ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『アバウト・ラブ/関 於 愛』

2005-06-11 14:19:16 | 新作映画
------これはちょっと変わったオムニバスだニャあ。
「そうだね。東京、台北、そして上海を舞台に、
それぞれの国の監督が<about love>をテーマに
映画を撮っている。
『東京編』(下山天監督)が『?好(ニイハオ)』、
『台北編』(イー・ツーイェン監督)が『謝謝(シェイシェイ)』、
『上海編』(チャン・イーバイ監督)が『再見(ツァイツェン)』だ」

------どれか気に入ったのあった?
「野心的なのが『台北編』、よくまとまってるのが『上海編』かな」
------おやおや、日本のは?
「う~ん、残念だけど、これはまるでテレビドラマ。
台北から漫画家を目指して日本に来た青年ヤオ(チェン・ボーリン)が
そこで画家の美智子(伊東美咲)と出会う。
と言ってもすれ違いざまに、画材を落とした彼女に目が釘付けに。
次に見かけたときは彼女の目に涙。
さて、とある店の中、彼女が描いていた絵が寂しげに変化しているのを見た彼は
その店のガラス戸に彼女の似顔絵をそっと貼っていく。
もう、後は言わなくてもいいね。だれもが想像するとおりの展開。
これがつまらないのは他の2作と比べるとよく分かる」

------どういうこと?
「ふたりとも超美形。これは、まだいいとしよう。
しかし、そこに生活臭が全くなく、
伊東美咲なんて、『はいモデルさんね』というファッション。
その彼女が恋人に振られたことで泣いて、
それを見知らぬ男が元気づけて....。
もう、どうでもいいやって感じだ」

------じゃあ次行って。
「『台北編』は、そのチェン・ボーリンを主人公に
『藍色夏恋』を撮ったイー・ツーイェン監督の作品。
『東京編』が監督が今の東京の空気感を伝えるために
渋谷にこだわったのに対して、
彼はランドマーク的なロケ地をあえて選んでいない。
物語の方も、深夜にマンションの一室で
本棚を作っている女性アスー(メイビス・ファン)から始まる。
住人たちにうるさいと怒鳴られながらもどうにか完成。
ところが大きすぎて持ち上がらず、
会ったばかりの日本人の男の子・鉄ちゃん(加瀬亮)を呼び出す。
期待に胸を膨らませて部屋に向かった鉄ちゃんは事情を知ってガックリ。
それでもふたりは、ペンキを塗ったりしているうちに距離が近づく。
ところがいざとなるとアスーは拒否。
『ごめんなさい、私はあなたの身体を借りて、彼のことを想っただけ』。
それに対して
『ぼくも以前、ある人の体を借りて、他の人を想ったことがある。
だから、構わないさ』と答える鉄ちゃんがやさしい。
で、鉄ちゃんはアスーに頼まれて、元彼のところへ
彼女の『会いたい』という言葉を伝えに行く。
最大の見どころはここだね。
鉄ちゃんは元彼の返事を、一生懸命アスーに伝えようとするけど、
付け焼き刃の中国語のため、まったく伝わらない。
アドリブもあるんだろうけど、ここの加瀬亮の演技が秀逸。
あっ、セミ・ミュージカルのシーンもあるよ」

------ニャるほどオモシロそうだ。
でも『上海編』が一番好きなんだって?
「これまた、上海と言っても、よくイメージされる
近未来的な場所はまったく使っていない。
上海の下町の一角。日本人留学生・修平(塚本高史)が
ある雑貨屋に下宿にやってくる。
そこでは大学受験勉強中のユン(リー・シャオルー)が店番を。
ある日、日本の恋人からの小包をあけた修平は
同梱されていたスペインのポストカードを読むうちにみるみる顔色が変わる。
翌朝、その手紙が破られているのを見たユンは、こっそり紙片をつなぎ合わせ、
そこに書かれた日本語の単語の意味を、
日本語の勉強と言いながら、何日かに分けて修平に聞く....というお話。
これの何が素晴らしいかって、
監督の言葉を借りれば
『すぐ近くの街角で起こる、小さな一つの恋。
日常生活にひっそりと存在する想い』にスポットを当てたこと。
さらに監督の言葉を続ければ、
『ぼくが描きたかったのは、こんな上海みたいな大都市の、
その片隅には小さな物語があること。
何かが起こるわけでもなく、それどころか何も起こらない。
時間とか、青春とか、情感とか、それらがこの上海の、
この横町で、静かにゆっくりと“風とともに去ってゆく”。
その中でどれだけの動きが人知れずひっそりと生まれ、
さびしく枯れていくのだろうか...。』
この“人知れずひっそり生まれ、さびしく枯れて”が
ほんとうに、情感としてフィルムに焼き付いている。
そう、これは“想い”の映画、それも特別ではない普通の人の。
そこが『東京編』との根本的な違いだね」

(byえいwithフォーン)

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