日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 5月も第2週が終わろうとしています。3月から続いていた様々な反日活動も、組織的なものはすっかり終息した印象です(その代わり、個人レベルでの在留邦人に対する嫌がらせが懸念されますが)。

 中共政権は、
自らに都合の悪いことは「なかったこと」にしてしまうというパワープレイがお得意です。昨年の原潜による日本領海侵犯もそうであり、また徹頭徹尾「中共史観」に基づいた歴史教科書などはその顕著な例でしょう。海外で問題視されたり異論が上がってもそれはそれ、とりあえず国民には内緒にしてしまうというものです。

 ただ今回の「反日」のように全国的な広がりをもって国民に認知されてしまうと、さすがに国内的にも「なかったこと」にはできませんので、報道統制を交えつつ「なあなあ」な形で鉾を収めようとします(別の明るい話題を大々的に報じることで、事件を遠い記憶にしてしまう場合も)。一方の当事者(被害者)である日本に対しても、同様に「なあなあ」で、白黒をはっきりさせない尻すぼみの形で穏便に、
面子を失うことなく事を収めようとしているように思います。

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 4月以来の動きで、中共政権が中国国内に対して「内緒」にしている、つまり国内メディアに報道させていないことは結構あります。

 ●日本が中国政府に謝罪と賠償を求めていること。
 ●江沢民が植樹した仙台の紅梅がバッサリ伐られたこと。
 ●日本人観光客が反日デモの影響でGW期間中に減少したこと。
 ●中国進出を計画していた日本企業のうち3分の1が「計画を見直す」としていること。
 ●中国が日本政府公館に対する賠償(現状回復)を受け入れたこと。
 ●大使館等への破壊行為が国際法にもとるものと中国が事実上認めたこと。

 このうち、帝国データバンク調査による「中国進出を計画していた日本企業のうち3分の1が『計画を見直す』」としている記事は日本経済新聞が報道した翌日に香港の親中紙の筆頭格である『香港文匯報』が素早く転載、中国が賠償に応じる件との合わせ技で1本の記事に仕立てています。

 ●中国、日本公館の現状回復に応ずるも謝罪は拒否
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505120003&cat=002CH

 悔しさを滲ませたナイスなタイトルです(笑)。以前は気骨を示すこともあった『香港文匯報』、1989年の天安門事件を機に編集部が大幅に入れ代わり、それ以降は党内主流派の代弁者(走狗)にほぼ徹するようになっています。現時点では胡錦涛派ということになるでしょう。今回の調査結果について同紙は、

「反日や日貨排斥の影響は予想以上に深刻だ」

 ……という帝国データバンクのコメントも載せています。その意味で、この記事は
胡錦涛政権が反日デモの影響が外資依存度の高い経済面に及ぶことを極度に懸念していることを示すものといえるでしょう。

 一方で、国営通信社・新華社のウェブサイトである「新華網」のトップページに飛んで、画面を下の方へとスクロールさせていくと、

「なぜ盲目的な日貨排斥は駄目なのか」
「わが国の指導者は中日関係を重視している」

 といった記事が固定されています。反日デモは未許可だから非合法、破壊活動も違法、日貨排斥も無意味、そしてもはや「反日」で騒ぐ時期でないという空気を読め、というところでしょうか。対内的には「なあなあ」で尻すぼみにさせて流してしまおうという意図のようです。

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 「なあなあ」といえば、プチ暴動を含む一連の反日デモに対する
「定性」(政治的評価=レッテル)もまだ出ていません。というより、「なあなあ」の線を狙うのならもう出さないのでしょう。「定性」については何度か触れていますが、政治的な価値観のことです。

 一党独裁政権の中国においては、党の決定が法に優先することがあります。「合法・非合法」という法律的な位置付けの上に、「政治的に善か悪か」という価値観があり、この価値観が政治的評価、すなわち「定性」なのです。党と政治が何よりも優先されるお国柄ですから、
「政治的に善」という姿勢を党がとっていれば非合法行為も許されることになります。デモ隊が叫んでいた「愛国無罪」というのはそれを象徴したスローガンでした。

