てはまるということが分かっています」

 徳永エリ「と言うことは自分が無症状であってもですね、多くの人たちに感染させる可能性があるんだと、家族や知人や友人や大事な人たちに感染させて、命を奪うことになりかねないんだということをしっかりとメッセージとして発信して頂きたいんです。(若い人たちは)知らないですよ。ちゃんと伝えてください」

 感染の原理には詳しく、そのことについて力説しているが、では2次感染誘発予備軍を如何にPCR検査の網にかけて隔離へと持っていき、次なる感染を可能な限り防ぐかという方法論への視点は常に欠いている。徳永エリが言っているように「正しく恐れる」だけでは事は片付かない。

 尾身茂は前のブログでも紹介したことだが、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」とか、「感染拡大の防止には役立たない」と言って、PCR検査に非常に消極的である。

 そのせいなのだろう、「若い人は感染しても無症状であったり、まあ、症状が軽いということが分かっている」が、「マスクをする、3密を避ける、食事は家族か、同居する人というようなこと、ほんのちょっとしたことをするだけでですね」と、2次感染の危険性は省いて、その程度のことをするだけで、「ご自身の命を守り、それからおじいちゃん、おばあちゃん高齢者の命を守るだけではなくてですね、日本の医療を救う」ことになると請け合っている。請け合えなかったから、「ここまでは想定外のことだった」などと口にすることになったはずだ。まるで第2波も第3波も現実の出来事ではなく、遠い世界の出来事であるかのようだ。

 最後にこのブログのテーマに関係しないが、2021年1月27日の参院予算委員会で菅義偉に「少し失礼じゃないでしょうか」と言わしめた蓮舫の追及がワイドショー番組で評判の悪い捉え方をされているので、的を得ているのかどうか見てみることにした。

 2021年1月27日参院予算委員会

 蓮舫「実際に症状が急変して亡くなられたとか、あるいは病院先を捜して、確認している、カウントされている方は急変して亡くなられたとか、そういう方たちの事例で何かありますか」

 田村憲久「お亡くなりになられた方にはご冥福をお祈り申し上げるわけでありますけども、自宅療養、あるいは宿泊療養中に生じた死亡事例について都道府県を通じて把握している限りでありますけども、1月25日時点でありますけども、12月1日から1月25日間の事例でありますが、東京都8例を含めて、12都府県で計29名。うち自宅療養中の方が27名。宿泊療養中の方が2例ということであります」

 蓮舫「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうかね。総理、その思い分かりますか」

 菅義偉「えー、そこは大変申し訳ない思いであります」

 蓮舫「もう少し言葉ありませんか」

 菅義偉「心から申し上げましたように大変申し訳ない思いであります」

 蓮舫「そんな答弁だから、言葉が伝わらないんですよ。そんなメッセージだから、国民に危機感が伝わらないんですよ。あなたには総理としての自覚や責任感、それを言葉で伝えようとする、そういう思いはあるんですか」

 菅義偉「少し失礼じゃないでしょうか。私は少なくとも総理大臣として昨年の9月16日に就任してから、何とかコロナ対策、1日も早い安心を取り戻したい日本(?)そのものに、そういう思いで全力で取り組んできたんです。まあ、そういう中で必死の中で取り組んでくる中で、私自身ができることはさせて頂いてきています。

 兎に角緊急事態宣言、あと出しだとの色んなことの批判はあります。だが、この緊急事態宣言を発するについてもですね、衆参の付帯決議、これは国民のみなさんにいろんな制約を課すものであるから、できる限り慎重にやるということも付いています。そしてまたそれを決めるときに専門家のみなさんに相談して決めるということも書かれています。そうした中で私自身、まさに迷いに迷って、悩みに悩んで判斷させて頂きました。

 その言葉が通じないという、それは私に要因があるかもしれませんけれども、私自身は精一杯これに取り組んでいるところであります」

 自民席から拍手。

 蓮舫「その精一杯は否定しません。ただ伝える努力は足りないと言っているんです。私はやっぱりこの総理のもとでね、特措法を改正して、入院拒否に刑事罰を科すなんて言うことは絶対たやっちゃあいけないと改めて思った。
 兎に角入院先を捜す。それを優先させなければ、(刑事罰は)やってはいけないと思います」

 菅義偉はコロナ禍でも、「政府の仕事は国民の命と暮らしを守ることだ」を看板にしてきた。だが、そのように言うことができるのは自らの政治が守ることが実践できている状況を作り出していなければならない。現実問題として少なくない国民が死に見舞われ、仕事を失ったり、立ち行かなくなったりしているし、それが現在進行形の形を取って、その数を増やし、延々と続いている。政治が満足に守ることが実践できていない状況にある以上、一国の首相として口にすべきは実践できていないことへの謝罪であろう。

 だが、蓮舫の「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうかね。総理、その思い分かりますか」の問い質しに対して「そこは大変申し訳ない思いであります」は一国の首相として言葉を違えている責任の重さから言うと、「少し失礼じゃないでしょうか」の部類に入る、蓮舫が言っていることと異なるが、余りにも自覚も責任感も軽い言葉となる。

 当然、菅義偉自身は「私自身は精一杯これに取り組んでいるところであります」とは言っているが、それを証明するにはコロナ感染防止に見るべき何らかの成果を上げていなければならない。野党の追及態度は精一杯取り組んでもいない、何の成果も上げていないと見ている立場からのものなのだから、一貫性を持たせて、蓮舫は「その精一杯は否定しません」などと言うべきではく、「精一杯取り組んでいるようには見えません」と突き放すべきだったろう。

 「ただ伝える努力は足りない」と言うことなら、実際の仕事は満足にこなしていることになって、蓮舫の追及は矛盾することになる。蓮舫は頭はいいが、才気が勝ち過ぎていて、相手の欠点を追及することには長けているが、追及の種が何かの実に結びつくような仕掛けはなかなか見当たらない。要するに威勢だけはいい。

 ワイドショー番組で総理に対してリスペクトがないとか、失礼な言い方だとか批判されているが、リスペクトは成果があって初めて獲得し得る。菅義偉が与党議員からリスペクトを受けるの単なる立場上の形式的な敬意であって、与野党から実質的なリスペクトを受けるには見るべき何らかの成果が必要になる。だが、感染拡大防止も社会経済活動の促進についても成果は見えてこない。当然、菅義偉は内閣総理大臣と野党の一議員とでは責任と範囲の大きさも重さも桁違いに違うと自覚して、成果を出すことを一矢を報いる方法としなければならない。

 成果を出していないのに「全力で取り組んできた」とか、「必死の中で取り組んでくる中で、私自身ができることはさせて頂いてきた」と言っても、言うだけ虚しい。

 蓮舫にしたら、ここで菅義偉のを遣り込めて、内閣支持率をさらに下げ、遠くない時期に行われる総選挙を少しでも有利に運ぼうという魂胆もあったに違いない。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2021-03-03 04:00:25
そもそも資料を公表する意味はないですよね。都合の悪いデータを隠蔽しようとしてるって邪推は与党批判のパフォーマンスでしょうけどただただマヌケです。なぜなら政権維持のためにも与党がコロナを収めたいのは明らかだし、専門家を通してそこの対策を踏み間違えようがないので、つついても何か出るわけがないでしょ。
コロナが完全に終息しない理由は、感染力の強さと接触する確率の高さであって直接的に政権どうこうの話ではない。批判のための批判は全く持って不毛なのでもっと建設的な話を出来ないものか。

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