安倍晋三のトランプの際限なき軍拡競争への加担よりも日米同盟破棄・全方位外交への転換で北方四島も拉致も辺野古も解決

2018-12-25 11:53:12 | 政治
〈12月26日(水曜日)より1月6日(日曜日)まで休みます。悪しからず。〉
 
 2018年5月9日のロシアの対ドイツ戦勝記念日にモスクワの「赤の広場」で行われた軍事パレードに音速の10倍で巡航可能とされる極超音速ミサイル「キンジャル」や無人戦車の「ウラン9」などが初めて披露されたという。

 極超音速とはマッハ5以上の速度のことで、極超音速飛翔体(極超音速ミサイル)とは通常の弾道ミサイル打ち上げ後、近宇宙空間で切り離されて大気圏に再突入、マッハ5以上の極超音速で滑空し、重力の関係からだろう、最終的にはマッハ10の最高速度に達して目標に向かうと2018年10月17日付「産経ニュース」が報道している。
 
 記事は2018年10月12日の中国によるこの飛翔体の実験の紹介だが、同時に〈2014年1月、マッハ10での高速飛行を米軍が確認したとして米メディアが報道したが、中国側は沈黙を守ってきた。〉と解説している。要するに実用化に自信を深めたか、実用段階に至ったか、いずれなのかもしれない。

 この極超音速飛翔体はアメリカが先行している技術なのか、まだ実験中の技術なのかを調べてみた。「Wikipedia 」

 〈Falcon HTV2とはアメリカ空軍と国防高等研究計画局(DARPA)が実験開発中の極超音速試験飛翔体である。 開発はロッキード・マーティン社が担当。
    ・・・・・・・・
 地球上のいかなる地点でも一時間以内の攻撃を可能とするPGS(Prompt Global Strike)構想の一翼を担うもので、クラスター爆弾や運動エネルギー弾を極超音速で攻撃目標へ撃ち込むことを計画している。通常弾頭の兵器システムとして、核弾頭の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に代わる次世代の抑止力と位置付けられている。極超音速飛翔中の飛行制御方法を含め現在はまだ技術研究段階であり、実用段階には至っていない。〉
 要するに現在は実験開発段階であって、実用化という点で中露の先行を許していることになる。特に注目しなければならないのは、〈通常弾頭の兵器システムとして、核弾頭の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に代わる次世代の抑止力と位置付けられている。〉としている点である。核ミサイルと違って、核物質の拡散を伴わないから、その分、国際世論の批判を浴びずに済む。

 核のボタンを押すのにためらいが伴うが、極超音速飛翔体発射ボタンはためらいなく確実に押すことのできる安易さが生じる危険性がある。2018年8月24日付「Record China」記事は、〈極超音速兵器は従来の弾道ミサイルと違って非常に迎撃が難しくなると考えられている。〉としている。理由は、〈非常に高い運動性を備えていて、自由に向きを変えることができる。〉からだとしている。
 さらにアメリカ国防総省の話として、〈中国やロシアが現在テストしている最新の極超音速兵器に対応したミサイル迎撃システムを開発するのにアメリカは5年から10年はかかるとしている。〉と、アメリカの防衛対応の遅れを伝えている。

 上記「産経ニュース」記事が伝えているように、〈現在の米国のミサイル防衛(MD)では撃墜不可能〉とされているからである。

 当然、アメリカは極超音速飛翔体の実用化と飛翔体に対する迎撃システムの開発の両方を急ピッチで取組んでいるはずだ。軍拡競争が熾烈な形で進んでいる。

 日本は2023年まで米国から早期導入の要請を受けていた地上配備型のミサイル防衛(MD)システムの配備を予定している。MDが極超音速飛翔体の迎撃に役に立たないために埋め合わせとしてなのだろう、米国防総省が新型のミサイル防衛用「国土防衛レーダー」の日本への配備を検討していると2018年12月23日付「時事ドットコム」記事が伝えている。

 日本政府と協議中で、〈国防総省は近く公表する中長期戦略「ミサイル防衛見直し(MDR)」で、北朝鮮の弾道ミサイルに加え、中国やロシアが開発する新型の極超音速兵器に対応する必要性を明確に打ち出す。宇宙配備型センサーや新たなミサイル防衛用レーダーを日本とハワイに設置することで、太平洋地域の「レーダー網の穴」を埋める計画だ。〉と解説している。

 但し新型のミサイル防衛用「国土防衛レーダー」が中国やロシアの極超音速飛翔体の防衛に対応できるのかは記事は触れていない。この答が2018年1月26日付《新「ミサイル防衛見直し」は不十分》Viewpoint )と題したビル・ガーツ名の記事が紹介している。

〈米軍の「ミサイル防衛見直し」(MDR)が間もなく完成するが、国防筋によると、MDR草案に国防総省高官らは、不満を抱いているという。〉理由は、〈誘導可能な極超音速ミサイルや、人工衛星を標的とする宇宙ミサイルによる新たな脅威への対応についてはあまり触れられていない。〉から。

 つまり中ロの既に実用段階に近づいているのか、実用化の段階に至っているのか分からないが、少なくとも実験は成功させている極超音速飛翔体の迎撃に有効な新型のミサイル防衛システムとなっている「国土防衛レーダー」であるなら、そのことを謳っていないはずはないが、その保証については触れていないということになる。

 このことは記事の次の記述がより詳細な説明となる。

 〈パトリック・シャナハン国防次官は先月、記者団に対し、「MDRは、現行の能力と、それらをいかに強化し、そのためにどこに資金を投入すべきかが焦点になると思う」と、既存のシステムの強化が強調されると指摘した。

 シャナハン氏が指摘した通り、MDRでは、本土ミサイル防衛、地域・戦域ミサイル防衛、戦略防衛といった「伝統的な領域」に焦点が合わせられる。

 MDR草案に不満を持つシャナハン氏は、「そのため、今後はこれらの分野や、能力を拡大するにはどうすべきかについてさらに深める」と、極超音速ミサイルなど新たな脅威への対処の必要性を訴えた。〉――

 つまり「ミサイル防衛見直し」(MDR)を受けた新型のミサイル防衛システム「国土防衛レーダー」は既存のシステムの補完の役目を担っているのみで、中ロの極超音速飛翔体の迎撃用とはなっていないことになる。

 にも関わらず、日本は2023年までの地上配備型ミサイル防衛(MD)システムの導入を計画し、さらにMDRの導入をアメリカから要請されている。アメリカの対中露、さらには北朝鮮を加えた軍拡競争の片棒を担いでいることになる。

 このような軍拡競争の片棒担ぎの線上に過去最大の防衛費の更新という姿を現すことになったはずだ。2018年12月18日〈閣議決定の防衛大綱と中期防衛力整備計画には、護衛艦「いずも」の空母化改修や敵基地攻撃にも転用可能な長射程ミサイルなど、専守防衛に反するとの批判が根強い装備品も盛り込まれた。〉と2018年12月18日付「産経ニュース」記事は伝えている。

 記事は、〈政府がこうした防衛力の抜本的強化に乗り出す背景には、軍拡を続ける中国への強い危機感がある。眼前に広がる現実の脅威に対処するには、従来の延長線上の防衛政策を脱する必要があると判断した。〉と解説しているが、中国はこの閣議決定に対して「強烈な不満と反対」の意思表示で対抗している。

 そしてこのような日本の防衛措置に対して中国も備えをするだけの話で、将来に亘って日中共に、あるいはアメリカにしてもロシアにしても同じだが、"脅威"を理由とした際限もない軍拡競争に寄与するための際限もなく次の防衛措置に一石を投じ続ける姿しか見えてこない。

 軍拡競争に終わりを告げるキッカケが第2次世界大戦のときと同じように第3次世界大戦を待たなければならないとしたら、人間が万物の中で最も優れているとの意味を取る"万物の霊長"としての名に恥じることになる。

 平和憲法を抱える日本だけでも世界の際限もない軍拡競争から距離を置き、尚且つ軍事大国中ロの脅威を避けるには日米安全保障条約を破棄、日米同盟からの離脱、そして全方位外交への転換しか道は残されていないはずだ。

 2018年12月20日の年末恒例の記者会見でロシアのプーチンが北方領土をロシアから日本に返還した場合の米軍基地が置かれる可能性について、「日本の決定権に疑問がある」と述べたと2018年12月21日付「asahi.com」が伝えている。

 プーチン「(米軍基地問題の問題を)日本が決められるのか、日本がこの問題でどの程度主権を持っているのか分からない。平和条約の締結後に何が起こるのか。この質問への答えがないと、最終的な解決を受け入れることは難しい。

 (日本の決定権を疑う例として沖縄の米軍基地問題を挙げて)知事が基地拡大に反対しているが、何もできない。人々が撤去を求めているのに、基地は強化される。みなが反対しているのに計画が進んでいる」

 日米安全保障条約破棄・日米同盟離脱・全方位外交への転換がプーチンの問いかけへの答となると同時にロシア側指摘の障害はクリア可能となり、北方四島を日本に返還してもロシアに対する安全保障上の脅威は取り除かれることになる。

また日本の全面的な核廃棄を求める対北朝鮮圧力外交も必要なくなって、フリーハンドで拉致問題に当たることも可能となる。中国やロシアが核を所有しているのに北朝鮮のその廃棄を求めても意味はない。全方位外交で中ロ北との軍事的対決関係を和らげる以外に方法はないはずだ。

 日米安全保障条約破棄・日米同盟離脱・全方位外交への転換はまた、沖縄に米軍基地を置く必要はなくなり、普天間にしても、辺野古にしても、その存在は抹消可能となる。第3次世界大戦の姿を取りかねない軍事大国間の軍拡競争の片棒を担ぎ続ける以外の選択肢――片棒役を返上して、日本の安全保障から軍事的側面を取り外す努力をする道もあることを考えるべきではないか。

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中露北を枢軸国とし、米日他の連合国間で勃発した場合の第3次世界大戦の趨勢を昨今の軍事情勢と第2次世界大戦の結末から想定

2018-12-24 12:16:54 | 政治

 第2次世界大戦は1900年代半ば、独裁国家日独伊を枢軸国とし、米英仏を主体とした連合国が戦争し、軍人と民間人併せた双方の犠牲者が6千~8千万、途轍もない各国土の破壊をもたらした。枢軸国側に大戦を誘発させた遠因は各国の民族主義に基づいた国益追求の最大化であろう。

 ドイツのヒトラーはドイツ民族の優越性に取り憑かれて、世界制覇を最大の国益追求とし、他国への侵略に向かった。イタリアのムッソリーニはイタリア民族主義を古代ローマ帝国再興という形で表現することを最大の国益追求と看做して、その具体性を領土拡張に置いた。

 日本は天皇が万世一系の存在であることを裏打ちとした日本民族優越主義に衝き動かされて、「世界を一つの家にする」八紘一宇の世界制覇思想のもと、一つの家とした世界の盟主となることを最大の国益追求と看做して領土拡張の侵略戦争に走った。

 他民族を押しのけて、他国にまで自民族をのさばらせ、国益追求の最大化を目指すこと程、忌まわしいばかりの最悪の事態はない。その結果の軍人と民間人併せた犠牲者6千~8千万、途轍もないな各国土の壊滅である。

 現在の世界情勢は新冷戦時代への突入かと言われている。単に中国が経済力と軍事力でいつの日かアメリカを凌ぐ可能性からのアメリカが仕掛けた貿易戦争であったり、あるいは米国の軍事的な優位性・安全保障に影響を与える可能性を露わにし始めた中国のハイテク産業(コンピューター・バイオテクノロジー・ロケット等々の高度な技術や先端的な技術)に対する圧力であったり、アメリカが自国国益を守るための米中覇権争いであったりでは終わらない。

 この冷戦にしても民族主義が深く関わっている。中国の国家主席習近平は「中華民族の偉大なる復興」を掲げている。この「復興」たるや、中国が世界の文化と政治の中心であり、他に優越しているという「中華思想」の具体化を目指すものであり、他民族との均衡の取れた共存を無視して中華民族を世界の上に置こうとする権力欲求の顕現であり、その顕現にもとづいた中国国益とその最大化の追求でなくして何であろう。

 ロシア大統領のプーチンは2013年5月1日のメーデーの日に旧ソ連時代の勲章を復活して、「ロシアの歴史と伝統、道徳観を高め、国民を纏める」と宣言している。当然のこと、この宣言にある「ロシアの歴史と伝統、道徳観」は旧ソ連が備えていた各価値観であり、同時に他国の「歴史と伝統、道徳観」を凌ぐ優越性をそこに見い出していることになる。

 このような優越性はロシア民族優越主義に基づかずに成り立たない。

 旧ソ連が備えていた各価値観の実現とはそれらの価値観で形づくられていた旧ソ連という大国への回帰願望に他ならない。大国であることの条件の一つは領土によって表現される。プーチンによる2014年のウクライナからのクリミア併合はプーチンの大国化願望実現の一環に基づいたロシアの国益追求であったはずだ。

 国家権力者が自民族優越主義に基づいてその存在性を前面に押し立てでまでして国益追求の最大化に走ると、優劣の価値観で他民族を線引き、その存在性を侮ることになり、他民族に対する政策を全て正当化するに至る非常に危険な緊張状態を世界にもたらすことになる。

 アメリカ大統領のトランプは自国第一主義を抱え、移民排斥を自らの政策として掲げている。さらに2016年の選挙中にトランプが「黒人はバカすぎる」と発言していたとする元側近の証言、CNNテレビの黒人司会者ドン・レモン氏の「大統領は常に有色人種や女性をバカにしてきた。黒人は知性が劣っているとの中傷は、米国の人種差別の過去と現在において最も使い古されたデマだ」との批判等から見た黒人差別、女性差別はトランプが白人優越主義者であり、白人の中でも女性よりも白人男性を上に置いた白人男性優越主義を正体としていることが分かる。

 当然、トランプのアメリカ第一主義は白人男性を中心に据えた自民族優越主義と譬えることができる。現在の米中摩擦が単にアメリカが世界をリードしてきた地位・覇権を失いたくない、中国が世界をリードする地位に就き、覇権を獲得したいといった単純な理由ではなく、トランプの他民族との協調性を欠いた自民族優越主義からの世界に向けた国益追求の最大化と習近平中国の「中華思想」に基づいた中華民族優越主義からの国益追求の最大化との激突が底流にある摩擦であるはずである。

 でなければ、他民族との協調性が世界の緊張に何らかの余裕を与えることになる。

 自民族の優越性に基づいた自国国益の追求、その最大化は第2次世界大戦が証明しているように他民族との協調性を排除し、自国の立場を譲らない狭隘で破滅的な道を進む危険性を抱えかねない。米中が双方共に自民族優越主義に拘り、自らの国益追求とその最大化を絶対として相譲らない緊張状態に達したとき、それを打ち破る唯一の方法が第2次世界大戦時のように戦争という形しか残されていないケースが生じない保証はない。

