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net news 大統領選で浮き彫り「二つのアメリカ」

2017年01月23日 | ネット・ニュースなど

net news 大統領選で浮き彫り「二つのアメリカ」

米社会の「声なき声」とは

米大統領選の勝利演説に臨む共和党のドナルド・トランプ氏=2016年11月9日、ニューヨーク【AFP=時事】

米大統領選の勝利演説に臨む共和党のドナルド・トランプ氏=2016年11月9日、ニューヨーク【AFP=時事】

 2017年1月20日、人種差別や男女差別をあおるような発言を繰り返したドナルド・トランプ氏が米国の第45代大統領に就任する。世界に衝撃を与えた当選の背景には、グローバリズムから取り残された人々、富と貧困、社会の分断、ワシントンの政治家が聞き取れなかった「声なき声」があったと言われている。

 大手メディアがとらえ切れなかった米社会の生の姿はどういうものなのか。カリフォルニア州オレンジ郡の地元新聞社で働く日本人記者が、日常の取材活動の中で見てきた「分断された社会」の姿を伝える。
(在米ジャーナリスト・志村 朋哉 2016年12月)

編集局にうめき声

 11月8日午後8時半、私が勤めるロサンゼルス郊外の地方新聞「オレンジ・カウンティ・レジスター」の編集局にうめき声が広がった。

 CNNがフロリダ州でのトランプ候補勝利を伝えた瞬間だった。ジャーナリストとして冷静さを保たなければいけないことは、みんな分かっている。それほどまでに、まさかの展開だったのだ。

 その晩、私のフェイスブックには、全米各地から「泣き崩れた」「子どもの将来が心配」などという友人たちの声が流れてきた。民主党支持者が多いロサンゼルスやニューヨークなど都市部では、トランプ氏の勝利に反発する人々のデモが行われた。レジスターが本社を置くオレンジ郡サンタアナ市でも、250人ほどの抗議者が交差点を封鎖して警察と衝突した。

 大手メディアの予想を覆した大統領選挙。1年以上前から、候補者たちの一挙一動がテレビで報じられ続けてきた。不動産王として有名だったトランプ氏は、歯に衣着せぬ発言で特に注目を集めたが、多くのメディア関係者は彼が勝つとは思ってもいなかった。

 ニューヨークの文化、政治、ライフスタイル情報を発信する「ニューヨーク・マガジン」のアダム・モス編集長は、選挙前に準備していた記事は全てヒラリー・クリントン候補の勝利を前提としたものだったと、ジャーナリストへのインタビューを行うポッドキャスト「ロングフォーム」に語った。

 「誰もが(トランプが大統領になるなんて)想像すらしていなかった」

 レジスターの同僚記者を含め、人種的に多様な米国の都会で働くジャーナリストたちは、差別的な表現をなくそうというポリティカル・コレクトネスに敏感だ。彼らは、「メキシコはアメリカに犯罪者や強姦犯を送り込んでいる」「貧困に苦しむ黒人たちに失うものなどない」などと、これまでの大統領候補ではあり得なかった言動を繰り返すトランプ氏を、国民が選ぶとは思わなかったのだろう。

 しかし、私はトランプ氏が勝利したと聞いた時、周りほどの衝撃は受けなかった。信用していたデータ予想が大きく外れたことは意外だったが、アメリカがトランプ氏を選んだことに驚きはなかった。

 ニューヨークやロサンゼルスといった大都会から離れた砂漠の町で、大手メディアが報じてこなかった「隠れた」アメリカをこの目で見ていたからである。そこには都市から押し寄せる時代の波に乗れない白人の、オバマ政権や既成政治勢力に対する不満と怒りが渦巻いていた。

「別世界」砂漠の町

 かつてはルート66が通って栄えていたカリフォルニア州ビクタービルのダウンタウンだが、今ではシャッター街と化している=2012年1月[筆者提供]

 かつてはルート66が通って栄えていたカリフォルニア州ビクタービルのダウンタウンだが、今ではシャッター街と化している=2012年1月[筆者提供]

私は2008年から5年間、ロサンゼルス市内から内陸側に140キロほど離れたサンバーナーディーノ郡ビクタービルという町で暮らし、そこの小さな新聞社「デイリープレス」で司法、経済記者として働いた。

