安倍晋三の対枝野幸男党首討論:不都合を隠すウソ八百 自民党は民主党政権提案の最低賃金1000円に長いこと反対していた

2019-06-24 12:26:07 | 政治

 西暦2019年6月19日の党首討論で立憲民主党の枝野幸男は財務大臣麻生太郎諮問の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が、〈高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとな〉り、〈収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。〉云々を一つの結論としている指摘をマスコミと同様に年金や老後に対する不安を与えるもの、年金への信頼を揺るがせる問題点として捉えて、安倍晋三を追及、対して安倍晋三は誤解を与えたが、年金の持続可能性はマクロ経済スライドを含めて様々に手を打っていて、安心・安全でることと齟齬はないといった文脈で反論している。(文飾は当方)

 遣り取りの全文は昨日西暦2019年6月22日の当「ブログ」を参考にされたい。

 安倍政権の様々な手のうちの最重要な柱として、勿論、アベノミクス経済政策の成果を高々と掲げている。いわば景気がよくなってこその社会保障制度の持続可能性であり、年金の安定的給付の基盤であり、給付と負担のバランスの保証であり、全てはアベノミクス景気の賜物だというわけである。

 だが、公的年金に対する不安は小さくない。「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」 (内閣府大臣官房政府広報室/2019年1月30日)から見てみる。

「少子化、高齢化が進んでいく中で、将来の公的年金制度全体の姿はどのようなものになるのか」47.1%
「自分は年金をいつから受け取れるのか」39.2%
「自分の保険料負担はどうなっていくのか」26.2%
「年金制度全体の給付と負担の関係はどのようになっているのか」24.4% (回答2531人に於ける複数回答)

 公的年金への不安から、カネが貯蓄に回ることになって、個人消費の低迷を招いていると言われている。安倍晋三の安心・安全説にも関わらないこの不安について何も語らない。枝野幸男も党首討論で、「今回の報告書(金融庁報告書)が出た後も、安心ばかりは強調されて、その多くの有権者の皆さんが抱えている不安に向き合っていないということに対して多くの皆さんが怒っておられるのじゃないかと思います」と言っている。

 安倍晋三の"公的年金安心・安全"説に関わる発言をピックアップしてみる。

 安倍晋三「これも委員のご承知の通り、まさに給付と負担のバランスでありますが、給付をするためには負担をして頂かなければならない。と同時に年金というのは、これは年金の保険料とそして同時に税金を投入する。さらには年金の積立金とそしてその運用益でございます。そこで今委員が仰ったように若い人たちの給料が増えることというのは支え手のみなさんの保険料も増えていきますから、年金財政にはプラスになっていくことは当然のことであろうと思います。

 そういった意味に於きましてはこの6年間で380万人の方々がさらに働き始めた。正社員に於いてもこの6年間で150万人増えました。我々が政権交代前は50万人正社員が減っていたんですが、150万人増えたことによってですね、例えばマクロ経済スライドの数字はですね、0.9から0.2に大きく、これはある意味ではこれを改善と捉えているわけでありますが、数値としては改善した。これ平均寿命が延びているにも関わらず、これは働いている方々の保険料が増えたことによって回転をしているということでありますから、まさに委員がおっしゃったように経済が成長していくことによってですね、新たな働き手が増えていく。まさにが働きたい人が仕事ができるという環境を作ることが極めて重要であります。

 こうして経済が成長していくことによってですね、先程申し上げましたように(第2次安倍政権の6年間で)44兆円のですね、44兆円、運用益が出ているわけでありまして、民主党政権時代の約10倍、運用益が出ている。つまりしっかりと経済を成長させ、働き手を増やし、雇用を増やし、そのことによってですね、当然保険料収入も増えていく。マクロ経済スライドのマイナス分も減っていくわけでございますが、これからもしっかりと増やしていきたい。

 そして最低賃金につきましても、我々政権を奪還してから、この6年間で125円増えています。民主党政権時代の皆さんも頑張ったと思いますよ。みんなさんのときには36円増えている。みなさん3年間で、我々6年間で。しかし私たちは倍なんですが、3.5倍、最低賃金は増えているということであります。

 経済を成長させ、収入を増やし、そして当然、税収も、今、税収も活用して、社会保障の基盤を安定していく。成長と分配の好循環をしっかりと作っていくということであります。そして最初に申し上げましたように皆さんの収入が増えていくということについては、これは社会保障の基盤を大切にしていくことに於いて大変大切であり、しっかり私たちはそのことを行っていくことを申し上げておきたいと思います」

 この安倍晋三の答弁の前に枝野幸男は現在の社会保障制度から、医療、介護、保育、障害などの社会保障サービスを受ける際に利用者が負担する自己負担を世帯で合算し、その合計額が一定額を超える場合に超過分を国が負担する「総合合算制度」に転換すべきであること、抜本的な所得底上げ等を提案しているが、安倍晋三は聞き耳を持たず、我が道をいく姿勢を貫いた。

 安倍晋三は「(年金積立金に関して第2次安倍政権の6年間で)44兆円のですね、44兆円、運用益が出ている」と言っている。年金の運用は国内外の債券や株式投資によって行われる。運用利益を最大化方向に持っていくためには好景気による株式の活況が最大の味方となる。当然、第2次安倍政権の6年間で44兆円の年金運用益はアベノミクスの成果そのものを示していることになる。

 「この6年間で380万人の方々がさらに働き始めた。正社員がこの6年間で150万人増えた。我々が政権交代前は50万人正社員が減っていたが、150万人増えた」ことも、アベノミクスの成果の背景の一つと言うことになる。

 「成長と分配の好循環をしっかりと作っていく」と言っていることの「成長と分配の好循環」とはアベノミクス経済の個々の成果を受けて回転することになった経済全体の優れた自発的発展性を譬えていることは断るまでもない。いわば「成長と分配」が順調にスタートしている。そして「成長と分配」の顕著な成果は先ず賃金に現れなければならない。そして事実現れている。現れていなければ、「成長と分配の好循環」などと口が裂けて言えない。

 安倍晋三は「5年連続で今世紀最高水準の賃上げが行われました」と誇り、「企業の皆さんの賃上げ率は20年間で最高となりました」と誇り、主たる指標となる賃金アップをモノサシに「成長と分配」の好調さを証明している。

 2018年7月20日の記者会見では、「経団連の幹部企業への調査では、4分の3以上の企業で年収ベースで3%以上の賃上げが実現しました」と「成長と分配」の順調に機能していることを誇らかに謳い上げている。だが、経団連は日本の大手企業を中心に構成されている団体である。2018年年11月30日中小企業庁発表の(2016年6月時点) によると、中小企業・小規模事業者数は357.8万者(99.7%)であり、うち小規模事業者が304.8万者(84.9%)を占めていて、大企業は1万1157者(0.3%)のみである。

 そして従業員数は中小企業は大企業の約2倍以上占めている。

 「2019年4月の昇給率はどうなる?中小企業の平均、大企業の平均は?」(転職活動の歩きかた)から、大企業と中小企業の賃金格差を見てみる。

 2018年の大企業の平均昇給額  2.54%
 2018年の中小企業の平均昇給額 1.99%。

 そして2019年のそれぞれの賃上げ率を予想している。

 大企業の賃上げは2.2%前後
 中小企業は1.9%前後

 対して2019年大企業春闘平均妥結額2.46%、中小企業は連合発表の第1回集計結果は前年同期と変わらない2.16%の賃上げ率となっている。たいして差はないように見えるが、「企業規模間の賃金格差、古くて新しい課題」(リクルートワークス研究所/2018年01月19日)には大企業と中小企業の賃金格差を次のように記述している。
 
〈日本における企業規模による賃金格差は、従業員数1000人以上の企業(以下、「大企業」と呼称)を100とした場合、100~999人の企業(以下、「中企業」と呼称)では81.5、99人以下の企業(以下、「小企業」と呼称)で72.6となっている(厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」)。相当程度の賃金格差が存在することがわかる。〉

 しかも一世帯辺りの平均所得が1989年(平成元年)566.7万円だったのに対して2016年(平成28年)は560.2万円と6万5千円も減少している中での僅かな賃上げであり、賃上げ格差である。大多数を占める中小企業社員がただでさえ確固としたルールが確定していない公的年金に不安を抱くのは無理もない。

 要するに安倍晋三が誇っている賃上げは大企業に偏った「成長と分配の好循環」アベノミクス成果であって、賃金格差という不都合や一世帯辺りの平均所得が減少していると言った不都合を隠すウソ八百に過ぎない。ウソは一つや二つではないから、ウソ八百ということになる。

 大体が賃上げ自体が安倍晋三が経団連の尻を叩いて成就させた官製相場であることは周知の事実となっている。いわばアベノミクスの経済政策を実行していく過程で企業側に自律的に賃上げを促し、「成長と分配の好循環」に火をつけることになった成果ではない。

 要するに「5年連続で今世紀最高水準の賃上げ」にしても、「賃上げ率は20年間で最高」にしても、そこに賃金格差や平均所得の減少という不都合を隠していて、隠していることに気づいているからこその最低賃金のなお一層の底上げを自らの政策にしたはずだ。

 改めて枝野幸男に対する党首討論での安倍晋三の最低賃金についての発言を取り上げてみる。

 「最低賃金につきましても、我々政権を奪還してから、この6年間で125円増えています。民主党政権時代の皆さんも頑張ったと思いますよ。みんなさんのときには36円増えている。みなさん3年間で、我々6年間で。しかし私たちは倍なんですが、3.5倍、最低賃金は増えているということであります」