 第3次世界大戦の勃発となる。

 そうなった場合、中国と同盟関係にあり、アメリカとの間で仮想敵国状況にあることからも、ロシアと北朝鮮は中国側につき、枢軸国を形成する可能性は高い。中国にしてもロシアにしても、米本土が標的可能な大陸間弾道を、米国は中国とロシアを標的可能な大陸間弾道ミサイルを所有している。北朝鮮も米本土攻撃可能なミサイルを所有していると見られている。

 人命に対する被害も、国土に対する被害も第2次大戦の比ではないはずだ。第2次大戦当時、ドイツはロケットを持っていて、イギリスを攻撃、大きな被害を与えたが、現在のようなミサイルや核兵器を所有していたわけではない。

 日本が新防衛計画大綱で自衛隊最大の護衛艦を空母化するといった計画は大国同士の自民族優越主義の前に意味を成さないだろう。但し安倍晋三にしても、日本民族優越主義に取り憑かれている。この思想に基づいて安倍晋三は日本の軍事大国化を国益追求とその最大化の大きな柱としている。

 
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萩生田光一の「歯舞・色丹の2島プラスアルファでも前進させるべき」は安倍晋三の意図を反映させた二島返還幕引き論

2018-12-21 11:26:45 | 政治

 自民党幹事長代行、安倍晋三の側近を名乗らせて憚らない、腰巾着萩生田光一が2018年12月19日に都内で講演。「NHK NEWS WEB」(2018年12月19日 17時48分)

 萩生田光一「択捉島や国後島を諦めるつもりはないが、フェーズは変わってきた。ロシアから小さな島をまず返してもらい、平和条約を結ぶことを急ぐべきだ。

 これまで70年間1ミリも動かなかった。歯舞・色丹の面積は全体の7%だが、周辺海域も返ってくれば自由に漁業ができる。例え『2島プラスアルファ』でも前に進んで
行かないといけない」――

 萩生田光一は「択捉島や国後島を諦めるつもりはないが」と言っているが、安倍晋三は2018年11月26日の衆院予算委で無所属の会幹事長大串博志の「北方四島は現在ロシアに不法占拠された状態にある、こういう認識でいいのか」との質問に対して「政府の法的立場には変わりはない」と答弁、さらに念押しを求められる形で問われると、「北方領土は我が国の主権を有する島々であります。この立場に変わりはない」と答えている。

 つまり直接的な言及ではないが、北方四島はロシアに不法占拠された状態にあり、四島共に主権は日本にあると断っている。前者と後者は相互対応した関係にあるから、不法占拠だとあからさまに言っていいはずだが、ロシアを刺激したくない気持ちから、このような遠回しな言い方になったのかもしれない。

 だとしたら、萩生田光一が「ロシアから小さな島をまず返してもらい、平和条約を結ぶことを急ぐべきだ」と発言していることは四島の帰属を解決してから平和条約を締結するとしている日本の基本的姿勢とも矛盾するし、安倍晋三が四島共に主権は日本にあると断っていることとも矛盾することになる。

 萩生田光一がこれを矛盾ではない、整合性ある主張だとするためには返還交渉の対象を四島全てとしなければならないはずだが、発言の一つ一つを眺めても、そうはなっていない。

 「択捉島や国後島を諦めるつもりはないが、フェーズ(局面)は変わってきた」とする物言いは前段で「諦めるつもりはない」と否定を匂わしておきながら、反転の意を含む接続詞「が」を付けて「フェーズ(局面)は変わってきた」と言うことで否定の反転を用いて後段の"局面変化"により強い正当性を与えていることになり、その分、「諦めるつもりはない」を弱めていることと、「例え『2島プラスアルファ』でも前に進んで行かないといけない」と一つの確たる目標を示していることから考えると、択捉と国後からの日本の主権の放棄の可能性を示唆している、あるいはロシアの不法占拠とした日本の領有権正当性の択捉と国後に限った撤回の可能性を示唆していると解釈しない訳にはいかない。

 いわば歯舞・色丹の二島返還での幕引きを謀る発言と見ることができる。

 そもそもからして「プラスアルファ」なる和製英語は「もとになる数量にいくらかつけ加えること」(goo国語辞書)を意味していて、メインとなる出来事や対象物に対してほんの僅かに付け足されるモノ、あるいは付け足されたモノについて言う。

 だが、歯舞・色丹は北方四島に於いて決してメインではない。本人が言っているように「全体の7%」に過ぎないとなると、メインは誰が見ても、択捉・国後となる。メインではない歯舞・色丹にほんの付け足しの「プラスアルファ」で良しとするのは余りにもスケールの小さいところに目標を置いていることになる。

 このことは日本政府が従来から四島返還を目標していたことと余りにも矛盾する。

 そしてこのスケールの小ささは択捉と国後からの日本の主権の放棄の可能性の示唆とロシアの不法占拠とした日本の領有権正当性の両島からの撤回の可能性の示唆――言い換えると、歯舞・色丹二島返還の幕引きの狙いとものの見事に合致する。

 とは言え、萩生田光一は安倍晋三の側近中の側近であり、自民党総裁をも兼ねる安倍晋三が自民党幹事長代行の任命者でもあるゆえに安倍晋三の意図を代弁する者としての役割を徹頭徹尾貫かなければならない。安倍晋三の意図に反する発言は腰巾着であることに反するし、自民党幹事長代行としても越権行為となって跳ね返ってくる。

 要するに萩生田光一の発言が意図していることは安倍晋三の意図を反映させた二島返還幕引き論としなければならない。

 「プラスアルファ」がスケールの小さいところを目指した目標であることは間違いないが、具体的に何を指すのか、2018年12月2日付「毎日新聞」記事が示唆している。

 この記事は有料ゆえ、無料箇所のみしか参考引用できない。

 〈安倍晋三首相は(2018年12月)1日午後(日本時間2日未明)、アルゼンチンのブエノスアイレスで、ロシアのプーチン大統領と約45分間会談した。両首脳は、北方領土問題を含む平和条約締結交渉の責任者を河野太郎外相とラブロフ外相とする新たな枠組みを設けることで合意。来年1月の首相訪露前に外相会談を開く方針で一致した。日本は、歯舞群島と色丹島の2島返還に国後、択捉両島での共同経済活動などを組み合わせた「2島返還プラスアルファ(+α)」案を軸に交渉に臨む構えだ。〉・・・・・・
 
 有料記事箇所に「2島返還プラスアルファ(+α)」案の情報源が記載されているのかもしれない。だが、国会とか記者会見とかの公の場で安倍晋三も河野太郎も、この案について触れていない。特に安倍晋三がプーチンと通算23回目となる首脳会談を行ったASEAN首脳会議のシンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアへの移動の途中、オーストラリア・ダーウィンに立ち寄って11月16日に行った内外記者会見で次のように発言していることは無視できない。

 安倍晋三「従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。従って今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」

 かくこのように安倍晋三は国民に対して四島を交渉対象として二島先行返還交渉・他二島継続返還交渉を謳っている。だが、「2島返還プラスアルファ(+α)」案が歯舞・色丹二島に択捉・国後をあとから加える返還を目標としているのではなく、両島での共同経済活動が「プラスアルファ」だとは、択捉・国後の返還そのものを対象とすることから比較した場合、まさに"付け足し"に過ぎない。

 択捉・国後は差し上げます。そのかわり共同経済活動で日本にも利益を与えてくださいと願い出るようなものである。それとも共同経済活動でロシア住民の生活が豊かになれば、住民の間から自ずと日本への返還の機運が高まってきて、ロシア政府もその機運に呼応するとでも思っているのだらうか。

 ロシア住民は余程の困窮した状況に追い込まれない限り、ロシアのままであることを望む。こういった人間の自然から見ると、安倍晋三が「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」と公言していることに反する萩生田光一指摘の、安倍晋三の隠された意図でもある「2島返還プラスアルファ(+α)」案は国民の目を欺く落としどころであって、歯舞・色丹二島返還幕引き論であることから免れることはできない。

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ラブロフの「第2次対戦の結果ロシア領」はロシアの公式見解 その否定対立軸"ロシア不法占拠論"の自己抑制は日本の弱腰外交

2018-12-20 12:45:09 | Weblog

 日露平和条約交渉でのロシア側責任者のラブロフ外相が2018年12月7日の記者会見で、「平和条約を締結するということは、第2次世界大戦の結果を認めるということだ。これこそが不可欠な第一歩であり、これがなければ何も議論できない」と述べたとマスコミが伝えた。

 2018年11月13日にシンガポールで通算23回目となる安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談が行われている。この会談で安倍晋三、プーチンの両者は平和条約締結後に歯舞群島・色丹島返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言に基づいて平和条約締結交渉を加速させることで合意している。

 要するにラブロフは平和条約締結交渉開始は北方四島がロシア領であることを認めることが前提条件だと突きつけた。ラブロフは10日後の2018年12月17日もラジオとのインタビューで同じ発言をしている。「東京新聞」(2018年12月17日 21時24分)

 ラブロフ「(19)56年宣言が基礎ということは、第2次大戦の結果を無条件に認めることを意味する。日本側は現時点で、その用意がないというよりもあり得ないとの立場で、これは深刻だ。2島の引き渡しは当然の義務ではない」

 ラブロフのこの発言はロシア政府の公式見解となる。ラブロフがいくら日露平和条約交渉ロシア側責任者であろうと、ロシア政府の公式見解に逸脱した発言をした場合、重大な越権行為を侵すことになる。いわばロシア大統領であるプーチンを先頭にロシア政府全体の考え方ということになる。

 対して日本政府は北方四島はロシアによる不法占拠説を公式見解としていた。"していた"と過去形にするのは最近、この公式見解引っ込めた様子が窺えるからである。

 引っ込めたことが事実であるかどうかは別にして"ロシア不法占拠論"はロシア側の"第2次世界大戦の結果ロシア領論"に対する否定対立軸の役目を担ってきた。日本側からしたら、前者の正当性を以って後者の非正当性を撃つことができる。逆に後者の正当性を少しでも認めた場合、前者の正当性は撃ち砕かれる。

 否定対立軸である以上、一歩も譲ることのできない一線でなければならない。また、"ロシア不法占拠論"と北方四島日本固有の領土論は相互対応した関係を取っている。相互対応した関係にある以上、"ロシア不法占拠論"を引っ込めずとも、弱めた場合、日本固有の領土論にしても弱めることになる。

 ロシア政府全体の考え方である"第2次世界大戦の結果ロシア領論"を認めた場合、領土返還の形を取る交渉は不可能となる。ロシア領と一旦でも認めた北方四島を日本に返還して欲しいという論理は成り立たなくなるからなのは断るまでもない。さらには領土の帰属を前提とした平和条約締結交渉も成り立たなくなる。成り立たせた場合、ロシア領と認めた上での平和条約締結に意味を持たせることになって、日本のこれまでの北方四島に対する全ての努力をムダにすることになる。

 そうしたくなければ、"ロシア不法占拠論"を些かでも引っ込めることはできないし、ましてや放棄することは論外となる。逆に"第2次世界大戦の結果ロシア領論"に対する否定対立軸として固辞し、ラブロフが代弁したロシア政府の公式見解を否定する抗議の意思表示を示さなければならない。

 ロシア極東管轄ロシア軍東部軍管区が2018年12月17日、北方領土の択捉島と国後島に軍人用の集合住宅計4棟を新たに建設し、188世帯が来週入居すると発表した。「時事ドットコム」(2018年12月18日07時33分)

 来週入居だから、既に完成したか、来週までに完成予定ということになる。

 東部軍管区「(同様の住宅が)2019年には択捉に2棟、国後に1棟の計3棟が建設され、稼働する予定だ。択捉と国後では軍事施設や住宅、学校など200以上の新築や改修が計画されている」

 記事は末尾で、〈北方領土に駐留するロシア軍は約3500人とされるが、住宅新設により増員された可能性もある。〉と解説している。

 ロシアは"第2次世界大戦の結果ロシア領論"を着々と具体化している。いや、具体化が止まらない。ロシアは1978年以来、地上軍部隊を国後と択捉に再配備してきたが、2016年11月には両島に最新鋭のミサイルシステムを配備、そして軍人用住宅の建設は更に兵員の増強という形で領土化を不動にしようとしている。

 官房長官の菅義偉が2018年12月19日午前の記者会見で軍人用集合住宅新規建設に外交ルートを通じて抗議したことを明らかにしたという。「NHK NEWS WEB」(2018年12月19日 12時17分)

菅義偉「現地時間の18日、外交ルートを通じて、北方4島におけるロシア軍による軍備の強化につながるものであり、わが国の立場と相いれないと抗議をした。

 こうした問題の根本解決のためには北方領土問題それ自体の解決が必要だ。引き続き、領土問題を解決し平和条約を締結するとの基本方針の下にロシアとの交渉に粘り強く取り組んでいく考えだ」

 記者「国後島と択捉島はわが国固有の領土であるという立場を伝えたのか」

 菅義偉「従来の立場と変わっていない」

 薄汚い情報操作を行っている。日本の基本的立場を伝えることと日本の基本的立場が従来どおりに変わっていないこととは決定的に異なる。伝えてこそ、基本的立場は生きてくる。伝えずに日本政府だけが抱えている基本的立場なら、意味を成さない。

 要するに伝えなかった。伝えたなら、直截に「伝えた」と口にする。伝えなかったことを「従来の立場と変わっていない」とすることで誤魔化した。

 2018年11月13日の通算23回目安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談から13日後の11月26日の衆院予算委で「無所属の会」の大串博志が北方四島は現在ロシアによって不法占拠されている状態にあるという認識に現在でも立っているのかといった趣旨の問いかけを行った。

 この問いかけは12月7日にロシア外相ラブロフが改めて"第2次世界大戦の結果ロシア領論"を打ち出したことを受けたものであろう。安倍政権がこのラブロフが代弁したロシア政府の公式見解に対して日本側が"ロシア不法占拠論"を否定対立軸とする意思を有していたなら、大串博志の問いかけに肯定的な答弁を見せたはずである。

 河野太郎「これから日ロで交渉しようとするときにですね、政府の考え方ですとか、交渉の方針ですとか、内容というものを対外的に申し上げるのは日本の国益になりませんので、今一切、差し控えさせて頂いているところでございます。ご了解を、理解を頂きたいと思います」

 大串博志がなお食い下がっった。

 河野太郎「これから日ロの機微な交渉やろうというときに先程総理からも答弁がありましたけども、場外乱闘になることは日本にとって決してメリットはありません。様々なことについての交渉は交渉の場の中で行いますので、交渉の外で日本の政府の考え方、方針、そういったものを申し上げれば、当然、ロシア側もそれに対してコメントをしなければならなくなり、場外乱闘になります。それは日本にとって決してメリットにならないことをご理解を頂きたいと思います」

 ロシア側が自らの公式見解に固執する姿勢を見せたのに対して河野太郎は間接的な表現で日本側の公式見解の対外的な表明はロシア側との交渉の障害となり、「日本の国益にならない」、あるいは「場外乱闘になる」からと控える姿勢を見せた。