 ビクタービルは、ロサンゼルスとサンガブリエル山脈を挟んで内陸側に広がるモハビ砂漠に位置する。日本人にもおなじみの旧ルート66が通るこの市は、ビクターバレーと呼ばれる地域の中心をなす。一帯は西部劇の撮影などに使われているが、ほとんどの南カリフォルニア住民にとってはラスベガスに向かう途中の休憩スポットでしかない。ロサンゼルスやオレンジ郡の人にビクタービルにいたと話すと、決まって「どうしてそんな所に住んでいたのか」と聞かれる。

 ビクターバレーには2000年代に入ってから、都会の数分の一の値段で買える安い家を求めて、ロサンゼルスやその郊外から人々が流れ込んだ。2000年から10年にかけて人口は50%以上も増加し、39万人にまで膨れ上がった。

 ところが住宅バブルが崩壊すると、地域経済は壊滅状態に陥る。いわゆるサブプライムローンの返済ができなくなった人々は家を追われ、住宅街の3~4割が空き家という光景も珍しくなかった。ビクターバレーは世界を震撼(しんかん)させたリーマンショックの震源地の一つとなる。

 住宅バブルの崩壊で大打撃を受けたカリフォルニア州ビクタービルでは、写真のような空き家が、器物損壊や不動産詐欺などの犯罪のターゲットとなった=2010年8月[提供:デイリープレス、撮影:ジェームズ・クイッグ氏]

 住宅バブルの崩壊で大打撃を受けたカリフォルニア州ビクタービルでは、写真のような空き家が、器物損壊や不動産詐欺などの犯罪のターゲットとなった=2010年8月[提供:デイリープレス、撮影:ジェームズ・クイッグ氏]

 住民の多くは不況で大きく影響を受けた建築、製造や物流業界のブルーカラー職に就いていたので、ピーク時(2010年)の失業率は全米平均の2倍近い18%に達した。

 当時、地元の野球スタジアムで行われたジョブフェアには、早朝から1800人もの失業者が長蛇の列をつくった。旧ルート66として観光客も訪れるビクタービルのメイン通りは、食事配給を待つホームレスのたまり場と化した。加えて急激な人口増加に伴い犯罪も増加し、「カリフォルニアで最も危険な町」といったリストにもランクインするように。

 私が3年前にレジスターに転職した時には、ビクタービルとのあまりの格差にがく然とした。ロサンゼルスの南に隣接するオレンジ郡、特にその南部地域は高級住宅街として全米に知られる。海沿いには1000万ドル(約11億円)以上もする豪邸が立ち並び、ポルシェやマセラティが当たり前のように道を走っている。

 現在、取材を担当しているアーバイン市は、優れた公立学校で知られているため、世界中から裕福な家族が集まり、1~2億円する新築の家が飛ぶように売れている。高級アパートやマンションも建設ラッシュで、郊外にもかかわらず、ワンベッドルームの賃貸物件で月2000ドル(約22万円)以上もする。グーグルや韓国の「現代」といった世界的企業がオフィスを構え、新しい会社もどんどん進出してくるので、数年前までの不況を全く感じさせない。

 住む場所によって、これほどまでに見える世界が違うのがアメリカという国なのである。

見捨てられた人々

 失業中のジョン・アヤラさん(右)は奥さん、そして子ども7人とカリフォルニア州ビクタービルの公園でテント暮らしをしていた。ほぼ全ての家財道具がカートに収まる=2012年6月[筆者提供]

 失業中のジョン・アヤラさん(右)は奥さん、そして子ども7人とカリフォルニア州ビクタービルの公園でテント暮らしをしていた。ほぼ全ての家財道具がカートに収まる=2012年6月[筆者提供]

 オバマ政権下で国全体としてみれば不況から回復したものの、ビクターバレー住民の多くにとっては、その恩恵は感じられない。

 地域の失業率は州全体の5.3%に近づいてきたものの、職探しを諦めた人々を加えたらもっと数値は高いのではないか、と地元のエコノミストたちは推測する。ウォルマートといった小売店や公立学校などが雇用を生み出しているが、若い優秀な人材を引き付けるような高収入の職は少ない。

 「私の知っている男性のほとんどがいまだに失業しているわ」というのはビクターバレーに住むリンダ・マーシャルさん(74)。熱心なトランプ支持者だ。

 元小学校教師の彼女と亡くなった夫の間には9人の子どもがいるが、そのうち40代の息子3人は失業中で、マーシャルさんと同居している。3人とも高校を卒業していないこともあって、なかなか職が見つからず、公的扶助で生活している。