 「3.5倍、最低賃金」が増えても、格差解消とまでとてもとてもいっていない。だから、「2019参院選自民党政策バンク」に次のように盛り込むことになった。

 〈特に、最低賃金については、地域経済や中小企業・小規模事業者の実情、地域間格差に配慮しつつ、引き続き年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げることで、全国加重平均が1,000円になることを目指します。〉

 賃上げを経済界にお願いする他律性頼りではなく、最低賃金の引き上げこそ、「成長と分配の好循環」を自ら動かすアベノミクスに於ける自律的発動の一つとなるはずである。

 だが、自民党は民主党政権の間、最低賃金の引き上げに反対してきた。2010年10月13日衆議院予算委員会。首相は民主党菅直人。質問者は自民党西村康稔(やすとし)

 「パネルにありますけれども、資料にもお配りしていますが、企業が雇用拡大をするためにいろいろやろうとする中で、五重苦、まさに雇用空洞化政策を打たれている。その一つが先ほど来議論している円高、デフレであり、二つ目がCO2の25%削減。三つ目が高水準の法人税率、これもこれから議論します。それから、労働者派遣の禁止、最低賃金の値上げ。

 こうした中で、どうやって企業が日本に立地をして、雇用をふやすことができるのか。ぜひ総理には、供給サイドは応援しない、こういうメッセージを常に出されていますけれども、供給サイドにぜひ目を向けていただきたいと思います」

 2010年11月8日衆議院予算委員会。首相は同じく菅直人。質問者は自民党石破茂。

 「失業を増大させる、経済の足を引っ張る、そのような政策はすぐにやめるべきだと私たちは思っています。例えば製造業への派遣の禁止、これでどれだけ現場の製造業が悩んでいるか、苦しんでいるか。そういうことであれば、そういう人たちはもう採用できませんよ。正規の雇用なんていったらば、それはそんな賃金は払えません。外国に出るしかない。

 これが企業の足を引っ張ると言わないでどうする。最低賃金千円が払えるような会社がどこにありますか。CO2二五%削減、これが企業にどんな負担になっているか。そして高い法人税。それは、入りと出を同一にするんだ、租特を外すとか、ほかの税制を引き上げるとか、すそ野を広げるとか、こんなことをやっていて、何で法人の負担が減りますか。このようなことはおかしい。そして円高が続いている。このようなことは続けるべきではない、私はこのように考えております」
 
  2010年11月9日衆議院予算委員会。首相は同じく菅直人。質問者は自民党斎藤健。
 
 「今回の空洞化の危機は、前回2回の比ではありません。本当に素材産業までがこの国内から海外へ出ようとしているんです。そしてそれを後押しするような、ここに書いてありますような、製造業への派遣禁止、最低賃金千円、CO2は15年で30%削減をしろ、法人税は40%で、5%下げるけれども、そんなものは財源を出せ、そして一ドル80円の円高、これで国内で事業をする企業があるのかということを私は申し上げているんです。

 本当に厳しい危機です。例えば、日産のマーチは今度タイで生産をして、国内向けは全部タイから日本に輸出をするという決断をいたしました。タイは八年間法人税がただであります。そして、日本から輸入する部品も関税はただであります。今や世界は、優秀企業、優良企業を獲得する厳しい競争の時代に入っているんです。そういう認識が今の政府にあるのか。あったらなぜ、製造業への派遣とか最低賃金1000円とか、これだけの政策を並べちゃうんですかということを言っているんです。

 一つ一つはそれなりの理由があったとしても、これだけ重なったら、企業は全部外へ出ていってしまいますよ。直ちにこれらの施策、特に最初の三つを停止すべきだと私は思いますが、総理のお考えを伺いたいと思います」

 かくまでも民主党政権の最低賃金の1000円への引き上げに反対していた。

 安倍晋三は民主党時代の景気悪化期には最低賃金の引きげは無理であり、景気が回復してこその安倍政権下の最低賃金引き上げだと言うだろうし、2016年6月2日閣議決定の「一億総活躍プラン」で、〈最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDP 成長率にも配慮しつつ引き上げていく。〉。そして〈全国加重平均が1000円となることを目指す。このような最低賃金の引上げに向けて、中小企業・小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図る。〉としたのだろうが、製造業への派遣対象業務拡大等が企業の人件費抑制策に利用されて、賃金格差を生み、企業のみが一人勝ちする利益拡大の元凶となったことは隠している。

 そして安倍政権下の法人税減税が企業の利益拡大に拍車をかけて、財務省2018年9月3日発表の2017年度の大企業の内部留保は2016年度+22.4兆円、第2次安倍晋三政権発足時の2012年度から1.28倍増の425.8兆円にまで膨れ上がった。

 現在に至るまで格差拡大が続いている不都合な事実は隠し、中低所得層を置いてきぼりにしてきた。

 小泉政権が製造業への派遣対象業務拡大を打ち出し、企業が派遣人材を人件費抑制の道具とする前にせめて最低賃金を1000円に上げていたなら、現在の賃金格差を少しは緩和できていた可能性は否定できない。民主党政権時代の最低賃金1000円が安倍政権下でさらに引き上げられていったなら、企業の内部留保も少しは制御できていたかもしれない。要するに安倍政権下での格差拡大に歯止めがある程度はかかっていたかもしれない。

 だが、自民党は最低賃金1000円への引き上げに強硬に反対した。安倍晋三は民主党政権下の景気悪化時代を指して、「民主党政権は悪夢だった」と非難しているが、2009年9月にスタートして、2012年12月26日まで続いた民主党政権下での大企業の内部留保額から、その利益拡大を見てみる。

 2010年 266兆円
 2011年 268兆円
 2012年 272兆円

 円高で企業経営を圧迫していると言われても、内部留保を着実に増やしていた。対して2012年の最低賃金最高額の東京は850円、最低が沖縄や長崎、鳥取、佐賀などの653円で、1000円に遥かに到達していなかった。

 2007年9月26日から2008年9月24日まで首相を在任した福田康夫は2007年12月に「改正最低賃金法」を成立させ、2008年7月1日に施行させ、2008年3月の春闘時に自身も大企業側に賃上げを要請している。2008年当事の最低賃金は最高が東京都と神奈川の766円、最低が沖縄や宮崎の627円となっている。

 福田康夫が経済界に賃上げを要請したときに、当ブログ《方向オンチな福田首相の賃上げ要請 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》(2008.3.9)に最低賃金を1000円に上げるには大企業の下請け単価を引き上げなければ、中小企業の経営を圧迫することになって、中小企業自体が最低賃金の1000円化に反対すると書いた。

 〈最低賃金一律千円によって経済波及効果が生じるまでの中小企業の経営悪化問題は、これまで石油ショックやバブル崩壊、その他の要因で景気が減速したとき、大企業は下請け叩きで急場を凌いできたのである。大企業の利益を社員の賃上げに回すのではなく、下請け中小企業の下請け単価上げに回して、側面から最低賃金上げによる中小企業の負担を軽減し、その経済効果が下請けではない中小企業に波及するのを待つことで解決するのではないか。

 この方法だと大企業と中小企業との賃金格差の縮小、また都市と地方関係なく一律最低賃金千円によって、都市と地方の経済格差の縮小に貢献しないだろうか。


 民主党の主張どおりに最低賃金を一律千円に上げていたなら、身分不安定な非正規社員に先ず恩恵が及び、現在の物価高騰にもそれ相応に耐え得る元気を与えて、彼らの悲惨な生活を少なからず救ったのではないだろうか。当然福田内閣の支持率にも影響していく。

 格差社会だとかしましく言われている。福田首相の正規社員により確かな恩恵をもたらす賃上げ要請は例え下層の非正規社員に僅かながらでもおこぼれが行き渡るとしても、賃金格差・生活格差を逆に大きくする恐れのある方向オンチな政策に思えて仕方がない。〉 

 既に触れているが、安倍晋三は2016年6月2日の閣議決定の「一億総活躍プラン」で、最低賃金の年率3%程度を目途とした全国加重平均1000円の目標を掲げ、2019年参院選マニフェストで最低賃金の全国加重平均1000円を掲げたものの、日本商工会議所など中小企業3団体は2019年5月28日に3%を上回る目標の新たな設定と全国一律の目標に反対する緊急提言を発表している。要するに最低賃金の引き上げは中小企業の経営を圧迫すると依然として見ているからだろう。

 安倍晋三は2016年1月22日の施政方針演説で、「原材料コストの価格への転嫁など、下請企業の取引条件の改善に官民で取り組みながら、最低賃金についても、千円を目指し、年率三%を目途に引き上げます」と公約した。

 要するに原材料コストが上がった場合、大企業はそのコスト上昇分を大企業向け単価に上乗せすることを許さず、中小企業に負担させていた。安倍晋三はこの負担解消を官民で取り組むと宣言した。だが、日本商工会議所など中小企業3団体が安倍政権の最低賃金政策に反対したのは中小企業が大企業に対しての価格転嫁が困難か、不可能な状況に立たされていることに変わりはないことを示している。

 逆であるなら、下手な最低賃金上げが中小企業の経営を圧迫すると見ることはなく、逆に中小企業従業員の賃金が上がると喜ぶはずである。要するに安倍晋三は中小企業から大企業に向けた原材料コストの価格への転嫁がスムーズに行うことができる大企業と中小企業間の意思疎通を確約していながら、機能させずにいた。このことは大企業の側に立っていたことを意味する。

 大企業の側とは中低所得層の側ではなく、高所得層の側に立っていることを示す。それゆえの上の賃金に比較して下の賃金の伸びが抑えられている収入の格差拡大であり、その格差拡大が招いている公的年金に対する中低所得層の不安ということでなければならない。