ロシア側のこのような固執に対して河野太郎はこの控える姿勢に固執した。固執する余り、2018年12月11日の記者会見で記者が11月17日のラブロフの「(19)56年宣言が基礎ということは、第2次大戦の結果を無条件に認めることを意味する」とした記者会見発言を掴まえて河野太郎自身の受け止め方を聞いたのに対して何も答えずに「次の質問どうぞ」という展開となり、その後も日露関係に関わる記者からの3回の質問に対しても何も答えずに3回共、合計4回「次の質問どうぞ」と無視することになったはずだ。

 いわば国会答弁でも記者会見でも、"ロシア不法占拠論"の否定対立軸を持ち出すまいとする強い意志で自らを支配している。

 河野太郎のこのような姿勢は菅義偉の北方四島でのロシアの軍人用住宅建設に抗議を行いながら、北方四島は日本固有の領土であることまで抗議に付け加えなかった姿勢と相互対応している。

 河野太郎がこの「次の質問どうぞ」を自らの公式サイトで釈明しているとマスコミが伝えていたから、「ごまめの歯ぎしり」(2018.12.15)を覗いてみた。

 河野太郎は「日露の条約交渉に関しては国会でも、記者会見でも一貫して答えを差し控えさせていただいています」として来たとした上で、「日露で平和条約の交渉を加速化しようという首脳同士の合意がございましたので、これから交渉が始まるわけでございます。政府としては政府の考え方は交渉の場できちんと相手に伝える、交渉の場以外で様々なことを申し上げれば、当然、相手側からそれに対する反応を引き出すことにもなり、交渉に資することにならないと考えておりますので、交渉の場以外で政府の考え方を申し上げるのは、差し控えるというのが政府の方針でございます」と、対外的発言の自粛は「政府の方針」だと明らかにしている。

 だったら、なぜ前以って現在の「政府の方針」を国民に説明しなかったのだろうか。野党や記者の質問に「政府の方針」だからと説明せずに「国益にならない」、「場外乱闘になる」からと直接的な答弁を拒否する。要するに後付の釈明に過ぎない。

 「交渉を前にして、政府の方針やゴールを公に説明していないというご批判がありましたが、これはできません。こちらの手をさらしてポーカーをやれというのと同じで、日本の国益を最大化する交渉ができなくなります」――

 どのように交渉するかは手の内を明らかにすることはできないだろう。だが、どう交渉しようと日本側の基本的立場に基づく。結果はどうあれ、いわば結果が一方的な妥協の産物で終わろうと、交渉の出発点からは日本側の基本的立場に基づかない交渉などあり得ない。日本側の基本的立場に基づくということは初期的には日本の国益の最大化を図ることを意味する。

 その意図なくして交渉はスタートできない。当然、交渉の手の内は明らかにできなくても、日本側の基本的立場に立って交渉するか否かは誰に対しても説明責任を果たさなければならない約束事であるはずだ。

 だが、それさえも果たさない。

 日本国民が知りたいのは北方四島のうち、ロシアによる不法占拠を四島全てとしている、歯舞・色丹二島のみとしているのかであって、いずれであるかによって交渉の中身は大きく違ってくる。前者であるなら、問題はないが、後者であるなら、択捉と国後を不法占拠から外すことになる。

 そのためのここに来ての日本側が基本的立場としてきた"ロシア不法占拠論"表出の自己抑制と勘繰られても、あながち的を得ていないと否定出来ないことになる。自己抑制は当然のこと、ロシア側の"第2次世界大戦の結果ロシア領論"に対する否定対立軸であることを弱めることになる。

 安倍晋三が2018年12月18日夕方、北方領土返還運動に取り組む「千島歯舞諸島居住者連盟」の代表など9人と面会したと「NHK NEWS WEB」(2018年12月18日 19時40分))記事が伝えていた。

 安倍晋三「双方が受け入れ可能な解決策を見いだすという決意で交渉を進めていきたい。私とプーチン大統領との間で、この問題を必ず解決する」

 ロシア政府側が公式見解としている"第2次世界大戦の結果ロシア領論"のあからさまな表出に対して日本側が公式見解として来た"ロシア不法占拠論"をここに来て否定対立軸とせずにあからさまに自己抑制している関係から見た場合の安倍晋三が言う「双方が受け入れ可能な解決策」とは日本側が限りなく譲歩する状況しか窺うことができない。

 大体が日本側が限りなく譲歩しなければ、ロシア側にとって「受け入れ可能な解決策」とはならない。このことは現在、ロシアが北方四島を実効支配していることからも指摘することができる

 交渉の出発点からこのような状況にある。日本の弱腰外交しか見えてこない。

 要するに安倍晋三は歯舞・色丹の二島返還で誤魔化すか、四島返還を交渉対象としても、3年後の任期までに時間切れとなるだろうから、そのことを口実にするか、どちらかを狙っているのだろう。どちらであっても、「私とプーチン大統領との間で、この問題を必ず解決する」云々は虚しい響きを曝すはずだ。

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12/6「日曜討論」から導き出すべき答は人手不足要因の賃上げ上昇の限界後に外国人材受入れ拡大を実施すべきということ

2018-12-17 11:43:22 | 政治
                                     
 2018年12月16日のNHK日曜討論は「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」と題して、「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなり、来年の1月には戦後最長となると予想されているアベノミクス景気の問題点や消費増税に伴う景気対策、税制改正、米中貿易摩擦の日本への影響等を専門家が議論していた。

 最初のコーナーで取り上げられたアベノミクス長期景気の問題点の議論から、人手不足が招くことになる人手確保のための賃上げがギリギリの限界を迎えてから、外国人材の受入れ拡大は実施すべきであるという答を導き出した。そのような受入れが一般的な日本人労働者にとっても、外国人材にとっても、ハッピーになれる。

 2018年12月16日NHK日曜討論「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」

 【出演】高橋進(日本総合研究所チェアマン・エメリタス)
     飯田泰之(明治大学准教授)
     井手英策(慶應義塾大学教授)
     細川昌彦(中部大学特任教授)
     水野和夫(早稲田大学教授)
     矢嶋康次
 【司会】太田真嗣、牛田茉友

 ナレーション「景気の回復が続いているとされる日本経済。先週、高度経済成長期の"いざなぎ景気"を超えて、戦後2番目の長さの景気回復となったことが確認されました。来年10月に消費税率の引き上げが予定される中で日本経済の先行きはどうなるのか、予算編成や税制改正の動きに注目が集まっています。

 一方、貿易を巡って続くアメリカと中国の対立、新たな展開を見せる中で日本経済への影響は?6人の専門家が読み解きます」

 (キャプション 「景気は 暮らしは 日本経済の先行きを読む」)

太田真司「おはようございます。太田真司です」

 牛田茉友「牛田茉友です」

 太田真司「今日は経済がテーマです。今、高度成長期を超える長期の経済回復が続いているとされていますが、国民の間には実感が持てないという声も聞かれます。

 また、消費税率の引き上げや米中の貿易摩擦といった世界の動きはこの先、どのような影響を与えるのでしょうか。今朝の日曜討論は6人の専門家が日本経済の現状、そして先行きについて徹底討論します。みなさん、どうぞよろしくお願いします」

 6人「よろしくお願いします」

 太田真司「では先ず、日本経済の現状について検証しましょう」

 牛田茉友「景気の動向について先週内閣府の有識者による研究会は、2012年12月から始まった今の景気回復が高度成長期のいざなぎ景気を超えて、戦後2番目の長さとなったことを確認しました。さらに今の景気回復が今月まで続いていることが確認されれば、戦後最長の景気回復に並ぶとしています。

 1年当たりの実質GDPの伸び率で見てみますと、いざなぎ景気の際は10%を超える成長が続いていたのに対し、今回は1.2%となっています。この間の雇用の状況見て行きます。仕事を求めている人一人に対し企業から何人の求人があるかを示す有効求人倍率、2012年12月にはおよそ0.8倍でしたが、その後上昇し、今年10月時点で1.62倍となっています。

 また、働く人の賃金について見てみますと、名目賃金はここ15ヶ月は連続での増加となっています(10月速報値+1.5%)。一方、物価の変動分を反映した実質賃金は最新のデータでは前の年の同じ月を0.1%下回っています(10月速報値-0.1%)。

 株価の動きです。2012年12月初めに9000円台だった日経平均株価はおととい時点(2018年12月14日)で21300円(21374.83円)余りとなっています。

 太田真司「早速議論を始めます」

 牛田茉友「経済再生諮問会議議員で日本総合研究所チェアマン・エメリタスの高橋進さんです」

 太田真司「高橋さん、今、日本経済は長期の景気回復が進み、戦後最長を窺うということですけれども、高橋さんは日本経済の現状、先行き、どう見てますか」

 高橋進「ま、よく言われますけど、緩やかな景気回復が続いてると思っています。あの、7月期-9月期マイナス成長になりましたけれども、ただ、企業部門の設備投資が伸びているし、個人消費も悪くないと、民需主導の回復がずっと続いているというふうに思います。

 で、今回、そのいざなぎ景気を超えたってことが話題になりましたけれども、ただ緩やかに長く続いてるって事であって、いざなぎ景気に比べて景気がいいとかって話だってことは全く無いわけでして、そう意味で長さはいいことですけれども、本当に景気の良さっていうことではいざなぎには追いつかないのも間違いないと思います。

 ただ、ま、そういう中でもいくつかいい材料が出てきている。例えば賃金はあまり上がっていませんが、雇用環境はすごく良くなってきている。それからデフレっていう状況でもなくなってきている。

 それから都市部から地方に少しではありますけれども、景気の回復の波が及んできている。そういった緩やかな景気回復の中でいい材料も随分出てきていると思います」

 牛田茉友「慶應義塾大学教授で財政や金融(?)を研究している井手英策さんです」

 太田真司「井手さんはどう見ていますか」

 井手英策「いまお話にあったようにですね、確かに長さっていう面で見ると、非常に長いわけですね。ただ、今回ポイントは戦後2番目っていうことで、1番はいつだったのかってことだと思うんです。で、小泉政権期ですよね。これを見ますと、要するに確かに景気は良かったんだけど、その間に現実の所得は落ち続けました。

 で、同時に格差も広がっていったわけです。ですから、よく実感なき好景気っていうことが言われたかと思います。あの、現実の人々の暮らしを見てみましてもですね、例えば持ち家比率が下がってきています。同時に出生率も、皆さんご存知のように下がってきています。さらに日本の中で経済が成長したということと同時に世界の経済の中での地位を見てみることも大事だと思います。

 1人当たりのGDPを見たときに安倍政権発足時に先進国の中で11位だったものが18位に落ちている。つまり国内で緩やかに伸びているという現実と世界的に見て、地盤沈下していってるっていう現実とが両方存在してるということだと思います」

 牛田茉友「中部大学特任教授で経済政策や産業政策に詳しい細川昌彦さんです」

 太田真司「細川さんは現状をどういうふうにご覧になっていますか」

 細川昌彦「そうですね、高橋先生と基本的に認識は違いはないのですが、あの、付け加えるとすれば、今地方、地域ですね。地方の方で相当景気の回復が浸透してるなという感じがしますね。

 今、全地域で景気が良くなったってほうも、悪くなったっていうのも、多くなってるっていったとかですね(????)。有効求人倍率も、全ての地域で今1を超えていますし、そういう意味では地域の方に広がりが出てきたということが一つと、今の設備投資の話がございますね、企業の方を見てますと、やはり収益が上がった結果を設備投資が今回の(景気回復の)牽引の役になってると思うんですけども、あの、一つ心配はですね、データで見る数字が確かに今上がってるんですが、本当の足元は、まだ統計上はタイムラグがありますから、仕方ないんですけども、今直近、本当の足元を言えば、来年に向けて、これから先ではありますけれども、懸念が相当出てきてですね、

 非常に慎重になってきていますから、これから先は非常に今まで引っ張ってきた設備投資、民間の設備投資ってところがですね。スローダウンしてくる可能性が十分考えられるし、ある意味ではですね。この、今までの2018年のこの前半がですね、景気のピークだったんじゃないというようなことにもなりかねない今状況に来てるんじゃないかなとは思います」

 牛田茉友「早稲田大学教授で、マクロ経済や金融政策が専門の水野和夫です」

 太田真司「水野さんは今の経済をどう見ていますか」

 水野和夫「戦後2番目の長さで、恐らく来年の1月にはそれを越えて、戦後最長になると思うですけれども、殆ど、あの、景気回復という定義自体がですね、もう、今の時代に全くそぐわなくて、景気回復と言っても、殆ど意味がないと思うんです。その理由は、その景気回復というのは生活水準を、1億2000万人のですね、生活水準を引き上げていくっということに意味があると思うんですけども、その生活水準を測る、一つは所得、実質賃金ですので、この実質賃金というのは今回の景気回復でもマイナス、70ヶ月を通じてですね。均すとマイナスですし、それから戦後最長のときも、小泉総理大臣のときも、1人当たりの実質賃金はやっぱりマイナス。

 景気が回復したからといって、生活水準上がるわけじゃないですし、それから所得の蓄積である金融資産、これもあの、この30年間、金融資産を保有できないっていう人が急増しているわけですけど、もう景気回復という言葉は私は使わない方がいいんじゃないかなと思ってます」

 牛田茉友「ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストで国内外の経済・金融政策を分析している矢嶋康次(やすひで)さんです」

 太田真司「矢嶋さんは現状をどう分析されていますか」

 矢嶋康次「実感なきというお話が非常に適切なんかなというふうに思います。非常に長期にわたって経済回復が続いていて、ある意味、そのアベノミクスの最初のカンフル剤というのは非常にうまくいったと思うんですけれども、基本的な問題がこの長期間の回復の中で何も解決していないっていうところにも、目を向けるべきだというふうに思います。

 具体的に例えば経済の中身で見ると、この間実質成長率が平均で1.2%、先程伸びたっていう話ありましたけども、輸出が大体5%以上って意味で実質GDPは4倍伸びています。
  
 設備(投資)が3倍。民間消費って3分の1以下なんですね。ということはやっぱり民間消費が強くならないと実感てのはどうして出てこないという状況ですし、それからやはりが外需に振られやすい、日本が何か外から問題が起きたときに内需でできる策が非常に少なくなってしまうということもこれから後で議論あると思いますが、国内で例えばそのストックを作るための消費税の議論であったり、海外で中国やアメリカが景気減速になったときに日本として何が出来るのかという議論が非常に重要なんですけども、問題が根本的に変わってないので、数年前と全く多分同じ議論がこれから展開されるんじゃないかなというふうに思います」

 牛田茉友「明治大学准教授で、マクロ経済が専門の飯田泰之さんです」

 太田真司「飯田さん、どうでしょうか」

 飯田泰之「今高橋さん、細川さん共に言及されたように確かに今回の景気回復、雇用を見ていると、地方間の格差が小さい景気回復です。これは前回に於いて言いますと、小泉政権下の回復との顕著な違いです。その一方でこの実感を感じられない大きな理由はやはり賃金にあると思うんですね。元々の現在に於いてと言いますか、金融政策によって脱デフレを図るという議論は金融政策によって雇用を改善する。これは実際に改善しているという。

