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斎藤貴男著『消費税のカラクリ』を読む

2010-08-04 15:47:48 | 読書/書評
 斎藤貴男氏の近刊を紹介したい。
 『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)は7月20日に出たばかり。菅直人首相の消費税をめぐる発言が有権者の反発を呼び、参議院選挙での民主党の惨敗につながったのは記憶に新しいが、野党・自民党も消費税増税を狙っていることでは一緒であり、これから具体的な動きが進んでいくのは間違いない。
 その消費税が持つ特質や問題点について、逆進性や買い控えによる消費の低迷などの指摘はよく目にする。しかし、斎藤氏が注目し強調するのは、消費税の納税義務者である事業者、とりわけ中小・零細の事業者に与える打撃である。

〈消費者は自らが消費税を負担しているつもりでいる。ところが法律上、納税義務者は事業者すなわち個人事業者や法人であって、消費者ではない〉(43ページ)
 
 事業者は〈事業の業績とは何の関係もなく、大赤字だろうが〉税務署に消費税を納めなければならない。しかし、〈不況ゆえに激化した市場競争にあって、いわゆる「価格に消費税を転嫁できない」事業者が激増した〉と斎藤氏はいう。
 不況で仕事が減り、事業者間の競争が厳しくなるなか、下請け、孫請けの中小・零細の事業者は、元請け業者から消費税以上の値引きを迫られ、一方で商品やサービスの価格に消費税を転嫁できず、結果として赤字を強いられる。それでも消費税は納めなければならない。資金繰りに行き詰まり、滞納を重ねて差し押さえにあい、自殺に追い込まれる事業者も出てくる。
 それに対して、大企業は消費税導入によって利益を得た。消費税を財源として法人税減税がなされただけではない。輸出戻し税制度によって、輸出企業が仕入れのために支払った消費税分はほとんどが還付されるという。

〈政府の予算書をもとに概算すると、たとえば二〇〇八年度における消費税の還付総額は約六兆六千七百億円。この金額は同年度の消費税収入十六兆九千八百二十九億円の約四〇%に相当している〉(102ページ)。

 その恩恵を主として受けるのは、トヨタ自動車やソニー、本田技研工業、日産自動車、キャノン、マツダ、パナソニックなどの大企業であり、〈各地の税務署から主要十社に振り込まれた還付金の総額は約一兆一千四百五十億円で、全体のやはり三〇パーセント近くを占めていた〉(103ページ)という。

 斎藤氏はまた、「仕入れ税額控除」を悪用することによって、直接雇用から派遣に切り替えれば節税が可能となる問題を取り上げ、ワーキングプアを生み出している非正規雇用拡大の背景に、人件費削減だけでなく消費税もあったことを指摘している。
 
〈消費税増税には大きく三つのハードルだけがあることにされていると、「はじめに」で書いた。①逆進性、②益税、③消費ないし景気を冷え込ませてしまう可能性、の三つだ。
 それほど簡単な仕組みではないのである。消費税とは顧客や取引先との力関係で弱い立場にある中小・零細事業者、とりわけ自営業に、より大きな租税負担を課し、あるいは雇用の非正規化を促進するなどして、社会的弱者が辛うじて得ていた生活費までをも吸い上げ、社会全体で生み出した富を多国籍企業やそこに連なる富裕層に集中させていくシステムである…〉(197ページ)。

 消費税増税の問題は、たんに自分の財布から出ていく金が増え、家計を圧迫するというだけではない。新自由主義批判の視点から消費税を捉え返すことによって、斎藤氏は大手メディアがなかなか伝えない消費税の仕組み、本質的問題を明らかにしている。1996年に出した『源泉徴収と年末調整』(中公新書)以来、日本の税の仕組みが納税者である市民の生活と意識に与えてきた影響の大きさを追究し、現場を歩き続けてきた斎藤氏ならではの仕事だと思う。
 これから民主党と自民党が一体となって流布するであろう「消費税増税不可避論」にだまされないために、多くの人に読んでほしい一冊である。

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