 安倍晋三は賃金格差の拡大や一世帯辺りの平均所得が減少していると言った不都合だけではなく、最低賃金を1000円にまで上げることが中小企業の経営圧迫に繋がらないように原材料コストの価格への転嫁がスムーズに行うことができるシステムを構築する約束をしながら、それができていない不都合を隠したまま最低賃金上げを言い、上に偏っている不都合を隠して「成長と分配の好循環」を言い立てたり、公的年金の安全・安心を公言、アベノミクスの成果として、「5年連続で今世紀最高水準の賃上げが行われました」などとウソ八百を平然と突いている。

 安倍晋三が大企業や高額所得層の側に立つ国家主義者である以上、下の側のことを真剣に考えているようにはどこから見ても見えないことで、最低賃金上げは選挙のためにアピールしなければならない付け焼き刃なのだろう。
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2019年6月19日党首討論 安倍晋三対立憲民主党枝野幸男全文

2019-06-22 10:47:08 | 政治


 2019年6月24日に《安倍晋三の対枝野幸男党首討論:不都合を隠すウソ八百 自民党は民主党政権提案の最低賃金1000円に長いこと反対していた》と題してブログを書く予定で文字起こしした安倍晋三対立憲民主党枝野幸男の質疑応答の全文を、折角だから、前以って載せてみることにした。参考になるかどうかは不明・・・・・・。

 2019年6月19日党首討論 安倍晋三対立憲民主党枝野幸男

 枝野幸男「先ず冒頭、私からも昨夜の地震によって被害に遭われた皆さんにお見舞いを申し上げます。先程政府としての迅速な対応が必要なら、今日のPD(党首討論)の延期も含めて柔軟に対応を致しますということを申し上げさせて頂きましたが、問題ないというお答えを頂きました。まあしかし、引き続き余震等の心配がございますので、是非政府に於かれましては万全の対応をお願いを申し上げたいと思います。

 さて金融審議会のワーキンググループによるいわゆる2000万円報告書を契機として年金に対する関心等、老後に対する不安の声が高まっております。総理はこの今回の事態の中で多くの国民の皆さんが年金の何について関心を持ち、老後の何について不安を持っていると認識されているでしょう」

 安倍晋三「先ず改めて昨日の地震により被害を受けられた皆さんに対して心からお見舞い申し上げたいと思います。政府としては発災直後から人命第一に被害状況の把握、人命救助など、災害を受けた方への全力を傾けてきたところでございます。

 現在も雨が、現地、降っておりますので、多くの方々が不安のときを過ごされていると思います。先程関係閣僚会議を開催したところでありますが、政府と致しましては土砂崩れやあるいは余震といった二次災害に対して警戒をしている方(方面?)に対して万全を期すとともに道路等のライフラインの早期の復旧に全力を上げて参ります。現在も雨が降っておりますので、現地の皆様に於かれましては、実際の避難状況に十分に注意をして頂きたいと思います。

 そして年金についてでございますが、年金については皆様方、国民の皆様方、まして年金によって自分たちの老後の生活を賄うことができるのかどうか、そしてもう一点は果たして年金は持続可能なのかどうかということについて不安を持っておられるものと、このように考えております」

 枝野幸男「あの、今の不安が前提なんだろうと思いますが、今回のいわゆる2000万円報告書を契機として多くの皆さんの声が上がっているというその本質は安心ばかりを強調して、そして実態と向き合わない、この姿勢にあるのではないかと私は考えております。

 今回の2000万円という金額についても、確かに平均値であったり、一つの資産であったりします。しかしながら、多くの有権者の皆さんがそれぞれの生活をを考えたとき、自分が今貰っている年金、あるいは将来貰えると見込まれている年金だけでは、なかなか老後の暮らしが成り立っていかない。にも関わらず、今回の報告書が出た後も、安心ばかりは強調されて、その多くの有権者の皆さんが抱えている不安に向き合っていないということに対して多くの皆さんが怒っておられるのじゃないかと思います。

 そしてこれは年金問題ということで国民有権者の皆さんの生活と直接結びつくという今回の事案で多くの関心の輪が広がりましたが、これまで、森友・加計学園問題を始めとして公文書の隠蔽・改竄などが繰り返され、それに対する責任の所在等についても曖昧のままきています。見たくない事実はなかったことにして誤魔化す姿勢、これが自分の暮らす、直接関わる問題で見せられたこと、それが短時間で多くの皆さんの関心を招いている、そのベースにあるのではないかと私は考えます。

 先ずは今回の2000万円報告書、存在しないとか受け取らないとかという、そういう弥縫策ではなくて、きちんと、一つの試算ではこういうこともある、そうした場合に自分の力だけではなかなか2000万円のような規模では貯蓄はできないと不安を持ってらっしゃる皆さん達の正面から向き合うこと、それが今求められている政府の姿勢ではないかと思います。

 また今回の件で改めて突きつけられた公文書の管理や情報公開、議会に於ける徹底した説明責任を果たす、こうしたことをなさっていくことが今求められていることではないのかと思うんですが、総理の認識は如何がでしょうか」

 安倍晋三「先般の金融庁のワーキンググループの報告の問題点は何か、ということでありまして、枝野委員も既に指摘されたように平均値で見るのがいいのか、ということでございました。ここに大きな問題があったわけであります。

 この報告書によるとですね、月々年金生活者の方々が5万円不足する。いわば5万円赤字であって、そしてそれは95まで生きれば、2000万円になるということから、大きな誤解で生じたわけでございますが、これには前提条件があり、前提条件としては、2500万円、平均で預金がある。その預金の中から5万円ずつを活用して生活をしていくということでありますが、平均値でございますので、2500万円、預金があるということで、そんなにないよと違和感を感じた方もたくさんおられるのではないかということでありました。

 大切なことは何かと言えば、年金生活者の生活実態は多様でありまして、その多様な実態に対してしっかりと対応していくものとなっているのかどうかということであります。ですから、大切なことは、例えば年金が少ない方につきましては最大年6万円の給付を行っていく。あるいは無年金者の方々、(?)、この無年金となる原因である給付の払込の期間を25年間から10年間に短縮することによって無年金者の数を減らしていく。あるいは高齢者の皆様とっては介護保険料は大きな負担でありますから、介護保険料の負担を軽減をしていくということをしっかりと私たちは対応をしていく。

 そして様々な状況に向き合っていないのではないかということでありますが、様々な、様々な持続可能性に対する不安は何かと言えば、例えば平均寿命が伸びていきますますから、受給期間が長くなるということが一点。そして例えば生産年齢人口が減少していきますから、支え手が減少していくのではないかということことであります。

 そうしたものに向き合って、行なった改正が平成16年の改正であったわけでありました。マクロ経済スライドを導入をして、平均寿命の延伸とあるいは被保険者の増減に対応するようになった、これによって将来の年金受給者の給付と負担のバランスを取ると同時に現在年金を貰っている方の水準、年金の水準と、将来、年金を貰う方の水準を、これは均衡を取っていくということをお願いをしているわけであります。

 そしてデフレが続いていけば、残念でありますが、申し訳ないけれども、受給者の皆様にこのデフレスライドをお願いをする。あるいはマクロ経済スライドによって賃金の伸びには残念ながら追いつかないんですが、そのことによって持続可能性をお願いをしているということであります。まさに私たちは現実と向き合いながら、ご説明をしながら、制度の改正を行っているところでございます」

 枝野幸男「縷々お話を頂きましたが、私の問いかけには正面から答えて頂いたと思っておりません。あのー、今回の報告書そのものは一つの仮定であり、モデルを前提として2000万円というのはあるモデルに当てはまる人にとっては老後必要な金額ということかもしれませんが、今回を契機にして従来から、それは例えばこの2000万円のケースで想定されてる20万円弱の年金、国民年金の方はとてもこんな金額の年金、受け取っていませんし、受け取ることもありません。そうした皆さんたちは従来からこの年金だけでは老後食べていけないということを意識をして、あるいはこの年金だけ食べていけないという中で暮らしておられる。

 そして厚生年金などで一定の年金額を受け取っている皆さんにとってもですね、既に高齢者になっている皆さんは今更、今例えば数100万の貯蓄しかないけど、今さら増やせと言われても困るけれども、さあ、どうしようかという不安の中に過ごしておられる。

 そこにこうした報告書が出てきたことに対して、じゃあ、その貯蓄がない人たちはどうしたらいいんだろうかということに対しての答の前にその報告書自体がなかったことにしてしまうという姿勢は、これは、やっぱり高齢者が抱えていらっしゃる不安に対して正面から受け止めているということにはならないというふうに思っております。

 年金制度については確かにこれを改革しようと思えば、長期的な期間が必要になると思います。現に年金を受け取っていらっしゃる方の年金を大幅に上げるということは現実になかなか難しいことがあるということをよく分かっています。ただやれることがあるのにやれていないというふうに思っております。

 それは勿論年金生活者の中にはまさに多種多様でありますから、それこそを国民年金で食べていくことも今できていないというような方にとっては年6万円とはいえども、私はそのこと自体は評価をしたいと思いますが、そうした方々を含めて、一定程度の年金を受け取っていらっしゃる方々を含めて多くの皆さんが抱えている課題は健康な間は何とかなるかもしれない。ただ最大の不安は病気になったときの医療費やあるいはそのことによって介護が必要になったときの介護、さらに年齢を重ねたことによって病気でなくても、やはり介護の必要度は高まっていきます。

 今健康だから、この年金で何とか遣り繰りしているけれども、病気になったり、介護が必要になったときというものの不安が大変大きい。これに私は向かい合う姿勢が今求められているというふうに思っております。低年金であっても、資産がなくても、万が一のときに一定の医療や介護が受けられる安心、こういうことこそが多くの高齢者の皆さん、あるいはまもなく高齢者になる皆さんが求めていることだと考えている。