 その中で賃上げをしなければ、人を確保できないという状態にまで到達させることによって脱デフレを図るという理由だったんですけれども、当初はですね、予想以上に高齢者の雇用の拡大、女性の雇用拡大によってなかなか賃上げしないと人手を確保できないという状態に至らなかった。

 ところがですね、最近、あの、多くの議論で人手不足が深刻な重荷になっているという人手不足、これは賃上げしないと人手が集まらないという意味であって、本来の人手不足ではないんじゃないかと。

 本来の賃金を上げざるを得ない人手不足という状況を如何に維持できるかというのは、これからのポイントだと思います」

 太田真司「高橋さん、そのま、確かに期間は長いけど、実感が持てないんじゃないかというご指摘が多かったんですが、どうでしょうか」

 高橋進「高度成長期のときというのはマクロ経済全体が膨らみますけども、個人の賃金っていうのが本当に何パーセントも上がっていったので、それで懐が暖かくなるっていう実感があったんだと思います。

 今回は賃金の上がり方そのものは小さなものなのは間違いないわけで、そういう意味ではなかなかこう自分が豊かになるっていう実感がないのは事実なんだろうと思います。ただですね、私は、これ賃金だけの問題だけで議論するのは少し違うと思います。

 例えば今人手不足の話、出ましたけれども、あの、生産年齢人口が安倍政権になってから450万人ぐらい減っているわけですけども、一方で就業者数は250万人増えてるわけですね。やっぱり、あの、皆さん働き口がないっていう状況ではなくて、安倍政権が色々と環境整備することで、女性・高齢者がより働きやすくなって、そして働く人の数が増えていく。で、賃金は余り上がっていないけど、働く人の数とそれから賃金両方掛け合わせた所得という意味では伸びるようにはなってきていますので、私は賃金だけじゃなくて、所得環境全体で考えていくべきだと思います。

 それから、もう一つ、長くなってあれですが、安倍政権なる前って本当にデフレの中で日本経済がどんどんどん賃金が低下していく、で、企業が全く賃上げってことを考えなくなってしまった。(一部聞き取れない)ところが安倍政権の下でやっぱりベアも復活して2%程度ではありますけれども、あの、5%の、失礼、賃上げが5年間続いたのです。

 最低賃金も6年連続で引き上げてきていますので、政府は賃金を引き上げる努力を、政権はしてきている。企業がなかなかまだ賃上げってことについて慎重であるというのは間違いないと思いますけど」

 太田真司「なる程。さらにですね、経済の疑問について細かく見ていきたいんですけれども、まず井手さん、今の企業はかなり利益を上げてるのにそれが賃金という形でなかなか跳ね返っていかない。

 そのことがひいてはですね、個人消費であったり、物価の上昇の足枷になっているという指摘もあるんですけど、どの辺にこの問題はあるんでしょうか」

 井手英策「賃金、今高橋さんがおっしゃったように所得環境が改善してるっていうことは事実だと思うんです。ただ、この社会の一番難しいのはやはり賃金が増えて、貯金ができて、様々な将来リスクに備えれるようにするっていうことが一番重要なんだと思うんですね。

 そのときに安倍政権の政策のインパクトの問題と日本経済の構造的な問題と、やっぱ分けて考えないといけない面があるとおもうんです。端的に言いますと、勤労者世帯の収入を見たときに安倍政権の間に3%増えてるんですね。ですから、効果なかったかあったかと言ったら、確実にあったわけです。

 しかしながら、私たちの所得の勤労者世帯のピークで言うと、97年ですから。で、この20年間ほぼ貯蓄は、あー、賃金は落ち続けていて、この間10%落ちてるわけですね。つまり安倍さんの間に3%増えたっていうのはこれ大きな効果なんだけど、ただ長い目で見ると、10%落ちている。貯金もできなくなっている。

 そうすると、将来不安が人々の暮らしを直撃するっていう状況がやっぱ生まれてるんだと思います」

 太田真司「細川さん、日本で賃金、雇用の状況について」

 細川昌彦「私はですね、高橋さんがおっしゃったように雇用者数は増えていますから、総所得が増えているのは事実だと思います。ただやっぱっり実感という意味では、一人当たりの実質賃金っていうのが一番大事なポイントだと思うんですね。

 そうすると、最大の課題っていうのは前から言われている労働生産性が低いと、他の先進国に比べても7割ぐらいしかないというこの実態を抜本的に改革をしない限りはですね、この賃金って、実質賃金は上がらないわけですね。そうするとこの労働生産性を上げるということになると、一番大事なのは成長戦略だと思うんですね。確かに色んなメニューでこれまでやってきて、政府は努力をしてきたと思います。

 あのメニューは大事なんですが、この労働生産性っていう意味からはですね、環境整備に応える民間の動きがないとダメですよね。そういう意味からはですね、いま民間のこの動きっていうのは、例えば回帰(?)投資一つとってもですね、確かに人手不足の省力化投資は今やってますけども、抜本的にドラスティックにですね。今やデジタルトランスフォーメーション(ネットから。「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念)と言われるようにビジネスモデルもを変革するようなですね。大きな動きがどこまであるか。だから、経営者自身がITというところに、すぐにITっていうところがまだ十分ではないんじゃないかな、日本企業と思うんですね。

 そういう問題とか、あるいはM&A一つ取ってみてもですね、最近増えていますけども、大規模なダイナミックなM&A、他の国に比べてやはり低いですよね。そういう経営戦略としてのあり方が、もう一つ成長戦略としてですね、これは繋がっていかないと、あくまでも環境整備だけでとどまってるというところが一つネックだと思いますね。

 太田真司「飯田さん、どうでしょうか」

 飯田泰之「まさに企業の戦略で非常に重要なポイントでデフレの続く中で日本の多くの企業は低賃金、そしていつでも代えの効く、いわば失業者プールというのに頼って経営を行う、つまりは人はどんな賃金でも、どんなきつい仕事でも、それなりに集められるという前提の経営体質というのが根付いてしまった。これからの賃金の上昇というのを非常に強く押さえている部分がある。

 やはりですね、これ賃金というのが上がっていく人手不足の深刻化が進むということはまさにITを通じた省力化投資もそうですし、また個々の労働者の生産性について量であったり、縦の質(?)ではなくて、様々なバラエティとか、より高付加価値のビジネスにシフトしていく契機にもなりますので、その意味でも、やはり賃上げというのがボーリングの次のピンになるんだと思いますね」

 太田真司「高橋さん、どうなんでしょうか(?呟くような声になっていて、よく聞き取れない。カメラの向こうにいる視聴者に語りかけているということを時々忘れるらしい。)」

 高橋進「一つはですね、それはやっぱり日本企業の問題で、先程おしっいましたけども、やっぱりデフレが長く続いている中で企業はどうしても賃金だけではなくて、人件費全体を抑制するっていうことが定着してしまったと。

 で、今、こう収益良くなっていますけども、やっぱり収益の確保はまだ本物じゃないと考えていて、非常にまだ賃金にあげることに慎重だっていう問題が一つあると思います。(総所得の増加に意味を置くことができなくなる。)

 で、政府は色んな政策を打ち出して、それをぶち破ろうとしてきましたけれども、破れては来ていますけども、まだそれでも企業の賃上げ抑制、あるいは人件費を使うこと
に慎重な姿勢を完全に覆すまでには至ってないということ。もう一つは、そうは言ってもですね、企業が、先程お話がありましてけども、世界的にIT、AIが進む中で、これでいいんだろうかってふうに少し思い直してきてると思います。

 国内では人手不足で、もう省力化投資やらなければいけないっていうとこまで来てますし、世界がAI革命が進む中で日本企業がこのままで置いていかれるっていう感じにはなってきてると思います。ですから、最近見てみますと、その中で研究開発だとか、新分野の開拓だとか、あるいはまあ、企業によっては、その人を育てるというとこにようやくお金を使うようになってきた。
 
 そのことが少し足元の設備投資の拡大にもつながってきてる。そういう意味で企業の体質変わり始めているので、それをさらに高成長戦略を通じて後押ししていくってことは私も、必要だと思います」

 来年10月の消費税率10%引き上げの影響と政府の対策に関わる議論のコーナーに移る。

 アベノミクス景気が高度成長期超えの長期の、戦後2番目とされる経済回復でありながら、実感なき景気回復であることに議論が集中している。そしてその原因を決定的な賃上げ不足に置いている。

 安倍晋三は雇用は250万人増えた、有効求人倍率は全国全てで1を超えた、実質GDPは1を超えたとアベノミクス効果の統計を持ち出して、自政権の景気回復への貢献度を自慢しているが、賃上げ不足によって実質賃金が見るべき額に到達せず、結果、個人消費が低迷していたのでは景気回復に実感など持てるはずはない。

 早稲田大学教授の水野和夫が景気回復ということの本質を衝いた発言をしているゆえに再度ここに掲載してみる。

 「戦後2番目の長さで、恐らく来年の1月にはそれを越えて、戦後最長になると思うですけれども、殆ど、あの、景気回復という定義自体がですね、もう、今の時代に全くそぐわなくて、景気回復と言っても、殆ど意味がないと思うんです。その理由は、その景気回復というのは生活水準を、1億2000万人のですね、生活水準を引き上げていくっということに意味があると思うんですけども、その生活水準を測る、一つは所得、実質賃金ですので、この実質賃金というのは今回の景気回復でもマイナス、70ヶ月を通じてですね。均すとマイナスですし、それから戦後最長のときも、小泉総理大臣のときも、1人当たりの実質賃金はやっぱりマイナス。

 景気が回復したからといって、生活水準上がるわけじゃないですし、それから所得の蓄積である金融資産、これもあの、この30年間、金融資産を保有できないっていう人が急増しているわけですけど、もう景気回復という言葉は私は使わない方がいいんじゃないかなと思ってます」

 一般国民の生活水準の向上を着地点としない景気の結末は景気回復とは言わない。いわば一般国民以外の少数の選ばれた者の生活水準の向上にのみ役立つ景気回復でしかないと警告を発している。

 実感なき景気回復のそもそもの根本原因が賃上げ不足であるなら、決定的な賃上げからスタートさせなければ、実感ある景気回復を一般国民に約束も保証もできないことになる。「賃金が増えて、貯金ができて、様々な将来リスクに備えれるようにするっていうことが一番重要である」(慶應義塾大学教授井手英策)が、大企業は過去最高の内部留保を更新し続けながら、「いつでも代えの効く、いわば失業者プールというのに頼って経営を行う、つまりは人はどんな賃金でも、どんなきつい仕事でも、それなりに集められるという前提の経営体質というのが根付いてしまった」(明治大学准教授飯田泰之)、あるいは「日本企業の問題でデフレが長く続いている中で企業はどうしても賃金だけではなくて、人件費全体を抑制するっていうことが定着してしまった」(日本総合研究所チェアマン・エメリタス高橋進)ために決定的な賃金上昇を渋る状況になってしまっている。

 アベノミクス景気の正体であるこういった情況が人手不足を受けた人材囲い込みが自ずともたらすことになるプラスアルファの賃上げを以ってしても決定的な賃上げに至らない原因となっているということなのだろう。
 
 安倍政権のデフレ脱却政策について明治大学准教授の飯田泰之は「賃上げをしなければ、人を確保できないという状態にまで到達させることによって脱デフレを図るという理由だったが、予想以上に高齢者の雇用の拡大、女性の雇用拡大によってなかなか賃上げしないと人手を確保できないという状態に至らなかった」、いわば一方では人手不足からの賃上げを狙ったが、その一方で高齢者の活用と女性の活用によって、それが賃金抑制の働きをしてしまったばかりではなく、「賃上げしないと人手が集まらない」という情況は「本来の人手不足ではない」、いわば人手不足に合わせた便宜的な賃上げであって、企業活動の活発化と経営拡大を先に置いた人手不足こそが「本来の人手不足」であって、企業活動の活発化と経営拡大に応じた賃上げこそが過不足ない額を保証することになる本来の賃上げだとの趣旨を述べている。

 となると、人手不足だからと外国人材を活用するのは技能実習制度が既に証明しているように賃金抑制の働きし、日本人の賃金への影響なしとすることはできない。先ず制度が日本人の同等の報酬を謳いながら、最低賃金以下の雇用、法定労働時間を超える違法残業の強制、残業時間の未払い等々が横行したのは賃金抑制を目的とした外国人材の利用だった証明としかならない。

 4月に施行される外国人材受入れ拡大政策にしても、今までが今までであったことと、農業や漁業は派遣外国人を認めるということだから、賃金抑制の力となって働くのは目に見えている。

 勿論、全ての受入れ機関が人件費抑制を主目的としているわけではなく、日本人と同等の報酬を支払う受入れ機関も存在するだろうが、日本人と同等であったとしても、日本人に対するそのような賃金が景気の実感を保証できる金額のレベル、生活水準の向上に振り向けることができる金額のレベルとはなっていないことは実感なき景気回復がこれまた証明していることで、逆に人手不足を放置して、人手確保ためにはギリギリ賃金を上げなければならない切羽詰まった情況をつくり出してから、初めて外国人材の活用に持っていけば、少なくとも景気回復に実感を持てる余地をつくり出すことができるし、自ずと生活水準の向上に向かうことにもなる。

 日本人労働者の賃金が決定的に上がれば、同等の報酬を外国人材に保証しなければならなくなって、その回避のために違法雇用が増加する危険性が生じるが、徹底的に取り締まることで、外国人材の賃金が母国の近親者の生活向上や社会に向けた消費に役立ち、母国自体が僅かずつは豊かになる素地を日本が提供できることになる。

 人手不足に困り果てて、賃金を大幅にアップする。12月16日のNHK「日曜討論」を見て導き出した答である。

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再掲/ミサイル発射・航空機爆撃での攻撃開始が優先的戦術の現代戦争では米海兵隊沖縄駐留の絶対的理由は存在せず

2018-12-14 08:01:52 | 政治

 今日から日曜日までブログは3連休の予定だったが、今朝(2018年12月14日)のNHKニュースが、政府は辺野古への移設工事に伴い、12月14日に現場海域に土砂の投入を開始する方針だと伝えていた。普天間の辺野古移設反対の沖縄民意を無視する、この強硬策への反対意思表示として、影響力ゼロ、且つ自己満足で終わることを承知の上で、2018年1月4記事――《ミサイル発射・航空機爆撃での攻撃開始が優先的戦術の現代戦争では米海兵隊沖縄駐留の絶対的理由は存在せず - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》を再掲することにした。



 昨年(2017年)暮れにネット上で次の記事に出会った。「在沖縄米海兵隊は抑止力か否か」産経新聞IRONNA/2015年)  

 記事は慶応大准教授神保謙氏の対沖縄米海兵隊駐留必要論を、元官房副長官補柳沢協二氏の駐留不必要論を紹介している。発言の全文は記事にアクセスして貰うとして、沖縄に米海兵隊は必要かどうかに触れている点のみを取り上げてみる。

