何が嫌いかといって、坂とか石段ほど嫌いなものはない。
それも上り坂。
心臓に欠陥があるからだが、段数と勾配を見て、上らずに引き返すことが少なくない。
目黒不動の男坂は、そんな私でも辛うじて上ることができる石段だが、でも実際には、女坂を無意識に選んでしまう。
左 男坂 右 女坂
段差が低く、上りやすいのと、直線的でなく、踊り場で曲折しているのがいい。
ところで、最近は、性差別がうるさいが、「女坂」は該当しないのだろうか。
女坂の前に立つ。
坂が2本ある。
左を上る。
石室の中に痩身の老人が高下駄を履いて、腰掛けている。
一本歯ではなく、二本歯の高下駄だが、神変大菩薩の銅像です。
神変大菩薩は、仏教界からの呼称で、通称は役小角。
実在の人物らしいが、その逸話はまさに「伝説的」。
流刑先の伊豆大島から、毎日、海上を走って、富士山に通い、修行したというのだから、恐れ入る。
どうも日本古来の神ワールドと仏教ワールドが混在した世界の傑物のようです。
鬼を2匹小間使いとしてこき使っていた伝説は有名で、北斎も描いている。
石室の中にも役小角の背後両側に、鬼が立っているのが見える。
この像が鋳造されたのは、寛政8年(1796)。
髭や衣文など細部にまで神経の行き届いた作品で、作者は、鋳工太田駿河守藤原正義。
銅像の胸、腹、腕各部に、願主や寄進者の名前とともに藤原正義の名が刻まれています。
ところで、なぜ、役小角像が、ここにあるのだろうか。
彼は、山岳修行者の元祖。
そして、山岳修行に滝行は欠かせない。
目黒不動 独鈷の滝 滝行場
滝行地として鳴らした目黒不動に、役小角像があっても、なんの不思議もない、ということのようです。
もう一度、最初の場所に戻る。
右に「女坂」の石碑。
下部にも文字があって、「女坂水音ききてまた祈る」。
その水音は、しゃちほこ立ちの龍の口からほとばしる手水の音。