海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

狼魔人の無知と妄言

2009-04-13 23:48:19 | 米軍・自衛隊・基地問題
 江崎孝氏が自身のブログ「狼魔人日記」で、私が書いた「あちここーから、うさがらせー」について言及している。4月11日に掲載された「ウソつきは誰だ!疑惑の銃弾 メア総領事とコーヒー」という文章だが、ちゃちな皮肉とケチつけで、それについては何か言うほどのこともない。ただ、江崎氏の書いている文章を読んでいたら、次の一節が目を引いた。石垣港に入港した米艦船への抗議行動について、江崎氏はこう書いている。

 〈いかにも石垣市民であるかのように装う左翼集団の掲げる赤旗に「北部農林支部」という文字があった。語るに落ちるとは正にこのことで、北部農林高校は本島にある。
 彼等は本島からわざわざ石垣島に渡ってきた来た高教組の集団である〉

 私は以前、高校の教師をやっていて、北部農林高校に在職していたことがある。高教組の組合員でもあったので、組合旗や動員のあり方についてよく知っているが、江崎氏はとんでもない早とちりというか、勘違いをしている。
 高教組(沖縄県高等学校障害児学校教職員組合)の組織構成では、各学校の組合組織は分会と位置づけられている。だから、北部農林高校の組合旗は「北部農林高校分会」と記されている。沖縄島北部の各分会が集まって「沖縄県高教組北部支部」を構成し、そう記された組合旗は支部旗としてある。しかし、「北部農林支部」はないし、そのような組合旗も存在しない。
 当日の抗議行動に、高教組八重山支部の分会員は参加しただろう。だが、沖縄島北部の分会から八重山まで動員することは、まずあり得ない話だ。労働組合の動員は移動に要した交通費や旅費を支給する。宿泊が必要な場合は、宿泊費も支給される。沖縄島北部から那覇空港までの交通費や石垣島までの飛行機代、宿泊費を合わせるとかなりの額になる。動員が必要なら八重山支部内の分会から出せばいいのであり、高い金を出してわざわざ北部農林高校分会から動員する必要などないのだ。
 おそらく江崎氏が見たのは、県職労(沖縄県職員労働組合)の農林支部の組合旗ではないだろうか。県職労に「北部農林支部」という組合旗があるかどうかまでは分からないが、可能性としてはそれが考えられる。
 それにしても、このような基本的事実も知らず、かつ確かめもしないで、石垣港前で抗議行動をした人たちのなかに「北部農林支部」という旗を見つけただけで、〈彼等は本島からわざわざ石垣島に渡って来た高教組の集団である〉と決めつけるのだから、江崎氏の早とちりぶりには呆れる。
 当日の抗議行動の参加者をそのように考えるのは、沖縄でも江崎氏ぐらいのものだろう。八重山にも沖教組や高教組、自治労、国公労など公務員労組の支部があるし、民間の労組もある。それに市民団体も加われば、沖縄島から動員しなくても200名や300名は集まるのだ。沖縄島から参加したとすれば、せいぜい平和運動センターの幹部くらいであったろう。
 江崎氏はその程度のことも考えきれなかったのだろうか。江崎氏が本気で〈本島からわざわざ石垣島に渡って来た高教組の集団〉と書いたのなら、その無知と思いこみの激しさ、思考の粗雑さに驚く。あるいは江崎氏は、「本土」の人たちは沖縄のことをよく知らないだろうと、意図的にデマを流したのだろうか。いずれにしろ、こんないい加減な嘘をブログで書き飛ばすのはやめてもらいたいものだ。

 江崎氏は同じ文章のなかで、伊芸区の「流弾事件」に関して、沖縄県警と米軍の間で事件発生日の見解が食い違っていることについても書いている。一事が万事というか、これもまたいい加減なものだ。例えば、江崎氏は次のように書いている。