 神保謙「抑止効果は非常に大きい。4月末に改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)でも、平時からグレーゾーン、小規模有事、大規模有事という流れに切れ目なく対応することが謳われている。事態ごとに必要な能力は異なり、その継ぎ目を埋めるためには陸海空の統合運用が重要になる。事態が急速に展開する可能性や非対称な攻撃が予想される中、継ぎ目を埋める能力をもともと備えているのが海兵隊だ。

 日本周辺では、東シナ海のグレーゾーン事態や朝鮮半島の不安定化の可能性があり、沖縄の位置を考えれば、戦域内に短時間内で展開できる海兵隊がいることの意義は大きい」――

 例えば中国を相手とした武力紛争に至らない軍事的対立状態を意味する「グレーゾーン」、小規模と大規模な軍事的非常事態発生を指す「小規模有事、大規模有事」を考えてみる。

 いずれかの事態発生に対して米国は日米安全保障条約に基づいて直ちに海兵隊を派遣するだろうか。日本は自衛隊を派遣するだろうか。先ずは外交の出番であろう。直接的な外交交渉、あるいは国連を舞台とした外交交渉で中国の意図を確認するはずである。

 分かりやすい例として中国が自国領土とする意図のもと、中国軍が尖閣に上陸、占領し、実効支配したとする。日米が共同して尖閣諸島を即座に取り戻すべく沖縄の米海兵隊と自衛隊部隊を直ちに尖閣諸島に向かわせて中国軍と戦闘を交えた場合、中国側が軍事的に一旦実効支配した尖閣諸島をどの程度まで兵力を送って守ろうと覚悟しているのか、それを見通さないままの派兵ということになって、中国側の兵力の追加派遣次第で小規模有事が大規模有事化する危険性を抱えることにもなるし、大規模化した有事が最悪全面戦争化しない保証はない。

 あるいは中国側は尖閣占領後、占領を実効支配の段階に持っていくために尖閣諸島に向かう日米艦船にミサイルの照準を合わせている可能性は否定できない。

 当然、中国側の覚悟を見極めるために外交というプロセスが必要となるばかりか、外交という手間の背後で中国側の覚悟に対応した日米側の軍事的準備が必要となる。

 いわば直ちに米海兵隊や自衛隊を「短時間内で展開」すればいいという問題ではないことになって、そうであるなら、米海兵隊が沖縄に駐留しなければならない正当な理由を失う。

 日米韓側がその動きを察知できていない状況下で北朝鮮が韓国支配を狙って韓国に突然侵略を開始した場合を例に取ってみる。1950年6月の朝鮮戦争当時、38度線を超えて韓国領内に侵入した朝鮮人民軍の陸軍部署と後に参戦した中国人民解放軍の陸軍部署が主体となって勢力範囲拡大の戦いを展開したのと違って、北朝鮮は最初に韓国領内に向けたミサイル発射に始まって、そしてよりピンポイントを狙うことができる戦闘機や爆撃機を使った空爆から侵略を開始するはずである。

 そのようなミサイル発射を主体とした空からの攻撃で韓国の陸海軍基地と在韓米軍基地の攻撃機能及び守備機能を壊滅させようとする。あるいは在日米軍の韓国派兵を前以って阻止する目的でミサイルや戦闘機の攻撃目標を在日米軍基地、さらには自衛隊の動きを止めるために自衛隊基地にまで含めるかもしれない。

 それに対して韓国軍も在韓米軍、さらに在日米軍も、加えて自衛隊も追随して発射された北朝鮮ミサイルに対して迎撃措置に出ると同時に北朝鮮人民軍のミサイル基地やコンピューターで割り出した移動式ミサイル発射地点に向けてミサイルの発射と攻撃機で応戦し、敵ミサイル発射機能や敵基地自体の機能麻痺に乗り出すはずである。

 横須賀の米海軍基地を母港とする第7艦隊の空母群は基地に停泊していたなら、朝鮮海域の対北朝鮮ミサイル射程内に向けて出港、日本海海域で北朝鮮の動向を警戒してパトロール中なら、艦装備ミサイルの射程内にまで移動、射程内に航行していたなら、北朝鮮ミサイルの標的となる危険性は避けられないが、直ちにという形でそれぞれがミサイルで応戦、空母艦載機はミサイル射程内に入る前から離艦、相手方のミサイル攻撃と共に北朝鮮の全ての攻撃能力に対する壊滅に乗り出すはずである。

 北朝鮮は米軍との軍事規模の大差を前以って考慮して最初から核ミサイルを発射する危険性は否定できない。

 いずれの場合であっても、海兵隊や陸軍部隊が出動するのはお互い共に敵の攻撃能力をミサイル発射や空爆である程度か大方麻痺させてからということになり、このような戦術が現代の戦争の方法となっている以上、米海兵隊を沖縄に駐留させなければならない絶対的理由はないことになる。九州か中国地方の米軍基地に駐留させていても、ミサイル攻撃・空爆に次ぐ二番手として十分に機能することになる。

 神保謙氏は米海兵隊の沖縄ではなく、グアム駐留はダメな理由を次のように述べている。

 神保謙「事態発生後に数日間かけて戦域に入ってくればいいという議論はリエントリー(再突入)のコストを考慮していない。力の真空を作らないためには域内に強靱なプレゼンスがあることが重要だ。海兵隊の実動部隊が沖縄にいることは、南西方面への米国の安全保障上のコミットメント(確約)を保証する極めて重要な要素になっている」

 この考え方は現代の戦争の戦術に疎い発想に基づいている。先に例として挙げた中国の尖閣占領といったケースを除いて、攻撃が許される状況下での一般的な有事発生直後の「力の真空を作らない」役割は間髪を入れないミサイル部隊及び空爆部隊の攻撃能力にかかっている。ミサイル・戦闘機・爆撃機の攻撃能力が有事の大勢を決着づける。決して海兵隊ではない。

 戦争状態に入る前に敵の軍事力を叩く敵基地先制攻撃にしても同じ手順を取るはずである。

 では、元官房副長官補柳沢協二氏の不必要論を見てみる。

 柳沢協二「抑止力とは『相手が攻撃してきたら耐え難い損害を与える能力と意志』のことだ。その意味で沖縄の海兵隊は抑止力として機能していない。離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない。

 日米防衛協力のための指針でも、米軍の役割は自衛隊の能力が及ばないところを補完すると規定されている。それは敵基地への打撃力だが、海兵隊の役割ではない。沖縄は中国のミサイル射程内に軍事拠点が集中しており非常に脆弱だ。

 米国はいざというとき、戦力の分散を考えるだろう。そもそも、本格的な戦闘に拡大する前に早期収拾を図るだろう。海兵隊を投入すれば確実に戦線は拡大する。つまり、いずれの局面でも海兵隊の出番はない。いざというときに使わないものは抑止力ではない。

 (沖縄に海兵隊は必要ないとする理由について)どこかにいなくてはいけないから入れ物は必要だろう。しかし、それがピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない。有り体に言えば『他に持っていくところがない』ということだろう。

 そもそも、抑止力と軍隊の配置に必然的な関係はない。海兵隊は米国本土にいてもいい。いざというときに投入する能力と意志があり、それが相手に認識されることが抑止力の本質だ。『沖縄の海兵隊の抑止力』といったとたんに思考停止し、深く掘り下げて考えないのは一種の信仰だ。沖縄県民はそこに不信感を持っている」

 「離島防衛は制海権と制空権の奪取が先決で海兵隊がいきなり投入されるのはあり得ない」と主張しているが、離島防衛に限らず、殆どの有事に於いて「制海権と制空権の奪取」が有事の主導権を握るカギであって、緒戦に於いてその役割を担うのは特にミサイル部隊や空軍、そして空母群を擁する海軍であって、海兵隊の出番はその後になる。

 例えば1991年の湾岸戦争でも2003年3月19日開始のイラク戦争でも米空母からの巡航ミサイル発射と空軍の空爆で攻撃が始まった。後者の場合は3月19日から3月22日までの4日間で米軍が湾岸地域と地中海などからイラクのバグダッド一帯に発射した巡航ミサイル「トマホーク」の数が350基に達して、45日間の湾岸戦争時の288基を上回るハイペースだとマスコミは伝えている。

 陸軍+海兵隊の米軍地上部隊がクウェート領内からイラク領内へ侵攻、戦闘を開始したのはミサイル攻撃開始翌日の3月20日だが、それ以前の何日間で急遽地上部隊を整えたわけではない。

 イラク戦争の準備は2001年11月から1年4カ月をかけて行い、その間に米軍地上部隊をクウェート領内やトルコ領内に送り込んでいたと言う。中東に派遣していた空母やミサイル駆逐艦等を除いた空母群やミサイル駆逐艦群は横須賀基地その他から1週間程度から10日程度の日数をかけてペルシャ湾や紅海に向けて航行し、臨戦態勢に入っている。

 柳沢協二氏の「ピンポイントで沖縄でなくてはならない軍事的合理性はない」、さらに「海兵隊は米国本土にいてもいい」との発言を待つまでもなく、ミサイル発射・航空機爆撃で攻撃開始が優先的戦術となっている現代戦争では、その性質上、米海兵隊を沖縄に駐留させておかなければならない絶対的理由はどこにも存在しない。

 当然、安倍政権は普天間基地県外移転の沖縄県民の希望を「抑止力の維持」を口実に無視する理由はないことになる。
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河野太郎の12/11記者会見:日ロ北方四島返還問題対記者質問「次の質問どうぞ」4連発は日本側窮地を代弁

2018-12-13 12:16:28 | 政治
                                     
 外相河野太郎が2月11日の記者会見で現下の日露関係に関わる記者からの質問そのものには何ら答えず、無視、各マスコミが「次の質問どうぞ」を四連発したと報じていた。(文飾は当方)

 「河野太郎記者会見」(2018年12月11日(火曜日)13時39分 於:外務省会見室)

 時事通信越後記者「日露関係について伺います。先日,ラヴロフ外務大臣が日露平和条約の締結について,第二次世界大戦の結果を認めることを意味すると,日本が認めることが最初の一歩になるというような発言をされていますけれども,この発言に対する大臣の受け止めをお願いします」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 読売新聞梁田記者「今のに関連して伺います。大臣,国会答弁等でも日露関係については交渉に資することはないので,発言は一切控えるというふうにおっしゃってますけれども,今のように,ロシア側ではラヴロフ外相,ペスコフ報道官等々,いろいろな原則的立場の表明があります。これに対して反論を公の場でするおつもりもないということでよろしいんでしょうか。

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 共同通信田中記者「引き続き,関連の質問なんですけれども,大臣は良い環境を整備したいということで,発言をこれまで抑制的あるいは抑えてこられたと思うんですけれども,一方でロシア側からは,どんどんこれまでとおりの発言が出てきます。こういった端から見たらアンバランスな状況が,実際の協議にも影響を与えるという懸念もあると思うんですが,その点に関してはどうお考えでしょうか」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

 時事通信斎藤記者「大臣,何で質問に「次の質問どうぞ」と言うんですか」

 河野太郎「次の質問どうぞ」

(ゴールデンウィーク10連休の外務省の体制に関しての質問が間一つに入る。)

 毎日新聞秋山記者「先程来,ロシアの質問に『次の質問どうぞ』というふうに回答されていますけれども,大臣の従前のお立場というのは我々も分かってますけれども,公の場での質問に対して,そういうご答弁をされるというのは適切ではないんじゃないでしょうか。どう思われますか」

 河野太郎「交渉に向けての環境をしっかりと整えたいと思っております」

 11月13日(2018年)のASEANに合わせたシンガポールでの通算23回目となる安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談から、この河野太郎「次の質問どうぞ」までの経緯を振り返ってみる。

 この日ロ首脳会談で北方四島帰属問題と平和条約締結問題が大きく前進したかに見えた。実際には前進していない。前進していたなら、河野太郎の「次の質問どうぞ」は別の形を取ったはずだ。安倍晋三が前進したかに見せていたに過ぎない。

通算23回目安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談で両首脳は平和条約締結後に歯舞群島・色丹島返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言を今後のスケジュールとして平和条約交渉を加速させることで合意。

 日本政府は四島返還を基本方針としている。この合意は一見すると、歯舞・色丹二島返還への転換に見える。安倍晋三はシンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアに移動の途中、11月16日午後、オーストラリア北部のダーウィンに到着、夕方から記者会見。

 「安倍晋三内外記者会見」(首相官邸)

 安倍晋三「先ず初めに申し上げておきたいことは、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場でありまして、この点に変更はないということであります。

 1956年共同宣言第9項は、平和条約交渉が継続されること、及び、平和条約締結後に、歯舞群島、色丹島が日本に引き渡されることを規定しています。

 従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。したがって、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」――

 「日本側の平和条約交渉の対象は四島の帰属の問題との立場であり、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾しない」

 要するに平和条約締結後に歯舞・色丹返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言に基づいた平和条約締結交渉であっても、いざ、目指すは四島返還、歯舞・色丹二島先行返還と国後・択捉継続返還をスケジュールとした二段階方式であって、日本政府が従来から基本的方針としている四島返還と何ら矛盾しないと断言した。

 当然、プーチンにしてもこの二段階方式を認識していなければならない。安倍晋三がいざ、目指すは四島返還の記者会見を開いた前日の2018年11月15日に首脳会談の結果についてロシアメディアの取材に答えている

 プーチン「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。

 日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」(NHK NEWS WEB

 プーチンは二段階方式だとの認識を一切示していない。示していたなら、報道機関が記事にしないのはあり得ない。しかも、「引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない」と断りを入れている。

 ロシアは従来から、「北方四島は第2次大戦の結果、ロシア領となった」ことをロシア側の絶対根拠としていて、このことと北方四島がロシアに主権があることを連動させている。日本政府はこの根拠と戦わなければならない。

 プーチンが歯舞・色丹の二島を返還した場合、二島に関して「北方四島は第2次大戦の結果、ロシア領となった」とする絶対根拠を取り下げることになる。

 この取り下げは国後・択捉に対しても絶対根拠としていることに自ずと影響を与えないではおかない。取り下げることができる絶対根拠など、自己撞着そのものだからで、絶対根拠自体を弱めることになる。国後・択捉をロシア領として維持し続けるには別の絶対根拠を打ち立てなければならなくなる。

 但しロシアが最終的に四島返還に応じる気があるなら、絶対根拠としている理由もなくなる。当然、「引き渡す根拠」に拘ることも、「主権」の帰属に拘ることもない。だが、プーチンは1956年日ソ共同宣言には「引き渡す根拠」も、「主権」の帰属についても書いてないとの物言いで間接的にロシア領であることに拘っている。

 このことは同時に絶対根拠への拘りを表していることになる。大体がロシア側が返還交渉に応じること自体、自らによる絶対根拠への挑戦となる。だが、挑戦を冒している気配は見えない。

11月24日(11月13日シンガポール通算23回目となる安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談から11日目)、河野太郎は国際会議に出席するため訪れているローマでロシアのラブロフ外相と会談している。

 河野太郎「平和条約締結問題について少し突っ込んだやり取りをした。交渉のフォーマットはこれから首脳間で合意したうえで進めることになるが、外相間でも活発に議論していきたい」( NHK NEWS WEB /2018年11月24日)

