海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

翻弄された人々

2010-02-02 15:30:21 | 米軍・自衛隊・基地問題
 琉球新報で〈示された民意 名護市長選の波紋〉という連載があった。1月29日付同紙には第4回として末松文信副市長を取材した記事が載っていた。この13年余りの普天間基地「移設」問題の推移の中で、政府・沖縄県・名護市の行政担当者が、職を去ったり、亡くなったり、逮捕されたりした。そういう中で、当初からの行政の当事者として残っていた末松副市長も、いよいよ表舞台から姿を消すわけだ。
 同記事の中で末松氏は、〈政府の身勝手さに振り回されされてきた〉とし、あたかも自らが被害者でもあったかのような顔をしている。今回の名護市長選挙の中で、故岸本建男前市長が実は新基地建設に反対だった、という言説が広められていた。同記事の中にもそれに類する岸本氏の発言が引かれているが、そのうち末松氏も、私も本当は新基地に反対だった、と言い出しそうだ。
 この13年余の間、市民投票の結果を裏切った比嘉鉄也元市長の後を受け継ぎ、辺野古新基地建設計画を地元で進めてきたのが誰だったか、名護市民は忘れはしない。海上基地案や沿岸案、V字型案と計画が変わる中で、政府と名護市の間で多少の意見のズレや対立はあっただろう。しかし、新基地建設を推進するという点で両者には何の違いもなかった。末松氏も助役・副市長として岸本市政や島袋市政を支え、新基地建設を行政の中心となって進めてきた。
 島袋市長が政府と対立する形で要求した「沖合移動」にしても、騒音対策というのは見せかけであり、埋め立て面積を拡大して地元業者の取り分を増やす、という利権目当てだったことは、すでに遍く知られている。だいたい、100メートルや150メートル沖合に移動したからといって、騒音対策になると末松氏は本気で信じていたというのか。宜野湾市の現状を見れば、いったん基地ができてしまえば米軍が海上も陸上も好き勝手に飛び回るというのは、分かりきったことではないか。
 同記事の中では一般社団法人キャンプ・シュワブ・サポート事業協会(CSS)について一言も触れられていない。同協会については本ブログの過去記事を参照してほしいが、久辺三区の区長や行政委員にはたらきかけて新基地利権の受け皿作りをやっていたのが末松副市長だった。政府に「翻弄」されたどころか、「したたかに」振興策を引き出し、利権をぶんどるために立ち回ってきたことは隠してすまそうとしている。
 最近、守屋元防衛事務次官が雑誌や新聞に頻繁に登場して沖縄県や名護市を批判しているが、末松氏がやっているのはその逆である。行政のトップや主要ポストにあった者たちが、自分がやってきたことは棚に上げて、新基地建設計画を推進してきた一方の側を批判し、相手に「翻弄」されたと言い合っている姿は醜悪である。そこには自らが振るってきた権力によって苦しめられ、翻弄されてきた市井の人々に対する意識が欠落している。自らが辺野古新基地建設を推進することで翻弄し、苦しめてきた住民のことを、末松氏は一市民に戻ってじっくりと考えてみることだ。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 《エルスバーグ回顧録》と嘉... | トップ | 横浜事件の無罪認定 »
最新の画像もっと見る

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事