 かつてはルート66が通って栄えていたカリフォルニア州ビクタービルのダウンタウンだが、今ではシャッター街と化している。この人物は、元軍人=2012年7月[筆者提供]

 かつてはルート66が通って栄えていたカリフォルニア州ビクタービルのダウンタウンだが、今ではシャッター街と化している。この人物は、元軍人=2012年7月[筆者提供]

 彼女が子どもだった1950年代は、ほとんどの人が1つの職場を勤め上げて、クビになることなどなかった。マーシャルさんの父親は小学校の3年生までしか教育を受けていないが、機関車の整備員として家族を養えるだけの収入を得ていたという。

 しかし、今やそんな終身雇用は期待できなくなっている。特に大学を出ていない者がホワイトカラーの職に就くのは難しい。

 エコノミストたちは口をそろえて、ビクターバレーの経済発展を阻む要因として、住民の教育水準の低さを指摘する。25歳以上の人口のうち10人に1人しか大学を卒業していないビクターバレーに企業は進出したがらないという(アーバインでは25歳以上の3人に2人は大学を卒業している)。ビクタービル住民の半数近くは、山を越えてロサンゼルス近郊に通勤しているのだ。

 「オバマ(大統領)は職がどんどん増えていると言うけど、私の住む周りには見当たらないわ。オバマは私たちを助けるために何もしていない。クリントンは、そういうオバマの政策を引き継ぐと言ってるのよ」とマーシャルさんは話す。

 オバマ大統領や民主党は環境や不法移民を守るのに必死な一方、企業に対する規制を強めたり、税金を上げたりして国民の生活を苦しめる存在として保守派の目に映っている。都会のジャーナリストが想像していたよりも不満の声は大きかった。

女性蔑視、気にならない

 カリフォルニア州ビクターバレーに住むマイケル・カレンさんは、熱心なトランプ支援者。写真はオハイオ州クリーブランドで行われた共和党全国大会で撮影。彼はそこでボランティア職員として働き、トランプ氏とも対面した=2016年7月[本人提供]

 カリフォルニア州ビクターバレーに住むマイケル・カレンさんは、熱心なトランプ支援者。写真はオハイオ州クリーブランドで行われた共和党全国大会で撮影。彼はそこでボランティア職員として働き、トランプ氏とも対面した=2016年7月[本人提供]

 トランプの女性蔑視発言は全く気にならないとマーシャルさんは言う。

 「もっと大きな問題に目を向けなきゃダメよ。(2012年の大統領選で共和党候補だった)ロムニーは紳士的過ぎて民主党の連中に立ち向かうことができなかった。トランプならきっとやってくれるわ」

 やはりトランプ支持者のマイケル・カレンさん(42)は「メキシコとの国境に壁を」というスローガンに強く賛同している。不法移民が犯罪を増やし、アメリカ人から仕事を奪い、税金を食いつぶしていると信じているからだ。

 ビクタービルでは住宅バブルの時期にヒスパニック系住民が急増し、現在では人口の半分近くを占めている。カレンさんは空軍で3年間勤務した後に大学を卒業しているが、今年になって数年勤めていたデイリープレスの広告営業職をリストラされた。

 「アメリカは主権国家として、どんな人がどんな目的で入国するのかをチェックしなくてはいけない。特に今は西洋文化を破壊しようとする過激派がいるから慎重にならないと。そんな時にヒラリーはシリアからの難民を受け入れようなんて言っている」と怒りをあらわにした。

 カリフォルニア州ビクタービルにある酒場で、オバマ政権に反対する人々が集会を開いた。トランプ氏が大統領候補に立候補する数年前から、保守勢力の不満は高まっていたのだ=2011年4月[筆者提供]

 カリフォルニア州ビクタービルにある酒場で、オバマ政権に反対する人々が集会を開いた。トランプ氏が大統領候補に立候補する数年前から、保守勢力の不満は高まっていたのだ=2011年4月[筆者提供]

 トランプ氏が大統領候補になる数年前から、ビクターバレーでは医療保険制度改革法(オバマケア)廃止や不法移民の取り締まり強化を求める声が上がっていた。地元のカントリースタイルの酒場に、国旗デザインの服を身にまとった白人が数百人ほど集まり、オバマ政府から「自分たちの国を取り戻そう」「アメリカを復興させよう」という草の根運動を起こしていたのだ。私は取材をしていて、自分たちが少数派になりつつあることへの危機感を彼らから感じ取った。