 「少し突っ込んだやり取り」に関しての詳細は一切触れていない。

 11月26日(11月24日のローマでの河野太郎・ラブロフ外相会談から2日後)衆院予算委での「無所属の会」の大串博志の質問に対する河野太郎の答弁。

 大串博志「北方四島は現在ロシアによって不法占拠されている状態にある。この認識でよろしいですね。総理」

 大串博志は従来から日本政府が「北方四島はロシアが不法占拠している」としてきた基本的位置づけに変わりはないのかと安倍晋三に問い質した。

 河野太郎が安倍晋三に代わって答弁に立つ。

 河野太郎「これから日ロで交渉しようとするときにですね、政府の考え方ですとか、交渉の方針ですとか、内容というものを対外的に申し上げるのは日本の国益になりませんので、今一切、差し控えさせて頂いているところでございます。ご了解を、理解を頂きたいと思います」

 大串博志がなお食い下がって不法占拠状態なのかと質問すると、安倍晋三は「北方領土は我が国の主権を有する島々だ」と答えるのみで「不法占拠」だとする言質を与えない答弁をしている。大串博志は安倍晋三の答弁に納得せず、同じ質問を繰返した。

 河野太郎「これから日ロの機微な交渉やろうというときに先程総理からも答弁がありましたけども、場外乱闘になることは日本にとって決してメリットはありません。様々なことについての交渉は交渉の場の中で行いますので、交渉の外で日本の政府の考え方、方針、そういったものを申し上げれば、当然、ロシア側もそれに対してコメントをしなければならなくなり、場外乱闘になります。それは日本にとって決してメリットにならないことをご理解を頂きたいと思います」

 2018年12月2日、G20サミットに合わせてアルゼンチンを訪問していた安倍晋三とプーチンが首脳会談。この会談で河野太郎とラブロフを交渉責任者とし、森外務審議官を総理特別代表、モルグロフ外務次官を大統領特別代表とする今後の平和条約交渉の枠組みとすることを確認下とマスコミは伝えている。

 では、今までの枠組みはどうなったのだろう。交渉の役に立っていなかったから、新しい枠組みを構築したということなのだろうか。

 いずれにしても、新しい枠組みで交渉をすることになった。

 12月7日(12月2日のアルゼンチンでの日ロ首脳会談から僅か5日後)

 ラブロフ外相(記者会見で)「平和条約を締結するということは、第2次世界大戦の結果を認めるということだ。これこそが不可欠な第一歩であり、これがなければ何も議論できない」(NHK NEWS WEB/2018年12月7日 22時30分)

 新たな枠組みで交渉しましょうと確認したアルゼンチン日ロ首脳会談からたった5日しか経っていないのにラブロフは北方四島がロシア領であり、ロシアに主権があるとする絶対根拠を持ち出して、絶対根拠容認に基づいた平和条約締結を突きつけた。

 意味するところは北方四島をロシア領としたままの平和条約締結だと手の内(=ロシア側の姿勢)を明かしたことになる。11月13日のシンガポールでの日ロ首脳会談でプーチンは安倍晋三の提案に応じて平和条約締結後に歯舞群島・色丹島返還を取り決めた1956年日ソ共同宣言に添って今後の交渉を進めることで合意しておきながら、1956年日ソ共同宣言には「引き渡す根拠」も、「主権」の帰属についても書いてないとの物言いで間接的に示すことになったロシア領であることへの拘りがラブロフの北方四島はロシア領だとする絶対根拠のあからさまな提示に繋がったと見ることができる。

 しかしこの手の内は新たな枠組みに基づいた交渉の中で提示すべき事柄であるのに、河野太郎がロシアが北方四島を不法占拠しているとでも言えば、このことに相手も応じて場外乱闘になると気兼ねしていたが、ロシア側は場外乱闘への気兼ねもなく、一種のルール違反になるにも関わらず、交渉外という場で北方四島がロシア領であることを露骨に振り回した。

 このルール違反を読み解くとしたら、11月24日のローマでの河野太郎・ラブロフ外相会談という正式な会談の場でラブロフが既にこの絶対根拠を河野太郎に突きつけていた可能性を考えると、ルール違反ではなくなる。

 だが、河野太郎はこのことを公表せずに「少し突っ込んだやり取り」程度に変えた。ラブロフはこの情報隠蔽に苛立って、正式な会談の場ではないことを承知しながら、絶対根拠を持ち出し、ロシアの立場を明確にした。
 
 河野太郎がラブロフ会談との詳細をどう隠蔽しようと、ラブロフの絶対根拠の改めての提示は11月13日通算23回目安倍晋三・プーチン日ロ首脳会談は日本側にとって無意味化するだけではなく、11月13日から19日しか経っていない2018年12月2日のアルゼンチンでの日ロ首脳会談も無意味だったことを示すことになる。

 こういったことが背景となっていた12月11日の記者会見であり、河野太郎がロシア問題に関わる記者の質問に何ら答えないままの「次の質問どうぞ」の四連発だとしたら、ここ2回の日ロ首脳会談が、あるいはそれ以前の全ての日ロ首脳会談も含まれるかも知れない、無意味でしかなかったことを証明することよって立たされることになった日本側の窮地を代弁する発言だったと解釈可能になる。

 ラブロフの12月7日「第2次世界大戦の結果」云々の絶対根拠提示にロシア副首相トルトネフが12月10日、日本に対して更に追い打ちを掛けることになった。
 
(ロシアのメディアに)「両首脳は、島の引き渡しの問題についてこれまでいっさい議論していない。話し合われているのは、島での共同経済活動に関わる問題だ」(NHK NEWS WEB/2018年12月11日 3時55分)

 23回目の首脳会談で平和条約締結後に歯舞・色丹二島返還を取り決めた1956年の日ソ共同宣言に基づいて交渉することを合意しているのだから、島の引き渡しについて議論していないことはない。にも関わらず、「議論していない」と否定する。

 ラブロフの「第2次世界大戦の結果」云々の絶対根拠提示と併せると、四島帰属の今後の議論否定への宣告とも受け取り可能となる。

 安倍晋三のように言葉を巧みに費やしてさも交渉が進展しているかに見せる掛けることはできるだろうが、河野太郎がそういった話術に長けていなければ、交渉の過程での様々な事実を隠さなければならなくなった場合、隠すこと自体が交渉が進展していないことの証明でしかないが、記者の質問に「次の質問どうぞ」と答えたくもなるはずだ。

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安倍晋三の外国人材:農業と漁業「派遣」認める方針は低賃金化を誘発し、非正規の正社員化政策に逆行

2018-12-11 12:36:22 | Weblog

 外国人人材受入れ拡大を柱とした出入国管理法改正案が12月8日(2018年)に成立、2019年4月1日の施行となる。政府は受入れ対象検討の農業と漁業は季節によって仕事の量が変動することなどから例外的に「派遣」の形態を認める方針を固め、12月下旬開催の関係閣僚会議で正式に決めることにしていると2018年12月9日付「NHK NEWS WEB」が伝えていた。

 漁業の場合は技術や経験が必要となる船に乗って漁に出るという仕事よりも、例えば牡蠣の殻剥きとか、干物の天日干しといった作業が対象となるはずだ。

2017年6月末時点の技能実習生総数約25万1721人に対してベトナム人は10万4802人。中国人が7万9959人。そしてその他。ベトナム人が約42%を占めている。対して中国人は約32%。

 一時は中国人がトップを占めていたが、ベトナム人にトップの座が取って変わられたと言う。

 ネットで調べると、2018年12月10日時点の円の対ベトナムドン為替レートは1円205.70 ドンとなっている。 
2018年7月19日付「VIETJOベトナムニュース」記事がベトナム労働総連盟の調査に基づいて労働者の平均月収は前年調査に比べて+1.4%増の553万VND(約2万7000円)で、月の最低賃金平均334万VND(約1万6300円)を約39.8%上回っているが、一部の労働者は今もなお基本給が地域別最低賃金を下回っていると伝えている。

 ベトナム人労働者の平均月収が日本円で約2万7000円。ベトナム人の場合、日本の技能実習制度を利用して出稼ぎに来るのは主としてこういった月の最低賃金を下回る労働者が多くを占めることになると思われる。ときには悪徳ブローカに大枚の金をはたくケースはベトナムで現在従事している労働では満足に生活できていないベトナム人がイチかバチの賭けに縋ってのことかもしれない。

 ベトナムの労働時間は1日8時間で週48時間だと、これもネットで紹介している。現在の日本の最低賃金は全国平均で時給874円(最高は東京都985円)。日本で最低賃金全国平均の時給874円で1日8時間、週休2日で週40時間働くと、約3万4960円。月4週で13万9840円。9840円を切り捨てても、月13万円となる。

 農業にしても、漁業にしても収穫物に応じて繁忙期は異なるから、閑散期を避けて繁忙期ごとに農家や漁家(ギョカ・漁業で生計を立てている家)を渡り歩いても、ほぼ1年間を通して仕事を手に入れることが可能で、移動時間を抜いて月10万円になったとしても、ベトナムの一般労働者の平均月収の約2万7000円を7万3千円も上回る月収を手にすることができる。ベトナム人は技能実習制度の実習生としても、外国人材受入れ制度の「特定技能1号」対象就労者としても、益々増えていくことが考えられる。

 両制度とも日本人と同等の報酬を義務付けているが、農業や漁業が、あるいはその他が「派遣」の形態が認められた場合、派遣労働者の月賃金が正規社員のそれの約3分の2弱とされているから、このような賃金の傾向と使い勝手の良さから、勢い作業現場がベトナム人の派遣労働者が占めることになるだろうし、そうなって賃金を比較する日本人労働者が排除されていった場合、あるいは外国人よりも低賃金で使うことのできる高齢女性等の賃金の低い日本人労働者のみを囲い込む結果となった場合、ベトナム人にとっては高収入でも、日本人労働者と同等の報酬は有名無実化して、低賃金労働の現場と化す恐れが生じない保証はない。

 となると、技能実習生や外国人材「特定技能1号」を受入れている他の業種にしても、外国人と同等の仕事をする日本人労働者はより賃金を低く雇用できる派遣で間に合わせて、その賃金との比較で日本人労働者と同等の報酬を外国人労働者に当てはめる賃金抑制策が一般化する可能性は否定できない。何しろ企業側は止むを得ない事情がない限り1円でも安く使いたい旨味を欲しているからだ。
安倍晋三は派遣労働者の正社員化に取組んでいる。人手不足から非正規社員の正規社員への囲い込みが必要になって正規社員が増加傾向にあるが、企業側は喜んで正規化に努めているわけではない。

 例え農業と漁業に限った業種であっても、外国人の派遣労働者で間に合わせたり、他の業種にしても外国人雇用を増やしていくと同時に何も高い給料を出して日本人を使うことはないといった理由付けからの賃金抑制策が罷り通って日本人労働者を賃金の低い派遣に限定していった場合、外国人の賃金抑制策にもなり、勢い安倍晋三の非正規の正社員化政策に逆行していくことになる。

 こういったことが外国人人材受入れの農業と漁業に派遣を認めることから始まる可能性は否定できない。

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安倍晋三と山下貴志と入管局長和田雅樹の大ウソを許した有田芳生2018年12月6日参院法務委質疑

2018-12-10 13:30:21 | 政治

 マスコミが2018年12月6日の参院法務委員会で立憲民主党の有田芳生(よしふ)が「技能実習生はこの3年間で69人亡くなった。凍死、溺死、自殺。溺死が7人です」と質問したのに対して安倍晋三が「今ここで初めて聞いたから、答えようがない」といった答弁をしたと伝えていた。

 これまで外国人材受入れ拡大法案を議論してきた衆参予算委、あるいは衆参法務委で技能実習生の自殺や凍死等の問題が野党から取り上げられて、それに安倍晋三が当然、答弁しているから、「初めて聞いた」はないだろう、いつもの大ウソではなのだろうと思い、立憲民主党サイトにアクセスして、質疑の模様を伝える(2018年12月6日)記事を探した。

 記事の最後に「技能実習の死亡事案 平成27,28,29年」と題した2013年12月3日作成の法務省資料が載せてあった。

 2015年1月1日からの交通事故死、溺死、凍死、自殺、フォークリフト運転中の事故死等々が記載されているが、原因については一切記載されていない。特に溺死で想像し得る原因は海や川への高い所からの投身自殺、あるいは直に海や川に入っていく入水自殺が考えられるが、技能実習生自身の行いに起因するのか、あるいは技能実習生受入れ機関側の労働環境に起因するのかによって法務省は技能実習生全体に対する注意喚起や精神的ケアを行うか、受入れ機関側への労働条件に関わる指導・監督を行うか、いずれかの対応を取ならなければならないのだから、原因調査が必要になるずだが、何もしていなかったことになる。いわば法務省としての責任を果たしていなかった重大な問題となる。

 2017年10月3日の養殖業20歳中国男性の「洋上でのマガキ養殖の技能実習終了後、港に戻る途中の船から技能実習生が落水死亡したもの」との記載があるが、これも本人の不注意から落ちたのか、長時間労働等の過酷労働が原因した疲労困憊からの意識が麻痺した状態で船から落下したのか、あるいは毎日が辛くて、海面を見ていたら、ふと海に引き込まれてしまった半ば自殺なのか、原因ごとに法務省の為すべき責任が異なってくるはずだが、原因についての記載はゼロとなっている。
 
 要するに技能実習生に対する人間としての扱いは窺うことはできず、モノとしての扱いしか見えてこない印象のみを受ける。

 当日参院法務委で実際にどんな質疑応答があったのか、有田芳生質疑の動画をダウンロードして、文字に起こしてみた。安倍晋三が午後3時過ぎから約2時間出席したため、有田芳生は午前中と午後の2度質疑に立っている。午前中の質疑は全文、午後は一部分の紹介とする。

 2018年12月6日参院法務委午前

 有田芳生「立憲民主党民、民友会の有田芳生です。例えばベトナムのハノイの空港からお父さんお母さんに送られて、若い26歳の男性、あるいは女性たちが技能実習生として働くために日本にやってきた。ホーチミンでも、あるいは中国からも、モンゴルからも、タイからも、多くの若者たちがこの日本にやって参りました。

 しかし技能実習生の実態というのは、前回もお話伺いましたように非常に過酷なものがある、今でも続いております。法務省が調査した結果、自らを守るために失踪せざるを得なかった若者たち、2870人の調査の結果明らかになったことは、法務省がこれまで明らかにしたように最(低)賃金以下22人、0.8%どころか、67%、約2000人近い人達が、最(低)賃金以下で働からざるを得なかった。

さらには過労死、その水準の環境のもとで働かざるを得ない人たちが1割いたということが私たち野党の調査・分析によって明らかになりました。しかし事は、そ
んな状況にはありません、実は今から驚くべき新しい事実、資料を明らかに致します。