 私どもはそのための総合合算制度を早期に導入するべきであるということを主張をしている。制度ごとに例えば医療費の自己負担、あるいは介護費用の自己負担などを計算するのではなくて、家庭単位で医療、介護、保育、障害者福祉に関するトータルの金額について自己負担に上限をかける。当然のことながら、年金を始めとして所得に応じて上限を掛ける。

 こうした制度をしっかりと導入することによって年金が低い方でも、その範囲で一定の医療や介護が受けられるという安心、これをつくれば、勿論、年金の額が増えていくことが一番いいことかもしれませんが、それは困難であるということは私はよく承知をしております。

 そうした中で高齢者の皆さんの安心を高めることに繋がるんだと、私たちは国民の皆さんに提案をさせて頂きたいというふうに思っています。

 その前提として、そもそも質量ともに医療や介護のサービスが不足をしている、この大きな要因は低賃金による人手不足の慢性化であります。介護、医療従事者の賃金を抜本的に底上げをしていくということ。こうした形で病気になったり、介護が必要になったときでも一定の医療や介護が受けられるようなサービスの質量の安定と、それからそのときにかかる自己負担の所得に応じた低廉化というものを進めていくべきだと思っています。

 因みに医療介護のサービスを提供している賃金の底上げにかかる費用は直接的には一時的に現役世代の皆さんの所得の底上げということに回っていきます。高齢者の皆さんにとってだけではなくて、現役世代の賃金の底上げ・雇用の拡大ということに繋がっていくというふうに考えております。私共は今こそ総合合算制度とそして医療・介護の質量共に賃金の底上げによる充実というものを進めていくべきだと思っていますが、総理の見解を」

 安倍晋三「先ず、高齢期に応じて生活を支えるものは、勿論年金、大きな柱でございます。基礎年金と厚生年金、あるいは企業年金等がありますが、これについては既に私も、これまで既に答弁させて頂いております通りでございまして、勿論、国民年金だけではなかなか、これは生活費を賄うことができないということについては、これまでもお話をさせて頂いたところでございます。
 
 でも、これも委員のご承知の通り、まさに給付と負担のバランスでありますが、給付をするためには負担をして頂かなければならない。と同時に年金というのは、これは年金の保険料とそして同時に税金を投入する。さらには年金の積立金とそしてその運用益でございます。そこで今委員が仰ったように若い人たちの給料が増えることというのは支え手のみなさんの保険料も増えていきますから、年金財政にはプラスになっていくことは当然のことであろうと思います。

 そういった意味に於きましてはこの6年間で380万人の方々がさらに働き始めた。正社員に於いてもこの6年間で150万人増えました。我々が政権交代前は50万人正社員が減っていたんですが、150万人増えたことによってですね、例えばマクロ経済スライドの数字はですね、0.9から0.2に大きく、これはある意味ではこれを改善と捉えているわけでありますが、数値としては改善した。これ平均寿命が延びているにも関わらず、これは働いている方々の保険料が増えたことによって回転をしているということでありますから、まさに委員がおっしゃったように経済が成長していくことによってですね、新たな働き手が増えていく。まさにが働きたい人が仕事ができるという環境を作ることが極めて重要であります。

 こうして経済が成長していくことによってですね、先程申し上げましたように44兆円のですね、44兆円、運用益が出ているわけでありまして、民主党政権時代の約10倍、運用益が出ている。つまりしっかりと経済を成長させ、働き手を増やし、雇用を増やし、そのことによってですね、当然保険料収入も増えていく。マクロ経済スライドのマイナス分も減っていくわけでございますが、これからもしっかりと増やしていきたい。

 そして最低賃金につきましても、我々政権を奪還してから、この6年間で125円増えています。民主党政権時代の皆さんも頑張ったと思いますよ。みんなさんのときには36円増えている。みなさん3年間で、我々6年間で。しかし私たちは倍なんですが、3.5倍、最低賃金は増えているということであります。

 経済を成長させ、収入を増やし、そして当然、税収も、今、税収も活用して、社会保障の基盤を安定していく。成長と分配の好循環をしっかりと作っていくということであります。そして最初に申し上げましたように皆さんの収入が増えていくということについては、これは社会保障の基盤を大切にしていくことに於いて大変大切であり、しっかり私たちはそのことを行っていくことを申し上げておきたいと思います」

 枝野幸男「私も民主党政権の一翼を担わして頂きました。至らない点がたくさんあったことは、改めてこの場でお詫び申し上げておきたいと思いますが、経済の数値の最終成績はどこなのかと言ったら、私はやはり実質経済成長率、2010年から12年の実質経済成長率は1.8%。2013年から2018年の実質経済成長率は1.1%であります。これが客観的な経済のトータルの総合成績であるということは、私は自信を持って申し上げておきたいと思っております。

 そして先程の安倍総理のお話は私の問いかけには答えて頂けませんでした。年金の範囲の中で一定の医療や介護を受けられる総合合算制度というものについては全く答えをスルーされました。これについてはいっとき導入の方向で話が進んでいたものが、軽減税率導入の財源にするためにこれは実施をされないという流れになってきたということも付与しておきたいというふうに思っておりますし、それから全体としても雇用の話を一生懸命しておられましたが、私が提起をしたのは特に安心できる医療と介護、安心できる老後のためには介護従事者の殆ど、そしてかなりの比率の医療従事者、こうした皆さんが非常に重労働であり、なおかつ低賃金であるために慢性的な人手不足に陥っている。そもそも老後の安心のためのサービスも、質も量も不足している。

 そこをまず充実させていくためにそこに対してかなり抜本的な所得底上げ、そこに財政を投入していくということを申し上げましたが、一般論に転換をされてしまいました。これではなかなか現実には介護従事者の皆さんの所得の上がり方は微々たるものであって、本当の意味で今急激に増えている高齢者の数に対応して、今不足分を埋めてまでしっかりと安心できる介護をつくるという、こういう状況は想定できません。

 抜本的に分配のやり方を変えてですね、介護従事者、そして医療従事者、低賃金でありながら人手不足の分野は、これは老後の話だけでありません。保育士さんなどにも当てはまる問題であります。

 こうしたことをしっかりとすべきこと。これを私どもは今の社会政策に対する、そして経済政策に対する明確な対案として訴えていきたいと思っていますので、是非、安心できる医療や介護をどうするのかという具体的な案を示して頂きたいと思います」

 安倍晋三「一点だけ申し上げますと、実質成長の自慢をなされましたが、名実逆転をしている実質成長の伸びはデフレ自慢にしかならないということを申し上げておきたいと、こう思うわけであります。安倍政権に於いてはしっかりと経済を成長させていくわけでございますが、これからも成長と分配の好循環を回していきたいと、このように考えております」

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安倍晋三提唱の地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を自らコケにするイラン訪問

2019-06-17 11:44:40 | 政治
 
 イランの核合意からトランプの核合意離脱を経て、対イラン制裁措置導入をネットで調べて簡単に纏めてみた。

 2002年、イランでウラン濃縮施設発見。
 2015年7月14日、国連安全保障理事会常任理事国米英仏中露+独6か国協議の「P5プラス1」とイランとの間で核協議の最終合意。
 2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)によるイランの核濃縮に必要な遠心分離器などの大幅削減の確認。
 2016年1月16日、P5プラス1、核合意履行を宣言。米欧諸国、対イラン経済制裁解除手続きに入る。
 2018年5月8日 トランプ、イラン核合意からの離脱
 2018年11月までにイラン産原油禁輸など合意に基づいて解除されていた制裁をすべて再発動。
 2019年4月8日、イラン最高指導者直属の軍事組織イラン革命防衛隊を「テロ組織」に指定する方針を示す。2019年4月15日に発効。
 2019年4月8日、イラン、米国を「テロ支援国家」と認定、中東地域などを統括する米中央軍をテロ組織に指定。
 2019年4月22日、日本を含む8カ国・地域(日本、中国、インド、イタリア、ギリシャ、韓国、台湾、トルコ)をイラン産原油禁輸措置の適用除外とする特例措置を2019年5月1日を以って撤廃の方針を示す。
 2019年5月2日、適用除外特例措置を撤廃。
 2019年5月8日、トランプ、イランの鉄鋼、アルミニウム、銅の各部門を対象とする新たな制裁措置を導入する大統領令に署名。
 
 トランプにイラン核合意離脱の理由は次の記事が紹介している。

 「NHK時論公論」(2018年5月9日)

 核合意は――

▼イランによる核開発に対する制限に10年から15年の期限が設けられていること。期限を過ぎれば、イランが核兵器の開発を進め、中東に軍拡競争の危機が迫ってくるのは“火を見るより明らかだ”であること。
▼弾道ミサイルの開発を制限していないこと。現にイランは合意の直後からイスラエルも射程に収める中距離弾道ミサイルの発射実験を行い、関係国に脅威を及ぼしていること。
▼イランが周辺国でアメリカが「テロ組織」と看做す勢力を軍事的・経済的に支援している現状を野放しにしていること。

 こうした“不完全な合意”を放置すれば、いずれ中東に核戦争が勃発しかねないとトランプ大統領は主張。合意から離脱したのはイランに対してより厳しい“新たな合意”を目指すため。

 対してイランはアメリカに対して核合意復帰と制裁撤回、制裁による損害の補償を要求しているという。

 こうした状況の中で我が安倍晋三は2019年12、13、14日とイランを訪問。2019年6月11日付「asahi.com」には政権幹部の話として2019年4月26日のワシントンでの日米首脳会談の席でトランプから、「イランに行って私のメッセージを伝えられるのはあなたしかいない」と依頼されたからと訪問理由を伝えている。