 ビクターバレーで出会ったこうした白人層が、まさにトランプ氏を支えた基盤なのである。民主党が優勢なカリフォルニアでは少数派だが、日本人にあまりなじみのない内陸部では彼らがマジョリティーなのだ。

 「カリフォルニアは民主党」とはくくれない、このような地域間の溝こそが、日本には伝わらないアメリカの現実である。

トランプ氏はどうやって勝ったか

 カリフォルニア州オレンジ郡の共和党オフィスの様子。ボランティアたちが有権者に電話をかけて、なぜトランプ氏に投票すべきか説得しようとしている。彼らは、クリントン氏の勝利が明確なカリフォルニアを捨てて、どちらが勝つか分からない浮動州の有権者に電話をかける戦術を取った[トニー・ビールさん提供]

 カリフォルニア州オレンジ郡の共和党オフィスの様子。ボランティアたちが有権者に電話をかけて、なぜトランプ氏に投票すべきか説得しようとしている。彼らは、クリントン氏の勝利が明確なカリフォルニアを捨てて、どちらが勝つか分からない浮動州の有権者に電話をかける戦術を取った[トニー・ビールさん提供]

 今回の選挙結果だけを見て、アメリカ人全体が右傾化しているのだと結論付けることはできない。獲得した選挙人の数だけ見ればトランプ氏の圧勝だが、実際はどっちに転んでもおかしくない接戦であったからだ。

 大方の予想が外れたのは、民主党が確実に獲ると言われていたペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンの3州でクリントン氏がわずかの差で負けたからである。これらの州では、前選挙でオバマ大統領に投票した大学を出ていない白人労働者層が大きくトランプ氏に傾いたと専門家たちは分析する。

 既成勢力は何もしてくれない、都会のエリートたちには自分たちの苦しみは理解できないと感じる人々が、アメリカ経済の復活を第一に掲げるトランプ氏に賭けてみたくなったのだろう。

 「トランプは普通の大統領じゃないんだ。彼は大企業にも恐れず話ができる。仕事も増えるし、給料も上がるはずさ」と前出のカレンさんは話す。

 選挙報道のため150人もの有権者にインタビューをした同僚のマーティン・ウィスコル記者は、トランプ支持者の共通点として、現状の政治システムやポリティカル・コレクトネスに嫌気が差していると指摘する。彼らはトランプ氏が他の政治家と違い、相手が誰であろうと思ったことを率直に口にするところに引かれている。

 一方、クリントン氏は総得票数で約290万票の差をつけてリードしていた。

 アナハイムで開かれたトランプ氏の支援者集会で、トランプ氏と握手をするトニー・ビールさん。ビールさんはオレンジ郡の共和党委員を務め、共和党全国大会にも代議員として参加した=2016年5月[本人提供]

 アナハイムで開かれたトランプ氏の支援者集会で、トランプ氏と握手をするトニー・ビールさん。ビールさんはオレンジ郡の共和党委員を務め、共和党全国大会にも代議員として参加した=2016年5月[本人提供]

 問題は彼女への票が主に東海岸と西海岸の都市部に固まっていたこと。それに対して、トランプ票は全米に広く分布している。現行の選挙人制度では、クリントン氏のように一部の州で大勝するよりいくつもの州をわずかの差で獲る方が有利なのだ。

 それを理解していたカリフォルニアのトランプ支持団体は、地元は捨てて、どちらの候補が勝つか分からない浮動州の有権者に電話を掛ける戦術を取った。

 「カリフォルニアでの勝利はあり得ませんでしたから、私たちはフロリダやミシガン、コロラド、ネバダなどの数十万人もの有権者に電話を掛けて、なぜトランプに投票すべきか説得しようとしました」と、オレンジ郡の共和党委員を務めるトニー・ビールさんは言う。

 皮肉にも現行の選挙制度を批判していたトランプ陣営が、結果的にその制度によって勝利を得たのだ。

「トランプに投票した人とは縁を切る」

 カリフォルニア州ビクタービルで育ったブルック・セルフさんは現在、ニューヨークのマンハッタンで弁護士アシスタントをしている。写真はマンハッタンのユニオンスクエア駅にある「地下鉄セラピー」壁の前で撮影。トランプ氏の大統領当選後に、地元の住民がメッセージを書いてストレスを解消させた。セルフさんは、「私は今でも彼女(クリントン候補)を支持します」と付せんに書いて貼った=2016年12月[本人提供]