(A4程度の用紙を何枚か手にして)過労死水準で働いていた人たち、今でも全国各地にいる。これは法務省が作成した資料です。技能実習生でどれだけ多くの人たちが命を奪われたか、失っているか。例えば(用紙を読み上げる)平成27年1月4日、中国からやってきた34歳の女性、溺死。1月7日、中国からやってきた28歳の男性、凍死。

 2月21日、モンゴルからやってきた34歳の男性、自殺。3月26日、ベトナムからやってきた25歳の男性、自殺。ラオスからやってきた29歳の男性、急性心筋梗塞。中国からやってきた21歳の女性、自殺。ベトナムからやってきた21歳の女性、低酸素脳症。

 中国からやってきた23歳の男性、クモ膜下出血。中国からやってきた33歳の男性、溺死。ベトナムからやってきた25歳の男性、小脳出血。ベトナムからやってきた27歳の男性、脳出血。ベトナムからやってきた21歳の女性、溺死。中国からやってきた29歳の男性、溺死。中国からやってきた35歳の男性、急性心不全。中国からやってきた28歳の男性、急性呼吸促迫症候群。中国からやってきた22歳の女性、クモ膜下出血。

 (用紙を肩のところに持ち上げて)ごく一部ですよ、今、ご紹介したのは。多くの若者たちですよ。日本にやってきて、凍死、溺死、自殺、病死、ずうっと続いている。今になっても続いているんですよ。これが技能実習生の実態ですよ。これ法務省の資料です。大臣、これご存知ですか」

 山下貴司「ご指摘の資料については承知しております」
 
 有田芳生「承知した上で、入管当局もそうでしょうけれど、どういう対応をこれまで取ってこられたんですか。じゃあ、具体的に聞きます。溺死ってどういう状況なんです。調査されましたか」

 入国管理局長和田雅樹「えー、お答え申し上げます。これは報告を受けたものを記載しているものでありまして、個別の事案の中身につきましては調査しているかどうかにつきましては、私には、こちらでは、当局として把握していないということでございます」

 有田芳生「(声を荒げて)無責任でしょう、冗談じゃないよ。日本に希望を持って、ベトナム、中国から来た若い青年たちが何で溺死、凍死、自殺しなけりゃいけないんですか。その分析をなさっていないんですか。

 おかしいでしょ。それで新しい制度に行くなんていうのは全く許さないですよ。何で溺死したんですか。何で凍死したんですか。一人ひとりの人生、明らかにしてくださいよ。何で調査しないんですか。調査しなかったんですか?」

 和田雅樹「誠に申し訳ございません。まあ、あの、地方入管等からの報告の内容が、このような報告であったということでございまして、中には、まあ、その状況について若干の記載のあるものもございます。いずれに致しましても、こうした深刻な状況につきましては、今般設置されましたPTの中できちんと調査をして参りたいと考えているところでございます」

 有田芳生「(感情的になって)違うでしょう。今から調査じゃないでしょう。今読み上げた一人ひとりの人生については平成27年ですよ。何で凍死したんですか、何で溺死したんですか、明らかにしてください。一人ひとりのベトナム、中国の若者たちの人生、そんな数だけど、言葉だけで蔑ろにするんですか。明らかにしてください。何で凍死、何で溺死。何で溺死の人たちが多いんですか。はっきりしてくださいよ」

和田雅樹「申し訳ございません。例えば平成29年の10月3日に20歳の方、養殖業で亡くなられた方などにつきましては、洋上のマガキ養殖での技能実習終了後、港に戻る途中の船から落水して死亡したなど個別の事情につきまして若干そのー、これは報告を受けてるものもございますが、今先生からご指摘のございました溺死等々と書かれているものにつきましては今手元に資料がございませんため、明らかにすることができませんが、きちんと報告をできるようにしたいと思います」

 有田芳生「おかしいでしょう。平成29年の今読み上げられたことは書いてありますよ。だけど、それ以前に平成27年から、何年も前から溺死、凍死というのは一杯あるじゃないですか。そういう報告書が来てたら、何でこんなことが技能実習生の中で起きてんのか、調べるのがあなた方の仕事でしょ。

 人の人生ですよ、これは。日本に希望を持ってきた若者たちの、それをどうしてこんなことが起きてるのかっていうことを何で調査して、改善策、取ろうとしなかったんですか。明らかにしてくださいよ。みんな悲しんでるんですよ。お父さんもお母さんも。
 
 勿論、本人たちの無念も、どうすんですか。これ(手に持っている報告書)法務省が明らかにしたことじゃないですか。公表してないでしょうけども。公表できないでしょ。この現実のもとで、技能実習生、その人たちの環境が変わらないままで新しい制度なんて行くことは絶対に許すことはできません。

 もう一度聞きます。何で凍死、溺死なんですか。理由を明らかにしてください」

 和田雅樹「申し訳ございません。あのー、人の命に関わることであり、重大なことであるということは認識しているところでございますが、現在我々が報告を受けている内容と言いますのは今、この票に取り纏めたところでございまして、その中身につきましててさらに詳しく調査したいと思います」

 有田芳生「大臣、法務省、これ(報告書の用紙を振って)つくってるんだけど、初めて明らかになりますよ、これは。どうして公表しないんですか」

 山下貴司「先ずですね、公表につきましてはやはり各死亡事件、これは、あの、労災事故、いずれにしてもそうでございます。例えば日本人に於きましても業種別死亡災害発生状況であるとか、業務上の疾病病(ママ、「業務上疾病」のこと。特定の業務に従事していることによってかかる、もしくはかかる確率が非常に高くなる病気の総称とのこと。)とか、これはあってはならんということは、これはやはり政府上げて取り組まなければならないということでございます。

 そしてこの死亡事案、法務省が今回取り纏めたものにつきまして、これやっぱり個々の死亡時期について、あの詳細についてですね、公にするということがやはり
死亡原因でございます、やはりプライバシーの観点から、これは遺族が公開を望まないであるとか、様々要素がございます。

 ですから、一般的な公表につきましては差し控えさせて頂きたいと考えております。そしてこの死亡事案の把握につきましては、これは29年11月から技能実習法が施工され、そしてこの施行を受けて、技能実習機構からしっかりとこれを把握し、それを法務省が把握するという運用をしっかりと図ってまいりたいというふうに考えております。

 そしてまだ足らざるところが今ないか、ということはそれは弁護士であります門山(宏哲)政務官をトップとした、この技能実習の運用に関わるプロジェクトチームについて、その方策についてしっかりと検討していきたいと考えております」 

 有田芳生「違います。遺族が公表を明らかにしてないですか。一人でも聞きましたか。ウソでしょう、そんなことは。聞きましたか、はっきりさせてください」

 有田芳生が自席から、「大臣が言ったんだから、大臣が答えてくださいよ」。入国管理局長和田雅樹が立ち上がりかけるが、山下貴司が答弁。

 山下貴司「死亡事案一般について公にするかどうかということに関しましては、これは基本的には先程申し上げた観点から、公表はしないということにしております。そもそもやはり死亡の原因につきましてはやはり個々人の、その死に至る経緯途中(?)でございます。

 勿論、事件性があるものであれば、これは労基、あるいは警察等に通報しているというふうに承知しておりますが、そういった取扱いであるということは是非ご承知して頂きたいと思います」

 有田芳生「やめてくださいよ。何で凍死したんですか。何で溺死したんですか。調べてくださいよ」

 和田雅樹「度々お答えしていますとおり、現在我々が報告を受けている内容としては、このようなものでございますけれども、その個別の具体の状況につきましては、またきちんと調査をしたいと思っているところでございます。

 その上で申し上げますと、それぞれの事案の内容につきましてどこまで公表ができるかということにつきましては、これはプライバシーの問題等々を検討した上で考える必要があると、このように考えているところでございます」

 有田芳生「冗談じゃない。何言ってるんですか。大臣ね、法律が変わって、今違うって言うけど、あなたね、実態知らないですよ。先月長野県からベトナムに帰った若者たち、今でも技能実習生として職場では怒鳴られ、殴られ、我慢して、11月に成田から帰っていきましたよ。今だって。そういう目に遭っている若者たちは一杯いる。

 7月にベトナムから来た若者で、借金をして日本に来て、自殺をしたグエンさん、遺書を残しています。もうおんなじことを繰返してもしょうがないから、グエンさんの遺書を聞いてください。

 『お父さんとお母さんに教わった通り強い人間になることを目指しましたが、もうその志は消えました。毎日孤独感を噛み締めています。周りの環境がとても酷いです。彼らは僕がどれぐらい頑張っているか、全く分かってくれません。軽蔑されています』

 仕事やって、蹴られてるんですよ。殴られてるんですよ。遺書の最後にグエンさんはこう書いている。『お父さん、お母さん、僕は恐いです。意味もない人生をずっと生きることに恐怖感を抱(いだ)いています。本当にごめんなさい、でも、もう遅いです。さよなら』

 ベトナムからお父さんお母さんに送られて、希望を持って日本に来て、挙句の果てが日本人に殴られて、蹴られて、軽蔑されて、差別をされて、その挙げ句が自殺ですよ。こういう人たちが今でも一杯いる。

 先月帰ったベトナム人たちは命を持って国に帰りましたよ。だけど、何て日本は酷い国かと、そう思って帰っていった。そういうことが広がっていくんですよ。日本に希望を持ってきながら、日本は好きだ。だけど帰るときは何て国なんだ。親日どころか、嫌日して帰っていく人が増えていくならば、大問題じゃないですか。

 だから、この技能実習生のちゃんとした総括なしに新しい制度なんかはあり得ません。(声を一段大きくして)採決なんか絶対許せないことを強調しまして質問を終わります」

 
 2018年12月6日参院法務委午後
 
 有田芳生「立憲民主党の有田芳生です。総理に率直にお話を伺います。先程答弁の中で外国人が安心できる環境を作りたいという趣旨のことをおっしゃいました。しかしこの法務委員会でも何度も何度も議論してまいりましたが、今技能実習生を初めとして外国人の方々が安心して日本で仕事をして貰えるような環境にはないんですよ、残念ながら。

 今日、私は午前中の法務委員会でも資料をお示しを致しました。法務省が作った資料ですけれども、技能実習生はこの3年間で69人亡くなっております。中には凍死、溺死、そして自殺。溺死がですね、7人ですよ。

 そして今日、私は質問をしましたけれども、ベトナムから借金をして、親のためにやってきたクエンさんという方の青年の遺書も読み上げました。ベトナムの母国に帰ることができなくなり、日本を本当に愛してやってきたのに結局、差別され、虐待され、殴られ、蹴られ、自殺をした。そういう人が一杯いるのに、これをどのように総括して、新しい制度に入っていかれるんですか。総理にお聞きしたいです。

 いや、総理にお聞きしているんです。総理に来て貰ってるんだから。総理に聞いているんです。ダメです」

 山下貴司「ご指名ですので、お答え致します。なぜかと言えば、これは法務省に於いて提出した資料でございますので、この前提をしっかりと踏まえた上で、総理に答弁して頂きたいと思うからであります。

 そしてその集計については、これは29年11月に新たな技能実習法が施工される以前の取り纏めでございまして、また、それに関しまして我々はそれをしっかりと
実態を把握する。そういったことで、今から門山(宏哲)政務官を始めとするプロジェクトチームに於いてしっかりと把握するべく、今検討しているところでございます。

 我々としては新たな技能実習法についてしっかりと把握した上、対応させて頂きたいと考えております」

 安倍晋三「あの、今ですね、なぜ山下大臣にお答えして頂いかということについて言うと、(ヤジ)委員長、ちょっと外がうるさくて、あの――」

 委員長「ご静粛に」

 安倍晋三「よろしいでしょうか。こういう式(?)はなるべく静かな環境の中でしっかりと議論するべきであって、委員外の方がヤジを飛ばすという、こういうことはやめて頂きたいなあと思うわけでございます。

 そこでですね、なぜ今、山下大臣からお答えをしたかと言えば、今有田委員がお示しになった亡くなられた例でありますね、亡くなられた例については私は今ここで初めてお伺いしたわけでありまして、ですから、私は答えようがないわけであります。

 そういう例について予め知っている山下大臣でなければ、それを踏まえて答えろっていうことでございましたので、それを踏まえて答えるのは私はできないので、山下大臣が踏まえてお答えさせて頂いたということでございまして、いずれにせよですね、(原稿読みに入る)現在山下法務大臣のチームのもと、法務省内に設置されたプロジェクトチームに於いてこの技能実習生の実態把握のあり方の見直しを行うと共にですね、聴取票から不当な行為が認められる技能実習制度、(原稿を読み直す)技能実習の実施機関の調査を既に着手しているものと承知をしているわけでございまして、そん中に於いてですね、やはり今までの制度の中で問題がなかったと思っているわけでは全く無いわけであります。

 様々なご指摘を頂きましたし、問題も把握しておりますから、しっかりとその中でですね、山下大臣のもとで調査をしっかりと行い、それを踏まえてこの法案を通して頂ければですね、省令等でしっかりと対応して行きたいと考えているところでございます」
 
 有田芳生「総理にややこしい質問をお聞きします。今、お話になりましたけども、総理がご自身で先程、外国人が安心できる環境を作りたいというふうにおっしゃった。確かに私が先程示した今朝の質問については総理はご存じないでしょう。

 私が言いたかったのはそういう外国人の技能実習生が日本にやってきて、自殺、凍死、溺死、溺死はこの3年間で7人ですよ。おかしいでしょ。なんでこんな事態になっているのかということを今朝入管局長に聞いても、法務省は分からない。そんな異常な事態が起きてるのに、何で調べないのか、総括しないのか、対策取らないのか。おかしいでしょってことをお聞きしたいんです。

 法務省の対応として、具体的なことを聞いているんじゃないですよ。溺死とか、自殺とか、そういう事があるのに法務省は分からないという体制を総理はどういうお考えですかという質門なんです」(質疑応答は続くが、これまでとする。)

 有田芳生は法務省が死亡原因を調査しないことに拘った。調査しないということはどういうことなかについては考えなかった。

 有田芳生が午前中の質疑で溺死の原因調査をしたのかと入国管理局長和田雅樹に尋ねると、「これは報告を受けたものを記載しているものでありまして、個別の事案の中身につきましては調査しているかどうかにつきましては、私には、こちらでは、当局として把握していないということでございます」とシラシラと答弁している。

 法務省は報告を受けたものを記載しただけで、個別の事案に関わる調査は把握していない。記載するとき、特に指導・監督の役目を負う役所として死亡原因を考えることも、問うこともしなかったことを自ら暴露することになる。

 このことは役目に反する不自然な態度で、大ウソでなければ成り立たない答弁であろう。

 逆説するなら、死亡原因を明らかにしなければ、受入機関側に対して指導も監督もできない。指導・監督の役目も果たせない。あるいは実習生に対して注意喚起も精神的ケアもできないし、そうしなければならない責任は履行もできない。あり得ない話で、明らかにした場合、不都合が生じるための死亡原因に関わる情報隠蔽であって、情報隠蔽を押し通すための大ウソの答弁と見なければ整合性は見い出すことはできない。