 〈沖縄紙の情報のみで沖縄を理解する人は、民間の情報入手には県警の方が優れており、基地の中しか知らない米軍には民間の情報入手は不得意ではないか、と考えるだろう。
 だが、表の情報はともかく、裏情報の入手となると平和ボケした県警とCICという情報部隊を持ち民間にも網の目のようなエージェントを配備している米軍の得意技である。
 この事件は県警と米軍の対立というより、民間の証言を鵜呑みにした県警と裏を取った米軍の情報収集力の戦いともいえる〉。
 
 一読して思わず笑ってしまった。CICまで飛び出して、県警と米軍の間で「スパイ大作戦」が演じられているようだが、いったいいつの時代の話をしているのだ。1950年代や60年代の米軍統治下の沖縄では、CICが沖縄人の協力者を作り、労働運動や学生運動の情報を収集し弾圧していった。江崎氏の書きぶりを見ると、まるで今でも沖縄は同じ状況下にあるようだ。
 現在も米軍の心理作戦部隊やCIAなどの諜報機関が、沖縄で活動してはいるだろう。しかし、問題はそのような部隊や機関が、実際に今回の米軍の調査で動いたのかということだ。今回の事件でCICが、県警の取れない「裏情報」を入手した事実を江崎氏は把握しているのか。だったらぜひ公開してほしいものだ。しょせんはすべて江崎氏の憶測ではないか。知ったかぶりして思わせぶりなことを書いていると、「北部農林支部」と同じように恥をかくだけだ。
 そもそも米軍は「流弾事故」の疑惑が向けられている当事者である。その当事者が自ら行った調査の結果を江崎氏は素直に信じているのか。さらに不可解なのは、県警と米軍の〈情報収集力の戦い〉といいながら、県警による米軍基地内の立ち入り調査や演習責任者への事情聴取などができない現状について、江崎氏が言及しないことだ。江崎氏の思想的立場なら、日本の国家主権や捜査権を主張して、県警がきちんとした捜査もできない治外法権的な状況を批判しそうなものだが、それはまったくない。ひたすら米軍を持ち上げ、擁護しているのだ。その卑屈な様子を見ていると、どこまで植民地根性が染みついているのか、と思わざるを得ない。





コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 花は咲き 鳥は鳴き | トップ | 大浦信行氏の作品を排除 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
沖縄生まれか? (キー坊)
2009-04-14 04:46:55
曽野綾子や狼魔人のような物書きは、ヤマトゥンチュのかなり多数を占める、いわゆるB層の人々に向けてモノを書いていると思います。

調子の良い文体で、まことしやかな理屈を展開していて、沖縄のことを良く知らない人々が読むと、なにか判ったような気分にさせられる文章です。

また、狼魔人(江崎孝)は、ブログで宣伝している自分の論考が入った秦郁彦の本では、プロフィールを沖縄県生まれとしていますが、本当でしょうか?
返信する
Unknown (ni0615)
2009-04-14 12:28:09
訂正するつもりのようです。
ttp://blog.goo.ne.jp/taezaki160925/e/1e28acea7fd23ecc2b1ec56394fceab8 コメ欄参照
返信する
Unknown (目取真)
2009-04-15 08:03:10
「八重山農林高校」が「北部農林支部」に見えたとは、その思いこみの激しさに改めて呆れました。
この人は沖教組と高教組の組織的違いもよく分かっていないようです。
ましてや分会と支部の違いも分からないまま、知ったかぶりしてデマを書き飛ばしているわけです。
それにしても、自らの書いた誤りで人に誤解を与え、迷惑をかけることに狼魔人氏は何も感じないのでしょうか。
右派の皆さんはよく武士道や日本の伝統を口にするのですが、誤りがあれば訂正し、謝罪するだけのことは、武士道ならずともやるべきでしょう。
返信する
謹んで訂正 (ni0615)
2009-04-15 21:14:10
深くお詫びして謹んで訂正いたします。

×訂正するつもりのようです。
○狼魔人氏は気がつかないところに(追記)しただけで、本文を訂正するつもりが無いようです。
ttp://blog.goo.ne.jp/taezaki160925/e/1e28acea7fd23ecc2b1ec56394fceab8
返信する

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事