 で、のこのこと出かけることになった。

 トランプが言っている「私のメッセージ」とはイランに対してより厳しい“新たな合意”を目指すテーブルにつくよう促す内容のものということになる。イランの主要貿易品目である石油の禁輸措置とイラン産鉄鋼、アルミニウム、銅に対して制裁措置を発動し、イランを経済的苦境に追い込みながら、新たな合意交渉のテーブルに就けと促し、就かせるための交渉役を日本の安倍晋三に託した。

 一般的には何月何日までに交渉のテーブルに就かなければ、制裁を発動することになると促すのがものだが、その逆を行っている。

 また、トランプが新しい交渉を望んでいる以上、安倍晋三に託さずとも、イランに対して直接的に働きかけていることになる。2019年6月2日、アメリカの国務長官ポンペイオが「イランとは前提条件を設けることなく話し合いをする用意はある」と発言したと「NHK NEWS WEB」記事が伝え、〈トランプ政権はイランに話し合いのテーブルにつくよう繰り返し迫っています。〉と解説している。

 つまりアメリカの要求に対してイランが新しい交渉のテーブルに就くことを承知しない中で安倍晋三はのこのこと出掛けたことになる。余っ程の自信がなければ、出かける気は起きない。

 安倍晋三はイランへの出立に先立って羽田空港で、「記者会見」(首相官邸サイト/2019年6月12日))を開いている。
  
 安倍晋三「中東地域では、緊張の高まりが懸念されています。国際社会の注目が集まる中において、この地域の平和と安定に向けて、日本としてできる限りの役割を果たしていきたいと考えています。日本とイランの伝統的な友好関係の上に、ローハニ大統領、そして最高指導者のハメネイ師と緊張緩和に向けて、率直な意見交換を行いたいと考えています」

 要するにトランプが招いて米・イラン間に生じた険悪な緊張状態の緩和の役を担った。その方法はイランを新たな合意交渉のテーブルに就かせることにあるということになる。なかなかの大役である。但し、それ程の大役を担う器量があるどうかが問題となる。

 では、マスコミ報道から日本時間の2019年6月12日夜から13日未明にかけて行われたイランのロウハニ大統領と安倍晋三の首脳会談を見てみる。「NHK NEWS WEB 」(2019年6月13日 4時53分)

 安倍晋三「ロウハニ大統領とは、いかにして現下の緊張を緩和し、偶発的な紛争を避けることができるか、率直かつ有意義な意見交換を行った。中東の平和と安定は、この地域のみならず、世界全体の繁栄にとって不可欠だ。誰も戦争など望んでおらず、日本としてできるかぎりの役割を果たしていきたい。

 (イランが建設的な役割を果たすことが不可欠だという認識を示してから)イランがIAEA(国際原子力機関)との協力を継続していることを高く評価し、核合意を引き続き順守することを強く期待している。

 ここまでの道のりは長かったが、ここからは広くて見晴らしのよい道のりになるはずだ。そのためには、お互いが努力しなければならないが、今日は、その第1歩となると確信している」

 断るまでもなく 米・イラン間の緊張状態はトランプの一方的な対イラン関係の変更によって生じた。当然、「現下の緊張を緩和」することも、「偶発的な紛争を避ける」ことも、「中東の平和と安定」を図ることも、アメリカとイランの関係の有り様が決定権を握る。日本とイランの関係の有り様ではない。従来の核合意に対するトランプの不満に基づいて要求している新たな合意交渉のテーブルにイランを導くことを安倍晋三の究極の目的としなければならないはずだ。

 但しイランはアメリカに対して核合意復帰と制裁撤回、制裁による損害の補償を要求している。となると、安倍晋三がイランに対してのみ、「核合意を引き続き順守することを強く期待」しても、アメリカの核合意離脱を問題にしていないことになって、イランのみへの一方的な要求となる。

 一方的な要求となることを回避するためにはイランの対米要求を聞いて、その要求をアメリカに伝え、例えトランプがその要求を拒絶し、自身の要求に徹底的に拘ったとしても、双方の要求を突き合わせて、折り合いをつけるべくアメリカとイランの間を取り持つ外交を展開し、それを成功させてこそ、中東の平和と安定に資することが可能となる。

 折り合いをつけるべくアメリカとイランの間を取り持つ外交とは両当事国の間を頻繁に行き来して合意を形成する外交交渉、往復外交を意味するシャトル外交を措いてほかにあるまい。

 このシャトル外交は自らが提唱した地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交に合致することにもなる。「地球儀を俯瞰する」とは地球全体を見てという意味を取るはずで、地球全体のバランスは一国の国益のみを優先させて実現はできず、折り合いをつけるという段階が必要となり、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交はシャトル外交を必要不可欠な手段としなければならない。

 アメリカとイランの相対立した利害・国益に折り合いをつけ、バランスを取るためのシャトル外交――地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を展開しないままに、「現下の緊張を緩和」だ、「偶発的な紛争を避ける」だ、「中東の平和と安定」だ、「誰も戦争など望んでいない」だ等々言ったとしても、単なるポーズだけとなる。言葉だけで有能な政治家を演出することが得意なポーズ番長だけのことはある。

 それがポーズだけなら、「日本としてできるかぎりの役割を果たしていきたい」にしても、ポーズだけの空疎な約束となる。

 大体がアメリカとイランとの間の国益・利害の鋭い対立の解消がさも簡単であるかのように「ここまでの道のりは長かったが、ここからは広くて見晴らしのよい道のりになるはずだ」と請け合っておきながら、「そのためには、お互いが努力しなければならない」と条件を付すことで簡単な道のりではないことを種明かしし、種明かししておきながら、「広くて見晴らしのよい道のり」に向けた「今日は、その第1歩となると確信している」と、自身のイラン訪問の有効性を印象づける巧妙なレトリックを展開している。

 要するに安倍晋三はイラン訪問の成果を見ないうちから、自身の外交能力の優秀性を自慢した。ところが安倍晋三がイランを訪問中の2019年6月12日、アメリカ財務省はイラン最高指導者直属の軍事組織「革命防衛隊」の傘下にあり、外国で特殊任務を担う「コッズ部隊」と繋がりのある隣国イラクの団体1つと2人の個人を新たに制裁の対象に加えたと発表し、アメリカも自分たちが要求する話し合いに安倍晋三を通してイランが応じるかどうかを確かめないうちに新たな制裁を課すことになった。「広くて見晴らしのよい道のりになる」
どころではなく、そのような道のりをアメリカ側は期待していないことを露呈した。

 安倍晋三はロウハニ大統領との首脳会談翌日の2019年6月13日、「ハメネイ最高指導者との会談」(外務省/2019年6月13日)を行っている。
 
 〈安倍総理から,ハメネイ最高指導者に対し,軍事衝突は誰も望んでおらず,現在の緊張の高まりを懸念していることを伝え,また,安倍総理から,日本は核合意を一貫して支持しており,イランがIAEAとの協力を継続していることを評価し,イランが引き続き核合意の履行継続を期待している旨述べ,イランは地域の大国であり,中東の安定化に向け建設的な役割を果たすよう要請しました。ハメネイ最高指導者からは,平和への信念を伺うことができ,また,核兵器は保有も製造も使用もしない,その意図はない,すべきではない旨の発言がありました。〉(一部抜粋)

 「日本は核合意を一貫して支持している」、「イランがIAEAとの協力を継続していることを評価している」、「イランが引き続き核合意の履行継続を期待している」、「中東の安定化に向け建設的な役割を果たすよう要請する」等々、ロウハニ大統領との首脳会談のときと同じように日本とイランとの関係の有り様の文脈での発言のみとなっている。トランプに「イランに行って私のメッセージを伝えられるのはあなたしかいない」と依頼された、その「メッセージ」の中身も、その中身に対するイランの反応も、イラン訪問の究極の目的であるはずなのに何も見えてこない。

 安倍晋三は何のためにイランを訪問したのだろうか。トランプに依頼された「メッセージ」の中身のあらかたを伝えている、中東ジャーナリストの川上泰徳氏の記事がある。

 「安倍首相のイラン訪問 緊張緩和の仲介とは程遠い中身と日本側の甘い評価」(yahoo!ニュース/2019/6/14 15:26)

 ハメネイ師の公式ウエッブサイトから発信された情報のみを紹介する。

 安倍晋三「私はあなたに米国大統領のメッセージを渡します」

 ハメネイ師「私は日本が誠実で善意に基づいていることに疑いはありません。しかしながら、あなたが米国大統領について言ったことについては、私はトランプを私がメッセージを交換するに値する人間と考えていません。私からはいかなる返事もありませんし、将来においても返答するつもりはありません」

 安倍晋三「米国はイランが核兵器を製造することを阻止するつもりであると語った」(

 ハメネイ師「私たちは核兵器に反対しています。私のファトワ(宗教見解)は、核兵器の製造を禁じています。しかし、私たちが核兵器を製造しようと考えれば、米国は何もできませんし、米国が認めないことが(製造することの)障害にはならないことは、あなたも知るべきです」

 安倍晋三「トランプ大統領はイランの体制転覆を考えているわけではありません」

 ハメネイ師「我々と米国との問題は米国がイランの体制転覆を意図しているかどうかではありません。なぜなら、もし、米国がそれ(イランの体制転覆)をしようとしても、彼らには達成することはできないからです。米国の歴代の大統領たちは40年間にわたってイスラム共和国を破壊しようとしてきましたが、失敗しました。トランプがイランの体制転覆を目指していないと言っているのは、嘘です。もし、彼がそうできるなら、するでしょう。しかし、彼にはそれができないのです」

 安倍晋三「米国は核問題でイランと協議することを求めている」(解説体を会話体に直す)

