環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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低炭素社会:日本とスウェーデンの対応の相違

2011-02-27 18:17:45 | Weblog
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一昨日、2月24日の朝日新聞夕刊の「えこ事記 地球環境 4」のとなりに、日本の2050年頃をイメージさせる「低炭素社会 五つのシナリオ」という大きな記事がありました。この記事に示されているのは、中央環境審議会の中長期ロードマップ小委員会が作成した「40年後の日本の姿、つまり2050年の日本の姿を描いた五つのシナリオ」なのだそうです。

この記事のリードの部分には、「温室効果ガスを極力出さない『低炭素社会』を進めると、どうなるのか。原子力発電が増えて電気自動車も普及した便利な社会、少し不便でも自然の恵みを享受したゆったりとした生活-。目指す姿への議論を深めようと、環境省は2050年の『低炭素社会』の五つのシナリオを描いた。温暖化効果ガスを8割減らした社会とは。」とありますが、「私の環境論」に基づいて、日本の2011年2月27日現在から2050年を展望すると、私には極めて現実感のない、違和感のある面白いシナリオです。しかし、将来の議論のために保存しておく価値はありそうです。

私の違和感の元となっている基本認識を、このブログ内の関連記事から集め、この五つのシナリオに対するとりあえずのリアクションとしましょう。皆さんが「日本の将来」を考えるときにも、以下の関連記事は議論の手がかりとしてきっと役立つと思います。

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「現行の経済成長」は50年後も可能か?(2007-02-23)

2050年の世界をイメージするマクロ指標(2007-02-24)

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再び「現行の経済成長」は50年後も可能か?(2007-03-09)

生産条件 資源からの制約(2007-03-10)

「新しい経済発展の道」をめざして (2007-03-11) 

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では、この記事をご覧下さい。

この記事には、「中央環境審議会が五つのシナリオを作ったのは、温暖化対策をめぐる議論が混乱しがちだからだ。同じ『低炭素社会』を目指すとしながら、人によってイメージしているものが違う。『ものづくりを国内で続ける』『経済成長は目指さない』といった前提が共有されていなければ、話がかみ合わない」とありますので、日本の「低炭素社会」という概念は「温暖化対策」に特化した用語であることが理解できます。 

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日本で「低炭素社会」の旗振り役を担っている西岡秀三さんは 『日刊 温暖化新聞』に2009年1月6日、「産業革命をリセットする 低炭素世界の到来」 と題する考えを投稿し、その中で、「道筋はバックキャストで」という見出しの下に、「低炭素社会の行き先は持続可能な社会である」と書いておられます。それならば、西岡さんのお考えは私にも十分理解できます。でも・・・・・  

西岡さんのお考えでは、まず「低炭素社会」に(2050年頃?)到達してから、次に「持続可能な社会」をめざすということのようですが、これでは本来の目標である「持続可能な社会」の実現はほとんど絶望的ではないでしょうか。私の環境論からすれば、時間的な制約を乗り越えられないと思います。私は「低炭素社会」などという言葉よりも、もっと具体的に、まず「持続可能な社会」をめざすという目標を掲げ、そのためには地球温暖化対策が大変重要であると認識し、「地球温暖化対策に真剣に取り組むべきだと思いますが、いかがでしょう。

次の大和総研の報告書は日本の温暖化対策が極めて不十分であることを示しています。

●大和総研 経営戦略研究レポート CSR(企業の社会的責任)とSRI(社会的責任投資)  日本は環境先進国なのか? 
2008年3月10日

要約
世界銀行が2007年10月に公表した温暖化対策を評価した報告書において、日本は70カ国中62位、先進国では最下位という衝撃的な結果が示された。洞爺湖サミットで環境立国日本を標榜し、世界のリーダーシップをとるのであれば、日本は環境先進国、という思い込みを捨てて積極的かつ大胆な温暖化対策を早急に進める必要がある。


★スウェーデンの状況

スウェーデンでは、 「持続可能な社会」という言葉は政治、行政、企業、学者・研究者、市民などの議論によく登場しますし、長らく政権与党であった社民党の掲げる21世紀前半のビジョンも「エコロジカルに持続可能な社会の構築」です。2007年10月24日のブログを書くに当たって、私がスウェーデン在住でスウェーデン社会の政治、経済、社会に詳しい日本の方に尋ねたところ、スウェーデンでは「低炭素社会」という言葉は目にしたり、耳にしたことはないそうです。マスメディアもこの言葉は使用していないそうです。

1987年4月に、国連の「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」が「持続可能な開発(Sustainable Development)」の概念を国際的に広める先駆けとなった報告書「われら共有の未来」(通称ブルントラント報告)を公表してから、今年で24年が経ちます。この概念は1992年の地球サミット(環境と開発に関する国連会議、UNCED)で採択され、広く国際社会で共有された概念です。スウェーデンは、この国際的な概念を国の政策にまで高めた数少ない国の一つで、この概念に基づいて「持続可能な社会」の実現に具体的な一歩を踏み出した世界初の国です。

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緑の福祉国家2 なぜスウェーデンに注目するのか:国家の持続可能性ランキング1位はスウェーデン(2007-01-12)

緑の福祉国家3 スウェーデンが考える「持続可能な社会」(2007-01-13)


次の2つの図はスウェーデンが「20世紀の福祉国家(人を大切にする社会)」から 「21世紀の緑の福祉国家(人と環境を大切にする社会)」への移行を図る具体的な行動計画の概要を示したものです。


スウェーデンの環境政策の総合的な目標(ゴール)はスウェーデンが直面している主な環境問題が解決された「エコロジカルに持続可能な社会」を次世代に引き渡すことです。最終目標年次は2020~2025年です。ですから、2011年2月とはその最終目標年次に対しておよそ中間点と言えます。これまでの成果の中から「地球温暖化対策」の成果を示します。順調に推移しているように見えます。後半の10年に期待します。


スウェーデンは今、GDPの成長と温室効果ガス(GHG)の排出量の「デカップリング」がさらに明確に(2008-03-16)

次の図は国民1人当たりのCO2の排出量の推移を示したものですが、ここに示した先進国の中で唯一日本だけが京都議定の基準年以降1人当たりのCO2の排出量が増えていることがわかります。


このように、スウェーデンは「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)を実現する要因の一つとして「地球温暖化対策」を捉え、2011年2月現在で好ましい成果をあげているのに対して、日本は 「低炭素社会」 の構築の直接的な目標として「地球温暖化対策」を掲げているにもかかわらず、期待された成果がまったく出ていないのです。

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