 「定性」は党中央の機関紙『人民日報』の社説などの形で公にされるものです。今回の場合でいえば「愛国的行為か非愛国的行為か」ということになるのでしょうが、今回は結局その「定性」の公開が行われないままでした。以前ふれた『解放日報』(上海市党委の機関紙)の論評、これはデモを「愛国的行為でも何でもない」と斬り捨てることで
「上海的には非合法なデモはNG。政治的にも悪。お前らは人民の敵」とし、「定性」も含め上海当局の態度を旗幟鮮明にしたものです。

 ところがこの論評記事、すぐに「新華網」はじめ各メディアに転載されたのですが、ほどなく次々と削除され、とうとう『解放日報』からも消されてしまいました。「反日」にヒートアップする民情に照らして、ここで「政治的に悪」とする「定性」を明らかにすることは国民の反発を招くかも知れないという中央の判断によるものでしょう。

 その後の「なあなあ」の動きをみても、党中央は一連の反日活動+プチ暴動を実は「愛国的行為」と内々には認定しながら、その公表を避けているように思われます。「定性」は「政治的には善」の筈ですが明らかにされないままです。実際の「定性」がどうなのかはともかく、「なあなあ」にしようとする中央の方針と、快刀乱麻(破壊活動従事者多数をも逮捕)で事態収拾を図ろうとした上海市の措置には
実に明確なコントラストがみてとれます。このあたりには胡錦涛政権vs上海閥といったような政治的ドラマが隠されているのでしょうが、目下のところそれをうかがわせる資料がないのは残念です。

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 党中央が「定性」を「愛国的行為」と内々に認定したであろうことは、官製民間組織、つまり反日「民間団体」の中でも中心的な存在のひとつである「中国民間保釣連合会」のサイトが復活したことからもうかがえます。中国に限らず一党独裁政権というのは大衆を動員したマスゲームのような政治的意思表示がお好みのようで、今回の一連の「反日」もそれにあたる(ただし公的には政府は関与していないことになっている)ものでしょう。

 「中国民間保釣連合会」のサイト復活は、その政治的保護者(後ろ盾)がよほど力を持った政治勢力らしいことをも感じさせますが、一方で
現代的な大衆動員運動である「ネット世論」による意思表示……まあ実際には大衆といえるほどの広がりはない疑似的なものなので「なんちゃって大衆運動」というべきですが、「中国民間保釣連合会」はその「ネット世論」の軸となる存在として働かせるべく復活させてもらった、という側面があるように思います。

 また、事態の展開次第によっては中国政府が自ら腰を上げるかも知れない尖閣諸島奪回問題や個人の対日戦争賠償訴訟などについて、とりあえず尖兵とし得る手駒としてキープしておく狙いがあるのかも知れません。今回の公にされていない「定性」が「愛国的行為」であれば(少なくとも「非愛国的行為」とした『解放日報』の論評は撤回されています)、胡錦涛政権は状況によっては「反日デモ」を再発させる選択肢を留保した、ということになるでしょう。

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 しかし、気になる部分は残っています。例の小泉首相が今年も靖国参拝をする可能性が高いとした記事です。すでに中国国内の各メディアが転載していますが、元ネタだけ明らかにしておきましょう。

 ●小泉首相は今年も参拝か(華夏時報電子版2005/05/10)
 http://www.chinatimes.cc/news/list.asp?id=32962

 何度も引用しているのでくどくなることを承知で改めて紹介しますと、自民党の中川秀直・国会対策委員長が5月8日、

「今年も小泉首相は靖国神社を参拝すると思う。でも時期は慎重に判断されるだろう。参拝しなかったからといって、日中関係が劇的に改善されるものではないし、中国に言われて参拝中止を考える問題ではない」