 ハメネイ師「イランは米国や欧州諸国との六か国協議を5年から6年行って、合意に達しました。しかし、米国は合意を無視し、破棄しました。どのような常識感覚があれば、米国が合意したことを投げ捨てておきながら、再度、交渉をするというのでしょうか? 私たちの問題は、米国と交渉することでは決して解決しません。どんな国も圧力の下での交渉は受け入れらないでしょう」

 安倍晋三「(トランプ大統領の言葉として)米国との交渉はイランの発展につながる」

 ハメネイ師「米国と交渉しなくても、制裁を受けていても、私たちは発展してきます」(以上)

 イラン最高指導であるハメネイ師の発言から見えてくる姿勢はトランプを相手にせずである。

 だからと言って、羽田空港でイラン出立に向けて、「この地域の平和と安定に向けて、日本としてできる限りの役割を果たしていきたいと考えています」と抱負を述べた以上、ハメネイ師のトランプを相手にせずの強固な拒絶反応に音を上げていいはずはなく、日本の役割を果たすと言った以上、果たすべくアメリカとイランの間を往復して折り合いをつけるシャトル外交となる地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を展開しなければならないはずだ。

 ところが、イラン訪問報告の西暦2019年6月14日の「トランプとの電話会談」では、報告に対して謝意の表明があり、「今後とも、トランプ大統領と、米国と緊密に連携していく考えである」こと、「互いの複雑な国民感情など、緊張緩和に向けた道のりには、大変な困難が伴うわけでありますが、地域の平和と安定、そして世界の繁栄のために、今後とも国際社会と緊密に連携を重ねながら努力を重ねていきたいと考えであること」と、連携の意思を示すのみで、イランの反応を叩き台にトランプと交渉するといった意思表示は何一つ示していない。

 アメリカとイランの国益調整・利害調整、その関係修復に向けてこそ、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交が機能することになるのだが、その意思も動きもどこを探しても、影一つ見つけることができない。となると、イラン訪問はこれまで大層な口を利いてきた地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を自らコケにする(見せ掛けだけで中身のないことを示す)象徴的事例となる。

 ここで発揮できない地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交なんぞ、どれ程の価値があると言うのだろうか。機能させるべきときに機能させることのできない外交など、見せ掛けだけで、中身などあろうはずはない。

 公式ウエッブサイトでのハメネイ師の辛辣なトランプ相手にせずの態度一つを見るだけで、安倍晋三のイラン訪問は失敗も失敗、大失敗だと見るほかないが、ところが、安倍晋三はハメネイ師との会談後、記者団に対して「平和への信念を伺うことができ、地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進だ」と述べ、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を敢行するわけでもない一回こっきりの訪問で自身のイラン訪問を高く高く、天よりも高く評価している。この図々しさは単なるポーズを超えている。

 上記川上泰徳氏の記事にしても、〈ハメネイ師から公式に発表された安倍首相の内容を見る限り、安倍首相が提示したトランプ大統領のメッセージは、ことごとく拒否されている。米国との仲介者を演じる安倍首相にとっては取りつく島もなく、イラン訪問は完全に失敗したと評価するしかないだろう。〉、〈世界が注目した安倍首相とハメネイ師との会談であるが、「地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進であると評価しています」と肯定的な評価だけで、相手の厳しい反応を一切伝えない首相官邸の発表は、日本国民をミスリードするものであろう。〉と、安倍晋三の自画自賛の風船を針の一突きで簡単に破裂させている。

 これで安倍晋三の地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交が見せかけだけで、中身が全然のないことを自ら曝け出したイラン訪問だったことを多くの国民が認知したはずだ。

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登戸通り魔殺人:動機解明は伯父夫婦が川崎市からどのようなアドバイスを受けて、どのような内容の手紙を51歳甥に渡したのかによる

2019-06-10 11:26:25 | 事件
 西暦2019年5月28日朝、川崎市の登戸駅付近の路上で小学校のスクールバスを待っていた児童や保護者ら20名が僅か十数秒の間に包丁で相次いで刺されて、小学校児童1名と付近にたまたま居合わせた男性1名が死亡、犯人は51歳の男で、犯行直後に自殺し、自らを死人に口なしにした。それが歪んだ心理からの犯行であったとしても、相当な決意を秘めた決行だったことを窺うことができる。

 犯人は4本の包丁を用意し、そのうちの刃渡り30センチの2本の柳刃包丁で犯行を決行した。犯行現場に背負ってきたが、犯行直前に近くのコンビニ駐車場に放置したリュックの中には刃渡り約25センチの文化包丁と刃渡り約20センチの刺し身包丁が入っていたという。

 刃渡りが最も長い柳刃包丁を凶器として選んだことと一連の犯行が僅か十数秒の間に決行されたところにも殺意の強さが現れている。

 この事件について西暦2019年6月3に当ブログに《登戸通り魔事件は野田小4虐待死が児相の対応不足が一因と同じく、川崎市の対応不足が一因 包丁購入者に氏名・住所等記入の義務付けを - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と題してエントリーしたが、言葉不足・読み取り不足があったために改めてブログ記事に取り上げて見ることにした。

 51歳の犯人は幼少期に両親が離婚し、小学校入学前後に父親の兄に当たる伯父に引き取られたという。その部屋にはテレビやゲーム機はあったが、パソコンやスマートフォンはなく、包丁が入っていた空き箱4つの他に1冊のノートと過去の大量殺人に関する事例などを集めた雑誌2冊など、合わせて数十点の関係資料が押収された。ノートには動機につながる記述はなかったという。遺留品から動機を窺わせる痕跡を見つけることができず、その上本人が死人に口なしとなったために動機解明が難航しているという。

 犯人は長い間引きこもり状態だったというが、複雑な生い立ちが引きこもりの一因となったのかもしれない。川崎市精神保健福祉センターの男性担当者は記者会見で「(引きこもりが)長い期間だろうなあということは想像しますが、お話からしてですね、昨日や今日に始まったことではない。多分、10年単位でしょうね、長期って」と、その期間の長さを説明している。

 この発言から窺うことができる事実は叔父夫婦から相談を受けたものの、引きこもりがいつ頃から始まったのか、一度も確認しなかったということである。つまり川崎市精神保健福祉センターは引きこもり相談を業務の一つにしていながら、長期に亘る引きこもりの深刻さにまともに向き合わなかった。「いい大人が、引きこもりとは何だ」と思っていたのかもしれない。

 いずれにしても犯人は長期の引きこもり状態にあった。但し引きこもりにも色々なタイプがある。引きこもりの後ろめたさを抱えていながら、引きこもりから抜け出せないイライラを家族に対して暴力という形で発散させる引きこもりもあれば、自分の部屋に閉じ込もった鬱々を過ごすタイプ等々あるはずだ。犯人のタイプについて川崎市健康福祉局の職員が「暴力をふるったり暴れたりすることはないが、コミュニケーションがまったくない。伯父夫婦と顔を合わせないように台所を使う時間やお風呂に入る時間を分けるルールを作っていた」と説明している。

 要するに暴力を振るうわけでもないし、直接的に迷惑を掛けるわけでもなく、引きこもりという状況に自身を一応は調和させていただけではなく、自身の引きこもりと伯父伯母との生活をそれなりに調和させていたことになる。

 2019年3月内閣府発表の《2018年度生活状況に関する調査》が40~64歳人口の推定引きこもり人数を挙げている。40~64歳の男女5千人に訪問調査。

 「ふだんどのくらい外出しますか」の質問に対する答として――

 「5.趣味の用事のときだけ外出する」が(準ひきこもり)

 「6.近所のコンビニなどには出かける」が(狭義の引きこもり)

 「7.自室からは出るが、家からは出ない」」が(狭義の引きこもり)

 「8.自室からほとんど出ない」が(狭義の引きこもり)

  5+6+7+8が(広義のひきこもり)と定義して、60~64歳が17%、〈総務省 「人口推計」(2018年)によれば、 40~64歳人口は4,235万人なので、 広義のひきこもりの推計数は61.3万人となる。〉と記している。

 驚きの推計数だが、この人数を見ると、引きこもりを相談業務の一つとしている川崎市精神保健福祉センターが「いい大人が、引きこもりと何だ」と思うことはないはずだし、当然、長期に亘る引きこもりの深刻さに対してもまともに向き合わなければならないはずだが、その様子が見えない矛盾はどのような理由からなのだろうか。

 40~64歳人口のうちの広義のひきこもりの推計数61.3万人のうちの一人、51歳の男を引きこもりという内に籠もった世界から通り魔殺人という外の世界に駆り出すことになった。この二つの世界の余りにもかけ離れている距離が男にどのような心境の変化を与えたのか窺うことは難しく、その難しさが動機解明の困難さに繋がっているのかもしれない。もし籠もった世界の内側で完結させた犯罪なら、加害者と被害者の距離の狭さが感情面からの軋轢という答を導き出し易くする可能性が生じる。

 被害者にとっては余りにも不条理過ぎる巻き添えだが、単なる感情面の軋轢といったことでは推し量ることができない屈折した心理が本人の中では臨界点に達した末の犯行に思える。

 叔父夫婦とその親族が本人について川崎市精神保健福祉センターに相談していたことと相談から犯行に至る経緯と本人に関わる伯父伯母の説明、川崎市の説明を列記してみる。

 2017年11月~2019年1月 川崎市精神保健福祉センターは叔父や叔母とその親族から面談と電話による相談を14回受けた。その一つなのだろう、「介
        護サービスを導入したいんだけども、同居している御本人について、介護サービスを導入することで、どのような反応があるのかとい
        うことが心配される」(川崎市の説明)
 2018年6月~ 川崎市は家族の状況を確認した上で訪問介護サービスを開始。
 2019年1月 叔父と叔母は川崎市精神保健福祉センターから手紙の遣り取りでのコミュニケーションを勧められて、本人の部屋の前に手紙を置く。 
        数日後、岩崎はドア越しに叔母に対して「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と、言い
        返した。

