星空に。
昔、ドストエフスキーの長編作品をいくつか読んだときも、山﨑作品ほどに衝撃は受けなかった。若かったせいだろうか。
ドストエフスキーの踏み込む人間ドラマの深淵に感動はしたが、ページを繰る手が重くなるほどではなかった。たぶん、彼の作品が基本的に物語の定石どおり勧善懲悪で、ハッピーエンドに近いから、安心できる範囲でのカタルシスがあったせいだろう。
一方、綿密、膨大な事実取材を駆使してリアルを追求する山﨑豊子作品は、むしろ悲劇に傾く。そのため、登場人物に感情移入して読む私には、魅力的で優れた主人公の寂しく悲しい運命の後味が重い。が、その方が読み応えあり、またリアルという観点からは納得できる。
勧善懲悪ではなく弱肉強食、狡猾で業の深い人間坩堝を書き尽くす山﨑作品の描写は、しばしばむごい。
けれども彼女の眼差しは正義を問い、人間の尊厳を追求する。
この偉大な作家に、私はただ敬服する。
いつか山﨑作品を楽に読めるようになれるだろうか。
すべてに愛と感謝。