 ……と語ったものです。この報道の不可思議な点は、香港や台湾メディアが報じてから丸一日以上(約30時間)も経ってから中国国内メディアにも流れた、つまり報じることを許可された、という点です。この「時差」を示す意味が私にはいまもわかりません。別に整合性を求める必要はないのでしょうし、そもそも中国の動きに整合性を求めること自体が徒労なのかも知れませんが。

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 私は今回の一連の反日騒動、表面上は日本の国連安保理常任理事国入り反対運動からスタートしていますが、
本質的には台湾問題へ日本が介入してくることに党内の「抵抗勢力」(主に対外強硬派)が強く反発し、「ほどよい反日」で済ませるつもりだった胡錦涛派の思惑を超えて「反日」がヒートアップするように仕向けたものだと考えています。その結果、過熱状態になって中共自体が屋台骨を揺さぶられかねない事態に発展して仰天し、胡錦涛派も抵抗勢力も主導権争いをひとまずやめにして慌てて火消しに努めた、と理解しています。

 で、以前にも書きましたが、その線から考えると不可解な「時差約30時間」は実は対外強硬派の狙いによるもので、何たら60周年記念式典で胡錦涛がモスクワに出かけた隙を衝いて流したのかと考えていました。中共政権として反日活動を押さえ込んではいますが、このニュースによって日本への嫌悪感がかき立てられ、一定の「反日気運」を維持することができるでしょう。

 ただ、その後になって「新華網」もこのニュースを転載し、さらに胡錦涛の広報紙である『中国青年報』の電子版「中青在線」にもこの記事が掲載されたので、どうやら党上層部の総意らしいという雰囲気になってきました。同時に、日本側からもそれに平仄を合わせるかのようなニュースが流れました。

 ●中国、首相の参拝中止困難は分かっている…山崎補佐官(読売新聞2005/05/13)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050512ia26.htm

 自民党の山崎拓首相補佐官は12日夜のTBS報道番組で、小泉首相の靖国神社参拝について「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と述べた。(後略)

 ということは、小泉首相の靖国参拝を行うことを前提として、ただその際に多少の小細工を施して波風が立たないようにする、という形で日中合意が行われたということでしょうか。中国側の記事「小泉首相は今年も参拝か」は、党内ひいては中国国民に心の準備を求める記事、ということになります。……謎です。「時差約30時間」というのも謎のままなのですが。

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 一連の反日騒動は主として対日強硬派の台湾問題に関する不満を反映したものですから(私見)、その点に文句がなければ党内に異論めいた動きが生じる可能性は少ないでしょう。対外強硬派は武断的な判断を行う傾向にあるかも知れませんが、武力解放あるのみ、という訳でもないでしょうから。

 連戦・国民党主席、宋楚瑜・親民党主席が相次いで訪中し、胡錦涛が統一に向けて得点を稼いだことで、その「異論」も出にくい状況になっているかと思います。両氏の訪中のニュースは明るい話題として大々的に取り上げられ、たとえ一時的であれ、反日騒動の記憶や気運を遠くへ押しやるものともなった筈です。

 ただ、これによって胡錦涛の統制力なり胡錦涛政権の安定度が高まったのかどうかはまだわかりません。

 ●日米両国、共同作戦軍事計画制定で合意
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/12/content_2951424.htm

 ●台湾「国民大会」代表選挙の結果判明
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/14/content_2958116.htm

 ……こういうニュースに対外強硬派が刺激される可能性はあります。あとは
尖閣問題ですね。香港の保釣(尖閣防衛)組織が今月末から来月中に船を出し、上陸を狙うと公言しています。

 一時期の乱痴気騒ぎは落ち着いたものの、反日気運が改めて高まるであろう7月7日(盧溝橋事件)まで、まだまだ波乱含みの気配、といったところでしょうか。個人的にはサイトを復活させてもらった「中国民間保釣連合会」がどういう働きをみせてくれるのか興味があります。



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