        川崎市精神保健福祉センターは本人と一度も接触を試みなかった。その理由を伯父と叔母から容疑者を余り刺激したくないという意向を示され
        たことと、「人に会いたくないという人に無理に介入することはいいことではない。親族側が言いたがらないことを言わせることも信頼関係の
        構築につながらない」と述べている理由による。
 2019年2月 4本所持していた包丁のうち犯行に使った2本の刃渡り30センチの柳刃包丁2本は東京都町田市内の大型量販店で購入していた可能性が捜査
        によって明らかにされる。
 2019年5月28日 通り魔殺人を凶行。

 犯行後に報道上に現れたこの他の事実は伯父夫婦には犯人と同年代の長男と長女がいて、本人は地元の公立小と公立中学校に通ったが、長男と長女は通り魔の的となったカリタス小に通っていたという。この差別は本人に"自分は他所の子"ということを意識させて、屈折した心理形成の一つの要因になった可能性は捨てきれない。

 動機解明に欠かすことができないことは過去の大量殺人に関する事例などを集めた雑誌2冊をいつ購入したかであるはずだが、警察の捜査が進んでいないのだろう、どのマスコミも購入時期を伝えていない。購入が川崎市精神保健福祉センターが叔父夫婦に本人とのコミュニケーションの方法を手紙の遣り取りで行うよう勧めて、叔父夫婦がそうしたところ、「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と反発した2019年1月から、1カ月後に刃渡り30センチの2本の柳刃包丁を用意したと見られている2019年2月前後の間であるなら、あるいは2019年1月以降から犯行を決行した2019年5月28日よりもかなり前であるなら、犯行決行前の大量殺人計画の準備の一環と見ることができる。

 万が一、雑誌購入が手紙を出した2019年1月以前であったとしても、一旦は大量殺人計画を思い立ったが、実行に移さずにいたとしたら、眠らせていた計画の目を覚ましたのはやはり手紙以外に考えつくことはできなくなる。何しろ、手紙を出した翌月には凶器に使う柳刃包丁は準備しているのである。

 川崎市精神保健福祉センターは本人と一度も接触を試みなかった理由を、既に上に挙げているように伯父と叔母から容疑者を余り刺激したくないという意向を示されたことと、「人に会いたくないという人に無理に介入することはいいことではない。親族側が言いたがらないことを言わせることも信頼関係の構築につながらない」という川崎市精神保健福祉センター側の論理に基づいた措置であった。

 だが、本人とのコミュニケーションの方法として川崎市精神保健福祉センターに勧められて手紙を本人の部屋の前に置いたところ、数日して本人からドア越しに「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と言い返され、結果的に本人を刺激してしまった。

 と言うことは、本人の引きこもりに触れたことになる。その結果の「引きこもりとは何だ」という反応であり、(この部分、6月10日午後1時20分加筆) 刺激してしまったということは、それが意図していないことであったとしても、川崎市精神保健福祉センターは「無理に介入することはいいことではない」と言っていることに反しして無理に介入したことと同じになる。

 となると、警察は川崎市精神保健福祉センターが本人と叔父夫婦とのコミュニケーションの方法としてどのような内容の、引きこもりに触れた(この部分、6月10日午後1時20分加筆)手紙を書いて渡すよう、アドバイスしたのか、事情聴取しなければならないし、そのアドバイスを受けて、どのような内容の手紙を書いたのか、叔父夫婦に対しても事情聴取しなければならなくなる。

 簡単に分かることが未だにマスコミ報道に現れず、マスコミは動機解明が困難を極めていると伝えるのみだから、警察は手紙については重要視していないのかも知れない。それとも警察は本人がそれまでは自身と引きこもりを調和させ、さらに自身の引きこもりと叔父夫婦との生活も一応は調和させていた(川崎市健康福祉局「暴力をふるったり暴れたりすることはないが、コミュニケーションがまったくない。伯父夫婦と顔を合わせないように台所を使う時間やお風呂に入る時間を分けるルールを作っていた」)にも関わらず、その殻を破って、通り魔殺人という外の世界に駆り出すことになった起点が本人とのコミュニケーションの方法として川崎市精神保健福祉センターに勧められた手紙を出したこと以外にあると見ているのだろうか。

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登戸通り魔事件は野田小4虐待死が児相の対応不足が一因と同じく、川崎市の対応不足が一因 包丁購入者に氏名・住所等記入の義務付けを

2019-06-03 11:50:09 | 政治


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 2019年7月28日任期満了実施参院選で

安倍自民党を大敗に追いつめれば

政権運営が行き詰まり 

2019年10月1日の消費税10%への増税を

断念させる可能性が生じる



 
 2019年1月24日、千葉県野田市立小4年生10歳の少女が自宅浴室で父親の度重なる虐待の末に殺害された事件は少女が学校の「いじめに関するアンケート」に父親から暴力を受けていると訴えたことから、児相が少女を一時保護の措置に出た。父親は一時保護直後から学校を訪れ、「人の子を誘拐するのか」「暴力はふるっていない」「訴訟を起こす」と抗議した威嚇的な態度。対して学校がアンケートの回答内容を伝えて暴力の事実を裏付けると、「アンケートの実物を見せろ」などと迫った同じく威嚇的な態度。約2ヶ月経た親族宅への一時保護解除後、父親が小学校を訪れ、「娘に暴力は振るっていない」とか「人の子どもを一時保護といって勝手に連れて行くのはおかしい」などとなおも執拗に抗議した偏執的な態度。

 あるいは一時保護から約半月後に少女と市教委と学校の三者の学校での話し合いの場で、やはり威圧的な言葉で「いじめに関するアンケート」の公開をしつこく迫った態度。学校が少女本人の同意がないと渡せないと断ると、両親が3日後に同意書を持って市教委を訪問、父親が同じような威圧的な言葉でアンケートのコピーを手渡すよう要求し、市教委を同意させてしまった態度等々から父親の威嚇的で自己絶対的な人物像、そのような性格からくる極度の支配性向を読み取ることができずに2017年12月27日の親族宅預かりの一時保護解除から約2ヶ月余で自宅に戻すことを許可、父親と一緒に生活させた児相の決定と、家庭復帰後、小学校で児相職員が少女本人と一度面会したものの、学校に虐待の兆候がないか、その様子を観察するよう学校に求めただけで、家庭訪問をして両親と面談し、何か問題はないか、その観察はしないままに放置した、これらの児相の対応が最終的な虐待死の一因になったはずである。

 2019年5月28日朝、川崎市の登戸駅付近の路上で小学校のスクールバスを待っていた児童や保護者らを男が包丁で相次いで刺し、小学校児童1名と付近にたまたま居合わせた男性1名を死亡させ、犯行直後に自殺した51歳の男による登戸通り魔事件。翌日の「NHKニュース7」が犯人の叔父や叔母から、犯行を犯す前の犯人本人についての相談を受けていた川崎市精神保健福祉センターの記者会見を流した。録画していなかったから、「NHKニュースウオッチ9」でも、同じ内容を流すだろうと思って、録画しておいた。

 川崎市精神保健福祉センター記者会見(「NHKニュースウオッチ9」/2019年5月29日)

 女性市担当者「長期間、就労していないとか、引きこもり傾向にあって、まあ、おうちの中に閉じこもっているような・・・・

 親族の方から、その、麻生区に住まわれている叔父、叔母(80代だという)、御本人の3人家族、そこの家庭についてのご相談が入っている。『介護サービスを導入したいんだけども、同居している御本人について、その、介護サービスを導入することで、どのような反応があるのかということが心配される』」

 NHK男性解説「その叔父や叔母がおととし11月から今年1月にかけて面談や電話で14回、川崎市精神保健福祉センターに相談が寄せられていた。その中で親族が説明した岩崎容疑者の様子は――」

 女性市担当者「本人が長期間就労していないですとか、それから、ま、引きこもり傾向にあって、まあ、おうちの中に閉じこもっているような生活環境で、この間、ずうっと、あの、来られた。

 そこに外部の人(介護ヘルパー)が入るっていうことが、あの、大丈夫だろうかっていう心配ですね。そもそもご家族の中でなかなかコミュニケーションが取れない」

 NHK男性解説「そこで川崎市は手紙で遣り取りする方法を提案。実際に叔父や叔母が岩崎容疑者の部屋の前に起きましたが――」

 女性市担当者「『自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ』。御本人の方から(叔母に)声掛けがあったと」

 NHK男性解説「引きこもりとされることに抗議の意志を示した岩崎容疑者。一方で――」

 男性市担当者「食事を、まあ、冷蔵庫に入れて食べなさいって置いておいたり、お小遣いを、そういうこともあるというふうに聞いております。(引きこもりが)長い期間だろうなあということは想像しますが、お話からしてですね、昨日や今日に始まったことではない。多分、10年単位でしょうね、長期って」

 NHK男性解説「その後、親族から『本人なりの考えがるので、暫く様子を見たい』という連絡があったのが最後。一連の相談では叔父や叔母が容疑者を余り刺激したくないという意向を示し、川崎市も容疑者本人と接触することはなかったということです」

 確かに犯人は悪者ではあるが、川崎市精神保健福祉センター職員は引きこもりが犯行の素因であるかのような言葉を弄している。女性職員の「長期間、就労していないとか、引きこもり傾向にあって、まあ、おうちの中に閉じこもっているような・・・・」といった発言にしても、「そもそもご家族の中でなかなかコミュニケーションが取れない」にしても、男性職員の引きこもりは「昨日や今日に始まったことではない。多分、10年単位でしょうね、長期って」の発言にしても、引きこもりそのものを問題視していて、犯行の直接の原因であるかのような発言の体裁を取ることになっている。