 情報隠蔽とそのための大ウソの答弁でなく、実際にこれらの責任を果たしていなかったとしたら、法務省としての責任放棄以外の何ものでもない。有田芳生はこの点を突くべきだったが、感情的になって、「無責任でしょう、冗談じゃないよ」と声を荒げ、責任問題には触れずに原因調査しなかった理由の追及のみに拘り、体のいい尤もらしい答弁で逃げられている。

 先に法務省資料「技能実習の死亡事案」からマガキ養殖の技能実習生の船からの落水死亡事例を取り上げたが、この事例に関して入国管理局等は次のように答弁している。

 和田雅樹「例えば平成29年の10月3日に20歳の方、養殖業で亡くなられた方などにつきましては、洋上のマガキ養殖での技能実習終了後、港に戻る途中の船から落水して死亡したなど個別の事情につきまして若干そのー、これは報告を受けてるものもございますが、今先生からご指摘のございました溺死等々と書かれているものにつきましては今手元に資料がございませんため、明らかにすることができませんが、きちんと報告をできるようにしたいと思います」

 和田雅樹は死亡事例に関しての最初の答弁で、法務省は報告を受けたものを記載しただけで、個別の事案に関わる調査は把握していないと発言しているが、落水の死亡例などについては「若干、報告を受けている」と、最初の答弁と矛盾させている。なぜなら、報告書自体が死亡事案の事例のみの記載となっているのだから、「若干、報告を受けている」は死亡原因の報告が別途行われていなければ、整合性が取れないことになるからだ。いわば事例の報告に過ぎませんよとすることはできない。

 にも関わらず、最初の答弁では「若干、報告」については触れなかった。大ウソの連続となっている。

 但し溺死等々に関しては「今手元に資料がない」と最初の答弁に添う発言をしている。要するに「落水」は実習生側の単なる不注意扱いとすることができるから、受入れ機関側の問題とすることは避けることができるが、溺死等の重大事故は原因を明らかにした場合、受入れ機関側の問題から発して実習制度そのものが問われることになるゆえに明らかにできないということなのだろうが、最初に触れたように「落水」が過酷労働から発した重大事故の可能性は否定出来ない点、このことを排除し、最初の答弁と矛盾させた「若干、報告を受けている」で済ます答弁は大ウソだからできる発言であろう。

 法務省の「死亡事案」報告書は立憲民主党が法務省に要求して出させたのだろう、有田芳生は「どうして公表しないのか」と山下貴司に問い質すと、「プライバシーの観点から遺族が公開を望まない等、様々要素がある」からと非公表の理由を述べている。

 対して有田芳生は「違います。遺族が公表を明らかにしてないですか」と、いわば遺族が非公表にしているのかと追及しているが、問題としなければならないのは死亡原因の調査なくして法務省が実習生に対して注意喚起したり、精神的ケアをしたり、あるいは受入機関側への指導・監督の用に供することが不可能となることであって、このことを回避して死亡事例だけを羅列した「死亡事案」報告書の非公表の正当性に限った山下貴司の答弁は巧みで、こういった回避はやはり大ウソをどこかに交えていなければできない答弁であろう。

 山下貴司はこうも発言している。「事件性があるものであれば、これは労基、あるいは警察等に通報しているというふうに承知しておりますが、そういった取扱であるということは是非ご承知して頂きたいと思います」

 要するに事件性がある死亡事例であるなら、労基署や警察等に通報する。当然、労基署や警察等が法務省の顔色を窺わない限り、死亡原因は全ての事例に関してできるということはないだろうが、多くが明らかにされ、法務省は死亡原因を把握するに至る。だが、死亡原因は調査もしていない、原因を把握もしていない扱いにしている。

 全体的に大ウソで成り立たせているからこそ、山下貴司のこのような答弁が可能となる。

 有田芳生は最後まで死亡原因調査の如何が法務省の技能実習生や実習生受入機関側に対する責任履行に深く関わることになる点に気づかずにこのことを抜きに原因調査だけを求めた。実習生が過酷な環境に置かれていることを説明するためにベトナムから来て自殺した若者の遺書を読み上げているが、山下貴司にしても入管局長の和田雅樹にしても、腹の中でせせら笑って聞いていたに違いない。

 何しろ、人として扱わずにモノとして扱って平気な連中である。人として扱う神経を持ち合わせていたなら、技能実習制度の欠陥が例え明らかになることになっても、人を人として扱うことを優先させて、死亡原因を徹底的に調査して、公表しないでは済まないはずだ。

 有田芳生は午前中最後の発言として「技能実習生のちゃんとした総括なしに新しい制度なんかはあり得ません」と声を一段大きくして訴えたが、訴えも虚しく、強行採決されてしまった。

 午後の質門で午前中使った法務省の資料を取り上げ、「技能実習生はこの3年間で69人亡くなっております。中には凍死、溺死、そして自殺。溺死がですね、7人ですよ」と問い質したが、安倍晋三に軽くいなされてしまった。

 「亡くなられた例については私は今ここで初めてお伺いしたわけでありまして、ですから、私は答えようがないわけであります」

 最たる大ウソとなっている。

 2018年11月1日の衆院予算委員会。

 立憲民主党長妻昭「東京都内にベトナムの僧侶がおられて、そういう方がベトナム青年のお葬式をされておられる。もう青年の位牌がいっぱい並んでおられて、技能実習生などなど、自殺された方もたくさんおられます。

 例えば技能実習生で塗装の方は、二十代、ことし自殺されました。遺書がありました。暴力やイジメがあって辛いと遺書にはあった。川辺で首をつっておられました。

 全体で言うと、技能実習生、平成26年から5年間で12人自殺されておられる。ただ、これは国が調べただけで、実際は全部把握し切れていない、失踪者もいますから。こんな数字じゃないと私は思います」

 対して安倍晋三は自殺や失踪者が出ている技能実習制度の矛盾には一切触れずに人手不足からの外国人材拡大法案の必要性のみを巧妙に訴える答弁に終始している。だが、技能実習生の中から自殺者が出ていることは耳にしていたし、有田芳生が法務省の「死亡事案」報告書に基づいて質問することは質問通告で知らされていたはずだ。

 有田芳生は「確かに私が先程示した今朝の質問については総理はご存じないでしょう」からと、「今ここで初めてお伺いした」という答弁をいともたやすく許してしまっている。楽天的に過ぎる。

 「私は答えようがない」と言ったあとの答弁で原稿を読み上げたことも質問通告があったからこそできたことで、「亡くなられた例については私は今ここで初めてお伺いした」は大ウソも大ウソで、有田芳生はこの事に気づかずに大ウソを許してしまった。

 技能実習制度が「やはり今までの制度の中で問題がなかったと思っているわけでは全く無いわけであります」は「亡くなられた例については私は今ここで初めてお伺いした」という答弁ができることからも、死亡原因の調査をしていないとしていることができることからも、薄汚い開き直りに過ぎない。

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安倍晋三の「ややこしい質問を受ける」は国会軽視で終わらない、受入れ外国人材を人として意識する真摯さ・謙虚さの欠如が要因

2018-12-07 11:02:10 | 政治
 
 安倍晋三は11月30日からアルゼンチンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議への出席とウルグアイとパラグアイ訪問後、12月4日午後に帰国。12月5日に参議院法務委員会理事懇談会は翌12月6日の質疑に安倍晋三が午後2時間出席することで与野党が合意した。

 安倍晋三の方は12月4日午後帰国翌日の12月5日の午後6時3分に東京・芝公園の東京プリンスホテルに到着。同ホテル内の宴会場「鳳凰の間」でエコノミストらとの懇親会である「東京政経フォーラム」に出席、挨拶(時事ドットコム「首相動静」から)している。

 各マスコミが「(海外からの帰国で)時差が激しく残っているなかにおいて、明日は(参院)法務委員会、2時間出てややこしい質問を受ける」と述べたと一斉に報じた。

 「ややこしい」という言葉の意味の一つに「面倒」というのがある。この意味を当てはめると、参院法務委員会に「2時間出て、野党の面倒な質問を受ける」となる。

 安倍晋三をしてこのように思わせていたのは「野党の質問を受けるのは面倒だ」という心理状態が発言のベースとなっていたはずだ。

 この心理を捉えてのことだろう、安倍晋三の挨拶に対する野党の反応を2018年12月6日付「NHK NEWS WEB」が紹介している。

 立憲民主党辻元清美「言語道断だ。ややこしい質問を受けたくなければ、ややこしい法案を出さなければいい。国会軽視も甚だしく、このひと言をもっても、不信任に値すると言いたい」

 「甚だしい国会軽視」発言で、「言語道断だ」と憤りを見せている。

 国民民主党原口一博「「『よほど国会を下に見ているのだな』と怒りに震える。驕っているとしか言いようがない。政府が、ややこしい法案を出すから、そんなことになる。『時差ぼけが残っている』と言うなら、海外に行かなければいい。『おごる者は久しからず』という言葉を伝えたい」

 同じく「国会軽視」説。この国会軽視は驕りから来ているとしている。「Wikipedia」で調べたら、原口一博は東京大学文学部心理学科を卒業している59歳。辻元清美は高校卒業後2年間就職し、その後早稲田大学教育学部を卒業、58歳。

 外国人材の受入れ拡大を柱とした出入国管理法改正案が11月27日(2018年)夜、強行採決によって衆院本会議を通過、現在参議院では法務委員会で審議中だが、野党は今国会での成立に反対、対して与党は7日の参院本会議での強行採決・成立の構えでいて、2019年4月の施行を目指している安倍晋三にとっては大事な局面であり、"時差ボケ"などと言ってはいられない。少なくとも表向きは国会軽視とは逆に審議重視の姿勢を見せなければならない。

 ところが、挨拶の中で「野党の質問を受けるのは面倒だ」といった心理を覗かせることになった。国会軽視が言わせた「ややこしい質問を受ける」とした発言だとしたら、では、安倍晋三をして国会を軽視させるに至った要因は何なのだろうか。

 2018年11月1日の衆院予算委員会。

 立憲民主党長妻昭「外国人労働者拡大の哲学を先ず、大本の哲学を先ずお尋ねしたいんですが、ま、一つは多文化共生という形を一つの軸足に置いて国を開いていくのか。あるいは同化政策ということですね、日本人になってもらうというような考え方で国を開いていくのか。大きな哲学ってのは総理、どうお考えですか」

 安倍晋三「お答えする前にですね、混同して頂くと困りますものですから、前以って申し上げておきたいことは政府としてはいわゆる移民政策を取ることは考えていないわけであります。

 多文化共生、あるいは同化というのは、この我が国に来られて、ずっとそのまま家族の方々と来られて、永住する方々がどんどん増えていくということを念頭に仰ってるんであれば、そういう政策は私たちは取らないってことは今まで再々申し上げている通りでございます。

 そのところを先ず混同しないで頂きたいと思います。その上でお尋ねの多文化共生型及び同化政策については一義的な定義があるとものではないと思われますが、少なくとも外国人に対して自国の価値観等を強制するようなことがあってはならない、こう考えております。

 受入れる外国人に対し社会の一員としてその生活環境を確保するため現在検討を進めている外国人材の受け入れ、共生のための総合的対応策をしっかりと実行に移し、受け入れる側もですね、お互いが尊重し合えるような共生社会の環境整備を進めていくことが大切であると考えておりますが、再三申し上げておきたいことはですね、これは永住ということでですね、これは我々が移民として受入れるという政策を取るわけではないということでございます。

 単に人手不足が多発する中に於いてですね、そうした業種に限ってですね、この一定の期限を設けて、基本的には家族の帯同なしでということで、今後新たな制度設計をしているところでございます」――

 11月1日の遣り取りだから、一見古い情報のように見えるが、質疑応答が似たような質問を続けて、似たような答弁で応じる繰返しが通り相場となっているから、古くても、情報の賞味期限は維持している。

 安倍晋三の答弁を纏めると、外国人材受入れ拡大策は人手不足を外国人材によって解消させる方策ではあるが、永住者を無制限に増やしていく移民政策ではなく、受入れが一定期間内であっても、外国人に対して自国の価値観等を強制することはないお互いが尊重し合えるような多文化共生社会の実現を目標としていて、間接的にだが、このことが「外国人労働者拡大の哲学」だと長妻昭に答えている。

 目標の達成が理想の完成となる。

 一定期間内の多文化共生社会であっても、一定期間内の同化政策の形を自ずと取る。と言っても、支配的力を有する民族が有しない民族の衣食住の文化に関わる価値観を全否定し、自国文化が有する価値観を絶対として一体化させる厳密な意味での同化政策ではなく、日常生活が相互に滞りなく行い得る範囲内の使用言語、その他の柔軟性を持たせた同化ではあるが、当然、多文化共生と同化は多文化共生であると同時にある種の同化という相互的な等価関係に置かなければならない。

 もし安倍晋三が外国人材受入れ拡大を通して人手不足の解消だけではなく、多文化共生と同化の目標、あるいは理想に真摯に且つ謙虚に向き合い、その実現に強い意志を秘めることになっていたなら、きつい時差ボケであったとしても、それを押して国会に出席、内閣の先頭に立って法律の成立と施行の必要性を熱弁しなければならない。

 あるいはそれくらいの自覚をしっかりと持っていなければならない。

 だが、エコノミストらとの懇親会で、「明日は(参院)法務委員会、2時間出てややこしい質問を受ける」と挨拶。野党の追及を頭に置いて面倒という心理を挨拶の端に覗かせた。外国人材受入れ拡大策がただ単に外国人材を使った人手不足解消の方策に過ぎないことの事実を暴露する心理の動きであり、この心理は同時に受入れ外国人と日本人が共に多文化共生と同化を目指さなければならないとしている目標、あるいは理想に真摯に且つ謙虚に向き合っていないことの事実の暴露ともなる。

 要は多文化共生も同化も口先だけのことで、外国人材を人手不足を可能な限り解消してアベノミクスの経済政策を維持するためのコマとしか見ていないことを証明することになる。

 安倍晋三の頭にあるのは経済最優先で、経済を組織の末端で動かす人間に対しては人としての扱いは二の次となっている。だからこそ、外国人技能実習制度で日本にやってきた外国人末端労働者の中から年々の失踪者が増加の一途を辿り、2017年7089人にまで数えて、2018年は1月から6月までの半年で前年の半数を大きく超える4279名も出す、手を打つことができない状況を作り出している。

 あるいは2014年から5年間で国が調べただけで技能実習生が12人も自殺している高い自殺率。2014から2016年度の3年間で労災死者数が日本人の10万人当たり1.7人に対して単純計算で10万人当たり3.7人に当たる計22人も出していると2018年1月14日付「日経電子版」が伝えることになっている放置状況。

 安倍晋三の「東京政経フォーラム」出席挨拶、「(海外からの帰国で)時差が激しく残っているなかにおいて、明日は(参院)法務委員会、2時間出てややこしい質問を受ける」云々は受入れ外国人材を人として意識する真摯さ・謙虚さを欠如させた非人間性から出た発言であると同時にこのことこそが安倍晋三をして国会を軽視させるに至った要因であり、ただ単に「国会軽視」の批判で終わらせてはならないはずだ。


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