 カリフォルニア州ビクタービルで育ったブルック・セルフさんは現在、ニューヨークのマンハッタンで弁護士アシスタントをしている。写真はマンハッタンのユニオンスクエア駅にある「地下鉄セラピー」壁の前で撮影。トランプ氏の大統領当選後に、地元の住民がメッセージを書いてストレスを解消させた。セルフさんは、「私は今でも彼女(クリントン候補)を支持します」と付せんに書いて貼った=2016年12月[本人提供]

 トランプ支持者たちが勝利に酔いしれた投票日の夜、クリントン氏のサポーターたちは悲しみと不安、恐怖に打ちひしがれた。

 不法滞在の移民を強制送還させるのではないか、オバマケアが廃止されるのではないか、人種問題が悪化するのではないかなど不安の声は大きい。トランプ氏に投票した人とは縁を切るとまでフェイスブックに書き込んだ友人も何人かいたほどだ。

 「私には半分メキシコ人の血が流れています。メキシコ移民や他の有色人種の怒りをかき立てるような発言をしたドナルド・トランプを、私は何があっても支持することなんてできません」と電話インタビューの中で語ったのは、マンハッタンで弁護士アシスタントとして働くブルック・セルフさん(28)。

 ビクタービルで育った彼女は、デイリープレスで2年ほど記者として働き、昨年、カリフォルニアからニューヨークに引っ越した。保守的な環境で育った彼女は、その反動もあってリベラルな思想を持つようになったという。

 クリントン氏が大統領なら党の垣根を越えた中道的な法案や、働く女性を助ける政策を打ち出してくれるだろうと彼女は言う。子どもの頃から女性が大統領になるのを夢見ていた彼女は、選挙翌日に職場で涙を流した。

 カリフォルニア州ビクタービルで開かれた保守派のポピュリスト運動「ティーパーティー」の集会で、「Freedom!(自由を!)」と叫んでいる男性=2010年8月[提供:デイリープレス、撮影:ジェームズ・クイッグ氏]

 カリフォルニア州ビクタービルで開かれた保守派のポピュリスト運動「ティーパーティー」の集会で、「Freedom!(自由を!)」と叫んでいる男性=2010年8月[提供:デイリープレス、撮影:ジェームズ・クイッグ氏]

 「トランプは私の大統領ではありません。彼は私やアメリカの価値観を代表するにふさわしくない」

 一方、トランプ支持者たちは、彼が大統領として自国の利益を最優先にしてくれると期待を寄せる。

 前出のビールさんは、トランプ氏が米国の製造業を海外から引き戻し、努力さえすれば誰もが「成功」できるアメリカンドリームを復活させてくれると話す。

 彼はトランプ氏を1980年代に大統領を務めたロナルド・レーガンになぞらえる。レーガン大統領は減税や規制緩和といった経済政策を実施し、外交では強硬策を貫き「強いアメリカ」をアピールした。

 「今こそ保守政策を全米各地で制定するチャンスです。そうすれば、(レーガン政権以来の)アメリカの繁栄が見られるはず。未来はとても明るいです」とビールさんは言う。

 私が危惧するのは、大統領選挙で浮き彫りになった分断されたアメリカの溝の深さだ。

 リベラル層がトランプ氏の独裁を恐れるように、トランプ氏に票を投じた人の中にはオバマ大統領を独裁者だと感じている人も多いのである。共和党が断固として反対していた医療保険制度改革法を押し通し、不法移民の強制送還を一時的に猶予する大統領令を出したオバマ大統領に保守層は怒りを募らせている。

 これでは話が通じるわけもない。政治の話をした途端に人間関係がギクシャクしたという話はよく聞く。セルフさんは、今回の選挙で親友を失った。

 「トランプ支持者の友達は、私が政治的にリベラル過ぎると言うのです。話せば話すほど、彼女との違いが明確になるだけでした。彼女は全く私の視点を理解してくれていないと感じます。私がメディアに影響されていると言うのです」