 だが、引きこもりが10年単位であったとしても、20年以上であったとしても、その間、何ら問題行動も、凶悪な事件も起こさずに推移した。当然、引きこもりそのものが犯行の素因そのものではなく、その引きこもりに何らかのキッカケが働いたことが犯行の動機と見なければならない。そのキッカケが自分が作り出したのか、第三者が与えたものなのかを解明しなければならない。

 引きこもりに何らかのキッカケが働いた犯行であることを証明してくれる記事がある。「J-CASTテレビウォッチ」(2019/5/30 11:46)

 川崎〈市健康福祉局の坂元昇さんによると、伯父夫婦は岩崎の状態について、「暴力をふるったり暴れたりすることはないが、コミュニケーションがまったくない」と話したという。岩崎は伯父夫婦と顔を合わせないように、台所を使う時間やお風呂に入る時間を分けるルールを作っていた。〉

 要するに引きこもりという状況に自身を調和させていただけではなく、自身の引きこもりと伯父伯母との関係を一応は調和させていた。その調和を破る何らかの力が働いた。

 坂元昇なる人物が所属する川崎市健康福祉局と先に上げた川崎市精神保健福祉センターとは名称そのものが違うから、部署も違うはずだ。坂元昇なる人物が記者会見の男性職員と同じ人物なら、引きこもりが犯行の素因であるかのような言葉は口にはしないだろう。

 川崎市精神保健福祉センターへの相談から犯行までの経緯を他の記事を参考にして時系列で挙げてみる。

 2017年11月~2019年1月 川崎市精神保健福祉センターは叔父や叔母とその親族から面談と電話による相談を14回受けた。
 2018年6月~ 川崎市は家族の状況を確認した上で訪問の介護サービスを開始。
 2019年1月 叔父と叔母は川崎市精神保健福祉センターから手紙の遣り取りでのコミュニケーションを勧められて、岩崎の部屋の前に手紙を置く。 
        数日後、岩崎はドア越しに叔母に対して「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と、多
        分、きつい言葉で反発した。
 2019年2月 4本所持していた包丁のうち犯行に使った2本の刃渡り30センチの柳刃包丁2本は東京都町田市内の大型量販店で購入していた可能性が捜査
       によって明らかにされる。
 2019年5月28日 通り魔殺人を凶行。

 こう見てくると、自身と、さらに伯父伯母と調和させていた引きこもりの、その調和を破ったのは川崎市精神保健福祉センターから手紙の遣り取りでのコミュニケーションを勧められて、岩崎の部屋の前に置いた手紙に対する岩崎本人の反発以外に考えられないことになる。

 勿論、市は良かれと思って勧めたことなのだろう。だが、「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」という岩崎本人からの反発の情報を把握していながら、叔父や叔母の容疑者を余り刺激したくないという意向を優先させて、容疑者本人と何ら接触しなかった。

 市は「暴力をふるったり暴れたりすることはない」という岩崎本人の引きこもり時の大人しい態度に安心していたのかもしれない。だが、川崎市精神保健福祉センターは職務の一つとして、「社会的ひきこもりに関する相談」を受け付けている。

 そこには次のように記載されている。

 〈川崎市精神保健福祉センターでは、「社会的ひきこもり(あきらかな精神障害によるものではない、ひきこもり)」でお悩みの、市内在住18歳以上のご本人やそのご家族の方からの相談を受け付けております。

 ご本人様へ-

 ひきこもる状態自体は、決して悪いことではないと思います。

 -でも、もしもその状況を「何とかしたいな」と思いましたら、ひとの力を借りることを試してみるのも、ひとつの方法かもしれません。

  どんなことができるかを一緒に考えていきたいと思っております。

  まずはご連絡ください。

 電話:044-200-3246

 平日 午前8時30分~午後12時00分、午後1時00分~午後5時00分(年末年始を除く)

 ご相談は無料です。

 ご相談内容等の秘密は厳守いたします。〉――

 引きこもり相談を職務としていながら、叔父や叔母の容疑者を余り刺激したくないという意向にただ、ただ従って、いわば「ハイ、そうですか」でいとも簡単に引き下がっただけではなく、80代に達している叔父や叔母が50代になっても引きこもりを続けている従兄弟とのこの先の生活を市として何らかの心配をして、容疑者本人と接触を試みるのではなく、頭から放置した。

 川崎市精神保健福祉センターが本人と一度も接触を試みなかった理由を2019年5月29日付「NHK NEWS WEB」が紹介している。

 川崎市精神保健福祉センター「人に会いたくないという人に無理に介入することはいいことではない。親族側が言いたがらないことを言わせることも信頼関係の構築につながらない」

 他人と会いたくない、あるいは家族とも会いたくないことを以って引きこもりと言う。「無理に介入することはいいことではない」なら、無理な介入とならない何らかの方法を考えて、何らかの接触を試みなければ、引きこもりの相談を受け付けたことにならないばかりか、引きこもりを放置したことになる。

 「親族側が言いたがらないことを言わせる」ことが「信頼関係の構築につながらない」なら、「言いたがらないことを言わせ」ずに信頼関係の構築に繋がる何らかの方法を考えて、何らかの接触を試みるのが役所の仕事でもあるはずである。

 だが、そういった積極的な責任行為を心がけずに腫れ物に触るような態度に終始している。要するに職務怠慢、あるいは責任不履行の言い訳に過ぎない。

 川崎市精神保健福祉センターの女性市担当者は「介護サービスを導入したいんだけども、同居している御本人について、その、介護サービスを導入することで、どのような反応があるのかということが心配される」という相談を伯父と叔母から受けたと明らかにしたが、2018年6月から川崎市は叔父と叔母に対する訪問介護サービスを開始していて、約1年も経過しているのだから、この件については岩崎容疑者との間で解决している問題であり(一つ家の中で別々の生活を送っていたのだから、我関知せずの態度で最初から何も問題にしなかったのかも知れない)、引きこもりから離して取り扱うべき事柄でありながら、叔父や叔母の介護サービス導入と引きこもりを関連付けて、容疑者の人となり、いわばその犯罪性を取り上げている物言いとなっている。

 このような物言いとしなければならないのも、容疑者の引きこもり問題に積極的に関与しなかったことの裏返し、言い訳なのだろう。

 また、本人を刺激しない方法として川崎市精神保健福祉センターの助言で手紙を岩崎の部屋の前に置いたものの、「自分のことはちゃんとやっている。食事、洗濯を自分でやってるのに引きこもりとは何だ」と却って刺激してしまった。それが2019年1月。1カ月後なのか、日付は分からないが、2019年2月に犯行のために4本用意した包丁のうち犯行に使った2本の刃渡り30センチの柳刃包丁2本は東京都町田市内の大型量販店で購入していた確かな可能性が浮上した。
 
 そして3カ月後の2019年5月28日朝、凶行に及び、自殺した。

 この経緯から、2019年1月から用意周到に準備に入り、一気呵成に凶行に進んだ様子が見えてくる。一気呵成は犯行時の態度からも見て取れる。犯行時間数十秒という短い時間に19人を次々と刺していった。川崎市精神保健福祉センターの対応を検証する必要が出てくる。

 政府はこの事件を受けて、通学路の安全確保のため登下校時に子どもが集まる場所などを改めて点検すること、警察官による重点的な警戒・パトロールを行うこと、警察や学校が把握した不審者の情報を共有する仕組みを強化し、迅速に対応することなどについて、早急に対策を講じるよう指示したという。

 だが、登下校時に子どもが朝夕集まる時間帯の全ての場所に警戒・パトロールの警察官を常時張り付かせることを、それが可能なこととして対策に入れているのだろうし、警察や学校が全ての不審者情報を共有する仕組みの強化を挙げているが、完璧に把握できないのは今回の犯行が証明している。把握していない不審者が警戒の一瞬の隙きを突いて凶行に及ぶという危険性も捨てきれない。

 但し万全ではないにしても、手は打たなければならない。一方、通り魔殺人事件に限らず、殺人事件や傷害事件で凶器として簡単に利用される事例が多い包丁に関しては手を打とうとしている様子は窺うことができない。2001年6月8日に大阪府池田市の大阪教育大学附属池田小学校で発生した附属池田小無差別殺傷事件でも、犯人は出刃包丁を凶器にし、小学生8人を無残にも死亡させている。

 勿論、包丁は一般家庭で使用することから銃刀法で扱うことはできないが、せめて購入の際、住所・氏名・職業を記入させるだけではなく、金物店の店主・店員に記入の際の購入者の表情を読み取らせることを義務付ける条例ぐらいは設けるべきだろうか。

 表情を簡単に読み取ることができる場合もあるし、簡単には読み取れない場合もある。読み取るための講習を定期的に心理カウンセラー等から受ける義務付けも加えなければならない。購入者が精神異常者なら、それなりの表情をしているだろうし、一般市民でありながら、殺人目的の凶器として包丁を購入するなら、それなりの緊張の表情を顔に浮かべているはずで、普段の何でもない表情では店に立つことはできない。

 店側が客の表情を読み取る講習を受けていて、目的外の購入者の表情が読み取られる危険性の情報が広まるだけで、抑止効果は出てくる。店は異常な表情を察知したら、警察に連絡、警察は安全だと確認するまで、その人物を監視する。

 勿論、包丁を手に入れる際に普段の表情を保つことができなければ怪しまれることになるからと用心して、凶器を包丁から鉄板を削ったりした手作りの包丁に変えたら、お手上げとなるが、一つ一つ目を潰していかなければならない。万全ではないにしても、人命は地球よりも重い、あるいは子どもは国の宝だと言う以上、包丁が何らかの凶器に簡単に利用されな いよう、手を打つべきだろう。

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