 さらには、自分の価値観に合った情報だけが流れてきやすいフェイスブックのようなソーシャルメディアが溝を一層深めている。フェイスブックのユーザーたちが、自分の価値観を肯定してくれる情報を求め、逆に合わない情報を受け入れない傾向にあるとの研究も発表された。

 あらゆる情報が飛び交うインターネット社会だが、意識せずにいると異なる価値観に触れる機会は限られてしまう。

地方社会を知らない大手メディア

米大統領選での共和党候補ドナルド・トランプ氏の勝利を報じる新聞=2016年11月9日、ニューヨーク【AFP=時事】

米大統領選での共和党候補ドナルド・トランプ氏の勝利を報じる新聞=2016年11月9日、ニューヨーク【AFP=時事】

 こうした時代だからこそ、さまざまな人々の立場や思想を伝えるジャーナリズムの役割は大きい。

 だが、残念ながら新聞やネットワークテレビのニュースなど、メディアに対する信頼度は既成の政治勢力と同じように低くなっている。特に87%の保守的共和党支持者は、ニュースメディアが偏っているとピュー研究所の調査に回答している。トランプ支持者の中には、大手メディアではなく保守系ネットサイトの情報に頼っている人も多い。

 「ニューヨークタイムズやCBS、NBCなんかの偏向報道は明らかだったよ。プロのジャーナリストと呼ばれる人たちがクリントンを勝たせようとしているのには本当に腹が立った」とカレンさんは言う。

 元記者でクリントン支持者のセルフさんも、メディアはトランプ氏の過激な発言やツイートばかりを取り上げるべきではなかったと話す。彼女が育ったビクタービルのような町の住民がなぜトランプ氏を支持するのか、ちゃんと耳を傾けるべきだったと言う。

 「経済は回復していますが、アメリカ各地にある小さな町では、まだそれが感じられていません。ニューヨークには仕事があふれていて、給料も少しずつ上がっていますが、ビクタービルには私の望むような仕事はありません。記者として年に2万8000ドル(約330万円)ほどもらっていましたが、それではアパートに住むこともできずに両親と暮らしていました。まさに別世界です」

 カリフォルニア州ビクタービルにあるコミュニティーカレッジの体育館で行われたジョブフェアにも数百人の失業者が詰め掛けた=2012年5月[筆者提供]

 カリフォルニア州ビクタービルにあるコミュニティーカレッジの体育館で行われたジョブフェアにも数百人の失業者が詰め掛けた=2012年5月[筆者提供]

 ほとんどのジャーナリストが大学出のエリートで、約9割が都会で働いているため、似通った価値観しか持っていないとの指摘も業界内外から出ている。

 以前は、大学を卒業したばかりの記者は田舎の地方紙などで経験を積むのがアメリカではならわしだったが、デジタル時代になり都市の大手メディアが若手を雇うようになったことも影響している。

 非営利調査報道機関プロパブリカのアレック・マクギリス記者(政治担当)は「(メディアと国民の)溝は大きくなり過ぎています。地方紙やメトロ紙の衰退で、メディアはみんなワシントンD.C.やニューヨークに集中している。近年では、そうした都市とそれ以外の場所の格差が広がっているのです」とCNNに語った。

 急速に衰えるアメリカの新聞業界では、過去10年で100以上の日刊新聞が消え、40%もの職が編集局から失われた。

 ジャーナリズムの果たすべき役割が非常に大きくなっている中で、失った信頼を回復できるかどうか。メディアをたたくことで支持を得てきたトランプ氏の大統領就任が現実となった今、メディアに課せられた責任は重い。

志村 朋哉(しむら ともや)
 在米ジャーナリスト。1982年9月生まれ。オレンジ・カウンティ・レジスター紙で地域行政やアジア移民に関する調査報道を担当。数少ない日本育ちの報道記者として、他にも現地の司法や経済、スポーツなど幅広く取材。2012年には、住宅バブル崩壊が南カリフォルニアに与えた影響を調査したシリーズ記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。



日本人は、過激な発言のトランプ大統領に警戒心、嫌悪感。
マスコミもトランプ大統領に嫌悪感。
マスコミ、コメンテーターの稼ぎ時。
ヒラリー・クリントン氏は、ダーティ。
オバマ元大統領は、ほら吹き。
トランプ大統領は正直。
私は、正直に発言するトランプ氏が好き。
トランプ大統領になってから、発言が緩和した。
抑制している感じ。
トランプ派、反トランプ派いろいろだね。